秋の絵画祭



<オープニング>


 秋の絵画祭。それは芸術の秋にちなんだイベントの1つだ。
 元々は名も無き若き芸術家達が集まり、様々なテーマで絵画の腕を競うイベントだった。
 しかし、芸術には何かと色々なものがかかる。
 静物画に使ったリンゴを食べて、その後のリンゴの芯を静物画に使って、更にその芯を齧って過ごしている様な彼等にとって、遠方へ出かける費用やカロリーは馬鹿にならない。
 そこで、いつの日か絵画祭は「報酬を受け取り人物画や望まれた絵を描いて売るイベント」となったのである。
 これが意外と好評で、絵画祭は若き芸術家達の稼ぎ所となっている。
「と、いうわけなんだよ。ボクも、将来の夢を叶えた時の姿を書いてもらうんだ!」
「将来の夢って……王子様付きのお城ってやつですか? 売りに出されるような王子様ってロクなものじゃないと思うんですけど」
 ノリノリのアルカナに、ミッドナーの冷たい突っ込みが入る。
「ゆ、夢がないんだよ。ボクはミッドナーをそんな夢のない子に育てた覚えはないんだよ!?」
「育てられた覚えもないですけどね」
 そんな2人の掛け合いに、付き合いきれないといった顔でデストが席を立つ。
 どうも今日のアルカナは、いつもの3倍くらいテンションが高い。
「あっ、デストも来るんだよ!」
 そう言って、ガッシリとデストの服の裾を掴むアルカナ。
「来ないっていうなら、そのウザったい前髪を切り刻むんだよ」
「あ、それいいですね」
 そう言って指でチョキチョキと鋏の真似をするアルカナと、面白そうだという顔をするミッドナー。どうにも本気らしい。
 どちらにせよ、この2人に押されると弱いデストではあったのだが。
「……仕方が無いな」
 そう言って、大きく溜息をつく。
「じゃあ、皆も行こうよ。ね?」
 アルカナはそう言って、酒場に居た冒険者達に同意を求めるのだった。

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参加者
NPC:トレジャーハンター・アルカナ(a90042)



