<リプレイ>
●怠け者 そも、『ミリキ的を語る女子の魅力』とは、何ぞや。
――六十七点、もう少し頑張りましょう……って事で
『ミリキ的』には、あっちもこっちも寸足らず。 主にその性格にかような採点を下した阿蒙・クエス(a17037)におっさん好きのピーカンが滂沱の様相を呈した事、 「ちょっとちょっと、誰が六十七点よ!? 後で齧るわよ!?」 同系統の緑葉の鷹・セレア(a33556)がエキサイトした事、 「ま、でも、私のほうがフィオナちゃんより『ムネ』あるしー?」 細身の癖に詐称したのは置いといて。 今回、モンスター退治を請け負った十人の冒険者達は、紆余曲折の道中の末に、戦いの現場に辿り着いていた。 モンスター『ショクヨク』が現れたという山村である。 成る程、村は聞いた通りの被害を受けていた。家畜どころか、虫も、草も、ひたすらに食われまくり、生き物の気配すらない。よくよく見ればあちこちの倒木にも齧り跡がある。 「……好き嫌いはいけないけど、度が過ぎるとすごいね〜」 嗤う白幻・リカーシュ(a57358)は言う。敵は、全てを喰らい尽くす食欲の権化であると聞く。 「……ただの毬だね。小さくて歯がなければ可愛かったでしょうね」 紅瞳の月閃・シェード(a10012)の見詰めるそれは、丸々太ったピンク色の球体だった。目鼻も、手足らしきモノも無く、ギリギリと軋みを立てるギザギザの歯だけがやけに目立っていた。それは、冒険者達が数十メートルの距離までやって来たと言うのに、その大きな口を上向けたまま、だらけたままだ。 (「平和を乱し、人々の笑顔を失わせた魔物を放ってはおけないな。 人々の笑顔を取り戻す為、また、魔物となった者の魂を解放する為、この依頼、必ず果たす!」) ……始まりの龍・タツト(a37229)の強い意志にも素知らぬ振りで、げっぷをした。 「……なんだかウザそうな敵だケド……サクッと片付けて山の幸を楽しみたいわね」 少しカチンとしたのか、柳眉を僅かに震わせて蒼く揺れる月・エクセル(a12276)が呟く。 確かにショクヨクは、不遜と言うか怠惰と言うか…… その巨体の景観破壊度と相俟って、中々冒険者達に挑発的な敵であると言えそうだ。 「我は無垢なる刃、魔を断つ剣なり!」 無垢なる刃・ソニア(a44218)が、その手に力を増した刃を呼ぶ。 まぁ、当然冒険者達は怠けるそれに構わない。彼女だけでは無い。エクセルが、クエスが、武装に外装を得た。シェード、東方ドリアッド所属・アスゥ(a24783)、無垢なる翼・マリー(a40890)は黒炎を繰り、 「聖なる力よ、我が衣に宿れ!」 タツトはその身に鎧聖の付与を纏い、 「すばやく手軽に三分クッキング♪」 リカーシュは、パーティに速度の付与を施した。 「サービスが過ぎるじゃねぇか。いいのかよ、てめぇ」 軽く独特のステップを踏み、天魔伏滅・ガイアス(a53625)が不敵に笑う。 怠惰な魔性は、この期に及んで漸くその鈍重な身体を動かし始めていた。その実力は知れないが、まず冒険者達は順調に戦いの準備を整える事に成功したと言えそうだった。 「さて、暴れだす前に仕事と行きますか」 クエスの言葉に頷いた仲間達が散開する。 「責任重大でちょっと緊張しちゃいますけど……」 回復の要を任されたマリー、 「褒美を与れる器だと思ってもないし、私自身、生きて『かち』さえ拾えれば文句も用も無い」 手元のナイフに黒炎を溜めたアスゥが呟く。 「……消去開始」 「じゃ、行くわよ――!」 引き絞られた弓が唸りを上げる。セレアに放たれた光の軌跡が、戦いの号砲となっていた。
●丸いし跳ねる モンスター・ショクヨク。 その恐ろしさを冒険者達が知るには、僅か幾つかの攻防があれば十分だった。 「派手に――叩くわよっ!」 エクセルが、鋭い踏み込みで間合いを詰める。 その手に携えた巨大な得物は、敵の持つ圧倒的な質量にすら怯まず、重い斬撃を繰り出した。
どむんっ――
爆音。威力に空気が震える。 魂すらも打ち砕かんとするその裂帛の一撃は……
ばよよんっ!
