≪銀の女王アラハース≫蜘蛛の道 緑の眷属



<オープニング>


●蜘蛛の道
 蒼い夜空に真丸の月が輝く。
「むぅ〜……」
 真っ白な犬怪獣の腹に背を預け、両手に余るほどの大きさの黒い球体を月に重ねるように持ち上げてアムネリアが真剣な顔で考え事をしていた。
「どうしたの?」
 メルフィナは、そんなアムネリアの頭をグリグリと撫で回しながら問い掛ける。
「いや……これなんだが」
「……それは確か、護衛士達が持って帰ってきた眷属の眼よね? これがどうかしたの?」
 これ、と差し出した黒い球体を受取り、メルフィナは小首を傾げる。何か霊査の結果が得られ、問題でもあったのだろうか?
「うむ、これ自体に何かがあったと言う訳でも無いのだが……」
 歯切れが悪いわね。と、苦笑いを浮かべるメルフィナの赤い瞳をじっと見つめ、アムネリアは続ける。
「紫の眷属が居た紫の蜘蛛の道には続きがある……その先には緑、黄色、赤とな、この道は銀の木の手前まで繋がる糸の道、眷属達の道だ。当然、他の領域で騒ぎが起これば他の眷属にも察知されるんだぞ」
 ああ、なるほど、だから緑の眷属が現れたんだ……とメルフィナは納得しようとするが……あれ? ともう一度小首を傾げる。
「腑に落ちない顔だな。蜘蛛の道は奴等の領域、糸から糸を渡る奴等の移動力は侮れない……と言う事だな」
「ふ〜ん……そうすると一種類の眷属を倒そうとすると、他の種類の眷属も警戒しないといけないわけね? ……それは面倒よね」
 なるほどね〜と納得した様子のメルフィナにアムネリアは頷く。一種類でもそれなりの相手だと言うのに、二種類以上を同時に相手にする対策、準備を整えるとなると難しい。かと言って、人数を増やせば良いと言うものでもない、過度な人数を投入すれば逆に行動が取り難くなるものである。
「そう言えば、アラハースは出てきそうなの?」
「アラハースには動きたくない理由があるようだ。……その理由までは解らないけど」
 何かもっと材料があれば解ったかも知れないのだが、現状ではアラハースそのものに関する情報が余りにも少ない。
「兎も角、眷属は何とかしないと必ず障害となる。それに、この蜘蛛の道には他の怪獣も近付かないし、確保できればアラハースまでの最短距離を手に入れられる」
 考えても仕方が無い……やるしかないのだ、三種同時に。アムネリアは一つ頷くと、メルフィナと共に護衛士達の元へ向かった。

●緑の眷属
「さて、この小隊には緑の眷属を相手にしてもらう。知っての通り眷属は二体いて、二体ともに同じ能力を持っている」
 護衛士達を集めると、アムネリアは説明を始める。
「紫の糸の道を抜けると、その先に緑の糸の道がある……道と言っても結構な範囲に広がる蜘蛛糸の空間なんだけどな。そこを突っ切っていけば嫌でもこいつ等と遭遇出来るだろう」
「どんな能力があるなぁ〜ん?」
 地面に簡単な絵を描いて説明するアムネリアに、ペルシャナが問い掛ける。
「能力は紫の眷属と似ているが紫と違って毒は持たない、変わりに凄まじく固いんだけどな。……つまり持久戦になると言う事だな」
 解ったなぁ〜ん。と、頷いたペルシャナから視線を戻し。
「敵は二体だ、相手を上手く分断し、その上で此方が有利になるように立ち回る必要があるだろう。それと、蜘蛛の道は体力に自信のあるものが切り開けば、体力の無いものでも問題無いようだな」
「ふに、頑張って蜘蛛の糸を払うなぁ〜ん」
「うむ、この小隊が負けてしまうような事があれば、先に進む小隊に少なからず影響を与える……くれぐれも油断しないように」
 それじゃ、頑張ってと言うと、アムネリアは護衛士達を見送った。

