＜リプレイ＞
町は美しい花で飾られている。今日は華祭りなのだ。
「今日はお客様ですのに……本当にありがとうございました」
華道師範のセイという少女が、冒険者たちに頭をさげた。
「良ければお手伝いさせてください」
とやってきたアセレアやトゥバン、他にも多数の冒険者たちが準備を手伝ってくれたのだ。
晴天、さわやかな風にのって花の香が運ばれてくる。
祭は盛大に開幕した。
夕が近づくにつれ、そわそわした空気が漂いはじめた。フォークダンスがはじまる。
中央広場にあつまった人々は見事なステージに驚いた。
等間隔に置かれた飾り皿、載っている蛍石は色とりどり、さらに無数の花が飾られていたのだ。
「喜んでもらえたかな？」
満足そうにいうノリスだった。彼がこれを準備したのだ。
カチェアは和装だ。華道対決のときに着たもので、体にしっくりあっている。
「カルラか。なぜついて来る」
カチェアは足を止めた。そこにはおなじく和服のカルラがいて不満そうに
「カチェアさんこそ」
カチェアとカルラの視線がぶつかり、バチっと火花をあげた。
二人の進行方向にはトゥバンがいる。
リアンは屋台めぐりの最中だった。
「これ美味しいなぁん」
なんていいながらあれこれと食べていたとき、ダンスの誘いを耳にした。
「どこに入ればいいなぁ〜ん？」
リンゴ飴をほおばりながら軽やかに駆ける。参加者の列に並ぶ……まちがって女性の側に。
楽団を従え、キズスがぺこりと一礼した。手にはハーブ、本日の演奏監督はキズスなのだ。
「ミュージックはお任せあれっ！ さあはじめようか？」
はじまる手拍子、軽快な音楽が流れはじめる。
入場した男女は外周と内周に別れ、めいめいのやりかたで踊りだす。
「パインちゃ、一緒に踊ってくださいます？」
微笑むシャノンは凛々しくて可愛い。ハインはすぐさま、
「ジャノンちゃー！」
とシャノンの手を握りかえした。けれど
「俺がちがう子と踊ったら妬くかな？」
なんてシャノンが悪戯っぽくいうものだから、
「大丈夫」
くるりと位置をとりかえ、ハインは自分とシャノンの男女位置を逆にしてしまう。
「これで妬かないですむ♪」
「俺は、パインちゃが望むなら男女どっちでも踊れるぜ！」
円を描き舞いながら、二人の時間が過ぎていく。
「俺やったことねーんだけど、マジ大丈夫なのか？」
足元に気をつけながらミズチはステップする。
「えっと……よろしくね……」
声に気づいて顔をあげれば、それはルミナではないか。
ルミナは紅潮しながら、
「やっぱり、スカートってはき慣れないなぁ……」
そんな顔を見られないよう、うつむいて踊る。
でもルミナにはとっておきの考えがあるのだ。
――ダンスが終わったら背伸びをして、ミズチのほっぺにキスしてあげたい。
（「…ミズチ君、大好きだよ！」）
「アイさん、男性側なんですか？」
ビューネの手をとったのはアイだ。
アイはうなずく。そのリードは巧みで、ダンスの経験が少ないビューネもうまく踊ることができた。
「私は男側のダンスしか知らないので……」
なにやら事情があるようだ。
あとで飲みに行こう、と約束してビューネとアイは別れた。
「やあ」
つぎのビューネのパートナーはガルスタだった。
「これがフォークダンスというものか。輪になって踊るというのも面白いな」
「ええ、本当に」
ガルスタのリードも安定している。ビューネの動きはだんだんこなれてきた。
キリアルはヴァイルの腕をつかみながら、
「お祭りだお祭りだー♪」
ぴょんぴょんと跳ねている。
「おいおい、ステップ無視してどうするよ？」
苦笑しつつもヴァイルは思う。
（「まぁ…楽しそうだし、いっか」）
だがそれが油断（？）、ヴァイルはそのキリアルに足を踏まれてしまう。
「あ、大丈夫？」
