はじめての大綱引き大会〜ニシムラ〜



<オープニング>


●はじめての大綱引き大会
 二つの村がある。仮にヒガシムラとニシムラとでも名付けておこうか。
 さて、このヒガシムラとニシムラ、やや距離が離れてはいるが、互いに交流があり仲が良い。
 そしてどちらの村も毎年この時期になると、一年の健康を祈って綱引きを行う風習がある。
 昨年までは各村だけで行なっていたのだが、今年でちょうど10年目ということでヒガシムラとニシムラ合同で大綱引きを行なってはどうかという話になった。
 両村をあげての大綱引き大会。
 やるからには大々的にと、冒険者達にも声がかけられることとあいなったのである。

「へぇ、面白そうね」
「そうでしょう?」
 ニシムラ大綱引き委員会会長、オーキはにこやかな笑みを浮かべてシャナンに言う。
「ヒガシムラも冒険者さんに参加をお願いしてますし、やっぱりご高名なシャナン様に参加頂ければ大会はもっと盛り上がると思うんです」
 にこにことシャナンを煽てる男にシャナンもどんどん気分が乗ってくる。
「よーっしゃ! そうと決まればやるわよー絶対に勝ーつ!!」
 勝負。
 シャナンにとって勝負をするなら勝たなければ意味がない。それがどんな事でも、だ。要は単なる負けず嫌い。
「で、東がお願いしてる冒険者って誰よ」
「はい。確か……ユバさん、と言う方にお願いしにいくって言ってましたよ」
「ユバぁ〜?! ユバか……」
 腕組みをしたシャナンだが、すぐにふっふっふと不敵な笑い声を上げ、拳を握り締める。
「よっしゃー首洗って待ってなさいよ、ユバー!!」
 張り切るシャナンの声が木霊するのだった。
 

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参加者
NPC:南方セイレーンの女王・シャナン(a90275)



<リプレイ>

●はじめての大綱引き大会
 お天気は晴れ。青い空の上にある太陽とぽんぽんと子羊の群れのように流れる雲はまさに秋晴れ、綱引き日和。

 でででん! 
 大綱の上に立ち、へっぴり腰ながらもニシムラへとファイティングポーズを決めているユバ。

 ばばばん!
 大綱の上に立ち、腰に手を当て胸を張り不敵な笑みと共にヒガシムラを睨みつけるシャナン。

「ついにこの時が来たわね……ユバ!」
 ニシムラ先頭の大綱に仁王立つシャナン様は、びっ、と一直線にユバさす。
「のぞむところなのです! 今日ばかりはシャナンさんと私は敵同へふぅ!!」
 真っ向からシャナンの挑戦をびしっと受けて立とうとしていたユバは後ろにごろごろと張り付いているものに小声で何やらごにょごにょ。
「ユリ……いやユバ、あんた……まあ、いっか。さああんたたち、私の合図と共に思いっきりこの綱ひっぱんのよ! 負けたらただじゃおかないからね!?」
 何か言いたい様な気もしたが、ま、そんな事より目の前の勝負が大事とシャナンはニシムラを振り返り、ハッパをかけた。
「それでは皆の衆! 今年も健康であるよう、精一杯引っ張るのじゃぞ!」
 綱の真ん中に立ち、声を張り上げる両村の村長。オーキが大きな旗を持ち上げる。
「構えて!」
 両陣営それぞれ綱を手に持つ。流れる緊迫感。
「始め!」
 黄色い旗が大きく振り下ろされ、発せられた声は高い秋の空に吸い込まれると共に地鳴りのような声が沸き起こった。

