<リプレイ>
●暗黒色の慕情
……骸が泣いている 自然へ還れぬ悲しみに 目の前に浮かぶ光景が、幻であろうとも ……僕はただ全力で。
「オキ!」 少年の握る闇無懺海紅、その黒き刀身が、燃え立つ様な紅に変色していく様を見て、泡沫の眠り姫・フィーリ(a37243)は咄嗟にその身に鎧聖降臨の光を投げる。 聖なる光に纏われ持主を守護するべく成長していく藍の衣。しかし紅焔舞う夢幻之宵天・オキ(a34580)は、その変化さえも気づいてないかの様に、その前に対峙する動く骸を睨み続けていた。 「オキだんちょ!!」 フィーリと共に前衛に駆け出しながら、春風そよめく舞蝶円舞曲・ミア(a41826)も叫んでいた。ミアはオキより少し後方につき、対峙するアンデッドのさらに後方から新たなアンデッドが迫る姿を確認し、息を飲んだ。 目前の敵に魅入られているかのように、戦闘の姿勢を微動だにしないオキがその接近に気づいているかどうか解らない。しかし不安は押し殺し、ミアは明るい声でオキの背中に呼びかけた。 「オキだんちょの背中はミアが守りますのなぁ〜ん♪」 それからミアは後方を振り返る。重傷を負っている夕闇を駆け抜ける・トワ(a37542)を支える様にして、月露は蛍のように儚く・ユウナ(a40033)が最後列に移動している 闇の護衛・イブキ(a34781)、無限の刻の中静かに月を抱け・ユイ(a44536)、漂う耀きの記憶・ロレンツァ(a48556)はミアとフィーリよりもやや後方の位置でそれぞれの武器を構えていた。 ミアは戦闘力の低いユウナへと最初の鎧聖降臨を与えて、同時にオキの刀身が敵と絡んだ音を聞いた。
生への執着だけを宿す骸。 闇無懺海紅はオキの掌の中で、攻撃力を高め、みるみる進化していき、彼はそれでソレを薙ぎ払おうとした。しかし、避ける。ソレの背後からやってきていたソレの仲間が追いついてくると、彼らに一気に襲い掛かる。 黒炎覚醒を纏って待ち構えていたロレンツァとユイの前には、音もなく召還獣が姿を現す。銀糸の髪にサファイアの瞳のエンジェルの少年が放つ黒き炎をわたるようにしてエメラルドと紅蓮の炎を宿した獣が敵に飛び掛る。 地獄の闇にも負けぬ程の、黒雷の衣を纏う少年も、指輪を敵に向けた。 現れるのはどよりとした暗黒の炎。3つの頭を持つ龍の様な彼の召還獣はその闇に、口から漏らしたガスを吐きかける。 共に攻撃を受けたアンデッドたちは、一つは魔氷、もう一つは黒炎に捕らわれ身動きを封じられている。しかし気を抜く暇などあるわけがなかった。イブキはさらにその後ろから接敵しようとする敵をエンブレムシャワーで押しのけ、ユウナもニードルスピアを向けて遠ざけさせる。 トワはいざという時の為に、フェザーに加えチキンスピードを己にかけながら、敵達の全体を見渡した。1体はオキと接敵、2体は動きを封じられ、もう2体は後方に下がった。それらの後方に新たな影などは無い。 「……」 重傷さえ負っていなければ。あせる心が無い筈もない。 しかし後方に留まるのもまた勇気のいることだった。トワは自分に言い聞かせるように前に駆け出したい心をぐっと拳を握ることで絶えた。 「トワさん」 ユウナがトワを見上げる。 「今の私たちにできること……頑張ろう、ね」 「そうだな……」 力不足。ユウナは自らの能力を知っていた、こういう場面で無茶は出来ない。仲間の背中を見つめ、信じて、祈ること。これもまた戦い。できることは沢山あるのだ。
笑う……嗤う口元。
オキは黒き刀身を握り締める。 あの人ではない。そんなことは解っているのに。
「……オキ! 惑わされるな。俺たちの知っているあいつは……もう、この世界にはいない!!」 イブキの声が響いた。 敵の振り上げる剣先。容赦ない力で少年の身の上に振り下ろされる。オキの身を守らんとマントを広げる召還獣ごと切り付けられ、彼の体は後方に鮮血と共に倒れこむ。 「オキ!!」 イブキが咄嗟に彼に癒しの光を送る。 オキが倒れ堰が切れたかのように、襲い迫ってくるアンデッドへ向け、ロレンツァとユイは黒き炎を放ち、押しのけていく。だが、ほぼ同時に、前の攻撃で拘束していたアンデッド達までもが動き始めていた。 「フィーリ!!ミア!!」 トワの声。鎧聖降臨を自らや仲間に次々とかけていた二人のもとに、迫らんとしていたその二つのアンデッドに彼だけが気づいていた。慌てて態勢を立て直すフィーリとミア。 しかし。無情な刃は少女達の白い肌を切り裂き、くぐくもった悲鳴が赤い血と共に辺りに飛び散った。 