棚引く稲穂と飛来する黒い翼たちの問題



<オープニング>


 顔の大きな男が一人、田の畦道を歩む姿がある。黒光りするほどにまで愛用した、麦わら帽子の縁を掴んで、襟元に風を送りながら、彼はあたりを見渡していた。立ち止まり、満足げに息を吐くと、再び歩みはじめて、彼は耕具をしまうための小さな小屋へと向かった。
 麦わらを目深にかぶり、なまくらな鎌の刃に砥石を滑らせる。じゃりじゃりとしていた音が、しゃりしゃりといった音に変わり、やがて、すうすうとなめらかに滑るだけの音となった。刃の輝きに満足した男は、立ちあがり、帽子を浮かして額の汗を拭った。
 部屋から出る前に、彼は砥石を滑らせていた際に聞こえていた、かあかあという鳴き声への対処を、鎌を大きくふりあげた上に怒声を発して威嚇する、という古典的な方法にしようと決意した。足音も戸板を閉める響きも殺して、農夫は小屋から出た。正面に黒い影は見られない。ならば、小屋の裏手だろう。
「こらあ!」
 小屋の影から飛びだすなり、大きな声を発した男は、顎を大きくあけた仰天の顔のまま身体を凍りつかせた。
 風にたなびく稲穂からなる黄金のうなばらには、黒い影が存在していたのだが、その大きさが尋常ではなかったのである。農夫は口をあんぐりとさせたまま、その姿を見あげた。
 巨大な鴉は、田に立てられた案山子の顔を突き、それを首の付け根から折り曲げてしまうと、嘴で頭をもぎり、まるで疑念に苛まれてでもいるかのような仕草で首を傾げてみせた。
 声にならない悲鳴をあげて、農夫は畦道を駆けた。そして、這々の体で家に飛びこむと、しっかり雨戸まで閉じてしまった。
 火のない暖炉の前で小さくなり、彼は高ぶる気持ちは静め、混乱した頭脳に思考を命じた。たった今の出来事ではあったはずなのだけれど、恐怖の余り記憶は不鮮明だった。だが、鴉は一羽ではなかったように思われる。林の木々のてっぺんにもう一羽、田の隅にもう一羽、大きな鴉の姿を見たような気がしていた。
 大きな鴉は全部で三羽だ。退治してもらおう、と農夫は思っただが、冒険者の酒場に駆けこむ前に、彼は思い直したのだった。あんなに大きな身体では、とてもではないが稲穂で満足できるはずがない。獣でも狩って生きてきたのだろう。だが、案山子の首こそもいでいたが、自分を襲うそぶりは見せなかった。もしかすると、人を襲うつもりはないのではないか。そういえば、案山子の首には硝子の目玉があったはず、鴉は光る物が好きだと聞いたことがあったっけ……。
 おそるおそる家から出て、着の身着のまま、鎌までさげた姿で町へと出た農夫は、冒険者の酒場を訪れて、用向きを述べた。
 田畑から鴉を追い払って欲しいこと、もしも、人間を襲わないようなら命を奪わずに、どこか遠くの森にでも放してやって欲しいこと、それから、もがれてしまったもう一人の自分の首を取り戻してほしいこと――。
 すべてを一気に語り終えたところで、農夫は自分のために淹れられた茶があるのに気がついて、それをずうずうとすすった。テーブルの向こうに腰掛けた黒髪の青年は、自身が話した事柄を羊皮紙にしたためているようだった。彼が云うには、冒険者を集めてくれるということだった。
 安心した農夫は、鎌をふりふり、帰路へと着いた。この季節は彼にとって、一年のうちでいちばん嬉しいときであることを、いつの間にか思いだしながら。

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参加者
宵闇月虹・シス(a10844)
赫焉・ラズリ(a11494)
博愛の道化師・ナイアス(a12569)
聖剣の王・アラストール(a26295)
世界に一匹だけの猫・アルテミス(a26900)
紅れない黄昏・クオフィ(a35192)
月の揺籃・アニエス(a35948)
紅熔の舞風・ミリン(a37046)
いつか星の大海へ・ミレアム(a45171)
流水円舞闘の使い手・オルガ(a49454)
深青天雷・タイガ(a53003)
狂天童・リカーシュ(a57358)


