【Dark Card】12、The Hanged Man



<オープニング>


●一節
 ん? 何だい? デリー・ホーキンス。
 話が聞きたい?
 いいよ、じゃあ話をしよう。
 そうだな、今日は――ああ、アレがいい。
 たまには、逆さになって御覧。
 世界も、価値も、僕らの顔も。映る全てがあべこべさ。

                      ――――放蕩奇術師物語、五百四十三ページより

●討伐依頼
「つー訳でお仕事っす」
「ああ」
「村が襲われたです。毎度お馴染みの見た面っすけどね」
 ピーカン霊査士・フィオナ(a90255)は言う。
「残虐で、攻撃的なモンスターっす。
 その能力を、『苦難を与える事に』特化させてる強敵みてーですが……」
 彼女はその瞳に力を込め、
「冒険者の根性、見せてやって下さいですよ」
 席を立った冒険者に、静かにそう言った。

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参加者
アルカナの・ラピス(a00025)
銀煌の死神獣・セティール(a00762)
殲姫・アリシア(a13284)
幻槍・ラティクス(a14873)
永劫の知・アルミナ(a17367)
輝銀の胡蝶・ミク(a18077)
擁蔽なる具現創師・ミュル(a18173)
蒼月・ハーウェル(a18412)
夢幻の剣閃・クラウ(a19591)
無影・ユーリグ(a20068)
有限と無限のゼロ・マカーブル(a29450)
錦上添花・セロ(a30360)


<リプレイ>

●惨劇
 は、は、は――

 荒い息が、空気に弾けていた。
『彼』が背にするのは、鈍重な刑台、錆びた鎖、逆さ吊りの男。
 後僅かでも、飛び出すのが遅かったなら……『彼』は後悔の中に居る。

 は、は、は……!

『彼』が見据えるのは、百メートル向こうの冒険者。自らの方に駆けてくる冒険者。目標、生き残る希望。
 彼等がやって来る事を知っていたなら、『彼』は瓦礫の中で息を殺していただろう。
 だが、現実は残酷だ。幸福な運命は僅かにずれ、最悪の選択を与えていた。
 悪魔は、ただじっと待っていたのだ。家族を、友人を、恋人を殺され……それでも潜み続けていた『彼』の事を。自ら探し回る事をせず、『彼』が堪えかねて飛び出してくるその時を。
『彼』は、他に生き残りが居るかどうかを知らない。関係無い。

 は、は、は――

 それは、ノイズ。

 ヴンッ……!

 空気を裂く、耳障りな音と共に『彼』の激しい呼吸が不自然に濡れる。
 否――『彼』は既に呼吸すらしていない。その頭を石榴のように弾けさせ、つんのめるように前方に崩れ落ちていた。
「――――っ!」
 周囲に夥しく散った暖かな血液が、輝銀の胡蝶・ミク(a18077)の頬を濡らした。
 ある村に現れた凶悪なモンスターの討伐。その依頼を受けこの現場に駆けつけた彼女以下、十二人の冒険者が見据えた先には、後方の刑台より伸びる血塗れの鎖が蠢いていた。
「死を撒き散らすカード……また、現れたのですね」
 葬醒月枷・ハーウェル(a18412)の声が、冷え冷えと響く。
 俄かな熱を秘めた死地は、後一歩だけ間に合わなかった冒険者達に確かな苦味を与えていた。
 戦いは、もう始まる。圧倒的に高められた緊張の気配が、それを何より告げている。
「久々の実戦だけど……丁度良いです」
 悟リ・アルミナ(a17367)は、僅かに目を細め、傍らのどろり濃厚ピーチ姫・ラピス(a00025)を見る。彼女の視線を受け、
「闇のカードが、このまま闇に還してやるのじゃ。皆で力を合わせて……の」
 ラピスも又頷いた。
「貴方が――」
 ミクは、唇を噛む。
「――貴方が、皆に苦難を与えると言うなら……私はソレを和らげて、癒す……それだけ」
 目前で起きた痛ましい犠牲は、やるせない憤慨そのものだ。
 されど、冒険者には心痛める暇は無い。少なくとも、あの悪鬼を屠るその時までは……
「12、The Hanged Man――貴方を、倒します」
 凛と、綺夜煌星・セロ(a30360)の宣誓が響く。
「艱難辛苦、背負いたいなら大いに結構。
 ただ、それを望まぬ他者にも負わせる事は些か礼を失してはいませぬか?」
 無影・ユーリグ(a20068)は、静かに語る。
「では、参りますよ『吊られし者』。貴殿の悪夢、此処に潰えさせましょう」
 戦場は、目を逸らしたくなる惨状に満ちていた。
 だが、一瞬だけ過ぎった過去の痛みを振り切って、セロは強く地を蹴った。
「決して、負けません――!」
 ただ、佇む悪鬼との……殺戮の連鎖との決着を付けるその為に。

