<リプレイ>
●誕生日の夕べ 高く澄んだ秋の空から太陽が傾き、西へ沈み去ろうとする頃。月光花の咲く森に、20人ほどの冒険者達の姿があった。 「もう少しなのですよ〜」 そう奥へと歩くノエル。やがてその先が開けて、一面に蕾が広がる。 「あれが月光花ですね。楽しみなのです〜」 どんな風に花開くのだろうと胸を躍らせながら、ノエルは花が咲くまでの間、どこで過ごそうかと辺りをウロウロする。 「ノエル、誕生日おめでとう」 そんなノエルに、まずは……と祝いの言葉を口にした、風纏う銀の翼剣・リュキア(a12605)は、掌を伸ばして、その頭を撫でると「また少し大きくなったね」と目を細める。 「えへへへ、ありがとうなのです〜♪」 嬉しそうに笑うノエル。と、それに続くように、紅い魔女・ババロア(a09938)も口を開く。 「ノエルさん、12歳の誕生日おめでとう。……エルルお母さんにありがとうは言いましたか? キーゼルお父さんは、いつも残業お疲れ様」 「ほえ?」 お父さんと小首を傾げるノエル。 「ほら、エルルさんとキーゼルさんと、ノエルさん。みんな名前の末尾が『る』だし〜♪」 3人は家族なのですね〜、と話すババロアに、ノエルはどこか納得した様子で「る一家なのですね〜」と頷いている。 「そういえば……そうよね。偶然なんだけど。奇遇よね」 そんな2人の会話に、持参したお弁当を広げていたエルルもくすくす笑う。もっとも、エルルとノエルでは、親子というより姉弟という感じだけれど。 「まぁ、素敵なお料理ですわね。わたくしも、ご一緒して宜しいかしら?」 そんな料理に目をとめて、尋ねるのは琥珀色の令嬢・リーザ(a52806)。 「勿論よ。ね?」 「はいなのです。みんな一緒の方が楽しいのです〜♪」 エルルとノエルの言葉に、では……とリーザは腰を下ろすと、携えていた包みを開く。 「わたくしも持って来ましたの。皆さん、いかが?」 簡単な物ばかりですけれど……と呟くリーザだが、料理が賑やかになるのは、誰だって大歓迎。誘いを断る理由は無い。 「ノエル、おめでとうなぁ〜ん!」 2人が料理を並べ準備する中、ノエルにプレゼントを渡すのは、骨を心に抱く・クーリン(a35341)。大した物じゃないけど……と差し出したのは、秋の花の花束だ。 「うわぁ……ありがとうなのです〜!」 コスモス、パンジー、金木犀……季節の花が1つになった花束を、ノエルは嬉しそうに抱きしめる。その様子に、クーリンは本当にノエルは植物が好きなんだなぁと目を細め、この後もたくさんたくさん、今日はお祝いしてあげようと胸にする。 「皆様、お茶の準備ができましたの」 そこに歩いて来たのは、近くでお湯を沸かしていた、空舞う暁菫の剣・セフィン(a18332)だ。彼女の手元にはティーセットと、ちょっぴり変わったお茶がある。 「お花の咲くお茶ですの。ノエル様、どうぞ」 「お花?」 首を傾げるノエルだったが、やがて、ゆるゆると蕾が花開く様子を目にし、「すごいのです〜!」と瞳を輝かせた。
花茶を傍らに夕食を囲むうち、日は地平線の向こうへと沈んで。辺りには夜の帳が下り、いくつかのカンテラが灯される。 「花が咲くところが、楽しみですね」 「はいなのです〜」 ノエルの誕生日を祝い、そう蕾を見やる、大地の永遠と火の刹那・ストラタム(a42014)の言葉に、ノエルも頷くと、真似するように花々を見る。 日は、まだ沈んだばかり。蕾はまだ固く閉ざされている。 少し前に現れた月は丸く、ストラタムが好きな更待の月には、まだ少し早い。 (「更けた夜に生まれ、明け方までの短い命……そんな哀れな月を、慰めるように咲くのですね」) この月光花は……そう視線を落とした先で、ゆっくり、ゆっくりと、月の光に誘われるように、少しずつ蕾が緩んでいく。 