<リプレイ>

 通りを吹き抜けようとする風を、ドリアッドの髪に咲いた赤い薔薇は旅行く男の背へと伸ばされた少女の指先のように呼び止めたが、その効果はあまり長くは続かなかった。雪花石膏よりもまだ白い指先で、花咲く髪の一房を耳の裏側へと撫でつけると、博愛の道化師・ナイアス(a12569)は思案顔の男に対し言った。
「この店でいちばんの品を出してくだされば良いのです……質はこの際、問題にはしないでおきましょう。大きさがいちばんであれば……」
 身体の左右に見事な細工が施された銀の鳥籠を下げる店の主は、怪訝なまばたきだけを残して、店の奥へ姿を消した。
「案山子さんも大変だねぇ、つれさられちゃったんだねぇ……遠いところに行ってなければいいんだけど」
 ナイアスにそう告げたのは、腰に黒鞘をさげたストライダーだった。嗤う白幻・リカーシュ(a57358)は夜明け前の空に輝く鈍い瞬きを思わせる双眸を細めると、退屈そうに息を吐き、銀の鈴が吊られた太刀の柄尻に掌を押しあてる。彼が今にも『空を裂く鈴の音』を鞘から引き抜こうという仕草を見せると、不穏な事態を察したのか、店の主が影から姿を現した。
 その後、ナイアスはリカーシュは店の裏手へと招かれて、やや錆の浮かんではいるもののしっかりとした鉄格子で閉じられた、ノソリン用の檻を入手した。
「で、何を入れるんです? 大きな動物ですよね?」
 思わぬ収入にほくほく顔の店主は、木枯らしにも負けじと笑顔を浮かべ、ナイアスに尋ねた。だが、冒険者から返った言葉に、彼は口をあんぐりと開け、喉の奥へと冷たい空気の侵入を許し、激しく咳き込んでしまうこととなる。そうした後、店主はもう一度だけナイアスに尋ねたが、返った言葉は先ほどと寸分違わず同じだった。
「鴉ですよ」
 
 ――濡れ羽色の髪は漆黒の闇を、陶器のように白い頬は雲のかすめる月の面を、長い睫毛に縁取られた瞳の虹彩は星の瞬きを思わせる。華奢な造作の肩に力をこめ、街道を歩む者を嘲笑うかのように過ぎた木枯らしをやり過ごすと、宵闇月虹・シス(a10844)は共に道を歩む仲間に話しかけた。
「冷えますね……」
「実は寒いの苦手なんです……」
 落ち着いた色合いの瞳を閉じ、じんわりと暖かな涙が頬が伝うのを待ってから、灼眼の死神・ミリン(a37046)はのびのびと欠伸をした。上着のポケットへと差し入れ、その中で翡翠、琥珀、紅玉といった輝石のなめらかさを楽しむ指先を、頬へと運んで光の筋を拭う。
 二人の少女は、この依頼の依頼者である農夫の家へと向かう道すがら、様々な動物に出会い、彼らから話を聞いた。最初は、問題の大きな鴉を見たこともないという動物たちばかりだったが、目的地へと近づくにつれて、話の内容は変わってゆき、ある野兎などは、自分の叔母が危うくさらわれるところだったのだ、と憤怒の形相で語っていた。
 
 突然に開けた視界から、山の麓を見晴るかすと、そこには海原とも思える黄金の稲穂がたなびく姿が広がり、また、農夫の暮らす小屋の赤茶けた板葺き屋根が小舟のような姿を見せていた。まだ、件の鴉たちは、依頼人の田畑に現れていないようだ――。年の割には小さな肩をすくめると、旻秤・ラズリ(a11494)は白くなった息を掌に渦巻かせ、血の通わなくなった指先を暖めた。
「普通なら秋景色として良い田園風景なんだけどな。折角の収穫の季節に不安と隣り合わせでは農夫が可哀相だ」
 そう言ったラズリに、ドリアッドが振り返る。
「案山子の首を奪った理由は何かしら。光り物が欲しくて? 意外と顔が気になったからとか?」
 凛と張りつめ美しい線を描く眉の合間に細かなしわを寄せると、いつか星の大海へ・ミレアム(a45171)は小首を傾げてみせた。もし、人の顔や煌めく物が好きなのだとしたら、額に宝玉の煌めくドリアッドは気をつけなければならない。
「ちょっとアレだからね。かぶっておくわ」
 ミレアムはそう言うとチャドルを目深にかぶって額を隠し、金木犀の花咲く髪も覆いの内側にたくしこんだ。
「鴉って奴はなかなか賢いものらしいな」
 蒼雷剣士・タイガ(a53003)はこんな風に口を開いた。蒼色の戦装束をまとう、この楓華からやって来たストライダーの少年は、冷たい風にあおられたあまりに涙を拭くんだ瞳の縁に指先を這わせながら、言葉を続けた。
「仲間意識も高いらしいし、厄介な相手ではあるか」
 嗚呼っ、と声をあげて立ち止まったミレアムの背中に、横手の仲間と話していたタイガは右の頬を埋めてしまう。慌てた様子で「すまない」と言った少年に、彼女は言った。
「手伝ってもらってもいい? ちょっと考えがあるのよね」
 森から枯葉や蔦といった物を集めては、ミレアムが持参した袋に詰めこみ、何やら人の首らしきものをこさえているタイガの姿を見遣りつつ、ラズリは考え事を先へと進める。捕縛した鴉たちをどこに放したものか、その行き先に目星をつけておかねばならない。この山の向こうはどうだろうか、確か誰かが向かっていたはずだったが――。
 
