紫牙と緑の影〜スゲビミー村の食欲魔獣



<オープニング>


●冬の鍋の具材とは。
「ふう……冬っていえば鍋よねー」
 リゼルのそんな言葉から、全ては始まったのだ。
 鍋といえば、肉に魚、そして各種の野菜。
 しかし、その野菜の中に「薬草」と呼ばれる域に達したものが存在するのも事実である。
 それらは時として鍋に薬効を与え。
 また、時として鍋に更なる美味を与える。
 けれど、そういったものは常に欠点も存在する。
 すなわち。一緒に使えば薬効どころか、味が反発しあって落ちてしまうのだ。

「ま、そんなわけなんだけど。どうする?」
 リゼルの口ぶりからすると、彼女自身はどちらでもいいのだろう。
 けれど。彼女の前で火花を散らす2人は違うようだった。
「どう考えてもスゲノビールだろうが!」
「……寝言は寝て言え。鍋に相応しいのはスゲビミーだろう」
 言ってガンをつけ合う、一見ガラの悪い2人。
 紫色のツンツンした頭の彼は紫牙の熱血導士・マグナ(a90200)。
 緑色のガラの悪い彼は緑の影・デスト(a90337)だ。
 彼らが主張し合う野菜もまた、一緒に入れれば反発しあってしまう野菜だ。
 片方は背がビックリするほど伸びるというスゲノビール。
 片方は鍋がビックリするほど旨くなるというスゲビミー。
 この2つを一緒に鍋に入れてしまうとスゲノビールの薬効は消え、スゲビミーは鍋を旨くするどころかマズくしてしまうという。
 背を伸ばしたいマグナとしてはスゲノビールは外せないし、万年食欲の秋のデストからすれば、スゲビミーは外せない。
 2つ鍋を用意すれば問題は解決するのだが、そんな妥協案で満足するほど2人は大人でもない。
 加えて背の低い事を気にしているマグナは背の高いデストが何か気に入らないし、捻くれ者のデストは明るく素直なマグナが何か気に入らない。
 結局のところ自分にないものを持ってる相手が羨ましくて仕方ない2人なのだが、そこを素直に褒めあって仲良くなるほど大人ではない。
「ねえアンタ達。2人で野菜採ってきて、鍋に叩き込んだ方が勝ちでいいんじゃないの? 丁度いい依頼が此処にあるわよ?」
 そう言ってリゼルは2枚の羊皮紙をヒラヒラさせる。
 そこにある依頼書の依頼主の村。
 それはそれぞれ、スゲビミーとスゲノビールの名産の村だ。
 つまるところ。依頼を完遂して名産の野菜を分けて貰い、先に帰ってきたほうが勝ち。
 冒険者としての腕も競い合えて一石二鳥というわけだ。
「ん、2人とも異存はないみたいね。じゃあ、説明始めるわよ?」
 リゼルはそう言うと、眼鏡をキラリと光らせた。

●スゲビミー村の変異魔獣
「……さっさと説明しろ。聞いてやる」
「態度デカいわねー。図体がデカいと態度もデカくなるものなのかしら」
 デカいデカいと連発するリゼルに、デストは嫌そうな顔を向ける。
 背が高い事はプラス要素であるはずなのだが、リゼルにかかればマイナス要素にすら思えてくる。
「ま、いいわ。こっちのスゲビミー村だけどね。妙な変異動物がいるみたい」
 その変異動物は丸く大きな身体を持っており、ある日、近くの山から下りてきたのだという。
 凄い食欲の変異動物は、そのまま村の畑の大根を食べたかと思うと吐き出す作業を繰り返し、次はカボチャ畑で同じ事を繰り返したという。
 野菜自体は無事ではあるが、変異動物が口に含んだ野菜を食べたいと思う村人が何処にいるだろうか?
 変異動物は次から次へと同じ事を繰り返し、今は花畑で同じ事を繰り返しているのだという。
 村人達は急いで畑の野菜の収穫を始めているが、モンスターが気になって、どうしても作業が遅れてしまう。
 いつ変異動物が自分達のいる畑にやってくるか、知れたものではないのだから。
「と、そんなわけよ。今回の依頼はその変異動物を倒して村の畑を守ること。しっかり守りきれば、スゲビミーを分けて貰う事だって楽勝よ!」
 リゼルはイエーイ、とでも言いだけに片腕を上げるが、それを見たデストは特に反応もせずに立ち上がる。
「……すぐに戻る。鍋の用意でもしておくといい……スゲビミー鍋のな」
 淡々と勝利宣言をするデストは身を翻し、リゼルは「イエーイ」のポーズのまま取り残される。
「ちょ、ちょっと! 何か反応してから行きなさいよ!」
 そんなリゼルの言葉にデストは一度振り向いて。
 軽く溜息をついて、再び身を翻す。
 酒場を出るとリゼルの咆哮のようなものが聞こえてきたが、デストは我関せずといった顔で冒険の準備を始めるのだった。