●ヒッパレ
「よっしゃー! あんた達どんどん引っ張んのよー!!」
『活躍した方にシャナン汁一年分とセクシーな等身大シャナン人形進呈』と書かれた怪文書が風に飛ばされる中、大綱が持ち上がり、東と西から一斉に引き合う。 
「姫ー! 常時水着の姫ー! 間違えたシャナnボホォゥ」
 シャナンに頭を踏みつけられつつクーラは縄を掴みつつ、声を張り上げる。
「不肖クーラ、勝利の為にリサーチした『綱引き必勝法』は伊達じゃありませんぜ! ちゃんと意識してやってくれよ」
「わーってるわよ!」
「我々には生がついてるぞー!」
 大綱を引く者達の横で煽るシュウ。
「っつか、お前も引け!!」
 綱の上から怒鳴るその生様。シュウは適当な場所に加わり、大綱の横にぴろりと伸びる細い縄を掴んだ。
「いい事、あんたら! 負けたらタダじゃ置かないわよ!?」
 シャナンのほとんど脅しの鼓舞の声にハァハァ怪しい呼吸音。
「わしらシャナン軍は地上最強だッ! 言ってみろ!」
「シャナン軍はぁー地上最強ぉ!」
「シャナン軍はぁー地上最強ぉ!」
 チアキの掛け声に呼応したのはマイアーとミシェイルの二人だけ。三人揃って腑抜けた顔でハァハァしながら見上げられ、シャナンは後退る。しかも、マイアーはシャナンのコスプレ姿! しかし、綱引き自体はマジメにやるつもりらしい。3人を闇の彼方へ葬り去りたい衝動に駆られつつも勝利の為に堪えてシャナンは彼らを視線外へとひとまず追いやる事にしたらしい。
 トロンボーンはとりあえず、ハァハァと真似して言ってみて首を傾げるもしっかり腰を落とし足を踏ん張っている。勝負である以上勝ちたいのが心情というものだ。
「絶対勝利! ぶ ち こ ろ す!! 考えるな! 感じろ!」
 怒鳴り散らしながら全力で綱を引っ張るアーク。
「ここぞと皆に気合を入れさせたい時はシャナン、檄をお願いするよ。頼りにしてるよ、総大将さん♪」
「任せときなさい!」
 ロックの言葉に拳を握るシャナンは引けーと大きく後ろへ腕を振る。
 オーエスオーエスの掛け声と共に綱を引くニシムラ陣営。だが、じり、じりと僅かにヒガシムラの方へと大綱は動いている。
 本綱の一番端をしっかり抱え、ナタクは腰を落とし体重を後ろにかけ、シリウスは鋲付きの靴で大地をしっかり掴む。
「皆さん、腰を落として両足を突っ張ってください!」
 これは拙いと察したアリュナスの声が仲間達へ飛ぶ。
 じりり
 じりり……
 更にヒガシムラへと状況が傾き始めるとシエンは舌打ちを一つし、あっとヒガシムラ陣営の後方を指差し大きな声で相手に聞こえるように言う。
「あ、あっちに超高級絹ごし豆腐が!」
「なんですとっ!?」
 と釣られるユバとその他数名。
「今だー!」
「よーっし!」
 シャナンの合図と共に、ナタクは一気に大綱を引く。
「ルーコのライバル(一方的に勝手に認定)のシャナンには、ルーコ以外の方に負けていただくわけにはいきませんの!」
 とツンデレ風な台詞と共に細い縄を引っ張るルーコ。 
「声を出していきましょう〜!」
「オーエス! オーエス!」
 レイスとレムのオーエスオーエスとの掛け声に周りも声を揃え、掛け声と共に大綱を引き始めればジリ、ジリっと大綱はニシムラの方へと動き始める。
「ううー手袋が破けちゃいますのー」
「泣き言ってないで、ちゃっちゃと綱を引くがいい我が主」
 へっぴり腰で細い綱を掴み半べそのアリシアに実にぞんざいに言葉を吐くサキト。何にしても、ゆっくりと大綱はニシムラへと動いていた。

 そんな有利になってきたニシムラ陣営に突如現れるほっかむりの男Dと黒頭巾に黒ローブの女F。手には大量の『濃縮シャナン汁「生」(加工乳)』!!
 話題のシャナン汁は要らんかね〜と呼びかけつつ、シャナンハァハァの面子にはDが無理矢理口に汁を流し込み、Fも某GGの護衛士証を見せ、これこそ正真正銘の本物だと男どもに言いまわればそりゃもう、本物ってアンタ……
「シャ、シャナンたんの『生』! 『生』!」
「んな訳あるかー!!」
 怒号と共にシャナンの飛び蹴りが容赦なくDと生に惹き寄せられた亡者どもに綺麗に炸裂! 
 大綱の上から飛び降りたラミルはほっかむりの男の後ろに回り
「不審人物め、くらえー☆」
「悪い子は潰すんだにょ♪」
 ラミルは手を組み人差し指と中指を真っ直ぐ伸ばし地面から掬い上げるように仙人殺し(カンチョウ)を連打! 更にシャナンと同じ服を着たルリィのハリセンが秋の空に高い音を響かせる。
「ぬぐぉぉおぅっ!?」
 即座に逃げようとしたFだが、そうはシャナン護衛隊が許さない。
「は、はなせー!」
「妨害者は許しませんっ……!!」
 Fはティーとエフォイードに御用となり、ロープでぐるぐる巻きに。もちろんDもしっかりロープで亀甲縛りの上ぐるぐる巻きにして転がされる。 
「チィ……ユバめ。姑息な真似を〜!」
 舌打ちしたシャナンに睨まれるとその視線を真っ向から受け止め、やんのか的な視線を返すユバ。
 妨害により形勢はヒガシムラへと有利になっていた。
「どんな妨害にも負けませんよーそれ打倒、ヒガシムラ! 打倒、ユバたん!」
 イワンの上げる鬨の声にネフェルとマイトも呼応し、掛け声をかける。
 だがだが、戦力の低下は否めない。ヒガシムラのお豆腐ラァァヴの掛け声が調子付いて来たような気がする。
 体を後ろに反らすように重心を後ろに移し体を持っていかれないようにし唸るネフェル。
「くぅ……シャナン汁の力は絶大ですね……」
「なぁ〜ん……変なことに感心しないのなぁ〜ん」
「まったくです」
 ぐーっと同じく体を後ろに倒し、必死で踏ん張りながら言うサチにマイトも同意の頷きをするが、形勢は悪い。
「オーエス! オーエス!」
 滑り止めの手袋でしっかりと縄を掴み力を込めるエイジ。
「オーエス! オーエス!」
 スーも腰をしっかり落とし、堪える。
「そうるぁ! シャ・ナ・ン! そうるぁ! シャ・ナ・ン!」
 苦戦を強いられている仲間の横でハァハァしながら応援に徹するドラゴに無言のシャナンの眼が飛ぶ。
「オシオキにゅ!」
 ルリィと同じシャナン変身セットに身を包むユーロの猫ネコハンマーがドラゴの頭に当たり、んみゃっと鳴く。
「ナイスよ、ユーロ! っつか、あんたらも綱引けー!!」
 シャナンの怒号にツァドがぷるりと大きな体を震わせる。
「負けるとシャナンさんに頭から一気に丸呑みされるそうですよ」
 ツァドの未確認情報に震えるイルハとミヤクサは顔面蒼白にし、更に必死で綱を引き始める。 
「あんたらーココが勝負どころよ! わかってるわね?! 死ぬ気で引けー!!」 
「だぁぁぁらっしゃぁらぁ!」
 シャナンの号令に物凄い形相で敵陣の先頭を威嚇するバルオール。相手方の先頭で綱を引いている人は、何で睨まれてるの? 怒られてる? と内心おっかなびっくり。
「ぶちころせ! そーれ、ぶちころせ!!」
「えと、ぶちころせ!?」
 なんとも恐ろしい掛け声をかけるアークに困惑しながらも一応乗っかってみるストラタム。
「打倒ヒガシムラー!」
 細い綱を両手で持ち必死で引くスノーの後ろでライアスも全力で綱を引く。
「シャナン様のためにがんばるよー」
 プロッツェの踏ん張る足がひとつ、またひとつ後ろへと下がっていく。
「シャナン軍はぁー! 地上最強ぉぉぉ!!」
「シャナンたんハァハァ! ハァハァ!」
「全力なぁ〜ん……!」
「オーエス! オーエス!」
 シャナンの掛け声にやがてニシムラ全員の声が重なり合い大きな綱は加速がつき動き始め……
「勝負あり!!」
 旗が大きく振られた。
「勝村、ニシムラ!!」  

