男前はお好き?



<オープニング>


「男前なのだ……」
 葵桂の霊査士・アイ(a90289)はそうきりだしたのである。
「木が」
 はい? と冒険者一同首をかしげる。
「濃い眉、高い鼻、強い意志を感じさせる瞳、彫刻のような彫りの深い顔立ちなのだ……木が」
 木が?
 わけのわからない話ではあるが、実際にわけのわからない存在なのだから仕方ない。

 森の奥の奥に棲む、それは動く木、巨大な木、根を足のようにしてわさわさと、枝を腕のようにしてにょろりにょろりと、迫ってくる謎の植物だという。そして表面には、意味不明の男前フェイス。
 木の肌一面の巨大な顔面、それがそろいもそろって男前らしい。そう、そのフェイスの木(?)は三体いるのだ。
「溌剌(はつらつ)たる青年と哀愁ただよう渋いダンディ、そして苦み走った壮年の三種がいるようだ……。年の順に強いというわけではなさそうだな」
 三体が三体とも女性好きで、好みの女と見れば枝の一本でまきとって連れ去ろうとするらしい。また、三体とも『顔』には自信があるようだが、自分より『男前』な男性を見ると、嫉妬のあまり激しく攻撃してくるという。ただし三体とも嗜好には差があるので、一体が男前と認めても他は認めないときがある。女性の好みについてもそれは同様らしい。
 面(つら)の皮は文字通り厚く、正面からの攻撃にはめっぽう強い。硬い果実をポンポン投げてきたり、普通の木のフリをして油断させいきなり襲いかかる等、多少テクニカルなこともしてくるという。
「ともかく、放置しておいていいものでもなさそうだ。退治してくれないか。
 え、男前が好きかって? いや私は……あんまり……」

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参加者
毒林檎・ヘルガ(a00829)
白銀の山嶺・フォーネ(a11250)
月無き夜の白光・スルク(a11408)
水鏡明月・カナタ(a17832)
黒猫の花嫁・ユリーシャ(a26814)
風刃の舞姫・ファリー(a27254)
吟歌の巫女・ナルミ(a41610)
太陽王子・キリアル(a42282)
乙女風鬼百合・ジョニー(a56975)
純白虎魂・ミズナ(a57609)


