地獄街道異常なし!〜白き街道



<オープニング>


 地獄よいとこ一度はおいで♪
 なんて幻聴を聞いたわけでないのだが、獣眼の獣使い・クロウディア(a30431)はゲートで疲れた身を癒すため、近隣の村を目指していた。
 度重なる戦いの結果、終着の地エルヴォーグの街道周辺は比較的安定している。一休みすることのできる村まで問題なくたどり着けることも多くなっているらしいのだが……。
「ん? この先の街道は真っ白だな。石でも敷き詰めてあるのか」
 クロウディアは街道の様子を確かめようと歩を早める。
「……なかなか近づけんな。ん? どうした、トラスト」
 脇に控えし愛狼に視線を移すと、毛を逆立てて白い街道を睨みつけている。
 普段の落ち着いた雰囲気とは違う、その気配にクロウディアも足を止め、警戒しながら街道の先を凝視した。

「!!」
 道の先から断末魔らしきものが聞こえた。その声からして、迷い猫か。
 クロウディアとトラストが慌てて走り出すと、敷石(?)が生き物の残骸を覆い尽くし、貪っている。残骸の側に首輪があることからもともとは飼い猫だったことが推測できた。近くの村からはぐれてきたのかもしれない。
「ええい、離れろ!」
 クロウディアが剣を振るい、銀狼がその背を守る。
「む……、ネズミのスケルトンかっ! 数が多すぎる」
 残骸の肉を食べ尽くしたのか、ネズケルトン(仮称)はクロウディアらに注意を移してきた。キチキチと牙を打ち鳴らしながら、次第に包囲を狭めようとしている。
「仕方ない……」
 クロウディアは目の前で起きた惨劇に、面倒くさいなどと呟くこともできず、慌てて引き返すのだった。
 ネズケルトンが近隣の村に襲いかかる前に、仲間を連れて戻ってこなければ……。
 クロウディアはただ走るのだった。

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参加者
帰り路の無い訪問者・カナキ(a25688)
狂月兎・ナディア(a26028)
狂戯夜・ヨキ(a28161)
全てを包みし白き翼・アリア(a28336)
黄昏に揺らめく宵待草・リトゥール(a29122)
獣眼の獣使い・クロウディア(a30431)
宵静寂に響く綺想曲・ラトヴィア(a31341)
鏡花水月・ファンリーム(a33266)


<リプレイ>

●遭遇
「たしかこの辺だったな。村はあっちだから此処を行けば会うはず」
 獣眼の獣使い・クロウディア(a30431)の先導により、一行はネズケルトンの群れを視界に納められる距離までたどりついた。街道上を乾いた風が吹き、クロウディアの髪先のクロッカスを大きく揺さぶっている。
「良かった……間に合ったみたいだね」
 宵静寂に響く綺想曲・ラトヴィア(a31341)は軽い早足で紅潮した顔に、小さな笑みを浮かべた。こういって村側の後衛に向かっていく。
「やっと落ち着いてきた地獄の地だ。頑張れば防げるのが分かっている危険なら、防ぐのが冒険者ってモンだと思うしな」
 その隣に立った、帰り路の無い訪問者・カナキ(a25688)が強弓を構えた。その弓は『風架風葬』の名が与えられているものだ。
「猫さん、可愛そうですわね……。飼い主さんがわかれば……首輪と一緒にそのことだけでも伝えたいのですが」
 全てを包みし白き翼・アリア(a28336)が漏らすが、クロウディアは厳しい顔で言葉を返した。
「たしかに、猫が気にはかかるが……可哀想だが、容赦してはいられないな」

「相変わらず薄気味ワリィところだぜナァン……」
 豊かな金の髪を結い上げた、朧月影討つし小戦士・ナディア(a26028)がこう言い捨てた。
「それにしても、本当におびただしい数ですねぇ」
 風色の識読者・ヨキ(a28161)はこう受け流すと、ナディアとともに村から見て左側に回り込んでいく。
 そして、囲みを完成させるため、ヨキの左奥――つまり、村から見て群れの奥に水晶の蟲を呼び出す。『クリスタルインセクト奥義』である。その隣には、土色の小さな人影が現れる。全てを包みし白き翼・アリア(a28336)の『土塊の下僕奥義』だ。白き群れに狙われればあっという間に潰されてしまう。だが、それでもネズケルトンの時間を奪うことができる――このわずかな時間が一行の勝利に寄与するはずだ。

「スケルネズミ……ってこんなものか」
 鏡花水月・ファンリーム(a33266)が臨戦口調で呟き、黄昏に揺らめく宵待草・リトゥール(a29122)とともに、群れの右側に回り込んだ。ファンリームの髪先の桜の花が、ネズケルトンの骨の冷たい白さに対比するように、暖かな白さを見せていた。

 こうして、一行は最寄りの村を背にクロウディア、ラトヴィア、アリア、カナキ。
 左側にヨキ、ナディア、右側にファンリーム、リトゥール、奥にクリスタルインセクト、土塊の土塊という並びで、ネズケルトンの群れを囲むのだった。

●拘束
 右側では、ファンリームが『粘り蜘蛛糸奥義』を投げると同時に、彼女の側に白を主体とした色合いの召喚獣ペインヴァイパーが現れ、黄色いガスを吹き出した。ガスと一体となった糸はネズケルトンを次々と絡め取っていく。
「まだ絡めきれなかったか……、来るっ!」
 そのファンリームに残った群れが一斉に飛びかかった。ファンリームはネズケルトンの群れに無数の傷を付けられてしまうものの、群れの中にとらわれずこらえることができた。こらえながら、反撃の機会を狙っていたものの反撃までの余裕は見つけられなかった。
 ファンリームが残った群れを引きつける形になった一方、残りに対してはリトゥールの『ナパームアロー奥義』が炸裂していた。

