<姫士団>one night carnival



<オープニング>


 むかしむかし あるところに
 うつくしい おひめさまがいました
 しかし あるひ じゃあくな まほうつかいによって
 おひめさまは さらわれてしまいました
 なげき かなしむ おうさまのまえに
 ひとりのきしが なのりでます
 じゅうしゃとともに たびだった きしは
 みごと しとうのすえに まほうつかいをたおし
 おひめさまを たすけだしたのです
 おしろにもどったきしは おひめさまとけっこんし
 ふたりはすえながく しあわせにくらしましたとさ

「――このような伝承の残る村で、毎年風変わりなお祭が催されています」
 こう前置きした霊査士ユリシアは、まず祭の内容から説明を始めた。
「姫や騎士といった役を昼のコンテストで決め、夜にはコンテスト受賞者による寸劇で盛り上がるのです。主に伝承にある冒険の再現ですね」
 受賞者が客を楽しませないといけないというのも変な話だが、コンテストで認められることはそれなりに名誉なことらしく、毎年熾烈な争いが行われていた。
「ですが、以前このお祭で姫や騎士役になれなかった人々が邪魔しようとしているらしいのです」
 しかし祭を中止したくはないし、確かな証拠が無いのに捕まえるわけにもいかない。
「そこで冒険者を雇って、お祭を続けながら、同時に妨害する人達を何とかしようということになったようでして」
 村長達の結論に、何とも言えない微苦笑が浮かぶ。都合が良過ぎるのではないかという意見もあるが、それだけ冒険者に対する期待が大きいということだろう。
「コンテストには一般の方も参加されますが、皆様だけが選ばれるよう根回しがしてあります。もっとも、どの役に選ばれるかは審査員次第ですが。夜の舞台で妨害が入るでしょうから、お祭の雰囲気を壊さないよう気をつけて頑張って下さいね」
 さぁ、騎士と姫の大役を射止めるのは誰だ!?

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参加者
蒼奏・キリ(a00339)
フレッツ・ヒカリ(a00382)
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
凱風の・アゼル(a00468)
幻想なる淡雪の天使・カノン(a02689)
檻墓纏いて繋ぐ胤魂架・イズリクスィウ(a03323)
騎士の剣・セレン(a06864)
蒼い雷帝・カイン(a06953)


<リプレイ>

●ミスキャスト?
「祭を妨害しそうな奴?」
 想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)に尋ねられて、祭のスタッフである男性は首を傾げた。彼女は相手の荷物を持ってやりながら、微笑を浮かべる。
「えぇ。村の方でしたら何か心当たりがあるかと思って」
「だったら村の人間全員だな」
「え?」
「赤ん坊以外は必ずといっていい程参加してるし、騎士と姫の役は年に二人だけ。外からの参加者も加えると、十年以上役すらもらえないなんてざらだからなぁ。憶測でならいくらでも言えるけど……流石にね」
 間違いだったら大変だし、かといって村人全員を捕まえるわけにはいかない。
「なるほど……」
 思案するラジスラヴァ。どうやらこちらからのアプローチはここまでらしい。
 今は祭の準備に専念するしかなさそうだ。気持ちを切り替えて、彼女は顔を上げた。

 こちらは午前の主役、コンテスト会場。
「「う〜む」」
 小難しい顔をした審査員一同が、額をくっ付け合うようにして唸っていた。
 今回は事情が事情だけに、八百長まがいの審査にも納得済み。それで事前に受け取った冒険者達の希望を開いてみたのだが――
 騎士、姫、姫、魔女、悪役(追加)、騎士の従者、ノソリン(後ろ)――以上。
「……これでどうしろと?」
 審査員の一人が漏らした感想が、全てを物語っていたと言えよう。
「ノソリンを直立歩行型にして、騎士をおんぶしてもらうという形は?」
「それは既にノソリンじゃないだろう……」
「役者自体を増やすか?」
「でもそれじゃ、コンテストの意義が……」
 そこへやって来たのはとまとの・ヒカリ(a00382)。ピチピチのボンテージ姿――もちろん全部黒――がいやはや、目のやり場に困る。
「……楽しければそれでいいのでは?」
 カッ
 その瞬間、確かに審査員達の顔が劇画風に光った。
「コンテストの合格枠を広げるぞ!」
「台本の修正だ! 急いで手配しろ!」
「衣装も追加よろしくねー!」
 バタバタと走り回るスタッフ達。大きな三角帽のつばの陰で、ヒカリは予行練習とばかりに「ふふり♪」と笑った。

