≪勇猛の聖域キシュディム≫開催地探訪−−金杯の練場



<オープニング>


 彼――という呼称が畏れ多くも許されるのであるならば、灰色がかった鱗のリザードマンであるところ彼は、どういったわけなのか周囲の官吏たちが戸惑ってしまうほどの勢いで、理解を得られることもなく孤独ではあったものの、ものすごい勢いの張りきりぶりを披露していた。
 黒水王・アイザックは、『ジャヴァージの牙』なる巨大剣を背に負い、獣の仮面を斜にかぶって唐草模様の布地で頭頂部を覆い、金剛石と水晶の指輪を指に煌めかせ、漆黒のアイマスクだけは鎖帷子の隙間に押しこんだ。それから、慌てた様子で歩み寄った官吏を、三白眼でぎょろりと一瞥してやりこめ、揚々として自室から発っていった。
 彼の行き先は、遠くには領内の南方に残されるという遺構であったが、近くには灰の塔がそびえたつ丘であった。
 陛下なり、閣下なり、猊下なりと声をかけてくる見知った顔に、喉を呻らせて応じつつ、石段を駆けあがったアイザックは、護衛士たちの詰め所である広間へと半身をのぞかせるなり、まるで稲妻のような声で怒鳴った。
「お前らもそろそろだろうと思っていたな? その通りだ! 南方へ向けて出発する! 急いで支度しろ!」
 慌てた様子で王の下へと歩み寄ったのは、薄明の霊査士・ベベウだった。彼もまた官吏と同じようにしてぎょろりと目を剥かれたのだが、まったく動ずる様子も見せなかったことから、かえって王の興を買ってしまったらしい。痩せた肩に腕をまわされ、リザードマン王国に伝わるという歌の斉唱を強いられている。
 二言三言の歌詞を口ずさみながら、ベベウは手にしていた長方形の鞄から、数枚の羊皮紙を取りだして、それを王に渡そうとしたが、それではこの情報が失われてしまうかもしれないと思い直して、別の護衛士に託すことにした。
 その紙片には、まだ色味も真新しい青インクによる記述があり、文字列の他にも、簡素ではあるが地形や建造物を描いた図面が添えられていた。
 金杯の練場――それが、羊皮紙に記された最初の単語だった。アイザック王を椅子に腰掛けさせ、自身はその傍らに立って、ベベウは遺構に関する説明を行った。
「金杯の練場と呼ばれる遺構は、領内の南方に残された廃墟で、現在のところ、その側に人々の暮らす集落はありません。かつては栄えた街の名残であると申し上げることができるでしょう。ですが、元々はそれぞれの道を究めようとした者たちが集い、その力を競わせていた場所であるだけに、適当であると思うのです――これより行われる闘技大会の会場としては相応しいのではないか、と」
 だが、実際に闘技大会の会場として使用するためには、排除しなければならない障害があった。
「どうやら……奇妙な力を持った植物によって、遺構のほぼ全域が封じられているといった状況にあるようなのです」
 それらは、人の腕ほどにまで太く成長し、石柱を包みこみ、落ちた天蓋の代わりを務めるほどにまで蔓延った、緑の蔦であるという。鞭のようにしなっては近寄る者を打ち据え、咲き誇らせる紅い肉厚の花弁からは、心を誘惑する不埒な香りを漂わせる。ベベウは言葉を継いだ。
「排除は、それほど難しくはないでしょう。ですが、遺構を傷つけぬように行うともなれば、いくらかの注意が必要です」
 ここで、ようやくとアイザック王が口を開いた。もっとも、先ほどから口は閉じていても鼻歌は響かせていたのだが――。
「俺はデストロイブレード奥義を封印する。いいな、俺が辛抱すると言っているのだ。お前らも……わかってるだろうな?」

マスターからのコメントを見る

参加者
紫眼の魔人・アムリタ(a00480)
螢火夢幻乱飛・メディス(a05219)
漫遊詩人・ドン(a07698)
凪影・ナギ(a08272)
暁の幻影・ネフェル(a09342)
贖罪の一矢・ピン(a12654)
棘石竜子・ガラッド(a21891)
砕けること無き不破の盾・ソリッド(a28799)
隠遁者・アリエノール(a30361)
冰綴の蝶・ユズリア(a41644)
孤独を映す鏡・シルク(a50758)
亜麻色の髪の天使・アクラシエル(a53494)
NPC:黒水王・アイザック(a90110)



