ラヴァリエールフェアーへ!



<オープニング>


 今現在ちょびっと暇のドリアッドの霊査士・シィル(a90170)は、女性冒険者たちと楽しく語らい合っていた。彼女らも事件さえなければのんびりと流行やファッションについていつまでも語っていたいと思っている。今回はこんな話題だった。

 ――やはり男を惹き付けるには胸の谷間ッッ!

「せっかく持ってるからには、上手く見せたいものですよね〜」
 シィルもこの手の話には最近ノリノリになっている。女の基本にして究極武器。
「でね、ラヴァリエールっていうのが近頃の流行で――」
 それは女性の胸の谷間に下がるY字型のネックレスのこと。普通のネックレスは輪っかだが、このネックレスは中央から直線が1本伸びて胸元に下がる形状である。装飾を見せつつ谷間も見せるという、まさに大人のセクシーアイテム。
「いいですねえ。ぜひ私も欲しいです」
「こんにちは。何か事件はありますか」
 新たな客がやってきたかと思えば、セイレーンの武人・ビフィーネ(a90295)だ。
「あ、ちょうどいいところに。あいにく事件じゃないですけど」
「?」
 かくかくしかじかと説明するシィル。ビフィーネは目を丸くしている。
「ラヴァリエール?」
「そうですよー」
 ラヴァリエールフェアーというのが今度西方の街のアクセサリーショップで開かれるのだと皆が言う。ビフィーネには未知の世界だった。
「私はその日用事があって無理なんですが……行ってきたらいかがですか? あなたは修行ばっかりで全然ファッションに力入れてないですから」
「むむ……。べ、別にそういうのを見せるような趣味はないんですが」
 いやいつも見せてるじゃんと内心ツッコミ入れる一同だった。

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参加者
NPC:セイレーンの武人・ビフィーネ(a90295)



