ゲイジュツ



<オープニング>


●どっかん
「爆発するです」
 ピーカン霊査士・フィオナ(a90255)は言う。
「超、爆発するですのことですよ!」
 会うなりの一言としては、大いに問題を感じないではないが、やっぱり毎度の事である。
 定例行事的に約束のボケを果たした彼女は、流した冒険者達にこう言った。
「つー訳で仕事っす」
「分かってるよ」
 冷淡な冒険者に「臍噛んでバーニングしやがるが良いですよ!」等と不穏当なコメントを吐いたフィオナは、それでも仕事の説明に入っていた。
「ある村が、モンスターに襲われたです」
「……ほう」
 冒険者の眉が動く。
 モンスター被害は、見過ごせない惨事である。
「村は、全滅状態。特に建築物の被害が物凄いっすね。無茶苦茶に焼き払われたみてーになってるです」
 フィオナが冒頭で言った「爆発」はそれに絡んでいるようだ。
「どんなヤツなんだ?」
「……んー、説明が難しいですが」
 冒険者の問いに、霊査士は頬を掻く。言葉を探すように思案し、それから言った。
「前衛的なカタチをした物体、でしょうか」
「何だそりゃ」
「……うー、難しいですよ」
 首を傾げた冒険者に「案の定か」と言わんばかりにフィオナは呻く。
「粘土っぽい材質を捏ね繰り回して、絵筆っぽい物体や、笛っぽい物体、絵画っぽい物体を幾つも突き刺した感じでしょーか」
「……あー、それが浮いてるのか?」
 嫌な慣れだが、冒険者も慣れている。想像は難しいが、何となく敵のイメージは沸いてきた様子だ。
「おふこーす。で、爆発するのです」
 細かい説明は省き、フィオナは冒頭の言葉を繰り返した。
「爆発、ねぇ」
 冒険者もこの上何がとは問わない。
 彼女がこう言うという事は『ありとあらゆる意味で爆発する』に他ならないからだ。
「まー、アタシのこのばでぃ程じゃねーですが。
 ちょっとデンジャーな相手っす。新人潰すべしです。この仕事、請けて貰えるですか?」
 敵はそれなりに危険そうだが……
 まさか、ムネを張る霊査子程は『爆発』していまい。
「じゃあ、そういう事で」
 特にそれまで言葉を挟む事も無く、カウンターの端に居た舞朱色・ベージュ(a90263)の言葉に、冒険者は頷いてコップの中身を空にする。
「ス、スルーしやがるんじゃねーですよ、このトーヘンボク様共めー!」

マスターからのコメントを見る

参加者
六風の・ソルトムーン(a00180)
星屑狐・シャル(a23469)
ドジ神様・アルシア(a26691)
霹靂斬風・アーケィ(a31414)
追放するもの・ハムラビ(a36669)
黒き戒の傀儡・リキア(a41587)
刻紋史書・ウィンスノゥ(a43983)
上を向いて胸を張って生きたい・クークルゥ(a49286)
はじまりの歌声・エルル(a52481)
閃風の・ナキア(a57442)
NPC:舞朱色・ベージュ(a90263)



