エミシ州オオウの国〜年の瀬に熊を退治て年越し準備〜



<オープニング>


「エミシ州で、かなり雪が積もっている様子ですから、早めに冬の支度と正月の準備をしたいそうですが……秋の収穫物を保管してある場所に、最近冬眠前の熊が出るそうですね。かなり凶暴で、冒険者や武士の方以外では怪我人が続出してしまうでしょう」
「そうじゃな」
 狐尻尾のストライダーの霊査士・サコン(a90176)に頷くミナモの姫将軍・セリカ(a90232)。
「そこで、現地に向かって折角ですから熊退治をした後に、お正月の料理作りを手伝ってきて下さい。セリカさんもです」
「妾もかや?」
「エエ。是非お願い致します」
 当然ですと言わんばかりにサコンに即答されて、 セリカは目を丸くして。
「こう考えては如何でしょうか? 私たちはこの冬で楓華列島を去ります」
「……」
 重い話題になるのかと、身構えるセリカ。
「そこで、です。せめて冬のお手伝いだけでもしてから去ろうではありませんか。お手伝いは多い方が良いでしょうし、熊は狩ったついでに鍋にして皆さんで戴いて構わないでしょうし、ね」
「……サ、サコン殿?」
 尻上がりになるセリカの言葉。突っ伏して、板の間に手を置いたままのセリカの肩は震えていて。
「一般の方では手こずるでしょうが、熊ですし、今回の熊騒動が起きている貯蔵庫では秋場に収穫した栗が保管されている様です」
「栗かや……」
 コクンと、喉を鳴らすセリカを見越し、サコンは。
「恐らく、余り多くは駄目ですが、ほんの少しならお裾分けも戴けるのではないでしょうかねぇ……そう、思われませんかセリカ様?」
「……は!? い、いやいや。妾たちがその様な心構えではいかんのじゃ! 民の正月の楽しみを奪う熊を退治し、正月料理の準備を手伝う位、朝飯前の話なのじゃ!」
 一瞬、心の隙を突かれたセリカが、毅然として言い直し。
「では、お引き受け戴けますね?」
「うむ! ……」
 言ってから、しまったという表情のセリカだが、時既に遅く。
 北の大地、エミシ州はオオウの国の熊狩りに、エルフの邪竜導士も参加する事になったのであった。

マスターからのコメントを見る

参加者
快傑ズガット・マサカズ(a04969)
愛と情熱の獅子妃・メルティナ(a08360)
笑顔の種をまく天使・カルナ(a19146)
解放を望む獣・ロッド(a20463)
隠れ家ヘよーこその看板盗んだ・フォッグ(a33901)
光纏う白金の刃・プラチナ(a41265)
ふわふわ綿毛のヒヨコ・ネック(a48213)
喪家の犬・リョウト(a61097)
紫眼の魔導士・セロ(a62030)
子供好きなグラップラー・ネレッセ(a66656)
ほほえみの医術士・チキ(a68432)
紅夜の幻・レイン(a69402)
NPC:エルフの邪竜導士・セリカ(a90232)