「ノエルさん、おめでとうございますの。もし宜しければ、わたくしの踊りを見て貰いたいですの」 月明かりを浴びつつ、そうノエルの前に立つのは心眼の踊り手・マリウェル(a51432)。お祝いに、と舞い始める彼女を、ノエルは「すごいのです〜」と見つめている。 軽やかな動きがやがて途切れ、一礼したマリウェルに、ノエルは大きく拍手する。 「ありがとうございますの。……皆さんも一緒に踊ると、より楽しいと思いますの。ノエルさんも……」 「いいのですか? 良かったら、踊りのコツを教えて欲しいのです〜」 マリウェルの方へと近付くノエル。その様子に、楽風の・ニューラ(a00126)がリュートを弾き、1人、2人と、集まった冒険者で輪ができる。 「なるほど。体を動かすのは、睡魔防止にも良いかもしれないね」 その様子を眺めながら、木陰に寄りかかり腰を下ろすキーゼル。そこに、一人の足音が近付く。湯のみを携えた、心に夢を貴方には愛を・ミヤクサ(a33619)だ。 「いかがですか?」 「ああ、貰おうかな」 夜は冷えるしね、と手を伸ばすキーゼルに片方の湯のみを渡し、ミヤクサも隣に座る。 口を付ければ、まろやかな甘みのある味と、清しい香りが広がる。 「……ノエルさん、数年後は私より背が高くなって、きっとカッコよくなるかな?」 二人並んで冒険者達の輪を見ていたミヤクサだったが、やがてぽつりと呟く。 「どうかなぁ……ま、あの位の年は、変わるとしたらあっという間だろうね」 まあ、どうなったとしても、それはそれで個性というものだろうし……と湯のみに口付けるキーゼルの言葉に、ミヤクサは「あのまま可愛いままでも、それはそれでいいかも」と、クスっと笑った。
●月の下で 何曲か踊り、ダンスの輪がお開きになった後、絶望と希望の狭間を彷徨う者・フェイ(a41383)は、ノエルが1人になったのを見て近付いた。 「お誕生日、おめでとうございます。……あ、え、えと、私のこと、覚えていますでしょうか……?」 「ふえ? フェイさん、久しぶりなのです〜」 フェイの言葉に少し首を傾げて、お荷物を運んだ時ぶりでしょーかと笑いつつ、ありがとうなのですと返すノエルに、フェイは私の方こそと口を開く。 「あの時は助けてもらってありがとうございました……お蔭様で、何とか今まで冒険者としてやってこれています」 「はわっ、ボクは大したことしてないのですよ〜」 ふるふると首を振り、ノエルは依頼の事を思い返す。冬の日の旅路、無事に荷物を届けた時の喜んでくれた顔……フェイにとって初めての依頼でもあった、あの時の思い出話を、しばし交わして。 「ようし、出来上がりだな」 依頼依存症・ノリス(a42975)はカップを載せたトレイを手に立ち上がると、ノエルをはじめ皆の間を巡る。中身はアップルミントティー、いくつか果実酢やジャムが加えられた物もある。 「ボク、お姉ちゃんのお店でケーキ買って来たんだ。ノエルちゃんもいっしょに食べよう?」 フェイと入れ替わりで近付いた、仔狐・エミリオ(a56971)はケーキの箱を開く。どれも小さくて可愛らしいばかりで、ノエルはエミリオと一緒に箱を覗いて、どれにしようか頭を悩ませる。 「あ、あとね、フワリンの用意もしてるんだ。食べたら一緒に遊ぼうね♪」 「うにゃ〜、楽しみなのです〜♪」 ようやく選んだケーキをお茶と一緒に食べながら、ノエルはその誘いにわくわくしつつ頷き返す。 「さて……」 一方ノリスは、プディングの残骸らしき物が載った皿を手に、ある人物を探す。 (「別に謝罪や言い訳を聞く為じゃないけど……」) 是非ともこの無残な姿を楽しんだ上で、その悲しみを味わってくれ……と、ノリスはカップと共に、その皿をお茶請けとして置いた。……ババロアの前に。