<リプレイ>

●佇むマーヴル
 やけに冷たい秋風が吹き抜ける。
「な、なんか凄い敵ですね……矢鱈目鱈爆発するみたいですし……」
 上を向いて胸を張って生きたい・クークルゥ(a49286)の声は乾いていた。
 更地、としか言いようがない。
 その村は、確かに聞いた通りの被害を受けていた。
「芸術にはあまり明るくないけど……ねぇ?」
 木陰より、半身を覗かせて遠眼鏡を覗いた風斬りの稲妻・アーケィ(a31414)は、言った。
 モンスター『ゲイジュツ』の討伐依頼を受け、村を訪れた冒険者は十二名。彼我の距離は、幾らかある。この先も物陰に隠れて接近出来れば良いのだが、周辺の建造物も立ち木も何もかも、悉く吹き飛ばされて平地になっているのがいただけない。
「しっかし色合いといい、形状といい……見てるだけで、アタマ痛くなりそう、はぁ」
「ああ、全く分からない造形だな……」
 追放するもの・ハムラビ(a36669)が、苦笑い交じりに呟く。
 前衛芸術とも、単なる不定形とも言えるゲイジュツは、何を考えているのか、何も考えていないのか、冒険者達の視界の中に静かに佇んでいる。或いは、モンスターとしての在り様なのかも知れないが。長く眺めていると、嫌な感覚を覚える事を禁じ得ないその独特のカラーは、毒々しく周辺を汚すようですらあった。
「芸術の秋……以前に。
 んー、夏の終わり頃に似たような、雰囲気……? うん。雰囲気のやつを見たような気がするけど……」
 黒き死の象徴・リキア(a41587)が頬を掻く。
「気にしない事にするか」と結んだ彼は賢明であった。世界の理的にも、そんな事は気にしてはいけない。気にしても詮無い些細な一事である。似た人が居るならば、似たようなモンスターも居るという事であろう。←基本的には必死
「まぁ、敵さんに発見される前に出来る限りの事はしとこか」
 夢追い人・シャル(a23469)が、ハムラビのその防御に鎧聖の力を注ぎ込む。
「そうじゃなぁ〜ん」
 心持ち濁った「なぁん」で頷き、ナムールもシャルに習いクークルゥの守りに手を当てた。
 と、ほぼ同時に、パーティが油断無く見据えていたゲイジュツは、(だからという訳では無いのだろうが……)辛うじて残された木陰に身を隠していた冒険者達の方を向いていた。
 パーティは、頷き合い、意識を敵に向け、各々で構えを取る。
「まぁ、私もお料理の盛り付けとか、その日の服装とかは結構こだわる方ですけどね〜。
 う〜ん、とにかく芸術は奥が深いんですね〜」
 口調こそのんびりとしているが、ドジ神様・アルシア(a26691)の動作には無駄が無い。
「でもやっぱりアレは何か違う気が……」
 もう、すぐに戦いは始まるだろう。
「ええ、もう色んな意味で。芸術のお仕事してるものとしては許せない敵だわっ」
 宙翔る歌声・エルル(a52481)も、自らのハープをぎゅっと握る。
「冒涜だわ、実際」
 その憤慨は、深く。その瞳は『芸術を愛でる者としての正義』にも燃えていた。
「個人的には、秋といえば芸術よりは読書が趣味だけど」
 一方で、何処か余裕めいた風紋雪華・ウィンスノゥ(a43983)はクスと笑う。
「あんなのが芸術で罷り通るのだけは 勘弁して貰いたいし……
 というか、爆発するのは某ピーカンさんだけで十分だよねぇ」
 彼女の場合は、九分九厘自爆ではあるのだけれども。

●イロイロ非常識
「こ、こっちにくるなぁ!」
 クークルゥのブーメランが、敵を掠めて逸れた。
「マ、手の内は調べヌトナ……」
 南無八幡が、キリキリと音を立てる。
 遥けき時に謡う護人・ナキア(a57442)の、冒険者の膂力に引き絞られ、大きな力を溜めていく。限界まで引き絞られたその力が、放たれた時――彼我の間合いには、独特の光の軌道が描き切られていた。
「チ、甘クナイ――」
 だが、この一撃は牽制のそれにしかならぬ。
 ゲイジュツの本体より、歪に突き出した笛を掠めた矢は、捉え切れずに後方へ逸れた。
 戦いまでの僅かな距離は、瞬く間に詰まる。
「ほな、頼んだでっ!」
 鎧聖の付与を何とか終え、軽く肩を叩いたシャルに頷き応え、
「さても、面妖な怪物よな」
 赤銅色に変化した甲冑を着込んだ六風の・ソルトムーン(a00180)が迎撃に出る。
 間合いを奪うは、鮮やか。予想外に鋭く素早い動きで距離を詰めてくるゲイジュツに対して、その重装の割には、多くの雑音すら立てずに愛用の鎗斧を構える壮年の戦士は、かの敵に対して最初の一刃を振りかぶっていた。
(「まずは、小手調べか」)

 ――ざっ

 敢えて石突付近に手を掛けた彼は、測る心算で可能な限りの距離を取り。薙ぎ払うかのように、その長さを増した得物を振り切った。
 的は避けぬ――掬い斬る穂先にアメーバ状の不定形が僅かに散らされる。

 ずどむっ!