「だ……大丈夫……他の人が相手になったときは控えるんだぞ」
痛いがこらえて笑顔を見せるヴァイルである。
シュリアはうまく踊れない。何人かパートナーをかわったけれど緊張するばかり。でもシュリアは楽しかった。数列ほどむこうから、ときおりソアが目で合図してくれていたから。
何巡かして、ソアとシュリアは向き合った。
「やーっと会えました、シュリアさん！」
「……はゎ、ソアとなら……安心して…踊れるね……」
「うん」
返事してソアは、シュリアを抱えてくるくる回転、ここで曲が区切りに達した。
「じゃ、またね」
明るくいって手を離したけれど、少し淋しい気もするソアだった。
「じゃあまたー」
プルミエールは手をはなす。ヒースクリフは静かに笑って、
「そうそう、紹介してほしいといっていた俺の恋人だが、じつはプルミーの後ろなんだ」
「はじめまして」
ルルイはいいながら前に進み、ヒースクリフの手を取った。
「あ、はい、はじめまして！ 綺麗な方ですね」
「ありがとう」
いいながらルルイは、ヒースと踊りはじめる。プルミエールにだけは負けたくない、と対抗心が燃え上がっていた。
だけどその炎はすぐに鎮まる。手を取ったヒースが、ルルイだけを見つめてくれていたからだ。その目は愛情と優しさにあふれていた。
（「ヒース……キスしてくれないかな……？ なんて」）
ルルイは願った。
その願いは別れ際、耳たぶに軽くだが、かなえられた。
プルミエールの次の相手はロックだ。
「お姫様、よければ……また踊って頂いてもよろしいですか？」
もちろん、とこたえて踊りながらも、プルミーの心に気泡のほうなものが生じている。
ヒースクリフとルルイがうまくいって嬉しい……はずなのに、なぜか寂しい。
「そういえば プルミエールにも好きな人って……」
いいかけたロックだが、はっとして口をつぐんだ。
一瞬だがプルミエールが泣きそうな顔をしたのだ。
すぐにそれは消え笑顔に戻った。もしかしたらロックの見まちがいだったのかもしれない。
イロハはからかうようにいう。
「好みの女の子は見つかった〜？」
キルはその手を握ると、少々強引にダンスをはじめる。だが社交ダンスの心得があるので、キルのリードは絶妙だった。
やがてキルはイロハの耳元に口を寄せていた。
「イロハ以上の女が見つかるはずないだろ？」
いうなりダンスの輪を乱さぬよう、キルは手を繋いだままイロハを外に連れ出す。
「他の男と踊ってる姿を穏やかに見守ってられるほど、大人じゃないんでね」
ごめんな、とキルはいう。
イロハは、バカ、とだけ返事して、愛する男の背に腕をまわした。
星空となっていた。
灯りのもと、舞台の中央にチェリスが進み出る。
チェリスの装いはフリルのついた純白のワンピースだ。
「みなさんの良い思い出作りに……協力は惜しまないわよ♪」
ここで演奏手のキズスは軽快な音楽から一転、スローバラードを奏で始めた。
チェリスの美しい歌声がそこに載る。
ドーリスの胸の高鳴りは、ひとつ舞うたび強くなる。
（「……ぁ、アイが……もうすぐアイが……っ」）
アイの順番が近づいているのだ。やがて
「よろしく、ドーリス殿」
背筋をまっすぐにのばし、アイはドーリスの眼前に立った。
「私は男側のダンスしか知らなくてな、すまない」
と、アイが白い手のばしたとき、音楽がバラードに変わる。
ドーリスはその手をとって
「……ううん……アイが……外輪に加わってくれて良かった……」
こうして一緒に踊れるのだから。
（「……アイと踊れて……こんなに素敵なひと時を過ごせて……本当に幸せで心臓が落ち着かない……」）
ドーリスは華祭りに感謝するのだった。
アーウィンとアムールの舞は、一対の人形のよう。
「アムール姫、今日のあなたは一段と美しい」
「お礼申し上げますわ。でも、ほかの皆様にはご迷惑をかけたかもしれませんわね」