<リプレイ>

●道連れ
 路傍でノソリンが転げれば、樽屋が儲かる――。
 棘石竜子・ガラッド(a21891)が、冠毛のような額の鱗を楽しげに揺らめかせ、黒水王・アイザックと歌うのは王国に伝わる詩歌であった。
「ちょっと楽しくなってきますな」
 調子外れの歌をがなりながら歩く元首の姿を、少し離れた後方から眺めつつ、漫遊詩人・ドン(a07698)が云う。彼の言葉に、穏やかな響きの言葉で応じたのは、螢火夢幻乱飛・メディス(a05219)だった。
「武道大会かぁ……だんだん形になっていくのってなんか感動……。ここをお客さんも通るんですよね……」
 小さな肩はあえてそびやかされていたが、それは、贖罪の一矢・ピン(a12654)が、やや気圧されているのを隠そうとしていたからだった。
「じっくり調べたいけど……アレがいつ飽きるかがね」
 不意に話しかけられた声に、ピンは振り返った。そこには、前方を指差す仕草を見せる少女の姿があった。黒への案内人・アムリタ(a00480)である。彼女の繊細な造作の指は、右へと小さな孤を描いている。すなわち、『アレ』とは並び立つリザードマンの右方に立つ人物――アイザックを示すことになる。
 元首を『アレ』呼ばわりした少女は、悠然とした足取りで『アレ』に近づいてゆく。唖然とするピンの肩に手の平が重ねられた。少年の視界に宿った姿は、背に優美な翼を宿す、エンジェルの青年のものだった。
 亜麻色の髪の天使・アクラシエル(a53494)は、ピンの耳元に二言三言囁くと、彼と共に挨拶を行った。
「新参の未熟者ですが、よろしくお願いします」
 アイザックの掌によって背をはたかれたエンジェルは咳き込み、首のまわりを太い腕に絡めとられてしまった少年は身体をぐらつかせている――。肉体による直接的な友愛の情を示す王の姿を眺めつつ、凪し夕影・ナギ(a08272)は心の裡で、「なんだかねぇ」と苦笑いを浮かべるのだった。『アレ』とまではゆかなくとも、彼もまた王を『アイちゃん』と呼んでしまった過去を持つ男である。
 一言詫びるべきかとも考えていたのだが、ナギは止すことにした。
 
●柱廊
 そびえたつ金杯の練場は、周囲を見事な曲線を描く石壁によって囲まれる偉容を誇っていた。忘れ去られた建造物にしては、風化の度合いも高くないように思われる。
 外壁から胸壁――その上部が観客席となっている――を支える柱の連なりは、蔦に絡めとられた緑の柱廊の相をなしている。それはただ美しいのだったが、赤い綻ばせるまでは、との条件を付けるべきだろう。柱廊を進む者を拒むようにして蔓延り、さらにその蔦らは怪しく蠢いているのだから。
 