●題目『戦う姫はお好き?』
 観客の期待が最高潮に達したのを見計らったように、楽隊の奏でる盛大なファンファーレが舞台の幕開けを知らせた。
 拍手喝采と共に幕が上がっていく。
 場面は、魔女と二人の姫が森の中で面と向かっているところから始まった。
「……これを」
 魔女が差し出したのは、金と銀に輝く二つの林檎。さながら二人の美しい御髪(みぐし)をあしらったかのようなそれを受け取り、二人の姫――檻亡き絶望の捻れた叫びと彩り・イズリクスィウ(a03323)と幻想なる淡雪の天使・カノン(a02689)は顔を見合わせる。
 金髪のカツラをかぶった妹姫役のカノンは、やはり恥ずかしさが抜けないのかやや高潮した顔で銀髪の姉姫に語り掛けた。
「おに――お姉様、これで……」
 どうやら原因は恥ずかしさだけではないらしい。まぁ、『彼』を目の前にしては仕方ないことかもしれないが。
 その『彼』こと銀髪の姉姫、イズリクスィウは計算し尽くされた角度で髪――地毛と同じ色だが、長さが足りないためこちらもカツラである――をかき上げると、
「そうね。私達は永遠の美しさを手に入れるのよ!」
 不純といえば不純だが、それはいつの時代も変わらない女性の願望だろう。そして逆の手に握り締めた林檎を一齧り。カノンもそれに続く。
「ぅぁ……?」
 がくり、と膝が崩れ落ちた。いや、足だけではない。全身から力が抜け、強烈な眠気が――という演技である。
「お、お姉……様……?」
 折り重なるように倒れた二人を確認して、ヒカリは満足げにうなずく。そして連れ去ろうとドレスの裾をつかむが――
「……手伝って下さい。一人じゃ運べないです」
 慌てて舞台の袖から黒子役の『土塊の下僕』が何人も現れ、二人を引きずっていた。そこへ王が衛兵を伴って駆けつけるが一足遅く。
 斜め45度を見下ろす高台。悪役の嘲笑が最も良く映える位置に立ち、ヒカリはおもむろに振り返った。
「……うふふっ、姫はもらっていきますよ〜」
「姫、姫ーーーっ!!」

「――楽しそうだなぁ……」
 壁一枚挟んだ空間から聞こえてくる喧騒にがっくりと項垂れる影が一つ。蒼夜・キリ(a00339)はシクシクと涙を流しながら鼻をすすった。
「僕だって騎士になりたかったのに……」
「同志よ! 我々は君を歓迎するぞ!」
「え?」
 振り返った彼の目の前に立っていたのは、目と口の部分に穴を開けたずた袋を被った、見るからに怪しい集団だった。先頭の男性――だろう。声からすれば――がキリの肩をつかんでガクガクと揺さぶる。
「君の気持ちはよーく分かる! そこで我々は想いを共有する者達と集い、今回の祭をぶち壊すことにしたのだ!」
 オー、とくぐもった小声で拳を控えめに突き上げる者達。一応人目をはばかっているつもり――らしい?
(「暗い情熱だなぁ……」)
 呆れるのを通り越して思わず同情までしてしまうが、それはそれ。残念ながら彼等の思い通りにさせるわけにはいかない。
 異様な気迫に冷や汗を流しながらも、キリは言葉を選んで慎重に口を開いた。
「それじゃあね――」

「おぉ、姫、姫よー!」
 白々しい演技で崩れ落ちる王の前に、鎧姿の騎士――凱風の・アゼル(a00468)がノソリンに乗って現れた。傍らには従者役の青の知天使・カイン(a06953)が寄り添っている。
 ぺた ぺた ぺた ぺた ずべ
「ち、ちょっと、セレンさん!?」
 突然胴体の途中から真っ二つに割れ、観衆の悲鳴を誘うノソリンから飛び降り、アゼルは中にいるはずの騎士に憧れし・セレン(a06864)に呼び掛ける。
「大丈夫ですかしら?」
「は、はい〜。ちょっと体力的に厳しいものが……」
 くぐもった声と共に、ごくごくと何かを飲み干す音が。そしてノソリンは再びいつもの姿を取り戻した。
 気まずい雰囲気。
「えー、あー。このお方は諸国を渡り歩いてきた騎士様。王様、何かお困り事でも?」
 カインの半ば強引な進行によって、舞台はようやく動き始めた。