<リプレイ>

●エミシ州越冬
 越冬の季節を迎えるエミシ州。
 熊退治に訪れた紅夜の幻・レイン(a69402)は、一時的に楓華を去る身として里帰りの意味も込めて風景を見渡して。
「しかし、こない人里にまで熊が来るとは……普通、熊いうたら山で木の実食っとるもんやで」
 地元の狩人たちも何頭か倒しているものの、異常な強さの熊たちが降りてきているという。
「強力と言っても、熊です。それが何頭いるかは分かりませんが、それ程恐れる必要は無い筈です」
 後で食材や加工品に利用する事を考えた子供好きなグラップラー・ネレッセ(a66656)は、旋空脚で頭部攻撃による即死を狙っており。
「人里に食べ物がある事を覚えてしまったんだろうな……人間の抵抗を恐れてくれるのならいいのだけれど……」
 金属鎧を着込んで前衛としての準備をした愛と情熱の獅子妃・メルティナ(a08360)の腰には「阿狛・吽狛」の対斧が。
「幾ら慣れたといっても、冬というものは寒いな。さて、あいつらの事情というものもあるかもしれないが俺達の事情もあるのでな。ま、やるか」
「……ええ」
 魔霧・フォッグ(a33901)に頷いて返す紫眼の魔導士・セロ(a62030)。
 楓華列島で受ける、最後の依頼になるやも知れないと心機一転で。
「注意は怠らないようにしないと……」
 熊の足で突進された事を考えて、エンジェルの医術士・チキ(a68432)は神妙な様子。彼女の横で、肩を落としているのは解放を望む獣・ロッド(a20463)。
「はぁ……もうすぐ撤退なんだよな……」
「大丈夫ですか?」
「でぇい! 落ち込んでられっか! 困ってる人がいるなら全力ダッシュだ俺!」
 年下のチキに覗き込まれて、急に起き上がるロッド。
「逃走する者は追わず、向って来る者のみに攻撃じゃ」
 光纏う黄金の刃・プラチナ(a41265)は初めての来訪となる楓華列島での依頼に意欲的で。
「オオウはもう雪深いんだねぇ……」
 召喚したフワリンに乗って移動しているのはふわふわ綿毛のヒヨコ・ネック(a48213)。
 運べるだけの米や小麦粉、白菜や大根、芋、味噌醤油など日持ちする野菜や調味料も背負っている。
「今回で訪れたのはまだ5回目だってのに、立ち去らなきゃいけないんだよな……余生はこっちで過ごす計画が頓挫したぜ」
 人生計画が狂ったと、快傑ズガット・マサカズ(a04969)は溜息を吐いて落ち込んでいる。
 それでも、この依頼に参加する意気込みは十分伝わっており。
 楓華列島の出身者は天子様の意向を汲んで、誰もが楓華列島にいる間は召喚獣の活性化は行わず。それが全ての者が普通に行っている為に、自然と受け入れられており。
 この楓華列島からの退去は冒険者、特に同盟のみに存在する霊査士という象徴と、天子様から『人間に過ぎた力』として利用する事を控える様に言われて1年以上使い続け、その後も結果として世界に滅びをもたらし続けた召喚獣を活性化している冒険者たちの存在の退去である。
 楓華の地を踏むのも久々の喪家の犬・リョウト(a61097)も、州は違っても、懐かしい空気を感じて。
 冒険者としての務めを果たし、故郷である楓華列島に恩返しをする為にという心がけで参加するリョウトは、ミナモの姫将軍・セリカ(a90232)と幸せを届ける小鳥・カルナ(a19146)が話し合う姿を見て少し緊張が解けており。
「いつかまた、セリカさんや……今度はマナツさんともこんな風に一緒に過ごせる日が来る事を祈ってます」
「そうじゃな……妾の場合は、もしかすると勉学にランドアースに行くやも知れんのじゃがな……」
「え? あーでも、一応っ!」
 ペコリ。
 頭を下げ。
「少し早いけど、本当に今までありがとうございました」
「いやいや、こちらこそじゃ」
「……」
 身分の高い方と顔を合わせた事がなかったので少し緊張気味であったリョウトも、カルナたちの光景にはつい笑みがこぼれ。
「熊が貯蔵庫を壊していたら修理するねぇ〜」
 ネックの言葉。
 彼らの視線の先、目的の貯蔵庫がある場所が見え始めて。