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参加者
漢・アナボリック(a00210)
久遠槐・レイ(a07605)
ランドー・ルシュド(a28710)
深潭沈吟・イブキ(a34781)
幸福の記憶・ユキノシン(a37388)
未踏の探索者・ナシュレーゲン(a50749)
硝華・シャナ(a52080)
純白虎魂・ミズナ(a57609)
NPC:放浪剣士・デスト(a90337)



<リプレイ>

「スゲビミーは漬物もいいんだよね。細かく刻んで味噌汁の具にするのも中々だよ。もし負けちゃったらそれにしてあげようか?」
 そんな事を言う漆牽牛煌・ルシュド(a28710)に、緑の影・デスト(a90337)の無言の視線が突き刺さる。
「時間との勝負です……全力で……っ」
 未踏の探索者・ナシュレーゲン(a50749)の言葉に、更に速度を上げるようにしてスゲビミー村へ向けて走る冒険者達。
 そう、冒険者達は今、急がなければならない理由を2つ持っている。
 1つ目は、スゲビミー村に巣食うモンスターの特性。
 急がなければ、スゲビミー村に在る野菜は全て駄目にされてしまうという状況にある。
 これから冬を迎えるにあたって、野菜を全て駄目にされてしまうのは壊滅的な状況に等しい。
 2つ目は、マグナチームとの鍋勝負。
 急がなければ、鍋勝負はスゲノビール村からスゲノビールを持ち帰ったマグナチームの勝利となる。
 鍋のことも勿論だが、とにかく負けたくは無かったのだ。
「スゲービミー、どの位美味な物なのじゃろうか? とても楽しみなのじゃ」
 言いながら走る白月剣姫・ミズナ(a57609)の横で、硝華・シャナ(a52080)が何かを考えるようにして走る。
「スゲービミー……? スゲビミー、スゲービミー、スゲェ美味! はっ! ではなくて! マグナ様達には負けませんのですわ……」
 意外なところで真実に辿り着いたかもしれないシャナに、真夜中に降り積もる牡丹雪・ユキノシン(a37388)が納得したように頷く。
 空に浮かぶ雲が、後ろに流れていくのを感じる。
 秋の空の下、冒険者達は全力で走る。目指すはスゲビミー村。最終目標はスゲビミー鍋。
「……美味しい事は良い事です……美味しいものを食べると皆笑顔になれますし……何より背の高くなる薬草なんてそれは一部分の幸せじゃないですか……そんな横暴を許す訳にはいけません。えぇ」
 ナシュレーゲンの言葉に、心なしか満足そうに頷くデスト。
「……決して私が美味しい鍋を食べたいからじゃないですよ? ……違いますってば……」
 まあ、結局のところ。どっちを入れようと一部分の幸せには違いないのである。
 やがて漢・アナボリック(a00210)が村に到着してクールダウンを始める。
 アナボリックの鍛え抜かれた汗でテカる肉体に、通りすがりの子供が怯えているのが分かる。
「……心配いらない。私達は冒険者だ」
 続いて到着した久遠槐・レイ(a07605)が子供を宥めるが、ほぼ同時に到着したルシュドから立ち上る蒸気が説得力をゼロにする。
 更に到着した緑の影・デスト(a90337)の目付きの悪さに、子供は思い切り泣き出して逃げてしまう。
「……何があった?」
 まさか、デストの目付きの悪さがトドメを刺したとも言えず、レイ達は適当な反応を返す。
「おお、まさか冒険者様達ですかな?」
 何人かの武装した若者を伴って現れた老人が、そうユキノシンに話しかける。
「そうじゃ。村人はんもえらいもんに見舞われたもんやね」
「ところで、まさかって何ですか?」
 そんなナシュレーゲンの言葉に、長老は苦笑する。
「あ、いえ、そのー……盗賊団が息を荒く吐きながら襲ってきたと子供が騒ぐものですから……」
 息を荒くしているのは仕方が無い。全力で走ってきたのだ。
「まあ、とりあえず。案内してくれる?」
 ルシュドの言葉に、長老が思い出したように慌てる。
「そ、そうでした! ほれ、お前たちも畑に戻るんじゃ!」
 言われて若者達は四方八方に走っていく。
 よく見ると、村のあちらこちらが慌しい。例の食欲魔獣に畑をやられる前に回収作業をしているのだろう。