 そして王の願いを聞いた騎士と従者、ノソリンは城を出、森や山、いくつもの風景を通り過ぎて魔女の居城に辿り着く。
 魔女は豪奢な大広間で悠然と待ち構えていた。その挑戦的な視線を受け、アゼルが安っぽい剣を抜いて声を張り上げる。
「魔女よ、攫っていった二人の姫を返してもらおうか!」
「……そう言われてハイ、と答えるわけがないでしょう」
 パチン、と指を鳴らせば、ここで手下役のキリが一人、二人、三人――!?
 観客、そして裏方のスタッフ達もざわつき始める。裏口からキリを先頭に雪崩込んだ妨害者達は、ヒカリを中心に扇状に並んだ。
「あー、我々は――」
 ちょいちょい、と男の服の裾を引っ張るキリ。訝しげな顔をする相手の耳元で小さく囁く。
「お客さん見てるから、演技しないと」
「あ、そういえばそうだな」
 何か違うような気もしたが男は納得し、改めて名乗りを挙げる。
「魔女様が手を下されるまでもない! 我等親衛隊が返り討ちにしてくれよう!」
「おのれ! 卑怯な!」
 唇を噛むカイン。彼女をそっと制してアゼルが前に出た。
「たとえ不利と分かっている戦いでも、逃げるわけにはいかないのだ!」
「ククク、良かろう! 黄泉路の果てで後悔するがいい!」
 何かノリノリだな、おい。
 そんな外野のツッコミも遥か彼方に放り捨てて、舞台のボルテージは一気に最高潮へ。来たる活劇に備えて観客達も目を輝かせる。
「騎士様、今お助けしますわ!」
 ゑ?
 カコォンッ
 響き渡った甲高い作り声に一同の意識が向いた瞬間、天井から降ってきた無数の金タライが妨害者達の脳天を直撃した。舞い散った薔薇の花びらが空間を彩っていく。美しいような、間抜けなような――ま、まぁ、取り敢えず前者としておこうか。
「カノンもお手伝いするの……」
 イズリクスィウの後ろからちょこんと顔だけ出したカノンが『舞い飛ぶ胡蝶』を用いて妨害者達を混乱させた。そこへカインが台詞に交えて『眠りの歌』を響かせる。ふと見ればセレンも歌っているらしいが……ノソリンのお尻が囀っているようでかなり怖い。
「魔女よ、覚悟!」
 一気にヒカリに迫ったアゼルの剣が、魔女の黒衣を貫いた――ように見えたであろう、観客席からは。
「……きゅう」
 妙に可愛らしい声を上げて、悪の魔女はここに討伐された。

●燻し銀の星
 騎士は城へ戻り、王の賛辞と姉姫からの熱いキスをもらってめでたしめでたし。どうやら今回の公演によって、後に姉姫と妹姫が騎士を巡って骨肉の争いを繰り広げるエピソードが追加されそうな雰囲気だが、それはまた別の話。
 ラジスラヴァのオカリナの音がエピローグを告げる中、舞台はスタンディング・オベーションで幕を閉じた。
 眠ったふりをして妨害者達と一緒に外に運び出されたキリは観客席からその様子を見ながら、じんじんと痛む頭を押さえて涙ぐむ。
「……金ダライは痛かったの」
 隣に座ったヒカリは、黙って彼の頭を撫で続けた。

 一方、妨害者達は――
「自分が主役になれなかったからといって、楽しいお祭の邪魔をしていい理由にはなりませんわよ?」
 一列正座でたっぷりと油を絞られていた。
 なおも言い募ろうとするアゼルだったが、カインが助け舟を出すように割って入った。
「人には相応の役割がある。主役が必ずしも価値のあるものとは限らないんじゃないかしら?」
「そうですよ、ノソリン役だって楽しいんですから♪」
 汗だくのセレンは顔色が悪くて心配になるが、その言葉自体に嘘は無いようだった。
 うつむいて何事か考えていた男が顔を上げる。
「そうか……脇役か。――それもいいな!」
 立ち直り早ッ。
「よーし、皆! これからは主役を食うくらい味のある脇役を目指して頑張るぞー!」
「「オー!!」」
 来年のお祭は脇役の方が熾烈な争いになりそうだ、と予感させる結末であった。


マスター:凌月八雲 紹介ページ
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作成日:2004/03/31
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冒険結果:成功!
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