●越冬に熊を倒し
 貯蔵庫に近付くにつれて、既に熊がここを訪れた跡らしき木々の幹に爪の研ぎ跡が見られ。
「鍋の具ゲットォォォォ!!」
 先に相手に嗅ぎつけられたのを見て、ロッドが吼え。
「さて、まずは熊を倒すか」
 『ワイルドキャノン』で手近の熊に挑むマサカズ。
「この熊は傷つけないようにお願い!」
 カルナが『影縫いの矢』で影を討ち、麻痺させた熊について指さして。
「人里を襲う熊のみを狩る事でな!」
 乱獲する気はないと公言し、マサカズが叩き続け。
「残念だけれど、これも冬越す為なんだ……ごめん!」
 マサカズに同じく『ワイルドキャノン』射程範囲の熊目掛け、攻撃を行うメルティナ。
 あくまで牽制用で、堅実な手応えは期待していない彼女でも、横合いからレインが振るう2対の蛮刀に倒れる熊には黙祷して。
「雌熊、小熊は不殺やね。人里に近寄らない様にと……来年以降の食料の為にも、やな」
 と、言いつつ切り捨てたのは雄の熊。
「これで、人里に降りる阿呆な熊が減ればええがな……」
「……大丈夫だと思うんですけど……」
 熊との戦闘突入後、直接斬り合う、叩き合う仲間を見ていて、『護りの天使達』を使用して万一に備えるチキ。
 数は多いものの、彼女たちの元まで接近出来る様な熊はいなくて。
「ボクも……いちおう、かな?」
 『ヒーリングウェーブ』で、一応怪我をしたような気がする仲間たちを癒すネック。
「拘束出来ました」
 『緑の縛撃』で拘束したセロの横。
 リョウトは肉と革を傷めない様に留意しながら、レインの言葉を思い出し。
「先ずは、襲ってくる熊だけを……」
 深追いしない事は仲間たちも承知済みで。
 止め等は他の仲間に任せ、一体、一体に攻撃を当てていくリョウト。
「終わりだ」
 『スーパースポットライト』で引きつけた熊に蓄積された攻撃を計り、『ブラディエッジ』を放つフォッグ。
 その軌跡に残された熊の首筋から、血飛沫が飛び。
「ふむ」
 時を同じく。
 プラチナの両手剣が振り抜かれ、毛皮を大切にと切られた首元に、必殺の刀傷が刻まれて。
「雪に足を取られぬ様になったか。後は、一応熊が戻って来ぬか気を払っておくかの」
 メルティナが『指天殺』を突き刺した熊が倒れて、逃げる熊を深追いせず見逃す冒険者たち。
 倒した後の運搬や捌く作業など、暫くの作業を終えて、一路冒険者たちは村に向かう。

