≪神鉄の聖域グヴェンドリン≫連符 明き火龍



<オープニング>


●通常業務・9月下旬〜10月上旬
 ここのところ、砦で、鳥が見かけられていた。最初は、随分と遠くに見え、南部に出ていた護衛士達から、「変なものが飛んでいた気がする」「大きいんじゃないか……」という、未確認情報として入っていたものだ。
 それが、段々と城塞に近づいてきている。
「鳥……? ただの鳥じゃなくて、アンデッドなのかな?」
 昼間、外回廊に居た太陽の宴・モニカ(a46747)達からの申し送りを聞き、風使い・リサ(a37897)は尋ねる。
「アンデッドかどうかという前に……大きいんだ。怪鳥、というサイズだな」
 正確な大きさは、敵がまだ遠い距離にいたことや、発見が夜間だったり、はっきりと視認していなかったりで、掴めていない。
「また現れれば、この目で、アンデッドかどうかは分かるでしょう。問題は、襲撃されたらどうするか、ですね」
 エルフの彼方の銀月・テイサ(a47791)はそう告げ、モニカに、装備を藍玉の霊査士・アリス(a90066)に霊視してもらうよう言った。
「何にしろ、もう少し、正確な情報が分からないと……。霊視してもらっておくのが安全でしょう」

 短剣符を霊視してきたアリスだったが、護衛士からこの情報を聞いた時、該当するモンスターには全く見当がついていなかった。
 しかし、動物が変異してしまったものにしては、モニカの持ち物を霊視した時の印象に合わない。
 徐々に、城塞へと近づいて来ているようではあるが、かといって一直線にという訳でもなく、『それ』の行動には規則性が無かった。
 全く見かけられない日もあったと思えば、調査に出ていた桜・フィリス(a18195)や赫髪の・ゼイム(a11790)が見かけたり、さいはて山脈方面へ食料調達に出かけようとした闇夜の鴉・タカテル(a03876)や蒼の旋律・キャルロット(a38277)達が襲われ、軽い負傷をするという事態も報告された。
「まだ、分からないんですか?」
 警備日誌をつけながら、魔王様・ユウ(a18227)が問うと、アリスは申し訳無さそうに顔を上げた。
「やっと、分かったわ……。皆さんを集めてくれる?」

●明き火龍
 敵は、短剣符を持つ者。アリスが明言した刻印は、『明き火龍(あかきかりゅう)』だった。
 飛び回り、一定の場所に居ないことや、元々、この短剣符から視える情報が少なかったことが、時間のかかった原因だった。
「モンスターは、東部と南部を幅広く行き来しながら、徐々に城塞へ近づいて来ているわ。このまま、向こうが近づいて来るまで待ちましょう」
「この砦で迎え撃つのか?」
 わざわざ本拠地に引き込むのはどうか……と言い挿す護衛士に、アリスは首を振った。
「向こうは飛び回る敵よ。幸い、城塞内には一般人がまだ居ないから、避難は考えなくていいもの。砦の上部――櫓と外回廊を使って戦う方がやり易いでしょう?」
 また、無駄に大人数でも仕方ない。巧く連携の取れる、10名ほどで対応するようにと言った。
「モンスターは飛び回る上、翼で風を巻き起こして攻撃してくるみたいなの。それに、1箇所に固まっていると、低空飛行で、大きな翼に薙ぎ倒されてしまうかもしれないわ。気をつけてね」
 他にも何かあるかもしれないし、攻撃力は高いと思われる。
 ただ、中距離の攻撃までしか出来ないのではないか……そう、アリスは付け足した。
「よろしくお願いね」

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参加者
在散漂夢・レイク(a00873)
業の刻印・ヴァイス(a06493)
心の震える歌を・ブリジット(a17981)
天翔ける聖騎士・ミキ(a18182)
桜・フィリス(a18195)
魔王様・ユウ(a18227)
風薫る桜の精・ケラソス(a21325)
貪欲ナル闇・ショウ(a27215)
歌って踊れる武道家・フィフィ(a37159)
灰被り・シンデレラ(a43439)