●終わらぬ試練のDark Card
 見渡せば、周囲には夥しい血の跡。
 動かなくなった幾人もの犠牲者は、当然のように野ざらしにされたままだった。
 黒のカード、その五枚目。吊られ男は、不気味な威圧感を伴って、被害の中心に居る。
「逆さ吊は嫌デス……もうお仕置き勘弁デス……
 って、お嬢様のお仕置き思い出してる場合じゃないデス、気合入れて行くデス!」
 一瞬だけ萎んだ心に活を入れ、擁蔽なる具現創師・ミュル(a18173)は得物を握った。
 じゃらじゃらと、間合いの中で鉄鎖が耳障りな音を立てている。
 吊られ男は、禍々しい殺気を一分も隠す事無く、冒険者達に相対していた。
「苦難を乗り越えれば人は成長出来るというけれど、お前は……違うだろう?」
 黒炎を纏った殲姫・アリシア(a13284)は、隙無く構えを取ったまま呟いた。
 語るまでも無い当然ではあるが、此度の相手も危険。
 冒険者がその実力を増そうとも、同じくその力を増す苦難達は、まるで『彼』の司る終わらぬ試練さえをも思わせていた。
 余裕、では無いのだろうが。
 次々と黒炎を、鎧聖を纏い戦いの準備を整えるパーティに対して、吊られ男は動かない。
 唯、蛇のように全身に巻きつき、垂れ、地面を汚す汚い鎖を鈍色に光らせているばかりだった。
「これ以上の犠牲を、許す訳にはいかん――」
 その真意は知れぬが、待つまでも無い。
 鎧聖の加護を携えて、外装の大鎌を振りかぶった銀煌の死神獣・セティール(a00762)が走る。超重の得物を手に肉薄する彼は、前衛として対決し切るという意志を固めていた。
 此度のDark Card、その能力は確とは知れぬが……武人として為すべき事は一つである。
(「The Hanged Man……吊るし人……
 自ら苦境を受け入れその先に光を見出さんとする者か。されど、人としての死を与えられず魔性と成り果てたその目には、もはや光は見えはすまい。
 今は唯、逆転を意味するその名の通り。今ひとたびの終焉を……」)

 ――ギッ……!

 鮮やかに間合いを奪い、振り抜かれたセティールの斬撃が、噴出した鎖と激しく噛み合う。
 威力に勝った彼の一撃は、見事に刑台の男を切り裂いた。
 そして、戦いが始まった以上は――当然、パーティの攻め手はその一手には終わらない。
「行くぞっ!」
「吊るされるのが好きなんて……変態」
 中衛として前に出たラピス、そしてアルミナがその身を覆う黒炎を撃ち出した。
 そして、それは彼等だけでは無い。

 ごうんっ!

 重く、焔の音が重なり響いた。
「ミュルも、戦闘開始デス!」
「燃え、果てるがいい!」
 ミュル、ユーリグからも同じように黒い炎が飛ぶ。
「流石に、効くだろ?」
 乱れぬ動きは、『それが効果的であろう事を見越した』彼等の作戦だった。
 前衛の位置で得物を構える幻槍・ラティクス(a14873)によって齎された速度の付与は、冒険者達の鮮やかな先制攻撃を演出していた。
「どうデス!?」
 中でもミュルの黒炎は、特別の効果を齎した。
 キルドレッドブルーの威力に巻かれた吊られ男は、魔氷と魔炎の渦に咽ぶ。
「一気にいきます!」
 繰り出されたミクの魔葉が、対象を炎の渦に巻き込んだ。
「これからっ!」
 間髪入れぬアリシアの動作は、速い。
(「お前は何を求めた。人の命? 別の何か? それとも求めたのは私達の方?」)
 全ては、詮無い。
 両手で構えられた彼女の杖が、力の光に瞬く。
 その軌道で描かれた紋章は、この世界に破壊の力を引き込んだ。

 ――どんっ!