●小さな村での宴会
「補強しておいたよぉ〜」
「冷えてきたな」
 戦闘後、倒した熊を運ぶ為にもと、積雪を除ける作業を続けていたプラチナと、保管所の補強をしていたネックが帰った頃には村での熊の解体が終わりを迎えて。
「隣の村からも手伝いが来てくれたんだ」
 マサカズが熊鍋作りを手伝いながら続け。
 熊の皮を剥いだり肉を切ったりと、調理しやすい様に加工して行く者と、皮をなめす為に準備する者。
 フォッグもその中に混ざり、熊の解体作業を終えた所だ。
「何か、他にして欲しい事があるのなら……」
 村総出だけで足らずに、隣村の者まで手伝いに訪れており。その為か、フォッグの申し出も在りがたいものの、間に合っているという状態になって。
「皆で美味しく、楽しく、たらふく食おう」
「成る程」
 マサカズの言に、除雪をしつつ、準備が整うまで一応見張をしていたプラチナは、思っていたよりも熊の搬送が早かった事に頷いて。
「手が空いたので、必要なら薪集めをしてみるかのぅ。少しなら木を斬っても構わぬのじゃろうか?」
「多分ね。あ、いいみたいだよ」
 メルティナが村人たちが頷くのを見てプラチナに告げ。
 肉や皮を取った残りだが、簡単なお墓を立てて埋葬をと、メルティナが村の外れと広場を往復しているのに気付いた者たちは解体後の部位を集めている。
「ごめんね……願わくば、来世では良き友になれること……それまで、どうか安らかに」
 熊に対して、簡単に盛り土をして墓として、失われた魂に祈りを捧げるメルティナ。
「熊の脂は霜焼けやアカギレによう効く……冬には必須やな」
 レインは解体作業を手伝っていた手を止めて、干し肉に加工した物を村人に手渡した。
「くーっ、この匂いがたまんねー!」
 全部食べちまいたいくらいだと、残念そうなロッド。
「鍋は大勢で食った方が美味いからな」
 と、干し肉や毛皮を防寒具に使う様子を見てロッドは嬉しくなり。
「熊も生きるのに必死だったんだろうな。だからこそ、感謝を込めてきっちり食べて、使える所は全部使うのが俺的礼儀だ。いただきまーす!」
「鍋が出来たよー!」
 村の子供たちも総出で正月の準備をしていた。カルナは、その子供たちの手伝いをしていた。
「自分は正月料理の準備のお手伝いをしましょう」
「お手伝いさせていただくのですよ」
 煮物にかかり、慈姑松笠煮や煮豆などを作っているセロの横、チキも栗の皮むきを初め。
「この栗を使って栗金団でも作りましょう。栗を綺麗な黄色に炊くには梔子の実と一緒に炊くと良いんですよ」
 セロは栗を準備しながら説明する。
「ボクの趣味は家事だから、料理もそれなりに出来るよ!」
 その横でネックは焼き菓子、煮物と準備を進めて。
 レインたちが良く血抜きをした熊の肉も運び込まれ、熊鍋が新たに煮込まれており。
 リョウトは料理の下ごしらえ、配膳と裏方作業に専念しており。
 村人総出での作業に、労いと感謝を述べて、年末年始の雰囲気、楓華の空気をしみじみと味わうリョウト。
「そして、二人は何時までも仲良くすごしました。おしまい!」
 人形劇を終え、子供たちの喝采と不思議そうな視線を一身に受けるカルナが頭を下げて。
 2つの種族が希望のグリモアに組み込まれる事によって、争う事も無く、異種族の恋人たちが一緒に暮らせるようになった……そんな話を、いつか、鬼と普通の人が争う事が無くなる様に心の中でそっと祈って演じたカルナ。
「……ダチもできたし、ヤな奴もいたけどいい人達の方がずっと多かった。楽しい思い出がたくさんある。……離れがてぇよ、やっぱ」
 カルナの人形劇を見ながら、ロッドは懐に入れてある耳飾りに手を重ねて呟き。
 何年かかっても、今の世代が無理でも、きっと俺の子どもたちがと、願い、その為の方法を、探し続けるつもりのロッド。
「あの霊査士に上手い事乗せられてしまいご愁傷様だ……しかし、こういった機会に修行する事に越した事はないと思う」
 軽く笑って、エルフの邪竜導士を見るフォッグ。
「正月といえば餅、と聞いた事があるのじゃが餅つきはするのかの? 是非体験してみたいのじゃが……も、勿論他の手伝いもするのじゃよ?」
 プラチナは臼と杵で作る、米で出来た餅と、その作業に触れてみたいと、先程から気もそぞろで。
「そういえばセリカ殿は初めてお会いするのじゃが何処で……あぁ、コータロー殿のお知り合いじゃったのか。今後妾とも程好く仲良くして頂けると嬉しいのぅ」
「うむ。一緒に依頼を受けた仲ではないか」
 プラチナに笑顔で返すセリカに、ネレッセが少し場所を変えてと声を掛け。
「……楓華は、間もなく同盟から離れますが自分はその事自体はいいのです。むしろ! 戦が始まるのではと、そればかりが心配です!」
「……」
 黙して聞くセリカにネレッセは己に抑えこんでいた胸の苦しみを吐露し。
「故郷に、シュナイダーの墓に弓引く事にならないかが、怖いのです。セリカ様、左様な事にはならないですよね?」
 故郷と同盟、双方とも大事だからと、真っ直ぐに見るネレッセにセリカは。
「鬼との関係が一歩進むのじゃ。それは、この楓華の悠久の歴史の中で素晴らしき第一歩。それを差し置いてまで、戦争を行うなどと言う事は、どんな愚かな王とて出来やせぬ。いや、無意味と言おう。国策としても、戦略としても、じゃ。……世知辛い話をして済まぬの」
「いいえ」
 鬼との、何らかの決着が付くまで他の国に干渉する事はあり得ない。そう断言したセリカにネレッセは僅かに安堵し。
 そろそろ暇をと、メルティナ、マサカズたちが腰を上げ、村人達に別れを告げ。
「んじゃ、そろそろ戻るとすっか!」
 ロッドが明るく言う。
 別れに涙は禁物だと。
「ドラゴンの様に世界全てを脅かす危機を知った今、何もなかったように安穏と過ごしてなんていられない……。希望のグリモアの元で戦うことが、この故郷を護ることに繋がる……そう信じて、今は戦おう。楓華の皆、どうか元気で。俺も、頑張るから」
 一時の別れを告げて、仲間と共に村を去るリョウト。
 その後から、村の長たちに一礼してフォッグが静かに口上を述べて。
「雪解けの頃に、いずれまた会いましょう」
「また、一緒に鍋を囲もうね!」
 子供たちに手を振りながら、ネレッセがさよならを告げて。
 村を後にした冒険者たちに、何時までも村人たちは手を振っていた。
【END】


マスター:文月 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:12人
作成日:2008/01/14
得票数:冒険活劇11  ほのぼの6 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。