<リプレイ>

 グヴェンドリン城塞の砦の2階には、周囲を巡る回廊がある。南は少し広く、回廊と言うより、屋上空間になっていた。
 そして、回廊の外周囲は、弓兵用に狭間の設けられた外壁が巡る。一部は覆いがあるが、そこにも狭間窓が穿たれ、武器と弓兵の控える場所が確保されていた。掃除もされているから、今更、片付けるものは無さそうだ。
 ただ、改めて見ると、回廊には、剣や槍で突き崩された傷だらけの壁面や床の穴を修復した跡がある。
「ノスフェラトゥの脅威も去った今になって、ここで戦うことになるとは思いませんでした」
「せっかく直したのに、また壊される訳には行かないなぁ〜ん」
 天翔ける聖騎士・ミキ(a18182)の言葉に、ノソ尻尾をフリフリしながら同意して、彷徨う紅き踊り手・フィフィ(a37159)は言う。
「ま、砦は戦いの場にあってこそ。物に心が在るなら、喜んでいるかもしれないが」
 そうかな? と首を傾げるフィフィとミキに、剣振夢現・レイク(a00873)は肩を竦める。
 相手がかつての主では、そうも行かないだろうか……と思ったのは、口に出さなかった。
「行くわよ」
 情に揺れる灰の瞳を、あえて眇めて言うと、灰被り・シンデレラ(a43439)は、フィフィを連れて北東の櫓へ向かう。
 その櫓の下では、業の刻印・ヴァイス(a06493)が縄梯子を砦の下へおろしていた。仲間達が詰める櫓のそれぞれに、そうして縄梯子を用意して回っているのだ。
「いざとなったら逃げるが勝ち、だからな」
 と、次の南東の櫓へと歩きながら独り言。
 『明き火龍』が砦に執着しているなら、最初からここに棲んでいそうなものだ。もしもの時は、そのまま砦内に逃げてしまえば飛び去るだろう。次回は、追撃するか、再び砦近くへ飛んで来るのを待つか……になる。
「逃げの算段か。必ず撃破すると言いたいところだが……」
 やって来たヴァイスが肩に背負う縄梯子を見、しようとしていることが分かった貪欲ナル闇・ショウ(a27215)は、批判するでもなく呟いた。
「万一に備えておくのは、悪く無いと思いますわ」
 不意に返されて、ショウとヴァイスは相手を見やる。心の震える歌を・ブリジット(a17981)が、旗を数本抱えてこちらへ来るところだった。
「どうするつもりだ? それ」
 旗を指して、ヴァイスが問う。
「モンスターが向かった櫓を知らせるのに使おうと思いますの」
 通路に旗を立てておき、敵の近づいた櫓近くのものを倒すようにするのだと言うと、ヴァイスは「うぅ〜ん」と唸った。
「無理だと思いますね。旗を狙える距離ではありませんから」
 結論を先に言ったのは魔王様・ユウ(a18227)。その前に、どこから現れたのかを問いたいが。
「聞いたところでは、大そうなデカブツです。わざわざ報せなくても分かりますよ」
 ヴァイスの言わんとしたことを代弁すると、ユウはさっさと別の仲間達の元へ行ってしまった。
「……ということだ」
 仕方なく、締めてやるヴァイス。
「はぁ……そうですわね」
 改めて櫓間の距離を見回して、ブリジットは頷いた。
「行きましょう」
 桜・フィリス(a18195)が声をかけているのは、ミキと風薫る桜の精・ケラソス(a21325)。3人で、南西の櫓へ詰めることになっているのだ。
「どこに来ますかね……?」
 櫓へ上る前、フィリスは南東と北東を見上げる。備えはしてあるが、さて、巧く行くだろうかと問うように。