「奴が今居るのはモゲチャ畑でしてな」
「モゲ……?」
「ええ、モゲ茶でございますが。ご存知ありません?」
 闇の護衛・イブキ(a34781)の言葉に、そんな返事を返す長老。
 モゲ茶が何かはともかく今現在、食欲魔獣はそこにいるということだ。
「何はともあれ、先ずはモンスターをきっちり仕留めねばなるまいのう」
「デスト様の勝利と、とても美味しいスゲビミーのために、ファイトーおーなのですわ」
 そう言って手を叩き合うミズナとシャナ。戦意は充分なようだった。
「この先ですじゃ」
「ありがとう。この先はたぶん激戦になるから。近づかないでね」
 そう言うアナボリックに村長は頷くと、急いで走っていく。
「……あれ、か」
 レイの視線の先にあるのは、巨大な球体。
 何やらモゾモゾ動いているのを見るあたり、間違いなさそうだった。
「でっかい蹴鞠やねぇ。さて、美味しい鍋のためにちゃちゃっか倒そか、蹴鞠」
 そう言ってユキノシンが対斧を取り出す。
「……チッ……馬鹿め。貴様は食べ物を粗末にするなと、誰かに習わなかったのか……?」
 イブキが如何にも不機嫌そうに言うが、習っているはずもない。
 モンスターならば、かつては習っていた事もあったかもしれないが。
 目の前のこれは変異動物である。
「なんか、まあ、あれなんだけど……こいつ微妙だなあ……世の中そう言う事もあるか……」
 アナボリックの言いたい事も、分からないでもない。
 一気に食べるわけではなく、一本一本丁寧に飲み込んでは吐き出している。
 これを微妙と言わずに何と言うのか。
「まず……名前決める?名前……ユリシ……は止めといて、じゃあ、リゼルで。そんなのいらない? まあ、どっちでも良いか」
 というよりも、その名前は危険すぎる。色々な意味で。
「……もう蹴鞠でいい。いくぞ」
 デストが溜息をつきながらダインスレフを構える。
 どうやら、最初に出たユキノシンのつけた名前が一番まともに聞こえたらしい。
「よし、早速やろう」
 ウェポンオーバーロードを発動して前に進み出るレイに、ルシュドの鎧聖降臨がかかっていく。
 とりあえず事前に話し合った棘状の鎧の形に変形していくが、どの程度通用するかは未知数だ。
「食べた物を吐く……過食症の変異動物さんなのでしょうか……?」
 シャナは取り出したマスターブックを手に乗せ、気合を乗せて叫ぶ。
「食べ物を粗末にしてはいけませんのですわ! お仕置きします!」
 その声に答えたのか否か。モゲ茶に集中していた蹴鞠が振り返り、空高くジャンプする。
 どうやら、狙っているのはミズナのようだ。
「ぎゃー、なのじゃ!」
 思い切りミズナに圧し掛かった蹴鞠は、そのまま1回バウンドして畑に戻っていく。
 すぐにイブキのヒーリングウェーブが発動するが、どうにも心臓に悪い技だ。
「……」
 レイのシャドウスラッシュと、同時に放たれたデストの攻撃が蹴鞠に炸裂するが、どうにも効いているのかいないのか分からない。
 ブルリン、と震える辺りがどうにも緊張感にかけている。
 効いてはいるはずなのだが、ダメージが見えないというのはどうにもやりにくい。
 続けて放たれたミズナの紅蓮の咆哮にもブルリンと震えるだけで、効いているようには見えない。
「凄くやりにくいですわね……」
「そうだね。反応が全然見えない」
 シャナの言葉に答えつつも、ルシュドは仲間達に鎧聖降臨をかけていく。
「いや、それでも幾つか反応を隠し切れないものはあるはず。油断せずにいこう」
 アナボリックはそう言って観察を怠らない。
 先程まであった口も、今は何処にあるのか分からない。完全な球体だ。
 そうして見ていると、突然蹴鞠の下方に桃色のものが見える。
 あれは……舌だろうか。と、なれば。
「……くっ」
 レイとミズナを庇うようにして後ろに押し退けたデストが、一瞬で伸びてきた舌に絡めとられる。
 止める暇も無い。シュルリと飲み込まれて、何やら飲み込んだものの感触を楽しむような音が聞こえて。
 ペッ、と。唾液まみれのデストが吐き出される。
「あれは……バッドステータスだろうか」
「心理的にはバッドステータスかもしれませんわ」
 そんな事を話し合う術士2人を凄い目で睨むデスト。