 自作の銀細工で飾られた指先で口元を覆い、二度三度のくしゃみを山間に響かせる。冷たくなってしまった耳を隠すように、羽織ったフェザーマントを寄せるが、丸みを帯びた彼の耳は外衣を留めてはくれなかった。エルフの尖った耳なら別だろうか――。洟をすすりながら、流水円舞闘の使い手・オルガ(a49454)は遠眼鏡をのぞきこんだ。背の高い木々が並ぶ深い森が広がっている。ここならば、大きな鴉らを放っても良さそうだ。
 銀細工で飾られた指先が目前へと迫り、遠眼鏡をのぞきこむように促されると、少女剣士は会釈をして道具を受け取り、黒い枠に拡大された眺めを見つめた。確かに、ここならば適当と云えるだろう――果てなき白・アラストール(a26295)は肯いた。遠眼鏡を返し、真摯な眼差しを来た道へと傾ける。
(「冒険者とは因果な職業だ。大概、殺し殺されるという因果が巡る……その果てに救われる者があるが、救われない者もある。時に、不幸を防ぐことができるが、逆にすべてが事後であることも……。この依頼ではどうか……」)
 
 農夫の小屋に集った冒険者たちを出迎えたのは、たわわに実った黄金の穂先を垂れる稲たちの海原と、その表をかすめては日の瞬きを駆けめぐらせる風――それに、大きな翼を折りたたんで畦道に佇む、三つの黒い影たちだった。
 依頼者には小屋の中へいるよう告げると、ラズリは三羽の位置関係を瞬秒の間に悟った。交渉するにしても、退治せねばならぬにしても、逃すようなことになってはならない。
「お願いします……」
 掌の白さを透かす、金剛石などを仲間に託し、シスは一歩だけ身を退かせた。そんな彼女に微笑みかけ、宝石を預かった掌を胸にあてがい、優雅な礼をしてみせたのは禍音・アニエス(a35948)――セイレーンの邪竜導士だった。
 垂れた稲の頭を避けながら、畦道を進んだアニエスたちは、どういったわけか逃げる様子を見せない一羽の鴉へと近寄り、獣たちへと心通わすことのできる歌声での問いかけを始めた。
「君達はどうしてここに来たの?」
 目元をかすめる青い髪へと触れながら、天藍色をした双眸は優しげに細めて、アニエスは黒い翼の持ち主に尋ねた。相手は羽ばたいて見せたが、空に向かうでもなく、ただ「カア」と鳴く。
 かすかにアニエスの唇が尖ったのを見て、ナイアスは彼の傍らから一歩前に進んだ。掌を広げてみせ、鴉たちが好むという光輝く品々での説得を試そうと促す。シスから預かった金剛石を含め、アニエスは輝石を地面にちりばめた。
 二羽目と三羽目の鴉が優雅に空を渡り、後方にそびえる樹木に舞い降りた。それは大樹であったが、悲鳴にも似た軋みをあげる。人の子供ほどはあろうかという大きな鳥が、鋭い爪で掴みかかってきたのだから無理もない。鴉らが見せた動きに合わせ、オルガは交渉役を務める二人の後方から、すぐにもでも飛びだせるよう構えをとった。指先へと心の力を収斂させゆく映像を脳裏に浮かべ、その時の備えとした。
 歌声による問いかけに何ら返答を寄越さない鴉らに、ミレアムはタイガの助力をあおいで制作した『首』を差しだした。輝石のはめこまれた瞳が、つぶらでなんとも愛らしい、案山子の首である。ミリンの手によって、輝石の並べられた畦道へと進められた『首』は、そこで体勢を崩し、土に転げた。その仕草は、まるで輝石に食らいついたかのようで――激しい羽ばたきの音と、耳を劈くような鳴き声に、ミリンは顔をあげた。もう首を立たせておく必要はなさそうだ。
「お嬢ちゃん、ゆっくりこちらへ下がってきな。戦うにしてもしないにしても、案山子みてーに頭もがれるのは避けたい。んなことされちゃ、シャレになんねーからな」
 赤くて黒い白魔道士・クオフィ(a35192)はそうミリンに告げると、自身は片腕で支えた大きな日記帳を広げ、もう片方の腕ではその項を繰り始めた。
「待ってください」
 そう言葉を口にしたのはシスだった。鴉らは空へと向かい、黒い円を描くようにして飛んでいる。陽を浴びた黒い翼は艶やかで美しかった。それを散らせたくはない。
「切り裂いてあげないと……害をなしちゃいけないから、討伐されても仕方ないんだよ」 
 かすかな鈴の音に続いて、鞘の内側から刀身の滑る音が聞こえた。リカーシュは白刃をすでに解き放っている。シスの瞳は気にかかったが、少年の灰の双眸は、すでに一羽の首筋を魅入られでもしたかのように見つめていた。
 だが、その直後に鴉らが見せた動きは、額の宝玉を露わとしたナイアスに襲いかかるでも、ミレアムが制作した案山子の首をさらうでもなく、ただ、その場から逃げだすことだった。
 畦道を駆け抜けて、稲穂に触れなんばかりの位置を滑空する一羽に追いつくと、タイガは土を蹴って身をひねり、曲刀『一文字則宗』で鴉の翼に斬りつけた。しかし、その艶やかな所作からの一撃を浴びても、鳥は一枚の羽根も散らすことなく、ただ静かに畦道へと舞い降りるのみ、そこで力なく「カア」と鳴く。剣舞の所作に見入り、思考を奪われたのだ。
 空へと向かった残りの二羽に対しては、稲穂をかきわける二人がすがっていた。親指だけは内側に折り曲げ、四本の指は真っ直ぐに伸ばして、ラズリは念の力を先端に収束させた。胸の前から空へと向かった彼の指先は、上空をかすめた黒い翼に、銀に輝く糸の束を放出した。手荒にことを進めたくはない――仲間が捉えた鴉が田へと墜ちるのを見遣ると、オルガもまたラズリと同様に指先を空へと向けた。扇状に拡散した粘りつく糸は、黒羽にまとわりついて放さず、最後の一羽も空からの墜落を余儀なくされたのだった。
 