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参加者
徹夜明け紅茶王子・デュラシア(a09224)
楽園の大地に生きる・サーリア(a18537)
轟音・ザスバ(a19785)
普通の女の子・フィオリナ(a19921)
閃紅の戦乙女・イリシア(a23257)
清浄なる茉莉花の風・エルノアーレ(a39852)
弓使い・ユリア(a41874)
紅紫黒・チェリ(a43838)
NPC:赤い実の・ペルシャナ(a90148)



<リプレイ>

●夜明け
 闇夜に蠢くもの立ちの時の終わりを告げ、陽光を求めるもの達の目覚めを歓迎するかの如く、小さき鳥達の囀りが辺り聞こえ始める頃。
 地平遠くに登り始めた日輪に目を細め、閃紅の戦乙女・イリシア(a23257)は光を遮るように、その細い手を太陽の翳して――自分の心許無い腕力で糸の道を突破出来るのだろうか……? と思うこともある。けれど、共に在る仲間達が居れば、何も不安に思う事など無いのだ。
 そんな、仲間のためにも自分に出来る事は全力でやろう――イリシアは、先に森に入った仲間達の後を追ってゆっくりと歩みを始めた。

「緑の眷属撃破し隊なぁ〜ん♪」
 必ず倒して、銀の木への道を切り開くなぁ〜んと、紅紫黒・チェリ(a43838)がぶんぶんと手を振り回し張り巡らされた蜘蛛糸を引き千切りながら進む。
「同じ緑色としては勝たないといけませんなぁ〜ん」
 耳と尻尾の色が緑色と言う事で妙な対抗心を燃やす、のそるんです・サーリア(a18537)も儀礼長剣で周りの蜘蛛糸を取り払い、
「頑張るのなぁ〜ん♪」
 赤い実の・ペルシャナ(a90148)も、そんなサーリアに指示されて蜘蛛糸を払う手伝いをしていた……ちなみにペルシャナも緑であるが、あんまり気にしていないようだ。

「楽しそうですわね」
 なぁ〜ん、なぁ〜ん♪ と、蜘蛛糸を蹴散らしながら進むヒトノソリン達の後ろから周囲を警戒していた、清浄なる茉莉花の風・エルノアーレ(a39852)は呟いたものである。
 周囲は既に緑の領域……何時、眷属が襲ってきても不思議は無いのだ、エルノアーレは魔道書を胸に抱え周囲に視線を巡らせる。
「ここ進むと蜘蛛っ子達がいるわけかい。いやぁ、デケェ虫なんてうっとおしいだけだと思うんだけどねぇ」
 エルノアーレと同じように、辺りを見回しながら、紅茶王子はヅラじゃない・デュラシア(a09224)は言う。とは言え、自分達が崩れれば他の部隊にも影響が出る……デュラシアは気合を入れていこうと、腹に力を入れた。
「フンッ、何が出た所で叩き潰して鍋の具にしてやるだけよ」
 鼻を鳴らし、自信満々に言う、轟音・ザスバ(a19785)にデュラシアが微妙な視線を向けた……蜘蛛の鍋は誰だって嫌かも知れない。

「なかなか出てこないなぁ〜ん」
 やぁ、とぅ、なぁ〜ん♪ と緑の糸を引き千切りながら進む、チェリが仲間達を振り返ると――
「出てきたぞ」
 何か動くものが無いか? とは眼を凝らしていたザスバが自分の方を見ながら蛮刀を構え、
「チェリ様、前ですわ!」
 エルノアーレの警告が飛ぶ!
「な……なぁ〜ん……?」
 チェリが驚いて顔を正面に向けると……そこには、自分を挟むように十六の赤い光を湛える円が、明らかな敵意を持ってそこに存在していた……。