 それと同時に、鮮烈な爆発が、両者間で起きた。
「……っ、成る程、確かに爆発と言えような」
 跳ね返る威力に幾らか吹き飛ばされ、片膝を突き、ソルトムーンが呟く。
 敵を知り、己を知れば百戦何とやらか。その上で、当然冒険者の迅速な動きは、彼だけのモノでは無い。
「む、来ましたねっ」
 ソルトムーンとの痛み分けを経ても、向かってくるその勢いを緩めないゲイジュツをアルシアが睨む。こんな時で無ければ、断然チャーミングな表情とも言えるのだが……さて置き。
「キルちゃんっ!」
 自らを覆う召還獣の力に呼びかけた彼女は、纏った黒炎をその箒の先へと集めた。
 本塁打すら放てそうな豪快なスイングで、蟠った黒炎が敵に飛ぶ。
「人に悲しみしか与えられない無粋な芸術家さんには、早々に退場願おうか」
 そこに、獣の炎を紡ぎ出したウィンスノウが続いた。
「……え、ええええええ――!?」
 が、しかし。魔炎と魔氷をも纏った一撃、更には威力を増した獣の炎は、その着弾前に。
 何と、アメーバ状の体から突き出した『絵画』に打ち返されていた。
「っと……!」
 足下に着弾した自らの一撃に、ウィンスノウが呻く。
 自らを巻き上げる炎は、皮肉にも己のそれ。
「ひ、非常識にも程があるわっ!」
 絵画で引っ叩いて、炎を弾くとは。最早、芸術への冒涜に他ならぬその防御にエルルが非難めいた声を上げた。
「えーと、確かめてみるか」
「今度こそ、いっけ〜!」
 アルシアと連携した攻撃動作。
 リキアが素早く描いた紋章から、光の帯が生み出でる。その一撃と、
「爆発するのはキャンバスの上だけにしてほしいわねっ!」
 エルルから放たれた針の雨は、その怒りの甲斐あってかゲイジュツをしこたまに叩いていた。
「確率の問題なのかな」
 リキアが呟く。
 当然、引っ叩こうと動いた絵画が空振りをした事を考えれば……どうやら敵の能力は、『確実に遠距離攻撃を弾くもの』では無い事が、分かる。
「その絵筆も楽器も絵画も、生み出しているのは芸術じゃなくて、只の破壊だよ!」
 射線上に味方が居ない事を確認し、放たれたアーケィの不可視の刃も奇妙な敵を捉えた。
 さりとて、油断はならぬ。
「……っ!」
 同じく、見えぬ一撃を振り切った舞朱色・ベージュ(a90263)は返された刃に傷付き下がる。
 ソルトムーンですら弾き飛ばされた先の爆発の威力を鑑みれば、二の足を踏みたくなる所ではあるが……
「これは、もう仕方あるまいな」
 ハムラビが呟く。戦槌を携えた彼は、距離を取った戦いで決着がつくと言うならば、中衛、後衛の護衛に努めようと考えていたが、それだけでは難しそうな事は良く分かる。
『爆発する』というまだ見ぬ敵の破壊力は、恐らくは馬鹿には出来まい。どの道攻防は一体だが、脆い味方が被害を食う位ならば、まだ固めた前衛が受ける爆裂の方がマシであろう。
「はっ!」

 づどむっ!

 肉薄したハムラビを中心に、先程よりも鈍い音がサラウンドする。
 爆発の威力に巻き上げられた煙が晴れれば、そこには幾らか焦がされた彼と、未だ健在なゲイジュツの姿があった。
「いや、結構厄介な敵やな、これ……」
 シャルの目前で広がる戦いは、泥仕合の予感を呈していた。

 キィイイイイイイ……!

 ゲイジュツの笛が甲高い音を立てた。
 同時に間合いの中の誰もの周囲で、小刻みな爆発が起きる。
 回避の難しい範囲爆撃だ。威力は圧倒的ではないが、それは召還獣を持つ冒険者にとってのみ。
「……っ」
「ぁっ!」
 パーティの内の何名かは、ダメージにハッキリと態勢を崩していた。
 幾ら冒険者でも、幾ら頑丈に出来ていても、痛いモンは超痛ぇ。
 故に、更に丹念に鎧聖の付与を配りながら、煤で汚れたシャルは苦笑いする。
「何て言うか、『しんどい』わ。アレ……」