●勝利の後は
「皆で姫様を胴上げしましょう♪」
 エフォニードの歓喜の声にシャナンが抱え上げられ、宙に舞う。
「くぅ、この眺めも実にいいなぁ!」
 奇声を発し宙に舞うシャナンを下から見上げ、眼福眼福とバルオールは鼻の下を伸ばす。
 ようやく地面に下りたシャナンは満面の笑みで実に嬉しそうだ。
「よくやったわ、あんたら! もう、エライ! よくやった!! 褒美にイイコイイコしてあげるわ♪」
 頑張った人たちの頭をぐわしぐわしと撫で回していく。
「ハァハァ♪ ハァハァ♪」
 鼻息荒く、正座して待つマイアーとチアキ。
「ハァハァ、ハァハヘベゴッ!!」
 鼻息荒く虚ろな目をしながら正座をして待つマイアーとチアキの頭には、容赦なく鉄拳制裁が降り注ぐ。
「ハァハァ(ピクピク)……もっと……」
 制裁になってねーなこれ。
「しゃ〜〜なんた〜〜ん♪」
 突如響く声と共に高く陽光を背に人影が飛びあがる。
「ミシェイルかーー!?」
 即座にハリセンを構え、降ってくる人影に抜刀。ジャストミートでぶちあたり、人影は地面に打ち据えられる。だが、それはミシャイルではなく、1/1シャナン人形!
「なにぃっ?!」
「しゃな〜んた〜〜ん♪」
 見事フェイクに引っかかり無防備になったシャナンへミシェイルはいやらしい顔で大きく手を伸ばし、彼女の体まであと数センチ。
「勝ったなーシャナーン!」
「ヘブフゥッぁ?!」
 横から割り込んできたアークがシャナンに抱きつきミシェイルを吹き飛ばす。 
「シャナっぶふぉッ!」
「抱きつくなー!!」
 肘鉄をもろに喰らい、地面に突っ伏すアークを乗り越え今度はルリィが抱きつく。
「私もシャナンさんに抱きつくにゅ♪」
「勝利の祝杯じゃー! 生じゃーシャナン汁かけじゃー!」
「宴会〜宴会〜♪」
 どこから持って来たのか濃縮シャナン汁を恭しく掲げて小躍りする者。宴会だ、宴会だと酒の用意を始める者といる中、なんか知らんがいろいろ抱きつかれるシャナン。
「生はやめろー!! なんかしらんが、理不尽だーーーー!!!」
 シャナンの空しい叫びが木霊した。

 あ、この後膨れ面のシャナンに皆でお酌してご機嫌取りをしたそうな。   


マスター:桧垣友 紹介ページ
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