●緑の領域
 蜘蛛達は身を潜め、その場で冒険者達を待っていたのだろう……保護色に護れ全く動かない眷属達を見つけるのは難しいものだ。
 鎌首を擡げるようにゆっくりと蜘蛛の前足振り上げられ……、
「なぁ〜ん!?」
 ――ギィン!
 思わず頭を庇って眼を閉じたチェリの耳を金属同士のぶつかり合うような音が突き抜ける! ……しかし、来ると思っていた衝撃は来なくて……恐る恐る、片目を開くチェリが見たものは……絹糸のように流れる紫。
「あんたの相手は……」
 丸太のような蜘蛛の脚を盾で受け止める、ブラストエンプレス・フィオリナ(a19921)はよろけた体の支えを求めるように眷属の脚に手を置いて、
「私よ!」
 キッと目を見開き、宣言すると同時に爆発的な気を叩き込んだ! その衝撃に仰け反る眷属にデュラシアが紋章を描くと緑色の木の葉が突風を伴って吹き抜ける!
 木の葉のように吹き飛ばされ、辺りの蜘蛛糸を巻き込みながら転がる眷属に、もう一体の眷属が慌てて合流しようとするが、
「思い通りにはさせませんよ!」
 闇色の矢に影を射貫かれ動きを止められた眷属は、矢を放った格好のまま言い放つ、弓使い・ユリア(a41874)を忌々しそうに見つめた。
「ゲァッハハハッハハッハァッ!!」
 吹き飛ばされ体勢の整わない眷属の正面に立ちその動きを止めるべく、ザスバが裂帛の気合と共に叫び声を上げるが……眷属は威嚇するようにギチギチと牙をならしながら身構えるのだった。

「貴方の相手は……こちら……です」
 ユリアの影縫いで身動きを封じられた眷属の前に立ち、イリシアは渾沌と名付けた剛糸に新たな外装を追加させ、
「確実にいきましょうなぁ〜ん」
「その通りなぁ〜ん」
 サーリアがペルシャナの鎧の形状を大きく変化させ、チェリも自分の鎧の形状を変える。まずは体勢を整え、長期戦に備える為に。
「さぁ、歯を食いしばりなさい。わたくし達は強いですわよ!」
 体内から淡く光る波を発しフィオリナの傷を癒すと、エルノアーレは緑の眷属を見据える……対峙した以上、只では済まさないのだと、彼女の青い瞳は語っているようだった。

●緑の眷属
 蛇のようにのたうつ剛糸の先が弧を描き、そこから放たれた衝撃波が眷属の体を突き抜ける……。
「……」
 突き抜けた衝撃を追うように傷が刻まれ、怒りに満ちた八つの瞳がイリシアに向けられて――ギチ! と牙を鳴らしイリシアの頭に食いつこうとする!
 迫る牙……だが、イリシアは舞う羽のような軽やかな動きで牙をすり抜ける……そして、銀の残滓を残す髪の幕を突き抜けるように伸ばされた腕が、空を切った眷属の牙を掴んだ。
「なぁ〜んっ!」
 牙を掴んだサーリアは、グルングルンと豪快に眷属の体を振り回し、そのまま放り投げる!
 土煙を上げながら転がる眷属の体を追撃するように、ユリアの放つ闇色の矢が貫き、ペルシャナの大棍棒がその装甲を砕いた!
 ……だが、それでも緑の眷属が倒れる事はない……その様子を見たデュラシアは、青色の宝石が飾られた銀色の長い杖を頭上に翳しその先に強大な炎の球を作り出す。
 渦巻く炎は紋章の力を吸い取り巨大に膨れ上がり――
「固いわねぇ……」
 爆発に包まれ体の彼方此方から煙を上げながらも立ち上がる眷属に、デュラシアは溜息を漏らした。
 澪標星・フラワ(a32086)の癒しの光が戦場に居る仲間達の傷を癒し、天蒼の探索者・ユミル(a35959)が鎧を強化して回り、ユリア達は確実に防御を固めるのだが、ほぼ均等に戦力を分散させたせいか決定力に欠ける。
「早く……倒さないと……」
 手に持つ剛糸に思わず力が入る……だが、焦って失敗を犯す訳にはいかない、ここで負けたら先に行った仲間達の退路も無くなってしまうのだから……今は仲間を信じ、目の前の敵に集中しよう。イリシアは息を整えると、構えを作り直した。