 金杯の練場なる名の由来を探していたアクラシエルは、蛇のように蠢く蔦と、その舌先を思わせる花の有様に、紅玉を思わせる双眸を細め、絶句していた。
 そんな彼の傍らを、カナリヤ色のペインヴァイパーを連れるドンが過ぎていった。アイザックらに見守られつつ、隊列の先頭に歩みでた吟遊詩人は、両腕を胸の前で組み、身体を膨れあがらせるほど大きく息を吸いこむと、朗々と歌い始めた。それは、柱から中空へと飛びだしては、鎌首をもたげるようにして揺れめいていた蔦を沈黙と静止の影に落とし込む、眠りへの誘いのしらべであった。
 指の合間に念の刃を練りあげつつ、暁の幻影・ネフェル(a09342)は王や仲間たちと言葉を交わした。腕を一振りし、男の二の腕ほどはあろうかという蔦を幹から落とすと、ネフェルは再び指の合間に飛燕を念じあげた。
 道を切り開いたネフェルとドンに、砕けること無き不破の盾・ソリッド(a28799)は逆手に取った剣を掲げてみせた。彼がアムリタらと向かうは、柱廊の先、光に満たされた闘技場の空間である。足早に駆けてゆこうとした彼に、背後から言葉がかけられた。ソリッドは振り返ろうとはしなかったが、剣の柄頭を肩の上にのぞかせ、それを左右に振っていた。
 そんな夫の無骨な仕草に、隠遁者・アリエノール(a30361)は小さな溜息をついた。その拍子にすくめられた肩からは、豊かに波打つ金糸のごとき髪が背へと流れ落ちる。彼女は共に柱廊にて戦うネフェルらを追った。
 心の裡で意味ある言葉を呟いて、アクラシエルは次々と仲間たちがその身にまとう防具へ、高い守りの力を付与した。
「どうしてこんな奇妙な力を持つまでに育ったのか」
 ブロードアクスに視線を落として、一度、言葉を区切る。その重厚な刃に光の翼が生やされたと見るや、アクラシエルは武具を大上段に構えた。
「邪魔だ」
 斧は垂直に落とされ、床面近くを浮遊していた蔦を数本まとめて切断した。
 投機的な戦い方をドンが嫌うのは、彼の生家が商家であったことに関係するのだろう。後方より蔦の動向を見つめ、紅い花たちが不埒な誘惑を風に乗せれば、即座に朗々と歌いあげ、仲間の心から不穏な動きを生みだす困惑を吹き飛ばしにかかった。
 足元の余白に燭台を預けて、アリエノールは白銀の手套に守られた指先で空を撫で、柱廊の高い天井に揺らぐ金の輝きを照射した。彼女の目前に記述された宙に浮く紋章は、その煌々たる面からしのつく雨を想起させる輝きを解き放ち、次々と柱の影を長くしては、その周囲に巻きつく緑と赤を撃ち貫いた。
「……そう言えば……相手は植物ですし、どこか根っこのような部分はないのでしょうか? そこを叩ければ素早く掃討できるんですけど」
 口にしたのはネフェルである。中空を行き交う蔦の数は明らかに減っている。刀身に見事な絵図が勒された太刀――来迎図――に闇の闘気を駆けあがらせると、ネフェルは空を音もなく両断した。足元にのたうつ一瞥しつつ、彼は言った。
「根は中央広場にあるみたいですね」
 
●観客席
 石作りの長椅子が連なる眺めには、アイザック王とキシュディム護衛士たち以外に、一人も、立つ者などなかったはずだった。しかしながら、『金杯の練場』と呼ばれる遺構には、無数の立つ姿があるのである。それらは一様に陽を求めては身体をうねらせ、頭の先には赤い花の髪飾りまで留めているのだった。
 