くすっとアムールは笑う。
二人は男女の位置を逆にしていたのだ。アーウィンが女性側、アムールはその逆。
「ではここで交替とまいりましょうか？」
アーウィンとアムールは、優雅に互いの場所を替えたのだった。
ヴァーミリオンのダンスには、いまひとつ心がこもらない。
（「他の人とも何も考えずに踊れるつもりでいたのに」）
綺麗なステップを踏みながらも忘我の様子。しまいには相手の足を踏んでしまう。
（「おかしい、普段の私じゃない……」）
理由はわかっている。
「待たせたね、ヴァーミー」
婚約者のエースがパートナーになったとき、ヴァーミリオンはようやく目が覚めたようになる。
スフェーンは疑問を感じている。なぜかずっと、ダンスの相手が男性ばかりなのだ。
「この踊りって男女の位置が決まってるの？」
と、現在のパートナーであるエンに訊く。
エンは人好きのする笑顔で、
「うん。きみ、女の子にしては締まっていると思ったよ」
などとこたえつつ、ゆったりとターンを決めた。
男女逆といえばアイも同様だ。
アイはようやく異性と踊ることになった。相手は、まちがって女性側に入ったリアンである。
「なぁん♪ お姉さん、ダンス上手だねぇ」
「ありがとう。貴殿もな」
手を振って別れる。ここで
「ちょっと入らせてもらえまいか、すまぬ」
なぜか後ろの列からフェイトがやってきた。ロキナも一緒だ。
「遅れてごめんニャ、重大発表ニャ」
「うむ。アイ卿……いま聞いたのだが、女性が外側に入るには身長制限があるらしい。そう、ちょうどそこのアセレア卿程度の背丈が……アッ！」
ついとアイが振り向く。そのすぐ前がアセレア（と、踊るセイ）なのだが、身長は同程度だった。
本日のアイは、カカトのあるブーツ姿なのである。だがそれを知らぬフェイトは、身長を理由にしてアイを女性側に入れようとしていたのだ！
（「しまった！」）
（「うかつだったニャ！」）
ロキナも、アイが渋れば引き留めて女性側に入れるつもりが、出鼻をくじかれる格好となった。
だがそこに頼れる援軍登場！ ちょっと遅れて入ってきたバリバリである。
「アイ、お久しぶりなぁ〜ん。でも、アイはこっちじゃなくてあっち（女性側の輪）なぁ〜ん？」
「バリバリ殿、私は」
それをききつけたスフェーン、喜んでやってきて、
「ちょうどよかった、俺もまちがってたんだ」
アイと位置を替わってしまう。
「そ、その……」
「グダグダいわずあっちへ行くなぁ〜ん」
とそのまま、バリバリがアイの手を取って踊りだした。とたんにアイの踊りは、『超』がつくほどぎこちなくなってしまう。だがバリバリも極端な我流なので案外似合っていた。やがて二人に笑い声がではじめる。
マニはダンスしながら、旅芸人一座にいた頃を思い出す。
「ええなぁ、俺、こういうお祭りの雰囲気って好きやねん」
踊るのは久々だが、手拍子や動作は体が覚えていた。
このときマニと手をつないだのは、『いい男を見つける』と誓って参加したノゾミだった。
ノゾミの理想は、優しく守ってくれる包容力のある男……今日踊ったかぎりでは、マニがもっとも彼女の好みに合うように思えた。
「あなた、合格」
「合格？ なんやわからんけど喜んどくで」
マナの髪を飾るのは、リュートが挿してくれた赤い花。
「……その花、に、似合う、ぜっ！」
心からのことばを口にしつつも、リュートは視線をそらし気味だ。それはマナが、あまりに眩しすぎるから。
（「目が合わせらんねぇー！！」）
マナも耳まで赤くしながら、楽しく踊ろうね、とリュートをリードするように足を運ぶ。
（「たぶん、ボクはいま……」）
最高に幸せなのだろう、とマナは思った。
「俺、ダンスはやっぱダメ……」