「あんたの相手は私だって言ってるでしょ!」
 爆炎に包まれる相方の眷属に合流しようとする眷属の前にフィオリナが立ち塞がる。
 軽く触れたフィオリナの手から爆発的な気が流れ、眷属を吹き飛ばさんとするが……眷属は巨体に似合わぬ軽やかさで後ろに跳びそれを避けると、周囲に緑の糸を撒き散らす!
「この程度のもので……フン!」
 絡みつく蜘蛛糸を力任せに振り払い、ザスバは大鉈を握り直す……雷の闘気が刀身を走り、ザスバの体を囲むようにとぐろを巻くペインヴァイパーが吐き出す毒ガスが雷と交じり合う。
「――ハァッ!!」
 そして、捩じ込むように蛮刀を眷属に突き立てると――その稲妻の闘気は眷族の動きを封じた。

「それ以上離れては危険ですわ!」
 な、なぁん!? た、助けてなぁ〜ん! と蜘蛛糸に絡まれジタバタともがくチェリを清らかな祈りで解き放ち、エルノアーレは警告をする。
 あまり離れてしまうと、祈りの効果が届かなくなってしまう……折角取った陣形の優位性を失う事も無いだろう。
 心持下がった仲間達を確認し、エルノアーレは再び祈りに集中するのだった。

●その終わり
 ブン! と風を切って振り回された緑の脚に、サーリアとペルシャナそしてイリシアが吹き飛ばされる。
「……っ!」
 だが、吹き飛ばされながらも、高速に振りぬかれたイリシアの剛糸が空を切り……そこから放たれた不可視の衝撃波が眷属の脚を胴体から切り離した!
「畳み掛けますなぁ〜んっ」
 グラリと体を揺らした眷属の隙を見逃さずに、サーリアが眷属を豪快に振り回して放り投げる!
「好い加減に……倒れちゃえ!」
 ユリアは鋭い逆とげの生えた矢を番えた弦をキリキリと引き絞り、ペルシャナの攻撃で亀裂の走った装甲に向けてそれを放つ!
 バリン! と乾いた音を立てて崩れる蜘蛛の外装……そこへ紋章の力を収縮させた巨大な炎の球が直撃して――
「ふぅ……後、一体」
 頭と前足の大半を吹き飛ばされ、その動きを止めた眷属を確認してデュラシアは一つ息をついたのだった。

 相棒の眷属がやられたのを見た眷属は、すぐさまにきびすを返す! 二体で適わなかった相手なのだ、逃げるのは当然と言える。だが、
「ゲァッハァッ!」
 ザスバが裂帛の気合で叫ぶと、その動きは拘束され……、
「私達から逃げられると思った?」
 フィオリナはニッコリと笑いながら眷属の脚を持つと、豪快に振り回し仲間達の真中に落ちるように放り投げた!
「覚悟するなぁ〜ん!」
 チェリが腰に手を当て見下ろすように転がる眷属に言い放つと、エルノアーレ達はジリジリと眷族を取り囲んで――その後、多少の抵抗はされたものの集中攻撃でボコボコにされた緑の眷属は文字通り、ボコボコになって地面に転がる事になった。

 ――遠く、遠くから地響きのような音が聞こえて来る。
 あれは戦闘の音だろうか?
「他の班の方はどうなったでしょうかなぁ〜ん……?」
 眷属から何か霊査の材料になるものは無いか? と漁っていたサーリアが少し不安そうに、音のした方向に視線を送る。
「判りません……ただ……」
 彼等の為に、帰り道を作っておきましょう……と、小さく言うイリシアに冒険者達は頷くと周囲の蜘蛛の巣を壊し、道を広げ始めるのだった。

【END】


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作成日:2006/10/11
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