 遠く――さいはて山脈の山際。
 影が、現れた。

 翼を窄め、また広げ行く怪鳥。
 それは、今はもう、神々の力――グリモアからは見放された存在。風を受けるその翼を支えるのは、在りし日の己の力の残骸でしかない。
 遠眼鏡を覗くミキ達には、その姿が見え始めている。南東の櫓にいるブリジット達からは、よりハッキリと。
 広げた翼は濃い緑。鶏冠のような頭上の羽根と、鮮やかな黄の色を細く刷いた長い尾を持っていた。
 方角は、砦の東南。
「見つけましたわ!」
 歌唱力を活かし、ブリジットが通る声で伝える。
 かつての『明き火龍』の通り名は、もちろん、モンスターとなったその姿や能力を現すものではない。
「炎でも使うのか……?」
 ヴァイスの問いは、だから、そういう意味では正しい推論ではないのだが。
 怪鳥は、砦の東南から南へ、やや旋回しながら近付いてくる。大きい分、距離を見誤らないように注意しながら、ヴァイスは機会を待っていた。
「……ちっ」
 密かな舌打ちは、怪鳥が南西の櫓寄りに迂回する様子だったから。
 戦いの気配を感じ取り、ペインヴァイパー達は音も無く主の足元へ近付く。そっと姿を現し拘束具を伸ばしたミレナリィドールは、闇色の炎に呼ばれたようにレイクへと擦り寄った。
「そのまま来れば、丁度良いところだったんだがな」
 ショウの手にした弓は、形を新たにするが、怪鳥は矢の届く距離を外れ、南西の櫓へと急接近した。
「ケラソス達の櫓だなぁ〜んっ!」
「移動よ!」
 フィフィとシンデレラはふた色の衣を翻す。
 彼女達の見切りは早い。敵との距離が1番開いていたし、性格故でもあった。
 まだ、スーパースポットライトの光は見えていなかった。その効果範囲へ、敵を確実に誘き寄せる策が足りなかったか。いや、弓の射程に入りさえすれば、ショウが攻撃を仕掛けられたはずなのだが。
 ――あと少しが遠かった。
 予想には反したが、櫓を降りる為、駆け出した彼女達に迷いは無い。
 螺旋の階段を行く間に、狭間窓からはケラソス達の戦闘が垣間見える。
 櫓の上では、1人の攻撃範囲が限られ、飛び回る相手に命中させるには、その攻撃範囲、かつ射程内に怪鳥が入らなければならない。
 南西櫓の護衛士達が優れていたのは、全員で前衛を受け持たなかったことだ。誰かの射程には入り、誰かは逃す。そんな非効率的な戦闘にならなかった。
 代償ももちろんある。護衛士達を見咎めた怪鳥は、迷わず矢面に立つフィリスへ向かったのだ。
 ギャアォ……ッ!
 大きな鳴き声が響き、怪鳥は明き炎を纏う。
 先制はケラソスとフィリス。鮮やかな虹色となったブラックフレイムと、桜槍の素早いひと薙ぎで繰り出される衝撃波は、壁をも透過して大きな翼を撃つ。
 ソニックウェーブは見えぬ敵には当たらない。が、怪鳥と言えるだけの『火龍』は、狭間窓を埋め尽くす大きさなのだ。
 苦悶の鳴き声がひとつ。と共に、応手の風が巻き起こった。まるで、小規模の竜巻だ。
 ダークネスクロークが逸らしきれなかった櫓の中で荒れ狂う風を、フィリスは巧みな脚捌きで逃れたが、ミキと、柱陰でも逃れきれなかったケラソスとが、巻き込まれた。
 そのまま戦闘が続けば、フィリス達はあっという間に劣勢に立たされたかもしれない。後衛から、体勢を立て直して鮫牙の矢を撃つミキの姿が、金と銀の揺らめく魔炎に包まれ、その魔矢にも同じ炎が宿っていなければ。
 櫓の周りを旋回しようとする翼の付け根に、魔矢は吸い込まれるように突き立った。
 明き炎に重なる、魔炎と魔氷。怪鳥は体勢を崩し、狭間窓から姿を消した。