「!!!」 ユウナは凱歌を喉が避けんばかりに歌い、二人を、仲間を応援した。 その願いを叩き怖そうとでもするように、アンデッド達はさらに冒険者達へと距離をつめて襲いかかってくる。黒き炎の拘束に包まれた2体もやがては解いてしまうだろう。 「!……キリがないな」 ロレンツァは慈悲の聖槍を拘束中のアンデッドに打ち込む。 命中したそこからアンデッドはボロボロと崩れ落ちていった。 「!」 敵を倒した手応えを得たはずなのに、しかしロレンツァの心には、罪悪感に似た黒い気持ちが一瞬にして広がっていく。 彼の視界に見えているのは、懐かしい景色……。 豊な実り。茜色に染まる平穏な村。彼を慕う子供たちの笑顔。
刹那、景色は暗転する。
薄暗い雲に覆われた灰色の村。焼き放たれた家々から飛び散る火の粉の中で、彼は地面を血で染め、絶命している子供たちを地面に這いつくばり見ていた。 無念に開かれたまま時間を止めた眼がまるでロレンツァを見つめているようだった。ナゼアナタハイキテイルノ? 重く感じた身を起こそうとすると、彼の上にまた人の骸。彼を庇い死んだ人の骸の顔がダランと垂れ下がって見えた。 「!!!」
短い悪夢はそこで潰えた。 目前には先と変わらぬ地獄の風景が広がり、剣を持ち立ち向かってくるアンデッド達が映る。 (「あれが……も、もしも、……だったとしたら……?」) ありえない空想だと思った。 だが一度疑った思いは、完全に除去しきれなかった。 剣を握ったまま、ロレンツァは自らが破壊したアンデッドの骨を見下ろし、戦慄を覚えていた。
「……大丈夫か!?ミア、フィーリ」 立ち上がったオキは、ヒーリングウェーブを自ら放ちながら座り込んでいるフィーリと、膝をつき立ち上がろうとしているミアに叫んだ。無言の頷きが返ってくる。オキも頷き返すと、再び剣を握った。 目前に迫ろうとしているアンデッドは、矢張り、あの人にどこかやっぱり似ている姿で、嗤う口元で彼を招くように見えたけれど……。
……---失くした物は、戻らない。
……僕の記憶も……あの人も……。
刹那。 「ロレンツァ!!」 ユイのブラックフレイムが彼に迫っていたアンデッドを撃った。 表情を驚きの色にかえて、ユイへ顔を向けるロレンツァ。 「しっかり……」 ユイは表情を厳しくしつつ呟く。状態異常にかかっていたように見えたのだ。 ユウナが懸命に響かせる凱歌がそれならば効果をもたらす筈だけれど。 しかし……。 心の闇を、彼もまた感じていた。現つの悪夢。 一つのアンデッドの体がゆらゆらと不安定な歩みで剣を背中から振り上げる。 あれが……もしも…………だったら。 それにもしそうだったとしても、もう、本物のあの人であるはずがない。死んだ人が蘇るのがアンデッドではないのだから……。 しかし、あの体はあの人の生きた身体……かもしれない。 でも……。 「ユイ!!」 トワが叫ぶ。彼の撃つ飛燕が、ユイの目前まで近づいた敵を突き飛ばす。 「しっかりしろ、だな」 ユイに向けてロレンツァが小さく苦笑した。注意した自分が悪夢に捉われてたことに気づき、ユイも肩をすくめる。 「……生きてるんだから、夢を見るのは……普通だ」 「そうだな」 ロレンツァは頷いた。
笑いあって、触合って、声をかわし、笑顔をかわした、あの人達が、 空気のように今はもう世界中の何処を探しても見えないなったなんて、
いくら納得していても、いくら納得しようとしても、 ……願ってしまうのは当り前で普通で、どうしようもないこと……
だけど。
彼らが握っているものは、その目の前の悪夢を叩き撃つべき武器であった。現つの悪夢を断ち切るために。
「みんなしっかりするのなぁ〜ん!!!」 ミアの声が響く。 「あんなの、絶対、違うなぁ〜ん!!!」 失ったものがまだなくても、失いたくないという思いならわかる。 ……ううん、本当は失ったものはあったのだ。失われた景色、失われた友達、失われた出会い……。けれどそんな思いに捕らわれている場合じゃない!! ミアは持ち前の明るさと元気で、闇に引きずられていくような心を切り離し、精一杯大きな声で叫んでから、なおも迫ろうとするアンデッド達に向け、ライトニングアローの眩い光を叩き込んだ。
「……そうだな」 ロレンツァが頷いた。 「そうだ!」 オキも叫ぶ。そして思いを決する様に、ゆっくり瞼を閉ざすと、新たなアビリティを唱え始めた。 一枚の黒きカードが宙に浮かび上がる。 彼は、それを、敵めがけて力強くぶつけた。