 逸る王の先手を取るのはしのびなかったが、ガラッドは素早い身のこなしで皆の先陣を切ると、崩剣 『旋尾薙』を振り抜いた。その所作は、まるで巨大な旗指物を空をはためかせでもするかのようだった。宙を波打った崩剣は、緑の観戦者の胴を、その半ばから、次々と断った。
「陛下――」
 かすかに震えを帯びた声で、メディスはアイザックに注意を促すべく口を開きかけた。だが、即座が怒号が返る。雪花石膏よりもまだ白い肌をわずかに紅潮させ、嬉しそうに口元を波打たせると、彼女は王からの求めに応じ、呼びかけをやり直した。
「アイさん、あちらです!」
 燻る黒炎をまとうメディスが、その杖『清風宵蛍』の先端から発した炎の塊を、アイザックは大股の足取りで追いかけた。魔炎が吹き飛び、まだその引きちぎられたかのような欠片が宙に漂っているのにも構わずに、彼は大剣で空を薙ぎ払い、蔦の胴を激しく手折った。
 石造りの長椅子を足掛かりに、まるで階段でも駆けあがるようにして、ナギが観客席の上方へと向かう姿がある。指の合間に含ませた複数の白刃を投擲し、行く手を阻むべく伸ばされた蔦を切り裂いての跳躍だった。その動きを、アイザックは羨ましく思ったのだろう。長い尾を引き連れ、ついでに、ピンの肩も掴んでしまうと、観客席の最上段を目掛けて駆けだしてしまった。
(「ごぉおごぉお進めっ!」)
 ピンは激しく上下する視界を楽しく感じながら、アムリタが王を『アレ』呼ばわりした理由を、身をもって理解した。肩をなじって王の束縛から逃れると、彼は瞳の先に揺れるリザードマンの尾を捉えながら、『八咫烏』の名を与えられた濡れ羽色の弓に、闇色をした矢をつがえた。
「まあ、あまり効くとも思えないが……」
 そう呟いたピンの頬を、闇色の矢羽根が過ぎった刹那――王へと迫りつつあった蔦が、まるで凍りつきでもしたかのように動きを止め、揺らぎかけた中途の姿で中空に静止した。縫いとめられた影を一瞥すると、ピンは王の尾を追った。
 優しく諭すかのような詩句ではあったが、メディスがあたりに響かせた歌声は、強く仲間たちの心を打ったようだ。時折、思いだしたかのように蔦が紅い花弁よりふりまいた甘い香りは、アイザックばかりかガラッドの心までも惑わしたが、籠絡された心はメディスの母性にあっさりと救いだされた。
 大上段に剣を構えて、王の頭部を砕かんとしていたところで、ガラッドは我に返った。相手もこちらの顔面を狙っていたようだ。二人は気まずい思いを抱く暇も惜しいといった様子で背を合わせると、弾け飛ぶようにして駆けだして、不埒な香りの源を断ちにかかった。
「まあ狙うなら本命ってところだよな。どう見ても花が本体ポイけど、どうなんだろうか」
 そう呟きつつ、ピンは光の尾を引く矢を射て、緑の胴の先端に飾られた紅い花を貫いた。ひゅう、と口笛で湛えつつ、両手に配された双子の小刀『荒蛇』で、蛇のごとき蔦の胴を一閃すると、ナギはピンに云った。
「でもさ、こういうのは根っこからやらねぇと……後から新しいのが生えたなんて面倒は嫌だわ……」
 この言葉が終えられるか終えられまいかの直後だった。ナギたちが立つ観客席が揺らぐほどの衝撃が、広場から伝わってきた。最上段に近づきつつあったアイザックが、眼下に広がる空間を指差し、大いに笑っている。
 中央広場の地面が一部、抜け落ちていた。
 
●広場
 遠くから聞こえてきた笑い声に、土埃まみれとなりながらもその少女は、かすかな微笑みを顔容に含まずにはいられないのだった。
 蔓延る蔦たちとの戦いの最中、突然に足元が抜けたにもかかわらず、霽月の蝶・ユズリア(a41644)は崩落した足場に両の足で降り立っていた。頭上を見あげると、粉塵が邪魔をしていたが穴の縁が視認できる。観客席の縁が描く曲線の先には、声の主である『アレ』が立っているのだろう。
 白い猫の尾を腰の裏側に散歩させて、紅い瞳をしたストライダーの少年は、粉塵の立ち込める地下空間の様子を窺う。口の縁が急激に位置を瞳に近づけた。にんまり、と笑ったのは孤独を映す鏡・シルク(a50758)である。この少年は暗渠に蠢く存在に気づいたのだった。だからこそ、頭上に陽光を思わせる輝きの源を出現させ、あたりから闇を打ち払った。
 緑の蔦の、文字通りに根幹をなす部位が、暗渠にはあったのである。
 アムリタのつぶらな唇が震え、あたりへと紡がれた歌声は、地上とは異なるこもった感のある響きとなったが、その力に差違は認められない。
「チッ……厄介な植物だな……」
 聖なる加護を与えられた防具を、仲間の頭上から発せられる光に浮かびあがらせ、ソリッドが闇に潜んでいた敵の本体に斬りかかる。白い羽毛の塊を虚空より呼び出すと、彼は身を弓なりにしならせ、ガーディアン・ブレードを蔦の根に叩きこんだ。
 鐐蝶刃――玲瓏たる刃に、舞う胡蝶とその影が勒された銀剣――に触れると、ユズリアは三度のまばたきを繰り返した。長い睫毛に縁取られた少女の瞼が羽ばたきを終えると、彼女の手にする銀の刀身には、硝子のように透ける茨の意匠の外装が現れていた。さらに、ユズリアは螺旋を描く新たな武装と、胡蝶の乱れる銀の刀身との合間に、雷光にも似た青い輝きを走らせた。そうしてから、薄暗闇に佇む黒い根へと飛びかかり、目映い光をあたりに迸らせての、あまりに鮮やかな斬撃を放ったのだった。
 広場を支える石柱や壁には注意を払いつつ、シルクはあちらへこちらへと身体の向きを変えながら、整えられた指の合間に浮かべた飛燕を投擲し、残された根の除去にあたった。根の最も太い部分――人の胴の三倍はあったろうか――から刀剣を引き抜き、ソリッドは唇から吹かせたつむじ風に、自身の前髪を舞いあがらせる。
 残りの黒い孤を払うべく、黄金の紋章から光条を照射しつつ、アムリタは杞憂を胸に抱いていた。地上へ戻るためには、どこをどう行けばよいのだろうか、と。
 