●ボマー
「い、行かせません!」
 後方に向かいかけた敵の意識を引き剥がし、
「……うわ、わわわっ、来た――!?」
 直後に、クークルゥはほうほうのていで逃げ回る。
 派手な攻撃能力を持つ敵に対する戦いは、予想通り派手な消耗戦となっていた。
「おおおおおお……!」
 裂帛の気合が、肉薄するゲイジュツを押す。
 全身に多くの焦げ跡を作りながらも、ソルトムーンはその膂力体力と、鉄壁の防御を以って前線としての役割を果たしていた。
 一撃加える毎に、爆発が彼を襲った。
 されど……
「ふむ、確かに厄介な……なれど、この程度耐えれないモノでも、無い」
 鎧聖の付与を受ける彼は、襲い来る熱量に前髪を額に張り付かせながらも、一歩も退く事は無い。一人での削り合いならば、分が悪くとも、
「大丈夫ですかっ?」
 戦場には、仲間が居る。
 アルシアの放つ柔らかな光は、戦場を常に潤した。
 敵の性質を鑑み、回復に重きを置く事に決めた彼女の判断は正解だった。
「回復するよ」
「任せて下さい」
 アルシアのサブとして多段回復に当たるリキア、ウィンスノウの力も欠かせないが。
 戦いは、続く。消耗は、激しいが冒険者達は押している。
「行くよ――!」
 幻惑の足取りより、アーケィの刃が連続して閃く。
 続け様に、ベージュの剣技が続き、
「まあ、人によって価値観は違うだろうが……その一瞬では、そう呼ぶにもおこがましいっ!」
 万全の支援を受け、重い一撃を振うハムラビもそこに倣う。
 一際大きな爆裂に、ハムラビの表情が引き攣る。
 爆発は、周囲に集まる前衛にも及ぶのだ。余波程度の威力でも、積み重ねれば馬鹿にはならぬ。
「無理をするな、一旦退いて息を整えよ!」
 ソルトムーンが、カバーに入る。
「みんな大丈夫? 頑張って、頑張って!」
 ハープと、エルルの凱歌が背中を押した。
「あ、当たって下さい!」
 強い踏み込みから、力を引き出された火花散らす一撃がクークルゥより放たれた。
 その一撃が、偶にゲイジュツの体を硬直させる。
「今やっ!」
 シャルは叫んだ。待ち望んだ好機である。
「所詮、美意識ナド本人の主観ニ過ぎナイ。
 ソレを他人に押し付ケレば、既にオマエは『芸術』デハありえナイ。出直セ」
 ナキアの腰の鏡が、削られ、小さくなったゲイジュツを映した。
 引き絞られた弓は、力ある一矢を放つ。狙いすました一撃は、『漸く』ゲイジュツより突き出したその笛を砕き、散らした。
「壊れるとどうなるんやろう……なッ!」
 シャルも待たぬ。戦いに万全を図っていた彼は、鬱憤を吹き飛ばすように一撃を放った。
 乱軌道を描く光の矢は、容易に避ける事叶わぬ必中の一打である。それは、続け様に見事に。脆くなっていた絵画を打ち破っていた。
 致命的な連続攻撃を受けたゲイジュツは、ふるふると震えていた。
「……?」
 冒険者の勝利は最早、揺るぐまい。だが……
「あかん、これは――っ! 何かでかいのがきそうや! 皆注意しろ……ってか距離あけるんや!」
 シャルの警告は、一歩間に合わない。
「そ、そう言えば……」
「芸術は……」
「……爆発するモノでしたっ!」
 アルシア、ハムラビ、クークルゥが言葉を繋いだ。
 そして、視界が白く染まる。

 ちゅっどーん

「う、うぎゃぁ〜!」

●そんでもって
「フィオナ君の地位を脅かす新人は潰してきましたよ
 これで向こう一年は、思う存分 芸術にも勝る爆発娘を名乗ってくださいよ」
 眼を細め、ウィンスノウはソラを見上げる。
 青空の向こうで、フィオナの幻影が指をびっと立てたそんな気がした。
「芸術の秋。食欲の秋です。あ、今度お弁当でも持って紅葉狩りとかも良いですよね〜♪」
「そうですね、まぁ……休むのも仕事ですから」
 おっきな胸の前で指を組み、楽しそうに言うアルシアの言葉にベージュが頷く。
 相当しんどかった相手に、鉄面皮の彼女もお疲れモードだ。
 戦いは終わった。
「派手にやってくれたなぁ、爆発のおかげで土埃まみれだよ。芸術より今は、お風呂と冷たい飲み物が欲しいな〜」
 アーケィが、煤を埃を何度も払う。落ちない。
 至近距離で自爆の大爆発を受けたハムラビ、(ナムールの献身も虚しく)クークルゥがこんがり焼かれた事はアレだったが。その彼等も一応は命に別状が無かったのだから、良かった良かった。
「何にせよ……」
 ソルトムーンは、ふぅと大きく息を吐く。
 彼は、その爪先で落ちていた自らの得物を持ち上げ、慣れた様子で肩に担み、言った。
「画竜点睛を欠かずに済んだは何よりだ」
 その一語は、実は彼のその得物の銘でもあった。
 彼が、そんな風に小さく洒落たのも、『芸術の秋』それ故だったか、定かでは無いが。


マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:10人
作成日:2006/10/22
得票数:冒険活劇5  戦闘10  コメディ3 
冒険結果:成功!
重傷者:追放するもの・ハムラビ(a36669)  上を向いて胸を張って生きたい・クークルゥ(a49286) 
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。