 村側のクロウディアにネズケルトンの群れが迫る。だが、彼の心の内には恐れはない。
「こう見るとやっぱり多いな……、あの時一人で行かなくて正解だったろう」 クロウディアはこう口にし、背を預けることができる仲間への信頼に心暖くなるものを感じながら、次々と噛みついてくる骨を避け、打ち落とし、振り払っていく。だが、完全に無傷とはいかない。小さな傷が体力を削っていく。
「くっ、群れの動きがこれほどうるさいとはな」
 カナキは『粘り蜘蛛糸奥義』を投じる。左右の側とも連携して投じたかった。蜘蛛糸を投じると声をかけたつもりなのだが、無数に近い骨を擦りあわせる音に打ち勝てた自信はない。
 それでも蜘蛛糸は4つほどの群れを絡め取る。
「これほど多くのネズケルトン……どこから出てくるのでしょうね……」
 アリアの呼びかけに応じ、虚空に紋章が姿を見せる。紋章からは無数の木の葉が吹き出し、いつしか燃える木の葉となり、動けぬ群れの一つに襲いかかる。
 クロウディアは包囲網を作る前後に『ウェポン・オーバーロード奥義』を施しておいた家宝の剣を大きく振るう。身動きがままならぬネズケルトンの群れが3つほど激しい勢いで蹴散らされていく。
 その群れの脇から一体の元猫が飛び出してきた。噛みきることが可能な肉部はすべて失われ、骨だけと化したそいつは、体を分断され身もだえするだけのネズケルトンの残骸を踏み砕くと一気に跳躍し、クロウディアの頭上に出た。クロウディアに見つめられる中、空中で三回転すると前足に残った猫爪でクロウディアの左頬に数筋の切り傷をつけた。
「この猫も……アンデッドになったのか。助けられなくてすまなかったな……」
 傷口を気にするでなく、クロウディアは一人呟いた。
 そこへ、ラトヴィアが『ヒーリングウェーブ奥義』を放った。
「大丈夫っ? 今治すから……」
 ラトヴィアの放った光がクロウディアの傷をふさいでいく。

 ナディアは左側の群れに肉薄されていた。
「これで、どうナァン!」
 マントでナディアはネズケルトンの視線を阻害する。だが、群れは勢いを変えずにナディアめがけて飛びついてくる。逆にナディアはマントごと押し倒されてしまう。召喚獣ダークネスクロークが現れ、彼の体とネズケルトンの間に分け入り、代わりに噛まれていく。クロークのおかげで傷はさほど深くはない。
「よくもやってくれたのナァンッ」
 ナディアが叫ぶ。『紅蓮の咆哮奥義』が近くの群れを痺れさせる。それを見てヨキが動き出した。
「さて、逃がしはしませんよ?」
 ほのかな笑いを浮かべ、ヨキの詠唱に応じ、左側のネズケルトン頭上に紋章が現れる。紋章から七色の光が出現し、無数に分かれると土砂降りのように光が降り注いだ。『エンブレムシャワー奥義』の光は骨を次々と砕いていく。

●決着
 戦いは決して短いものではなかったものの、戦況は次第にクロウディアたち優位へと傾いていった。

「あとどれくらいだ?」
 クロウディアが残りわずかとなった群れの一匹一匹を叩き潰していく。クロウディアと融合している召喚獣キルドレッドブルーの魔炎が群れを覆い、とどめを確実なものにしていく。

「終わりにしましょうか……」
 左側でヨキが顔を笑みの形にすると、『エンブレムシャワー奥義』を放つ。この一撃で、左側のあらかた動きを止めた。その上を水晶の蟲が動き回り、蠢く骨を砕いていく。

 ファンリームのクォータースタッフが、噛みついてきたネズケルトンの口に叩き込まれた。
「ここまで減ってしまえば、最早ただの攻撃だな……群れの圧迫感がない噛みつきなど、迎え撃つことも難しくない」
 スタッフを引き抜くと、ファンリームは蹴りを放つ。別のネズケルトンが空中で光の弧に捕らえられ、バラバラとなった。『斬鉄蹴奥義』である。
「残るは村側なのか? とは、村側の敵も残り少ないし、急いで助力に行かずともよいか」
 こういったファンリームは、地べたで未だに脈動を続けるネズケルトンの残骸を細かく潰していく。

「これでおしめえだ」
 カナキの強弓から放たれた矢が、群れを構成するネズケルトンの一匹に突き刺さり、周囲に爆ぜた。その勢いは、わずかにしか残っていなかった村側のネズケルトンを全滅させた。

●休息
「はー……終わったぜなぁん」
 ナディアがヨキの肩に支えられながら、安堵の溜息とともに言葉を放った。
「少しでも長く、この地が平和でありますよう……」
 村での宴をイメージし歩き出しているものがいる一方、死体に思いを馳せる者もいた――小さな声でラトヴィアが鎮魂の祈りを捧げていた。

「酒は万病の薬なんだぞ? 村に着いたらがっちりいかないか?」
 クロウディアがそう言って、カナキ、ナディアをからかってみた。
「皆、どうせなら寄っていこうぜなぁん?」
 カナキ、ナディアは慌ててその誘いを断る。もっとも、クロウディアの瞳を見れば、もともと飲ませる気は皆無に近いことがわかる。

「これほど多くのネズケルトン……どこから出てくるのでしょうね……」
 そう呟くアリアの姿も小さくなっていく。

 こうして、先ほどまでの隊列を基本に一行は村へと向かっていった。


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