「カヅキ、寒くないか?」 「大丈夫……こうしていれば暖かいです……」 紫電の探求者・ストラ(a34190)は恋人の桜花の唄姫・カヅキ(a31571)と2人、身を寄せながら、月が昇り花が開くのを待っていた。 日が沈み、夜風は冷たいけれど。マントを羽織り、カヅキの背を後ろから抱き抱えていれば……互いの温もりが、とても暖かい。 「でも、芯まで冷えてからでは遅いですから……」 温めなおして飲みましょうか、とカヅキは立ち上がる。彼女の手にはココアの入った水筒がある。流石に、中身はもう冷えてしまったけれど、それは温め直せばいいこと。 鍋をかけて、また寄り添いながら、ココアが温まるのを待つ2人。空にきらめく月とが、互いの姿をぼんやりと浮かび上がらせる。 「あと、もう少し……です」 微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)は、見上げた月と花の姿を見比べながら呟く。月はもう半ばを越えて、地平線よりも空の上の方が近い。 「えと……宜しければ、これを」 そんな中、ふと吹いた夜風の冷たさに、メルヴィルは羽織っていたマントを外し、近くに座るキーゼルへと差し出した。――彼は軽装で、夜風を防ぐには少し、心許ない格好をしていたから。 「気持ちは有難いけど……僕がそれを着たら、今度は君の方が寒いだろ?」 「えと、わたしは……とても暖かいですので」 あなたがそこにいるから……という言葉を飲み込んで。そう微笑みかけるメルヴィルだったが、マントを外したせいか、すっと忍び寄る冷気に、ついくしゃみをしてしまい。 「……えと、あの。その……」 「……じゃあ、まあ、ちょっと対等とは言えないけど、交換ってことで」 そんなメルヴィルの様子にキーゼルは笑いを噛み殺すと、自分の上着を彼女の肩に掛けて、何か温かい飲み物をと捜しに向かった。
●光を浴びて、花が咲く 「次は、どんな歌にしましょうか?」 「んと、じゃあ……」 ある童謡の名を挙げたノエルに、ニューラは頷き返して演奏を始める。 歌う事は眠気覚ましになるはずだからと、ノエルが少しまどろんだ所へ声をかけ、場の雰囲気を壊さないよう騒がしい曲は避けつつ、けれど明るくて楽しげな曲や、ノエルの好きな曲を中心に奏でていく。 とはいえ歌い続けるのは、それはそれで疲れるだろうからと、何曲目かの後にニューラが用意した、ココアとセサミクッキーが振舞われる。 「あ、また少し咲いているのです〜」 花弁が先程よりも開いているのに気付いたノエルは、カップを両手に笑う。その胸元には、先ほどニューラに贈られたばかりの、葡萄が刻まれた金のコインのペンダントがあった。 「あら……皆さん、お茶の途中でしたか」 そこに、ゆったりと歩いて来たのは、森淑気泉の水仕・アキュティリス(a28724)。 傍らのフワリンと共に到着したばかりの彼女は、「お夜食ですわ」とバスケットを掲げる。中身はピリ辛サンドイッチやレモンの蜂蜜漬けなど、目の覚めそうな物ばかり。 「き、効くのです〜」 サンドイッチで目が開いたものの、辛さに飲み物をと手を伸ばすノエルに、アキュティリスは淹れたての紅茶を渡す。一息に飲み干して……2杯目になってから、ノエルはその香りの良さにようやく気付いた。
「結構寒くなって来たわね〜」 夜食を食べ終えると、ババロアは持参した毛布を広げた。風邪をひいては大変だから、とミヤクサも持参した毛布を置き、ノエルたちは一緒にそれに包まる。 あたたかい。 ……体が暖まると、じわじわ少しずつ眠気が誘う。 そう物語るかのように、微かに落ちる瞼――と、そこに暖かな湯気が当たる。 「ノエル君、まだ花が咲くまでもう少しかかるみたいだし……ハーブティーを一緒に飲まない?」 差し出されたカップの主は、黎明の燕・シェルト(a11554)だ。その気遣いに「はいなのです」と頷いて、ノエルは両手でカップを包む。 月が頭の真上に辿り着くまで、あと、もう少し。 花が完全に開く瞬間は……すぐそこ。