●金杯の練場
 すっかり蔦が払われ、静謐な佇まいを取り戻した柱廊――。その柱の影から石の擦れる音が響き、開けられた蓋の内側から姿を現したのは、なんと、シルクたちだった。
 物音に集った影のなかに、妻の顔を見いだすと、ソリッドはわずかに顔容を傾かせ、自身と仲間たちの無事を伝えた。
「陛下、これで闘技大会の会場を確保できましたね」
 そう話しかけたのはユズリアだった。彼女は言葉を続ける。
「私、闘技大会がとても楽しみなんです。誰かに勝っても、また勝ちたい……誰よりも強くなりたい。だから陛下、貴方とも一度でいいから戦いたいと……そう思っています。機会があったら、是非お願いしますね?」
 途端に、表へ出ろと云わんばかりの仕草を見せた黒水王を、一瞬の機転で穏便に静止させたのはアリエノールだった。彼女が発した王の生誕を祝う言葉は、護衛士たちに口に次々と伝播し、アイザックは気恥ずかしげに、「おう」とだけ云った。
 
 用意周到なドンが持参してた食料に、火を通すのを手伝いつつピンは、遺構に残された無数の蔦を眺め、その対処に頭を悩ませていた。火を放つわけにはいかない。団長に報告すべきだろうか――。そんな少年の意を汲んだのか、ナギが云った。
「作りは頑丈そうだが、年代物ってことを考えるとやっぱ多少は掃除が要るよなぁ。蔦の残骸やら、土埃やら」
 アリエノールが作成しつつあった遺構の見取り図と、自身が手がけた図面とをにらめっこしていたメディスは、新たにアムリタによって差しだされた羊皮紙の束に目を丸くした。暗渠以外に隠された空間などはなさそうだが、全体を図で把握するには調査を続ける必要がありそうだ。
「大会の話が出始めてからどれだけ経ったか……遣り甲斐がありますな」
 棒に突き刺して焼いていた腸詰めを王に手渡しつつドンが云うと、メディスが言葉を続けた。
「もうすぐここが人でいっぱいになるんですね……陛下、楽しみですか? 私も楽しみ……ん?」
 腸詰めの姿が消えた棒だけを、ネフェルが手にしている。彼は中央広場へと続く門の方角を指差していた。
「奴の息抜きでしょ? 私もやるわ」
 そう言ったのはアムリタだった。彼女の傍らには、ユズリアの姿もある。二人は順番を待っていた。アイザックの姿は闘技場の中心にあり、抜け駆けして王と剣を交えているのは、ガラッドだった。
 
 剣戟の音が追ってくる――。アクラシエルは柱の合間を過ぎ、遺構の全容が望める位置にまで古道を歩んだ。振り返った彼は、そこではっと息を飲み、ひとつの謎を解いた。
 金杯とは、勝者に与えれる品ではなかった。
 傾きつつある夕陽の強い輝きによって縁取られる、遺構そのものこそが、巨大な黄金の賞杯となって、彼の目前に燦然とそびえたっていたのである。


マスター:水原曜 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:12人
作成日:2006/10/24
得票数:冒険活劇24  ほのぼの5 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。