嗤う敵に……---
「オキ……!!」 「いまだっ!!」 イブキとロレンツァは、それを待っていたかのように、召還獣の光で彩られた炎の帯を伸ばした。アンデッドはカードの命中した位置から黒ずんでいき、鮮やかな二つの炎に撃たれて後方に倒れていった。
「!!」 倒れて動かぬ影。 オキは剣を下ろし、暫し茫然とそれを見つめる。。 「……俺たちは生きてる。死んだ人達の分まで必死にな?」 肩に優しく置かれる掌。トワの声だった。 「ん……」 オキは頷いた。 その視界に、アンデッドの残りの残党へと向かっていく仲間達の姿がある。
(「……皆の心を惑わす……悪い敵なのなぁ〜ん!!!」) ミアの放つ二度目のライトニングアロー。 ユイのデモニックフレイムが敵の体を突き破る。現れたクローンが最後の一体のアンデッドへと立ち塞がってゆき、そこへイブキの銀狼が噛み付き、ロレンツァの聖槍が串刺しに刺さって消えていく。 「……終わったな」 溜息と共にイブキが呟いた。 疲れきった彼らの体にフィーリが暖かい回復の光を送ってくれる。 ユウナは凱歌を漸く止めて、全員を見渡して、嬉しそうに微笑んだ。
全員……無事。
もう今はそれだけで……何よりも嬉しかった。
●紫の雲の下で
共に在れた日々と志を胸に……また一つ先へ……。
枯れた骨が乾いた風に揺らされて、カラカラと音をたてている。 紫色の曇天の下、銀髪の少年は遠い景色を眺めながら、最後の思いと決別しようとしていた。 「この先も……きっと頑張るから……」 ただ一振りの剣として。
「……」 その姿を少し離れたところからイブキは見つめている。 地獄と呼ばれるこの地は、色んな人達から大切なものを奪い続けてきた場所。これから先も、奪い続けていくのだろう。争いの無い日々が本当に訪れるその日まで。 「イブキちゃん……?」 呼びかけられてイブキが視線を下ろすと、ユウナが目を細めて優しく微笑んでいた。 「……オキちゃん、もう大丈夫だよね」 「……」 イブキは軽く頷く。 きっと大丈夫だろう、そう思う。そう信じる。 「今を生きているわたし達は未来があるから、この先の道を信じて、助け合って生きていかなきゃ……」 ユウナは胸に手をあてながら、祈る様に囁いた。 その声の響きに、仲間達もゆっくりと頷いた。 生きているものに許されるもの、それは希望をもって生きていくということだ。 そして死者に生者が与えるものは、小さな苦い後悔の思いなのかもしれない。 (「あの時、旅立つお前を止められなかったのは、俺の力が足りなかったから……なんだよな」) トワは空を仰ぎ、一人の人を思い出す。 「……トワ」 フィーリはそのトワの顔を見上げる。大好きな人が思い出す、その人は誰なのか。 もう二度と会えない人は、小さな苦い後悔を彼に残して去っていったのだろうか。 「フィーリ」 トワは顔をあげて、小柄なセイレーンの少女の視線に気づくと、ゆっくり目を細めてその髪を優しく撫でてくれた。 「……生きているから後悔だってできるんだよな」 ユイはぽつりと口にした。 「そうだな」 ロレンツァが頷いた。 「死んだ者には何もない」 頷き返しながら、ユイは言葉の先を紡ぐ。 「思うことも生きている間だけ……」 だから……。 いつか、戦いが終わったら、あの場所に花を手向けに行こう、とロレンツァは思う。今はもう何もなくなってしまったあの場所へ。 「そうなぁ〜ん……早く、戦いがなくなる日がくるといいなぁ〜ん」 ひとり地獄の大地と向き合っているオキの背中を見つめながら、ミアは心から祈った。 そして仲間達は静かに待ち続けた。 彼がやがて振り返り、さあ帰ろう、と優しくいつもの笑顔で微笑んで言ってくれることを。
あなたのことを思うと、いつも胸は悲しみにくれるけれど 一つだけ希望の白い花を咲かせることができるのは、 この広い世界で、貴方に出会えた奇跡。 決して平穏じゃなかったけれど、貴方に出会えて良かった。 だからどうか……安らかに
さぁ……おやすみなさい。
【おわり】

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参加者:8人
作成日:2006/11/24
得票数:冒険活劇14
戦闘2
恋愛1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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