カチェア、カルラにダンスに担ぎ込まれ、お疲れ気味のトゥバンだ。二人ともまだパートナーにはなっていないが、ゆくてで手ぐすね引いている。
「ホラ、なにくたびれた顔してんのよ。『誰も彼もに微笑みを』でしょ？」
と、声をかける者があった。
シェルであった。シェルは明るく、
「踊れないの？ なら教えてあげるわ」
とトゥバンの手を取り、ワンツーワンツーとステップを刻みはじめた。
「お、おい、そのかけ声はよせよ、カッコ悪い」
けれどトゥバンの顔には笑みが戻っている。
（「トゥバンって、私の過去に関係しているのかしら？」）
先日の戦いを回想しつつシェルは思う。
（「ま、今はいいかな。元気出たみたいだし」）
プルミエールのやや後方に、テルミエールがついている。
（「プルミーさん、元気なさそう……」）
事前にメイクしてあげたプルミーの血色はいい。楽しそうでもある。しかし姉妹（年下の姉？）のようなテルミーには、彼女の様子がどこかちがって見えた。気のせいであってくれればいいのだが。
気がつくとまたテルミエールは列から外れていた。プルミーばかり見ていてずれてしまうのだ。
「よければ踊らない？」
そんな彼女をすくいあげてくれたのはロックだった。
「さっき列から外れたとき、僕は順番を飛ばされちゃったからね」
テルミエールはびっくりして、
「お、お願い、します」
頬を上気させながらロックの温かな手をとるのだった。
ダンスは終盤にさしかかる。
「貴女と踊る前に曲が止まってしまったらどうしようかと思ったよ」
というクルドの姿を見て、満面の笑顔になり胸元に跳び込んで抱きつくのはユーナだ。
「クルド様……待って待って……待ちつづけましたわ」
クルドは最愛のユーナを抱いて踊り出す。
銀色の月光が、二人を優しく照らす。
「参りましょうか？」
最後にアイの手を取ったのは、見知らぬ蒼い髪の美少女だった。この少女もなぜか男性側にいる。そのダンス技能は抜群で、アイは思わず我を忘れた。
曲はやがて静かに終わった。
「アイ殿、女性側も悪いものではないであろう？ まずは経験してみなくてはな」
アイは驚き少女を見て、気がついた。
「貴殿はなんでもできるのだな」
「いや、アイ殿もなかなかの淑女ぶりであったよ」
ネーヴェはくすりと微笑み、髪を解く。
「タイムオーバーっ！」
ずてーっと転んだ彼はカノンだ！ 偶然立ち寄った祭でプルミエールの姿を見かけダンスに加わろうとしたのだが、輪にくわわったところで一度も踊ることなく終了となった。
「お嬢と踊りたかったよ〜」
地面をバシバシ叩くカノン。人生は無情だ。
「カノンさん♪」
カノンに声をかける者がいた。お嬢、ことプルミーである。
「踊りましょ。これからアンコールですよ」
止まっていた音楽が、こんどはにぎやかに再開された。
人生、そう無情でもない。
ジオグローブは踊りに参加していない。だが彼は祭の雰囲気と花、秋の夜を満喫していた。
どこか放蕩さを感じさせるメロディを聴きながらつぶやく。
「人の一生は、厳しい冬から学び越えるところからはじまって
夢のような春、夢中なままの夏を過ぎて
来た道を振り返る秋へと通じるともいう。
手をかけて飾られていない道端の荻一本でも
その自然の美は、これまで歩んできた人生の美しさだ……」
かくして秋の夜は静かに更けゆく。
（了）
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参加者：44人
作成日：2006/10/16
得票数：ミステリ1
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冒険結果：成功！
重傷者：なし
死亡者：なし
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