<リプレイ>

「うわぁ、すごい熱気なんだよ!」
 今日は秋の絵画祭。涼しげな空は、人の熱気で説得力を無くしてしまっている。
 トレジャーハンター・アルカナ(a90042)もまた、そんな人達の熱気に負けないハイテンションっぷりで人ごみへと消えていく。
「あれ? ミッドナー達は?」
 彩雲追月・ユーセシル(a38825)が気づくと、夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)も緑の影・デスト(a90337)も居ない。
 マイペースな2人の事だ。早々に引率を放棄して何処かへと行ったのだろうが……。
「まあ、何時もの事じゃな」
 光纏う黄金の刃・プラチナ(a41265)や何人かは慣れたもので、少し肩をすくめて歩いていく。
「……まあ、仕方ないか」
 白霧・レゾ(a57127)も困ったような様子を見せつつも、絵画祭の熱気の中を歩いていく。
 あちらこちらで描かれていく無数の絵は、それぞれの画家達の力作なのだろう。
 画風も技法も様々な絵達は、どれも表現できない迫力に満ち溢れていた。
「ふっふっふ!! 芸術とは!! 芸術とは!! ……なんだろ? ……うん、まいっか!!」
 キャンパスを抱えて歩く赤い風・セナ(a07132)は、辺りのサンプルを見ながら歩く。
 さすがに人気と思われる画家にはかなりの人数が並んでいて、どうにも宜しくない。
「あー! そこの画家、いっちょ絵を描いて貰おうぎゃ!! キャンパスはこれでお願いするぎゃ」
 暇そうにお茶を飲んでいた1人の画家に、セナは声をかける。
 決して人気がないというわけではなく、筆が恐ろしく速いようだ。
「はいはい……で、どんなポーズで?」
「ささ、描いて貰おうぎゃ!!」
 言うが速いか、セナはつま先立ちで、状態を反らし、胸を張って、両手をビシッと構える。
 ちなみに、背中にはつっかえ棒が存在している。これで無茶なポーズもとれるというものだが……ものには限度がある。
 ペキッという軽い音を立てて折れる棒と、途端に負担のかかるセナ。
「……ちょ……ま……辛っ!! 辛っ!!」
 ギリギリギリ。物凄く辛い。
 少しでも別な力が加われば、何だか凄い事になりそうである。
「おや、どうしました?」
 そこに現れたミッドナーがポンッと腰を叩いて。
 セナ、轟沈。筆をとり始めた老人が、そのセナの姿を描き始める。
「あ、ミッドナー殿見つけたのじゃ」
「見つかっちゃいましたか」
 その倒れたセナを突付いていたミッドナーの元に、プラチナが現れる。
「一緒に歩かないかえ?」
「ええ、構いませんよ」
 そう言って歩く2人の横を、愛犬のモコモコを連れた依頼依存症・ノリス(a42975)が通りがかる。
「おや、どうしました?」
「いや、モコモコを描いてくれる画家を探してるんだ」
 どうやら、この付近ではそういうのが得意な画家がいなかったらしい。
「そうですね……西のほうへ行ってみたらどうでしょう?」
「そうするよ」
 ノリスはそう言って、モコモコを連れて歩いていく。
「画家のう……何かをつくる事が出来るのは尊敬に値するのじゃ。妾は絵を描くのは上手くない故、尚更じゃな」
「人は誰でも、生きる事で何かを生み出します。私にしてみれば、プラチナさんも充分尊敬に値しますよ」
 ミッドナーはそう言って、スタスタ歩き出す。
 それを追っていくプラチナの視線の先にいたのは、紅色の剣術士・アムール(a47706)と翠色の魔術師・ウェンデル(a47704)だ。
「ウェンデル、そちらは?」
「わたくしの方もサッパリですわ……中々気に入った芸術家が居ませんわね」
 どうやら、2人で別々に画家を探していたようだが……これといった収穫が無かったようだ。
 無論、これだけの数の画家がいるのだ。
 必ずや気に入った画家がいるはず。そう考えた2人は、お互いに軽く待ち合わせ場所を確認して再び歩いていく。
「あの、デスト様を見かけませんでしたか?」
 そんなアムールの元に、深淵の流れに願う・カラシャ(a41931)が現れる。
 どうやらデストを探して歩いているようだが……。
「さあ、見かけませんでしたわ」
「そうですか……あっ」
 デストは非常に大きいので、人ごみの中でも分かりやすい。
 ゆったりとした、けれどかなりの速さで消えていくデストを追いかけ、思い切り足にしがみ付く。
「……カラシャか。一応聞くが、何の用だ」
 デストは溜息をつきながら、足にしがみ付いたカラシャを摘んで持ち上げる。
「あの、一枚の絵に一緒に入っていただけませんか?」
 それを聞いて、デストは再び溜息をつく。
「……どうにも、物好きの多い日だ」
 デストの言う物好きとは、誰の事か。それは数刻前に遡る。
「デスト様は、絵画はお嫌いですか?」
 デストを探し出した硝華・シャナ(a52080)は、デストと一緒に芸術家を探していた。
 最初に頼んだ時にデストは思いっきり面倒くさそうな顔をしたのだが、そこにアルカナが通りかかったのが運の尽きだった。
 渋い顔をしつつも律儀に探して歩くデストは、ほぼ間髪入れずに答える。
「嫌いだ」
 それは、別に面倒くさいから適当に答えたわけではなく、本心である。
「絵画は小石だ。記憶の水面に投げ込んで起こる波紋が、感動とは限らんだろう」
 それは、確かにそうだ。
 絵画とは人の記憶。どんな絵画にもそれは刻まれ、その絵画に人は更に記憶を刻んでいく。
 例え、絵画自体に罪は無くとも。その存在自体に悲しみを揺り起こされる事すらある。
「絵画はこの世のあらゆることを記録しておりますの。楽しい記録。悲しい記録。目を背けたくなるような記録……絵画から目を背く、それは現実から目を背ける、人々の夢から目を背けると同意義ですの」
 デストから答えは無い。恐らくは、答えるに相応しい言葉を持たないのだろう。
 そして、その全てに背を向けて生きてきた事を自覚しているが故に。