「あ」 最初に気付いて声を上げたのは、誰だったか。 真上から降り注ぐ柔らかい光を受けて、開きかけていた月光花の最初の一輪が、一瞬にして花開く。 「エミリオくん、エミリオくん」 眠い目をこすりながら頑張って起き続けていたノエルは、少し前に眠ってしまったエミリオの肩を揺らす。 他に眠っている者はおらず、その視線がひとつの場所に集まって。そうして……全員の目の前で、月光花が、満開になる――。 「これが……」 「とても綺麗だね……」 想像以上だと感嘆するシェルトの隣で、大きく頷くリュキア。 儚い光と共に佇む月光花が辺りを照らす――それは本当に、とても美しくて。 「まるで、月が降りてきたみたい……」 ほうっと息をつきながら、そう漏らすアキュティリスの言葉は、その光景を表現するのに、とても良く似合っていた。 「とても綺麗ですの……。お祝いに来ましたのに、こんなに素敵な物のおすそ分け、ありがとうございましたの」 「違うのですよ。きっと、みんなが一緒だから、こんなに素敵に見えるのです。ボクの方こそ、一緒に来てくれて、本当にありがとうなのです」 振り返るセフィンに、ノエルは首を振る。こういうものは、1人で見ても色褪せてしまうから……誰かと、みんなと一緒だからこそ、こんなに素晴らしいのだろう。 そうノエルは笑いながら、もっと近くで見ようと、月光花の方へ近付く。 「わたくしも、少し散歩してまいりますわ」 リーザはそれとは別の方向へと進む。折角の機会だから、辺りを一回りしてみるのも楽しいだろう。 「近くで見ると、もっとすごいなぁ〜ん♪」 ノエルと一緒に月光花のすぐ側まで来たクーリンは、そう目を細める。月の下でだけ咲くなんて、それだけでうっとりしてしまう花なのに。実物はそれ以上にもっと素敵だ。 (「……出来ればあの子と一緒に見たかったけど、それはまた今度……なぁ〜ん」) 何かお土産になる物があれば、とも思うクーリンだが……これを見た事が、何より一番のお土産なのかもしれない。 「………」 月光花を一望できる良い場所を……と、少し皆から離れたフェイは、良さそうな場所を見つけ立ち止まる。花を眺めるフェイの顔が、微かに赤く見えるのは、少し前まで恋人の事を想っていたせいだろうか。 「……月光花は、お月様が見たくて、夜咲くのでしょうか」 ストラに寄り添いながら、カヅキはそうぽつりと漏らす。 「……私には、夜だけ咲くなんて、できませんけど」 自分だけのお月様は、もう……側にいる。彼の事を、ずっとずっと見ていたい――欲張りな自分は、きっと月光花のようには、なれない。 「カヅキ……」 そんな彼女の頬に指先で触れて、そっと……ストラは、唇を落とした。
しばらく月光花を楽しそうに眺めていたノエルだったが、やがて戻って来ると座り……そのまま、すやすやと寝息を立て始めた。 それを見ても、もうノエルを起こす者はいない。……もう、心ゆくまで花を眺めたのだから。 「ノエルさん……」 マリウェルはそっと、ブランケットをノエルに掛ける。 「……また、このような一時が、訪れますように……」 優しい微笑みと共に囁きかけると、マリウェルはノエルの頭を撫でた。

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参加者:18人
作成日:2006/10/28
得票数:恋愛2
ほのぼの19
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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