<リプレイ>

●男前を探せ!
 森に分け入る冒険者たち。
 奥へ奥へ、男前を探して。
 果たして男前の木とはいかなるものか……。

 純白のドレス、紺のブーツ、淡いブルーの髪は軽くカールして、手には鶴翼を模した扇。一見すれば森を散策する令嬢だが、その御令嬢はじつは冒険者、すなわち無垢なる茉莉花・ユリーシャ(a26814)だ。
 ユリーシャの表情は大変に険しかった。
「女好きで男に嫉妬する木ですか…。聞くだけで頭が痛くなってきましたわ」
 いいながら、少しでも怪しい木があれば扇でピシャリと叩いてゆくのだ。『男前の木』は、普通の木に化けることがあるという。
 水鏡明月・カナタ(a17832)も警戒しながら歩みを進める。
「……気に入った女の人はお持ち帰りされるっていうけど、木が女の子持って帰ってなにをするつもりなのでしょう?」
 カナタの問いは至極もっともである。その問いかけに対し毒林檎・ヘルガ(a00829)はフフと不敵に笑んでみせた。
「巨木の根は……巨根、か……」
「え?」
「いや、気にせんでくれ。男前の木、相手にとって不足はねーな」
 そんなヘルガの装(よそお)いは挑発的、漆黒の下着よりはちきれんばかりに胸元をのぞかせ、真紅のガーターベルトより白く美しい脚を誇示しつつ、悩ましげにむちむちと歩いているのだ。
 吟歌の巫女・ナルミ(a41610)は肩よりハープをおろし、奏でながら獣達の歌を歌いはじめる。
「最近この森に居るという変な木の事、知りませんか〜?♪」
 問いかけるのは森のリスや小鳥たち。ナルミの清らかな歌声に、動物たちは口々に返事をするのだった。
 やがてナルミは進行方向を指して、
「…ぇと、聞いた情報ではこの方角にいるそうです。二体はよく見かけるのだけど、三体目はよく知らないとリスさんたちはいっています」
 月無き夜の白光・スルク(a11408)は足元を調べていたが立ち上がって、
「たしかに、この方向に不自然な痕跡があるのう」
 口元を隠しながらいうのである。ちょうど木が移動していると考えれば説明がつく。
 雪原の重騎士・フォーネ(a11250)はスルクにうなずいて、
「それにしても男前の木……好奇心がすごくそそられます。どんな顔をしているのでしょうか?」
 このときフォーネが手をついた巨木が、いきなりくるりとふりむいた!
 血気盛んな若い顔。青春劇の主役のような、瑞々しくて熱い瞳。そして昆布よりぶっといその眉!
 男前であった。オットコマエであった。オットコマエのヤングガイであった――顔だけ!! 
 あとは巨木、立派な木である。その胴にあるヤング男前フェイスがキラリ白い歯を見せて笑った。同時にシュッと、蔓のような枝を女たちにのばす。
 この木はさきほどユリーシャに打たれたが我慢していたのだ。そうして冒険者たちが油断するまで待っていたのだ!
 フォーネにのばした枝はかわされたが、別な一本は 風刃の舞姫・ファリー(a27254)の太ももをとらえていた。華奢(きゃしゃ)なファリーの体は逆さづりにされてしまう! 青年木はキラキラっとさわやかな笑みをこぼした。
「はなしてくださいですよぉ! 木にお持ち帰りなんてされたくないのですぅ!」
 王者闘神の短剣をファリーは腰より抜こうとするも、その腰にも別な枝が巻きついているので難しい。おまけにぶらーりぶらりと揺らされる始末だ。
 そんなファリーを救うべく、戦場に咲く鬼百合・ジョニー(a56975)が飛びだす。 
「絶対退治してあげるから覚悟しなさいっ」
 ユリーシャとカナタも一緒だ。ジョニーは
「女性を大切にしないものは男失格よっ! これでもくらいなさいっ!」
 ことばは女っぽいがジョニーは紳士、紳士は非紳士に憤るもの。いうなり緑の業火を正面から浴びせかける! 木は慌てて顔面に枝をやりファリーを落とした。
「あははっ 男前度が増したんじゃな〜い?」
 ジョニーは高笑いする。
 残るメンバーも油断はできない。ポンポン、ポンポンと空から、人間の頭ほどもある木の実が降ってくるのだ。落ちた木の実はすさまじい音を上げて砕ける。当たったらかなりダメージがありそうだ。
「あそこ! なにかいるのじゃ! 別の木か!」
 白月剣姫・ミズナ(a57609)が指したのは青年木が現れた方角! そこから迫りくるのはダンディだ。もちろん顔だけ、顔だけのダンディ! 木のダンディ! 口ヒゲが異様によく似合う渋みあるダンディ。どこか哀愁をただよわせるそのまなざしよ。ハードボイルド風の中折れ帽をかぶっているのはなぜなのだ?
 ただこの木、やることはあまりダンディズムにのっとっていない。木はその枝に下がる実を外しては投げ投げては外しつつ、わしゃわしゃわしゃと近寄ってくるのだ。
 だが、太陽王子は尻尾まで美味しい・キリアル(a42282)は思わず見とれてしまう。
「カッコ……いいかも……」
 されどキリアル、パンッと自身の頬を叩いて気合を入れる。いまはそんな場合じゃない。ダンディはヘルガのほうに迫っているのだ。キリアルのそばにはミズナもいる。キリアルが彼女たちを守らねば誰が守るのだ!

●男前を倒せ!
「近くにまだ隠れているかもしれん、気をつけたほうが」
 といいかけたスルクだがその先をつづけられない。
 そのとき突如として地が割れ、飛びだすものがあったのだ。
 それは老木、すじばった枯れかけの木の味わい。顔もしかり、酸いも甘いも噛み分けた男の、コクとうまみがあふれでる容貌。他の二木とはちがい、老木は枯れを決意していたのか地中にあったのだ。だがそれが地面より飛びだしたのは……
「…こ、来ないで下さいっ!」
 ナルミの腰と胸のあたりに、いやらしく枝が巻きついた。のばす枝の速度は壮年の木が一番早かったりする! この木が地面より飛びだしたのは、女の匂いを嗅いだからのようだ!
「…え、その、あの…」
 まさぐるような老木の枝の蠢(うごめ)き。ナルミはそのまま高くに吊り上げられる。
 好色な枝はフォーネにも飛ぶ。
「な、なしてで渋くてかっこいい木がこっちさこなぐて爺さまが……じゃなくてっ!」
 慌てたフォーネは口調を乱しつつ、自身を守りまたナルミを救うべく斧をふるう。
 その二人とチームを組んだスルクは、枝を切り落としながら壮年木の前に向かった。
「顔が良くても やっていることがこうでは、むしろ滑稽」
 といいはなったスルクを見て、老木はハタと手をとめた。その隙にニードルスピアをつかい、ナルミはなんとか魔手より逃れる。
 老木は枝のあいだより老眼鏡のようなものを出してかけた。老眼鏡の奥の表情が曇りはじめる……やがて怒りのフェイスへと変わる。
 老木はクワーッと吼えるような顔をするとスルクに向かって枝という枝を振りまわした!
「わしが嫉妬されておるようじゃが……基準がわからん。喜ぶべきか悲しむべきか微妙じゃなあ…」
 まさか木の若い頃(?)に似ているとかいうのだろうか?
 スルクは無意識のうちに顔を隠すようにしながら、夜叉丸を水平に構えた。