 炸裂音を立てて、火玉が爆ぜ割れる。
 一層の炎に巻かれた吊られ男は、成る程、確かに修験者のようにも見えていた。
 圧倒的な攻勢は止まらない。
「――行きます!」
 鎧聖の付与を得、更には護りの天使すら従えて。
 ハーウェルが間合いを詰める。連続攻撃にも、吊られ男はまるで怯んだ様子が無い。されど、この時間は、確かに冒険者達のモノだった。
「はっ!」
 聖気を纏った打ち下ろしが、刑台の鎖を僅かに砕く。
 狙い過ぎた為か切っ先逸れたが、大地に突き刺さった一撃は、威力の余韻を響かせる。
「続けて――」
「――ああ。『こんなモノ』に、長居されても迷惑だ」
 夢幻の剣閃・クラウ(a19591)、セロ、更には有限と無限のゼロ・マカーブル(a29450)が踏み込んだ。
「まぁ、どれだけ『我慢』出来るのか知らないけど、それを越える痛みを以ってきっちり逝かせてあげるわ!」
 独特のステップを踏んだクラウの細剣が虚空を走る。
 一条、二条と高速で閃いた華麗な剣は、戦場に小さな薔薇を飾っていた。
(「生きている方が居るなら…どうかもう少しだけ、持ち堪えていて下さい」)
 祈る想いを携え、セロは一撃を振るう。
「喰らえ」
 マカーブルも負けては居ない。
 超重の得物を生かした重い一撃は、威力だけに留まらぬ練達の技量を感じさせる。
 鮮やかに走ったその縦の一閃は、吸い込まれるように刑台の男を叩いていた。
 だが……短期決戦を望んだパーティの凄絶な連続攻撃を受けて尚、吊られ男は崩れない。
「来ます!」
 叫び声は、ミクのモノだった。
 吊られ男に巻きついた鎖は唸りを上げ、戒めの氷を弾き散らす。
 揺らめく炎すらその一振りで打ち払った鉄鎖は、その間合いに集まった前衛の冒険者達をまとめて一撃の下に打ち据えた。
「……っ!」
 圧倒的な威力。そして、全身を覆う呪いの痺れにラピスは呼気を乱した。
 半ばは、彼女の読み通り。邪竜導士の鎖を思わせたその奔流は、近接距離にあった冒険者達を戒めの内に取り込んでいた。
 この一撃でやや風向きは変わったが……戦いは、確かに冒険者達有利に始まっている。
 確かに、その筈ではあるのだが……
「く……!」
 その動きを阻まれたままのセティールは、揺らめく影に僅かな不吉を見た気がしていた。

●試練は、力を増す
 結論から言おう。
 パーティが、圧倒的な攻勢にあったのは、緒戦ばかりであった。
 短期決戦を目指したパーティは、それを果たす事は出来なかった。彼等の責任ではない。吊られ男自体が、ラティクスの危惧の通り、異常な耐久力を持っていたのだ。
「どうだ」
 セティールの神速の一撃が鉄鎖に弾かれ、火花が散る。
「っ……!」
 足下から噴出した鎖に二の腕を深く切り裂かれ、ハーウェルが下がる。
 敵は、既に12、The Hanged Manだけに留まらない。
 裏切ったのだ。両の足を突く、その場所そのものが。
 永劫の名を持つ試練は、戦場を彼の領域へと塗り替えていた。
「このままじゃ……」
 その領域を阻まんと、クラウが自らの領域を展開せんとするが……簡単にはいかぬ。
「……同じ轍は踏みません。新たな連鎖は、誓って作らせません!」
「疾れ、風刃!」
 鉄鎖の強打を警戒し中衛に下がったセロと、ラティクスの得物が、離れた的すら切り裂く不可視の刃を作り出し、
「必要ならば讃えよう、かの神の御名さえも!」

 ――――La♪

 ユーリグの凱歌が、傷付いたパーティを立て直す。
 だが、パーティの尽力にも関わらず、戦闘は少しずつ不利の形に推移している。
「……成る程、我慢ってヤツですか……」
 頬を拭った手の甲に血の朱が移ったのを確認し、アルミナは呟いた。
 彼女が観察した所によると、吊られ男は、鈍重な全身の全てが『本体』である。何処に攻撃を受けても間違わず傷付く『彼』は、既に相当の打撃を受けている筈であった。
 しかし……戦いの経過と共に、ダメージの蓄積と共に。
 まるで、それは手強くなっているようにすら感じられていたのだ。
「苦難、ね。戦うことは嫌いじゃないけど囚われてやるつもりは毛頭無い!」
 アリシアの放った火玉が、鎖の渦に飲まれ爆ぜる。
「しっかりして下さいデス!」
 戦線を支えるミュルの表情にも、消耗の色が浮かび始めていた。
「凌ぎ所じゃぞ!」
 前衛として押さえを仕掛けながら、回復で陣容を立て直すラピスが叫ぶ。
 刑台の吊られ男は、一見、未だ悠然と戦いを続けているように見える。されど、長い戦いの経験は、彼女に教えている。
 モンスターの平然は、必ずしも額面通りに受け止めるべきモノでは無いと。