「あ、あれ……?」 ショクヨクの巨体をあらぬ方向へと吹っ飛ばす。 敵は、その質量と巨体が偽であるかのように、衝撃に跳ね飛んでいたのだ。
ぐわしっ!
「あ、あああああああ――!」 ……十数メートルも離れたその着弾地点には、村人の家があった。 パーティの絶望的な呻き声が示す通り、まんまるい巨体はその家屋を見事なまでにぺしゃんこにぶっ潰していた。 こんな出来事が、既に数回。 早く決着をつけなければ、村が色々取り返しのつかない状態になりそうだ。 「……こ、これは……何と言えばいいのでしょうか」 マリーの表情が僅かに引き攣る。 戦場に張った不運の領域が所在無い。 繰り返そう。モンスター・ショクヨク。 史上稀に見る程に立ち位置を落ち着けない彼の恐ろしさを冒険者達が知るには、僅か幾つかの攻防があれば十分だった。彼は、強いかどうかに関わらない部分で、物凄く厄介な相手なのだった。 「……俺の連撃を止められるか!」 色々振り切ったタツトが、彼方に吹っ飛んだショクヨクを追いかけラッシュをかける。
ばよえーん
……又、あらぬ方向へ吹っ飛んでいく。 戦いは、単純な戦いでは無かった。パーティは、マラソンのようにあっちこっち走り回らされる事を余儀なくされていた。 「あちらだ」 「上手く、何とか誘導しましょう」 黒炎を放ったアスゥが言い、シェードが叫ぶ。 ショクヨクは、主に衝撃の加わる攻撃で弾むようだ。広場辺りに誘導し、その辺を加味して戦えば、被害は限定的に抑えられるであろうという計算は立っていた。 「はいよ、了解――っと」 クエスのチャクラムの一撃が、軌道を描いて横腹からショクヨクを叩く。 跳ねる方向は……計算出来ない。誘導するだけでも一苦労なのは、 「おいおい……」 ぶっ飛んで、大木を巻き込み倒したショクヨクを嫌そうに眺めた彼の表情が告げていたが。 「兎に角、何とか倒して――攻撃がいくわよ、気をつけて!」 弾んだ巨体に、横薙ぎの一撃を避けられたソニアが警告を飛ばす。 文字通り、ボールとなって弾んだショクヨクは、強烈な衝撃で、リカーシュ、ガイアスらを弾き飛ばしていた。 「……ち、このデカブツが――」 幻惑の脚捌きで直撃を華麗に避けるも。 威力にバランスを崩し、膝を突き、ガイアスが舌を打つ。 ガチガチとその剣のような歯を鳴らすショクヨクは、「そろそろ始めるか」とばかりにその口だけでニヤリと笑んでいた。
●何でも食べます、★の黴 「好きにはやらせん!」 タツトが、位置取りで巨体を食い止め、 「癒しの歌声よ、みんなに届け♪」 マリーの歌声が、パーティの態勢を立て直すも…… 「引っかかりやがったぁ、ざまあねえぜぇ! ……って!?」 ガイアスが、ショクヨクに噛ませた頑丈な棒が砕け散る。 アスゥの影縫いの矢等モノともせず、ショクヨクは瞬間膂力を溜めて、消えた! 「上よ!」 セレアの叫びが響く。 「食べ物のうらみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 凄絶なまでの気合と共に、リカーシュの風断ち幻之丞が唸りを上げる。 強烈に周囲の空気を巻き込んだ斬撃は、見えない刃を作り出して、跳ね、頭上より迫り来るショクヨクを迎撃する。
ざ――っ!
風が鳴る。 ショクヨクの巨体は、一撃を受けても此度は弾まない。 「……っ!」 仰ぎ見たリカーシュの視界の中の巨大な口が大きく開く。 「危ねぇっ!」
がちん!
吹き荒れたクエスの突風がショクヨクの軌道を逸らすのと、そのギザギザの歯が打ち鳴らされたのは、ほぼ同時だった。お笑いも、一皮向けばモンスター。 「あ、あぶな……ってか、怖いね〜……」 ばっくんばっくんと鳴る胸を軽く押さえ、リカーシュは呟く。 冒険者の攻撃は、的確にショクヨクを狙っているが、何分性質は厄介なままだ。戦闘時間は徒に伸び、パーティは、戦況以上には疲れていた。 「いい加減っ、この一撃で決める!」 魔炎、魔氷纏ったソニアの斬撃が、ショクヨクの巨体を延焼と凍結に包む。 されど…… 「だから、コイツは――!」 弾んだショクヨクは、あらぬ方向へ吹っ飛び、距離を取り。 冒険者達が間合いを詰める頃には、その動きを取り戻してしまう。 「どうしようもないわね、アレ」 セレア、クエスら長大な射程を持つ人間は別だったが……他の面々は例外なく苦労している。 「あなたの幸運も、そろそろ……ですよね?」 心なしか微妙な表情をしてマリー。 状態異常攻撃すらしてこないショクヨク相手であるから、彼女があちこちやたらに張ったアビスフィールドは、敵だけに効果を齎す筈だったが……中々じっとしていてはくれないのは難点。 「――中が焼けたら食べるに食べれないでしょう!?」 フィードの放った黒い焔が、大口を開けたショクヨクの口内に飛び込みかけた。
がちんっ!