「……いくら男前でも全体が……ホラーよね、これって……」
 いいながらカナタは愛刀『榎凛』をかざす。その剣尖(けんせん)が一颯、二颯と舞うたびに、同じ数だけの枝が音もなく落ちてゆく。だがそれで攻め込む気はなく、むしろカナタの足は退きつづける。そうやって敵をなるべく開けた場所に誘いだそうとしているのだった。若い顔の木はまんまとその挑発に乗る。
 浮気性なのか手数が多いだけか、若い木の枝はユリーシャにも枝をのばしてくる。だがユリーシャは凛然と拒絶し、
「申し訳ありませんが、私の好みではありませんの」
 長い脚をいかして斬鉄蹴、これを撃退する。
 やがて若木はキッと視線をジョニーに向けた。しばらく見ているうちなにか腹立たしいものを感じたのか、女にのばす枝をとめ、ジョニーに猛然と襲いかかる。
「えっ! こっちくるわけ! イヤぁあ〜っ!」
 ジョニーはいささか健康すぎるほど健康優良なさわやか系男子である。それが気にくわないのか、あるいは女たちが、すべてジョニーに独占されているとでも勘違いしたのか!? ともかくも木は、焼けてますます濃くなった顔で襲いかかってきた。
 これを見てジョニーは仰天!
「わたしアンタみたいに濃くないわよっ! 来ないでぇ!」
 若木に対等(?)なライバルと思われたのはジョニーにとって大いなる心外! 濃いのが感染(うつ)っちゃうでしょっ! と叫びつつ、
「銀狼ちゃん、しっかりお願い!」
 怒りの気高き銀狼奥義で迎撃する。そんなジョニーにファリーもならび、
「嫉妬なんて見苦しいのですねぇ…このまま一気に終わらせるのですよぉ!」
 粘り蜘蛛糸を投げつけるのだ。

 キリアルは男性なので、ダンディの嫉妬を浴びないようあえてダサ目の服を着ている。それが効いているのか、あるいは細身の美少年には興味がないのか、ダンディ木は完全にキリアルを無視していた。
(「作戦通り、なのだけど……」)
 見向きもされない、というのはキリアルも、ちょっと寂しいかもしれない。
 見向きもされないのはミズナも同様だった。木は、幼い体にも興味はないようだ。
「あに様もいっておった、いかに顔が良かろうとも根性も性格も悪ければ近付きたくないもの」
 木はまさに根性も性格も悪い。よってミズナは敵意以外なにも感じない。そもそもミズナはそれほど顔にこだわるタイプではないのだ。
「ゆえに早々、屠(ほふ)ってしまわなければなるまい」
 ミズナは肺一杯に空気を吸い、足をふんばり力の限り……紅蓮の咆吼!
 だがキリアルの粘り蜘蛛糸も、ミズナの紅蓮の咆哮もダンディな男前の木には効かなかった。その下心(?)が打ち破ったというのか!
 濃い男前フェイスを愛欲にゆがめ、いななきのような音を発しながらダンディ枝が向かったのは……いうまでもなかろう、熟れた桃のようなヘルガの身だ!!
「ここまでアッサリとひっかかるとはなー……おっ?」
 ヘルガはがんがらじめにされ中空だ。任務完了とばかりにダンディ木はヘルガをお持ち帰りして逃げようとする。
「逃したら終わってしまうよ!」
 キリアルが叫ぶ。もちろん、ヘルガもこのまま終わらせる気などないのだ。ほどよいところで、
「あぁん、い、痛いっ……もっと優しくして」
 吐息をもらし涙目で悶える。蜘蛛の巣にかかった美しい蝶のよう、くねる白い肌に枝が食い込んだ……
 たちまちダンディの枝の力がゆるむ。それこそヘルガの狙いだ。愚かなり、男前!
「知ってたか? 綺麗な薔薇には棘があんだぜ?」
 いうなり自由になった両手から発射、それは黒い炎、デモニックフレイムだ!
 ちょろいものさとヘルガは笑む。ミズナはやれやれ、と
「悪いがその隙はいただくぞ」
 いいながら飛び込み、剣を木の横っ面に叩きこんでやる!
 そこへキリアルも協力、
「ごめんねダンディなモンスターさん……でも、野放しにはできないんだ!」
 木の背面からシャドウスラッシュ! 鋼糸鋭くキリアルの一閃は、一気に木の胴を両断した!!
 渋いその横顔に、落ちた中折れ帽がかぶさった。
 ミズナはこれを見おろして、
「良き人を選ぶときはまずは人柄からだと姉上もいっておったのう……なんにせよ顔より性根が大事と云う事じゃな」
 またひとつ世のことを学んだ、と思うのである。 