<リプレイ>


 戦場往来の強者である冒険者の一団も、買い物となれば普通の人々と変わりない。特に女性陣は賑やかに、にこやかに、たおやかに、可愛らしく、自分のファッションに思いを馳せた。
 開店前にアクセサリーショップに集まった彼女らは、満面の笑顔の女性店員が入口を開放すると、いっそう賑やかになって入店した。
 ラヴァリエールフェアー開催中――看板にそう書かれているとおり、ほぼすべての棚がそれで埋まっている。誇らしげに宝石をあしらった豪華なのもあれば、シンプルに単一色で決めた慎み深いものもある。店もこのラヴァリエールフェアーのために、惜しみない人材投入と営業努力によってこれらの品々を集めたのだ。
「わー! 全部がすごいのなぁ〜ん! これ可愛いなぁ〜ん♪」
「ミュリック、走ってはいけませぬ……って、何でワイがこんな目に」
「シャルさん、なかなかお似合いですよ。今度黒メイドと白メイドのユニットでも組みましょうか」
 シャルとフィードはなぜだかメイド姿に女装し、召使いっぽく振舞う。と、胸がないのを気にしてウルウルしはじめるご主人様。
「いつかおおきくなるから……きっと大丈夫なぁ〜んよ……」
「胸がすべてじゃないのです。ほら、鎖骨とか腰のくびれとか。ミルにはまだ難しいですかね。……うん、これとか良さそうです。さ、好きな衣装を思い浮かべてください」
 フィードが鎧聖降臨を発動すると、ミュリックの服は体の線が美しく際立つきらきらドレスになった。そして渡されたハートのラヴァリエールは抜群にマッチしていた。大満足のご主人様だったが、隣を見てまたウルウル。魅惑のキャミソールを完璧に着こなしたアティカと、いつもの身軽装備のビフィーネがいる。どちらも最大級。
「ええと、この銀のがいいかな。……ビフィーネさんにはこういう派手そうなのがお似合いかな?」
 大きなオパールの付いたものを見せられるビフィーネ。うまく返事できない。どうでしょう、としどろもどろになるばかり。
「普段はどんなアクセサリーを付けていらっしゃいますの? たまにはこういうのもいいと思いますの」
 ウィスが絡んできてシンプルな金の鎖のものを差し出す。やはりうまく返事できない。アクセサリーには無頓着なのだ。
「焦ることもあるまい。共に探そうではないか、自分に合うものを」
 メディックスは同じセイレーンの戦士ということもあって、ビフィーネには親近感を抱いている。ビフィーネは頬を掻きながら苦笑い。
「ん……後ほど他の方にも聞いてみることにします」
 視線を逸らした先には、同じ旅団同士でわいわいやっているルリィ、ユーロ、ミリィ、ルイ、ソレイユの姿が。
「んー、しっかり育ってるにょ〜」
「そういうルリ姉様こそ相変わらず……羨ましいにゅ」
「あ、これルイさんに合いそう♪ 着けてみない?」
「いいハート型ですね。ミリィさんもこれにしませんか? お揃いにしたいな。……って、ルリィさん、いきなり揉まないでくださいよ〜」
「うーん、これもいいけど……。なあ、そっちに十字架の形した白銀色のない? ないかあ。あっちやろか」
 揃って胸元豊かな5人は遠慮会釈なく試着してゆき、谷間の輝きを見せ合う。確かにそういった光景は羨ましい。しかしそれがすべてでないことくらい、皆わかっている。だから誰もが堂々としている。
「胸がなくても大丈夫、貴方は今のままでも充分素敵だから。……うん、とっても似合うわ♪
「ミレイ……いつもありがとう」
 ルルイは恥ずかしげに小声で一言。無償の優しさを投げかけてくれるミレイナに感謝感激だった。こういった冒険者たちの和やかなショッピングぶりには、店員も笑顔が絶えない。いつも以上に接客に熱が入った。
(「ここからここまで全部! ってのを一回やってみたいんだよねェ……」)
 グロリオーサはフロアを縦横に歩き回り、とにかく試着しまくる。そのたびに店員はどれもお似合いですと言い、購入意欲を促そうとする。しかしそんな店員たちでも、ちょっぴり近づきがたい客がいた。
「こ、これ……似合いますか……?」
「ああ、よく似合っているぞ」
 ひときわ仲睦まじいフミカとヴォストである。今日が初デートのふたりからは、初々しいほのかな甘さが立ち込めている。あんまり邪魔しちゃ悪いかなーと、いい意味でためらってしまうのだった。なので別の冒険者のところへ。
「うふふふっ。予算的にもいい感じですわ」
 ウェンデルはユリの紋章が施されたラヴァリエールをゲット。可憐で慎ましい装飾は彼女によく似合っている。寄ってきた店員もすかさずベタ褒め。
「あなたたちには、これがお似合いだと思うのだけど」
 愛弟子のメリッサとレベッカに青磁色の石のついたものを見せる。プレゼントしてくださるのですかとふたりとも驚き、喜び、装着してみる。やはり店員は褒めて褒めて褒めちぎった。過剰すぎるほど持ち上げられるのもたまにはいいと、メリッサもレベッカもすっかりいい気分になった。
「わあ、あっちのもかわぃーーー♪」
 言動は乙女でもあくまで少年であるところのスィは、どこからどう見ても本物の女の子っぽく、ルンルンスキップであっちこっちに行ったり来たり。女性メンバーの近くに行ってはニコニコと見つめたり。もちろんそんな彼にも店の者は快く対応する。これぞプロ魂である。
「む、これがよさそうだ」
 冠婚葬祭があった時のためにとやってきたノリスは、お目当ての青いジルコンを見つけるや、石が粗悪なガラスでないか確認しようとポケットルーペを取り出した。店員たちはそれを苦笑いしながら見つめる。間違いなどあるはずがないが、客の自由にさせるのが店の方針なので好きにさせておいた。
「マヒナさんお気に入りのはありました? こっちのも可愛いですよ♪」
「ティラさんは大人っぽいからアメジストとか使ったものが似合いそう……あ、でもあっちのもこっちのも捨てがたいなぁ〜ん」
 ティラシェルとマヒナも色々と迷っているが、迷いも楽しさのうち。ふたりとも、女同士のショッピングもたまにはいいなと心から思った。そして「もうちょっと胸があったら」と思うのも同じであった。