 とりあえずハンカチで顔を拭いつつも、蹴鞠への警戒は怠らない。
「よし、交代だ!」
 しばらくして、ルシュドの言葉と共にレイ達が後方に下がり、アナボリック達が前に出る。
 一気に全員が飲み込まれないようにする為の対策だが、動きを後方から観察して挑めるという利点も発生している。
 アナボリックのデストロイブレードが炸裂し、間髪いれずにルシュドのホーリースマッシュが放たれる。
 幾ら巨大とはいえ、変異動物。此処までの全力攻撃を受けて平然としてはいられなかったらしい。
 より大きく震えると、何やら様子が変貌していく。
「きます……っ」
 その正体をナシュレーゲンが看破してカイトシールドを構える。
 アナボリックも正面から離れるべく走り出すが、何処が正面なのか現時点では分からない。
 そして開かれた巨大な目は、口よりも遥かに大きく。それが開かれると同時に極太の光線が射出される。
「うおお……!」
 何とか耐えたルシュドは、そのまま蹴鞠に突撃してホーリースマッシュを繰り出す。
「早くスゲビミーを持って鍋奉行なのですわ! そのためにも、皆様、元気になって、働いて下さいまし!」
 そう言って解き放たれたシャナとイブキのヒーリングウェーブが仲間達を回復していく。
「中々やるのぅ。でもな、こんな所で負けとるわけにはいかないんよ!」
 ユキノシンの達人の一撃が繰り出され、ナシュレーゲンの大地斬が蹴鞠に命中する。
 目に見えて動きが鈍くなってきた蹴鞠は、流れるような動きでルシュドやナシュレーゲン、アナボリックを飲み込んでいく。
 やがて吐き出された3人は、やはり唾液でヌメヌメしていて。
 その気味悪さに辟易しつつも、再度武器を構える。
 何とか避けられたユキノシンも、その皆のヌメヌメっぷりに辟易する。
「この……お返しです!」
 ナシュレーゲンの大地斬が炸裂すると、蹴鞠の巨体が大きく揺らぎ。
「うわ、うわ、うわわなのじゃー!」
 ミズナを巻き込んで大地に倒れたのであった。
「おお、倒されましたか!」
 その音を聞いて、村の若者や長老達が走ってくる。
「いやあ、さすが冒険者様です。何かお礼できればいいのですが……」
「……ならば、この村の特産のスゲビミーを貰えるか?」
 デストの言葉に、長老は頷いて若者へ何やら指示をする。
 すぐさま運ばれてきたスゲビミーを袋にいれて、デストは身を翻す。
「俺はこの畑の掃除を手伝っていく……」
「そうか。なら後から追って来い」
 アナボリックにアッサリとそう言うと、走り出す。よほど負けたくないようだ。
「まぁ、何だ……やるからには勝て。野菜を先に鍋に叩き込むのはお前だ、デスト」
「どうでもいいが、置いてくぞ」
 煙草をふかし始めたイブキを置いて、走る。
「ここまでやって負けるわけには行きません……意地でも美味しい鍋を食べてみせますとも……っ!」
 此処にきて食欲という本音を見せてしまったナシュレーゲンが、顔を赤く染めつつも走り出す。
 あとはもはや、帰るだけ。走って、走り抜けて。リゼルの待つ鍋パーティの会場まで、あと少し。
「ああっ、マグナ様達ですわ!」
 リゼルを挟んだ向かい側から走ってくるのは、間違いなくマグナチーム。
 その手に掴んでいるのはスゲノビールだろうか。
 デストとマグナは互いの姿を確認すると、より一層のスピードで走り出して。
 ほぼ、同時にスゲノビールとスゲビミーが鍋に叩き込まれていく。
「ぐっ……!?」
 気づいた時には、もう遅い。
 互いに作用しあって、如何にも変な色へと変わっていく鍋の中身。
「まあ、負けたから食べちゃいけないってのもないし……今回は引き分けだしね」
 そう言って、ルシュドが普通の鍋を用意して。
 鍋を駄目にしてしまったマグナとデスト以外の面々は、普通の鍋をつつき始める。
「……」
 鍋を食べる前に軍服を脱いだレイが、何となく2人のほうを見ると。
 振り返ったデストが、一瞬笑ったような気がして。
 もう1度見てみると、すでに険しい顔で。
 ドギツい匂いを放つスゲビミーノビール鍋を、マグナと凄い勢いで押し付けあっていたのだった。


マスター:じぇい 紹介ページ
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