●さらば、男前たちよ
 フォーネもスルクも傷ついてはいるが、ナルミがいるから平気だ。
「ぇと、大丈夫ですか…?」
 と気づかいつつも、高らかな凱歌でナルミは仲間たちを回復させている。
 スルクは盾をかまえ防戦の一方だ。壮年の木が猛烈に木の実を投げつけてくるからだ。枯れる寸前だったろうにすさまじい生命力である。
「重要なのは顔ではない。真に必要なのは心意気……と、木にいっても仕方がないがな」
 後退をつづけるスルクだが不安はない。
「いまじゃ!」
 スルクが叫んだその直後、タイミング良くフォーネが飛び出し、
「お覚悟!」
 渾身の一撃を食らわせたのである。これがナルミの援護、そしてスルクの誘導のたまものであることはいうまでもない。

「男前のつもりであるなら」
 ユリーシャはぴしりと若木を指していう。
「慎みというものを知りなさい!」
 描かれる円月は斬鉄蹴! ユリーシャ会心の打撃は、若木の背に鋭い傷を刻んだ。
 ファリーも斬鉄蹴だ。しなやかに脚が凶器の軌道を滑る!
(「木に狙われたということは……わたしも一人前の女と認められたということでしょうか?」)
 ファリーのそんな想いとともに、攻撃は木の皮をばりばりとはがす。
 さあ、女の敵を葬るときがきたようだ! カナタはその細腕に、榎凛の長剣の柄を握って
「ナンパにせよ嫉妬にせよ、そのしつこさ、猛省なさいっ!」
 断罪の剣か天の雷光か、抜きはなつ刀は電刃居合い斬り!
 男前のフェイスが、ゆがんだ。
 若木はなぜか、キラリンと歯を見せて笑った。
 そのまま真っ二つ、中央から左右に分かれ、ぱたりと倒れたのであった。電光の尾をひきながら。
 ジョニーは額の汗をぬぐい、
「みてらっしゃい! わたしこそが男前になって見せるからねっ」
 倒れた男前の木に、拳を握りしめ決意を誓うのだった。目指せジョニー、男前の頂点を!

 壮年の木にとどめをさしたのは、救援にきたヘルガであった。
「あ……しまった、デモニックだった」
 ヘルガは苦笑いする。壮年の木をデモニックフレイムで焼いたのだ。炎はやがて木を覆いつくし……黒いクローンをかたちづくる。
 黒くて男前、そして壮年。いやげなクローン版、男前の木の登場である。
 壮年の木はフェフェフェと笑った……ように見えた。
「あー……えーと……そのー」
 ファリーは冷や汗をかきつつ後退する。そんなファリーとキリアルは顔を見合わせて苦笑いした。
「ほんと、そっくりだよね」
 いくら味方の意のままになるクローンといえど、これはちょっと勘弁してほしい。
 うんうんとうなずきつつ、ミズナが一同のことばを代弁する。
「もう男前の木は、こりごりじゃよ」
 冒険者たちはこれに、どっと笑った。

(終)


マスター:桂木京介 紹介ページ
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白銀の山嶺・フォーネ(a11250)  2009年12月23日 06時  通報
数少ない田舎弁発揮依頼の一つ。
戦闘依頼ながら、桂木MSの軽快で楽しい文章に惹かれました。
私を依頼及び依頼の相談好きにした印象あるシナリオでしたね。
しかしモンスターの容貌が…(笑)