 旋回する姿勢のまま、怪鳥は弧を描いて落下してくる。
 激突するかと思われる地点の近くには、駆けつけた仲間達の姿があった。
 ギャアォ……ッ!
 再びの鳴き声は、新たな『敵』を発見して歯噛みするようでもあるが、まだ、翼に浮力を生む力は戻らない。
 護衛士達の誰もが、南西の櫓の戦闘をきちんと見届ける間は無く、そこに駆けつけていたから、怪鳥の状態に気付かずに武器を取っていた。
 巨体でなぎ倒しに来ることを警戒して、仲間達との距離を取るフィフィを始め、ヴァイスやブリジット達も、数拍、足を止めていた。
 イリュージョンステップを使い、躊躇い無く突貫したのはシンデレラで、加勢にレイクとショウが付いた。先に『火龍』の動きがおかしいと気付いたのは、より近くにいた彼ら。
 それは真っ直ぐに降下してきたのではない。旋回途中でバランスを崩しながら、落下して来ているのだ。
 期せずして突進をかけてしまっている敵を間近にして、ショウが叫ぶ。
「避けろ、シンデレラ!」
 アビリティの拘束が効いているなら、攻撃を以って進路を変えさせることは出来ない。
 承知で、彼はホーミングアローを放つ。狙い過たず、突き刺さる魔矢は、巨体の力を大きく削ぐ。回復と迷いながら、レイクも七色を帯びた炎を浴びせた。
「もう……っ 厄介だわ」
 鍔鳴りと同時に、シンデレラの姿はブレる。避けるよりも、ミラーシュアタックを仕掛ける方を選んだのだ。
 結果、刀身は怪鳥を下段から振り上げるように斬りつけたが、銀のダークネスクロークは血の飛沫を遮ったに止まり、巨体の翼はシンデレラを薙ぎ倒し、壁に激突した。
「シンデレラ……大丈夫なぁ〜んっ?!」
 慌てて駆け寄るフィフィがヒーリングウェーブを使う前に、レイクをも巻き込んだ竜巻が生まれる。
「そんなのダメなぁ〜んっ!!」
 彼女の非難の声は、『火龍』へ向けて。
「む……っ」
 血の滴る首を擡げた怪鳥が、傷を負ったシンデレラを再び振り返るのを目にして、ヴァイスは唇を引き結ぶ。
 ――考える猶予は無い。
 淡い光がシンデレラへ届くのを目端に捉えながら、彼はスーパースポットライトを使った。
「今度こそ避けろよっ」
 そう声を張り上げながら。
 自分へ向かったとて、『火龍』の巨体では、再度、近くにいるシンデレラは翼で薙ぎ倒されてしまう可能性がある。
 退くのはシンデレラの性には合わない。が、傷は思ったよりも深く、ヒーリングウェーブを受けたにも関わらず、迷う間にも血が流れ出る。フィフィに心配させたことも、彼女の気にかかり、その選択をさせた。
 赤い飛沫を散らしながら、怪鳥はねめつける向きを変えて羽ばたく。
 ヴァイスのみならず、ブリジットやフィフィ達全員へ向かって突進をかけるつもりだ。
「眠ってしまえば良いのですわっ!」
 ブリジットの味方は、仲間達だけではない。とぐろを巻くペインヴァイパーが、クワッと牙を剥いてガスを吐いた。
 脚が地を蹴ったと見えた直後、怪鳥は力を失ってドッと前のめりに倒れこむ。
 それすら、当たれば被害を免れない巨体。最初に激突していたのが外周の壁でなかったら、護衛士達には、避けるに十分なスペースも無かっただろう。
 退避が間に合わず、ヴァイスに腕を引かれて逃れたブリジットが怪我をしたが、レイクとショウの攻撃に追い撃たれた巨体が、再び空へ戻ることはなかった。

「ごめんなさいっ 私のせいですね」
 意図しなかったとはいえ、仲間達の頭上へ敵の巨体を落としてしまったミキは、慌てた様子でシンデレラ達に駆け寄った。
「いいえ。どのみち拘束が成功すれば、どこかしらに落ちる可能性があったですもの。対応できなかったこちらが悪いんですわ」
 ねえ? とブリジットが見回すと、仲間達は頷いた。
 仮にヴァイスが拘束していたら、ミキが同じことになったのかもしれない。
「怪我、治らないなぁ〜ん?」
 ブリジットの腕の傷は治ったが、シンデレラの傷が塞がらず、フィフィは瞳を潤ませた。
「避けなかったのは私よ。それに、死ぬ訳じゃないんだから……」
 あまり思い遣りを受けるのには慣れていない。そんな風に言って、シンデレラは小さく苦笑した。

 後日談になるが。
 骸を霊廟へ埋葬することを提案されたアリスは、少し躊躇った。
 モンスターとなってしまった骸を葬するよりも、いずれ短剣符が揃ったら、その時、符を収めるようにする方が良いだろうというのだ。
 モンスター化することは、列強種族にとっては屈辱と敗戦を意味するから。
 たとえ、それが真実の姿でも……。


マスター:北原みなみ 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2006/11/03
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冒険結果:成功!
重傷者:灰被り・シンデレラ(a43439) 
死亡者:なし
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