 自分用ではなく、プレゼントにとやってきた冒険者も多い。実際につけてもらっているところを想像しながら、あれこれと見繕っていく。
「一番売れているデザインはどれですか? いや、どれもいいデザインだとは思うのですが……」
 恋人の誕生日に送ろうと考えるレイオールは、一通り見終わってもうまく選べないでいた。こうした場に慣れていないのも原因だった。シンプルなものにすることだけは決めていたので、最後は店員のアドバイスに従うことに。購入し終えてから、こういう店に慣れるのも男の務めなのかなと思った。
「さて、どんなのがいいかな……」
 彼女に胸の谷間はあんまり期待できないけど――マージュはそんなことを思いながら、精巧な天使の像のついたラヴァリエールを選ぶ。その隣ではレイが傍目にはわからないほどやんわりと微笑み、黒いスミレの花があしらわれた銀の鎖を手に取っている。ちょっぴり大人の色香が漂う品だ。
「ん、コレならココロにも似合うかな……」
 天使といいスミレといい、皆デザインの豊富さに圧倒されている。そして。
「ここでは加工も頼めるだろうか?」
 購入目的ではなく宝石を持参してきたファルがダメもとで尋ねる。店員は承りますと快く即答した。何ともサービス精神旺盛な店だと感嘆した。
 さて。すでに大半が購入を終えてのんびりと店内を歩き回ったり、ベンチで休憩したりしているが、まだ決めかねているメンバーもいた。
「ビフィーネ、ちょっといいか。アドバイスを聞きたいのだが」
「俺も。こういうのはどうも男だとな」
「うむ。その……女性とはどういった形を好むものなのだろうか?」
 ヴァイス、シエン、キールディアの男3人が近くにいたビフィーネに声をかける。女性なのだから詳しいだろうという単純な考えだ。しかし。
「い、いえ。ですから私もこういうのはさっぱりで……」
 3人とも意外に思ったが、剣一筋の彼女には難題だった。うかつにも「何でもいいんじゃないか」などと女らしからぬ思考がよぎる。そこに、シキが薄桃色の小さなハートが連なったラヴァリエールを取っているのが目に入る。
「シキさんはどうしてそれを?」
「私の恋人は洋服を着るとクールになるのだけど、そういう場合は逆に可愛い系をつけるとギャップによりさらに魅力が引き立つ……なんて考えがあって」
 なるほど、と頷く男たち。アクセサリーとはまこと奥が深いものである。助言が功を奏したのか、彼らは礼を言うとめいめい散って元気よく買い物を始めることができた。
「まだ欲しいのが見つからないのか? よかったら一緒に探そうか」
 ヨウがビフィーネの隣にやってくる。彼は今回来れなかった霊査士シィルへの贈り物をすでに購入し終えている。
「まったくもって、どれにしていいやら」
 悩み無用がポリシーだというのに、かつてないほど剣士は悩んでいる。他の人はあんなにも楽しげなのにと、マイナス思考まっしぐら。
「スターサファイアがぴったりだと思うわ。その髪と同じ青で」
 と、今度は救世主のようにノゾミが隣に来た。ビフィーネは目を瞬かせた。セイレーンを象徴する青に合わせるというのは確かにいいかもしれない。
「でも魔除けでルビーってのもありか〜。青と赤のコントラストもいいわ。ねえ?」
「はい。そもそも難しく考えすぎることはないと思いますよ?」
 そして横から抱きついてくるシャノ。これだけ髪も顔も胸元も美しいのだから、何だって似合いそうだとシャノならずとも思う。
「……そうですか、そういうのが私にはいいんですか」
 彼女は普段、自分がどう見られているかということについてほとんど自覚がないが、この時から、そうした感情が芽生えつつあった。


 もう何時間留まっただろうか。ようやく全員が購入し終えて店員に見送られながら店を出た頃には、すっかり昼食時も過ぎようとしていた。
「今日はありがとうな」
「こ、こちらこそ、今日は……ありがとうございます……」
 ヴォストとフミカは互いに礼を言って、無事にデート終了と相成った。その後に続き、思い思いの品を手に入れた冒険者たちが街路で気持ちよさそうな顔を振りまく。燦燦と輝く太陽が、女性たちの胸元のラヴァリエールを美しくきらめかせた。道行く男たちは否応なく注目する。その視線は彼女にも。
「ふう、疲れました……」
「ビフィーネさんはどんなの選んだのー?」
 いきなり突撃&抱きつきを仕掛けてくるユーロ&ルリィの百合百合シスターズ。姉妹はすりすりしながらビフィーネの谷間に浮かぶルビーを見つけた。結局、青と対になる色に落ち着いたのだ。
「何だか妙というか、恥ずかしいような」
「似合ってるし恥ずかしがることないさ。魅力的だしな」
 と、シエン。皆もそうだと口を揃える。
 冒険者は常に他者から見られる立場にある。つまり、自分を飾る技術を持つのも大切といえる。ビフィーネがそれに気づくのには、もう少し時間がかかるようだ。

 そうして、冒険者たちは解散する。
 彼らの表情は来た時以上に明るい。楽しい買い物をできたのとは別の理由があった。何でも近いうちに、また別のフェアーをやるという。心待ちせずにはいられなかった。


マスター:silflu 紹介ページ
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