「……この画家でいいんじゃないか」
 そう言って、1人の画家を指し示す。
 その画家は、然程目立った画風こそ無いが。とても綺麗な絵を描いていた。
 早速シャナがキャンパスを渡すと、デストは背を向けて歩き出す。
「ありがとうございました」
 やはり、デストから答えは無かったけれども。振り向かず、シャナに向かって小さく手を振って見せた。
 そして、その行く手を辛そうな顔をしながら塞ぐのは、終焉の白・エスティア(a33574)。
「デストさーん、大きすぎて持って帰れないのですよー」
 見ると、背中に巨大な絵を抱えている。
 描いてもらったはいいが、大きすぎて辛いのだろう。
「知るか」
 バッサリと切り捨て、スタスタと歩いていく。
 しばらくしてエスティアを振り切ったのを確認すると、再びユッタリとした速度で歩き出す。
 近くの屋台で揚げたパンの菓子を買い、摘む。
 昔は縁が無かったせいか、どうにも一手間を加える菓子に目が無い。
「よう、デストはん」
 そこにフラリと現れたユキノシンに軽く視線を送り、そのまま歩き出す。
 何となく黙って隣を歩くユキノシンにデストは再び、軽く視線を送る。
「……食え」
 袋に入った先程の菓子を1本ユキノシンに渡し、そのまま並んで歩く。
「さってと何を描いてもらおうかなぁ。将来の夢のお城付のお姫様と幸せな結婚とかかなぁ……今捏造した夢だけどな」
「アルカナキィィィック!」
「ぐっはぁあぁ!」
 アルカナにキックをくらって吹き飛んでいるユーセシルを横目に見つつ、歩く。
 ただ何となく。ただ静かに。
「時々、こうしてみるのも悪くはないじゃろ?」
 そういうユキノシンに、後ろ頭を軽く掻いて溜息をつく。
「……物好きだな。だがまあ……悪くはなかった」
 つまり、そういう事だったのだが。
「俺は絵は嫌いだ」
 そう言うと、カラシャは目に見えてションボリする。
「……嫌い、だが。これだけ物好きが多い日だ。たまには俺も頼み事の1つくらいは聞いてやろう」
 そう言って、カラシャを摘んだまま歩き出す。
 そのデストの視線の先にいるのは、赤褐色の天・マヤ(a16439)だ。
「ヘイヘイ、私にも絵を描いてくださいなー! お世話になっている方にどーしても差し上げたいんですっ!」
「はいはい、お任せあれ。で、どんなのを? で、キャンパスはそれ?」
 マヤの手にあるのは、本人いわく「遺影サイズ」のキャンパス。
 貧乏だから仕方ないといえば仕方ない。
「ちなみにこれが彼女の姿絵ですっ。どうぞよろしくですー!」
「姿絵の姿絵かあ。新体験だなあ……よっしゃ、創作意欲が沸いてきたぜー!」
 思いっきり腕まくりをして筆を振るい始める画家。どうやら、かなりノリがいいようだ。
「貧乏ですけど、ちょっとオマケして額縁に金の彫刻を!」
「そりゃ無理だ!」
「ですよね!」
 あっさりと答える貧乏な画家と、貧乏なマヤ。妙なシンパシーを感じているようだった。
「おおっと」
 そのマヤの後ろを、深緋の蛇焔・フォーティス(a16800)が歩く。
 何やら犬の尻尾を踏みそうで、思わず避けたのだが。
「ああっと……ご、ごめんなさい。こら、ヒロ。そんなとこに座ったらダメだろ!」
「いや、こっちこそごめんな」
 どうやら蜀紅椿・ハルカ(a26690)の犬だったらしく、互いに軽く謝罪する。
「絵画祭……色んな色に染まっているなあ……さて……ヒロ、行くよー」
 そう言って走っていくハルカを見送り、フォーティスも自分のキャンパスを抱えて歩き出す。
 中々気に入った画家が居ないが、この辺りでなら居そうな気がする。
 そう思って歩いていると、ふと見た顔が目に入る。あれはミッドナーだろうか。
 一緒にいるのは暁天の武侠・タダシ(a06685)のようだが……タダシは何故か半裸だ。
 いや、どうやら肉体の美を表現する絵を描いて貰っているようだ。
 確かに、自らの全盛期を残すというのは悪い考えではない。
「お、あの画家なんか良さそうだな」
 そう言って走り出すと、そのすぐ後ろをアルカナとらでぃかる悪なーす・ユイリン(a13853)がそれぞれ反対側から互いに駆け寄るように走っていく。
「アルカナちゃんおはろー!」
「ユイリン、おはろーなんだよ!」
 意味は分からないが、とりあえず返すアルカナ。
 テンションが高いと、細かい意味というものは不要になりがちである。
「一国一城付王子様を描いてもらうんだって? あいかわらずスケールでかいね! 私は、持ち歩けるサイズの絵を買いにきたんだよ」
「スケールが大きいのはボクの器の大きさに違いないんだよ! で、ユイリンは何を描いてもらうの?」
 テンションが高すぎて、互いに手を繋いでクルクル回りだす。
 運悪く通りがかった守護者・ガルスタ(a32308)まで巻き込んでクルクル回る。
「モチーフは……もう、そんなこときいちゃヤボってもんよー」
「そ、そうか」
 ガルスタをペシペシと叩くが、何のことか分からないガルスタは適当に返事を返すしかない。
 やはり運悪く通りがかったユーセシルやハルカ、更にはレゾも巻き込んでも巻き込んで、くるくる回る。
 段々2人のテンションに毒されて、周りの皆もクルクル回り始めて。
 そんなこんなの騒ぎの中で、すっかり日が暮れてしまい冒険者達は家路につく。
「ここに集う画家たちが好きな絵を描ける世界。そういうものもまた、私達が守っていくものなのだろうな」
「そうだね。頑張らなきゃなんだよ♪」
 満足そうに絵を抱えたアルカナは、ガルスタの言葉に頷いて。
 こうして、秋の絵画祭は大盛況のうちに幕を閉じたのだった。


マスター:じぇい 紹介ページ
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参加者:17人
作成日:2006/10/31
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