燃ゆるその黒すら噛み砕き、ショクヨクは歯をきらりんと光らせた。 「もう、何て言うか……嫌だなぁ」 芸能の人ならぬ、モンスターは歯が命ってか、こん畜生。
●決着 されど、冒険者達の苦労は、決して敗北にまで繋がるそれでは無かった。 「今度こそ、これまでです……!」 マリーの息は上がっているが、彼女の用意した領域内に留まったショクヨクは、 「今だぜ。仕留めな」 ついにクエスの拘束にその動きを縛られていた。 「全く、ふざけたモンスターよね。色んな意味で……」 セレアの指先が、今一度力ある一撃を引き絞る。「でも、もうおしまい」と言葉を結んだ彼女は、光の尾を引く矢で、見事に敵の身体を射抜いていた。 「肉を切らせて骨を断つ、ただではやられない――」 巨体が、氷を打ち砕く。 ソニアは、その重い攻撃を避け切る事は叶わなかったが―― 「――魔を断つ剣は、この程度では折れないわ!」 威力に押され、傷付きながらも突き立てた巨大剣を以って、見事なカウンターを決めていた。 「この悪食野郎がぁ、これでも食らいやがれぇ!」 ガイアスの一撃が、ショクヨクを叩く。 ダメージに弾みが悪くなった鈍重な的に、次々と冒険者による連続攻撃が吸い込まれていく。 だが、それは、弱りながらも巨大な口を割れるかのように開いて、空気の激流を引き起こす。 それこそが、まさにショクヨクの奥の手だった。 「……食べても、美味しくないわよ。たぶん……!」 堪える仲間達に対し、エクセルは勢いを付ける方を選んでいた。 大剣を構えた女の、豊満な体が浮き上がる。一撃の間合いを計り切った彼女は、 「……全力。あの世にもって逝きなさい……ッ!」 刹那の後、空気を振るわせる、圧倒的な斬撃を振り抜いていた。
――空中に、砕けたギザギザがぱっと散る。
●山の幸 「これで、大体ですか」 シェード、 「俺にとって、みんなの笑顔が最高の報酬だ……」 タツトは、汗を拭い爽やかに笑う。 村の受けた被害は、決して小さくは無いモノだったが、冒険者達の努力の甲斐もあって、日が沈む頃には、潰れた家の住人も何とか一息吐ける状態にまで回復していた。 蓄えを食い尽くされた村人達は、これから苦労をする事になるのだろうが……犠牲者が出なかったのだから僥倖である。まだ冬の準備には間に合うだろう。 キノコ、野菜、コメに、栗芋、川魚。 「飲みすぎ注意、飲みすぎ注意、と」 エクセルは呪文のように呟き、 「ん、結構美味いね。匂いがきついのは苦手だけど」 リカーシュは、しきりに頷いている。 村人達による心尽くしの歓待を受け、宴もたけなわになった頃、ふとガイアスが呟く。 「しかしなんだなぁ、いったいどんな野郎があんなモンスターに変化したんだかなぁ……?」 良く、食べるヤツだった。味わっているようには、見えなかったが。 「さて、ね。旨い旬の物を食い、旨い酒を飲む、之贅沢だねぇ。……これで美人がいりゃ言うこと無しだがな」 クエスは、小さく杯を傾ける。 「もがもぎゅもぐ!」 ……何かやけに独特な効果音は、当然幻聴だから聞こえなかった事にして。 「……まぁ確かに霊査の通り食いまくりだわな」 一仕事を終えた冒険者達は、その旺盛な食欲を発揮していた。 「どーせ備蓄はパーです、幾らでもやって下さい。さあ、さあ!」 村人達も、やけくそ交じりの大盤振る舞いである。 「食欲の秋、恐るべし」と締めた彼は、きゅっと杯の残りを仰ぎ小さく笑っていた。

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参加者:10人
作成日:2006/10/24
得票数:冒険活劇4
ほのぼの8
コメディ3
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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