 ヴンッ――

 耳障りなノイズが強かにパーティの鼓膜を叩く。
 奇妙な浮遊感と、高揚感が一同の感覚を支配した。
 視界がぐんにゃりと歪み、全員が、モノを考える力が、見る間に落ちていくのを自覚した。
「――っ、ぁ……!」
「……っ、く……堪えて、下さい」
 一早く混乱より立ち直ったミクが静謐な祈りを紡ぐ。
 だが、それも間に合わず。セティール、ミュルが同士討ちの被害で倒れている。
「せめて、この鎖の領域さえ……」
 クラウが唇を噛む。
 ユーリグの、まさに足下より噴出した鉄鎖は、声も無く彼を奔流へと飲み込んだ。
 同時に、ラティクスまでもが刑台から閃いた一撃に打ち据えられ、地に伏せた。
「領域さえ、払えたなら……!」
 クラウの唇は、乾いていた。
(「忍耐とか我慢とかって割と苦手なのよね……自ら望んで我慢するなんてまっぴらごめんよ!」)
 刻一刻と迫る、限界。心臓が早鐘を打つ。
 これを打ち、払えねば――もう勝ちには届かない!

●フェイカー
 そして、風が吹いた。
「やった……?」
 クラウのストリームフィールドが、永劫の試練を打ち破ったのだ。
「さぁ、黄泉路への片道切符だ」
 傷付き、消耗したマカーブルが間合いを詰める。
「遠慮は要らん、受け取るがいい!」
 鋭い一閃が、目の前の鎖を払う。
「いい加減、吊られることにも飽きたでしょう?」
 攻勢に出たハーウェルが、その隙を縫って斬撃を打ち落とす。
「いい加減、眠りなさい」

 おおおおおおおお……!

 鉄鎖が散る。
 飽く無き修験を続けた刑台の男が、初めての苦鳴に喘いだ。
「この戦いも、私の成長への踏み台にはなり得るか。だが、それも……」
 小さく「もう沢山」と、アリシアの唇が動く。
「とどめじゃ」
「そういう事」
 重騎士二人による黒炎が、協奏となって紡ぎ出された。
 アルミナは、その視線を真っ直ぐに敵に向けて、
「逆さになって違う世界が見えたとしても。それは……やはり同じ世界」
 静かに、云った。

 おおおおおおお……!

 今一度、刑台が震える。
 息を吐かせぬ連続攻撃に晒され、『男』を固定していた鎖が散った。
 それは、バラバラに崩れかけ……急速に再構築された!
 再生と共に放たれた鎖は、一瞬でその質量を増し、戦場全てを覆い尽くす。
 魔性は、その隙に矜持を捨てたかのようにヨロヨロとその場を離れかかる。
「底が知れた。馬脚が現れたな」
 読んでいたのだ。冷然と、マカーブルの声が響く。
「誓ったのです。もうその悪夢の一欠けすら、許さないと」
 セロも又、この一撃より逃れていた。
 彼女の剣技より、三輪の薔薇が咲く。
「さぁ、好きなだけ吊られているといい」
 マカーブルの渾身の一閃は、惑う悪鬼を完膚無きまでに打ち滅ぼしていた。

●救済
「これで、大丈夫です」
 手当てを済ませたミクが、小さく安堵の息を吐く。
 冒険者達は、隠れ潜んでいた三名の村人を救出する事に成功した。
 恐怖に耐えた彼等は、冒険者の活躍でその命を未来に繋ぐ事に成功したのだ。
「何故、彼は、吊られていたのでしょうか……」
 落ち着きを取り戻した戦場で、ハーウェルはふと呟いた。
(「反転世界で、何を見つめていたのでしょう。
 束縛の苦痛に耐えることで、何かを見出そうと、していたのでしょうか……?」)
 やはり、それも詮無い感傷に違いない。
 滅びた12、The Hanged Manは、跡形も残さずに塵になった。
 故に、彼女には永久に答えは返らないのだ。
 首を小さく振ったハーウェルに構わず、顎に手を当てたラピスは小さく呟いた。
「しても、闇のカード共はどこから来るのじゃろうな。よもやどこぞに創生主でもいるのではなかろうな……?」
 冗談ではない――
 激戦を終えたばかりの一同は、その戯言が、あくまで戯言である事を祈るばかりであった。


マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
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死亡者:なし
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