「……ちょっとキツくて悪いけど、すぐ放してやるからな」
 翼が傷つくことのにないよう、持参した外套で大鴉を包みこんでやると、ラズリは縄で羽根を折りたたんだ胴の周りをしばりあげた。
「さて、ここからが大変です。黒衣の淑女方を、城へとお連れしなければ……」
 眠る鴉を抱えあげ、ナイアスは町で求めた大きな檻に、次々と彼女らを横たわらせていった。これから一つの山を越える。檻は手分けして担ぐことになるのだが、厳しい道程となるだろう。
 開きかけた鳥の瞳に気がつくと、アニエスは歌声を紡いで囁きかけた。
「少し遠くに、たくさん美味しいものがある森があるんだよ」
 彼の歌声が終えられると、次いで、ミレアムが詩句を口ずさんだ。それは、遠く暗い夜へと沈みこんでゆく、一つの煌びやかな星の物語で――鴉らは眠ったまま、農夫の田から運び出されたのだった。
 新たな棲処へと『黒衣の淑女方』を運び終えた後、タイガは檻から出された鴉たちが戒めを解かれ、翼を羽ばたかせる姿を見遣りながら、満足げに言葉を吐いた。
「誰もかれも、殺し合いを望んでいる訳ではないしな」
 幾度かの羽ばたきを終えると、鴉たちは土を蹴り、空へと飛びたっていった。眼下に広がる森は広く、きっと、豊かな実りが彼女らの大きな身体を支えてくれることだろう。
(「手にした力は誰かを救うが為に。多くは力無い人々を救うが為に。だが、互いが傷つくことない、そんな結果があっても良いと思う。この考えは人の傲慢というものなのかもしれないが――」)
 いつしかアラストールは考えることを止め、茜色に染まりつつある空へと近づいてゆく、黒羽たちへ手を振っていた。少女の唇が何事かを呟いている。
「私は自分勝手だ。……だけど、嬉しい」
 
 異国の意匠が際立つ理由は、その装束が不思議なまでの白さを誇っていることにあるのだろう。リカーシュは衣服の合わせ目を手繰り寄せると、もう一働きするべく胸に森の空気を吸いこんだ。
「このあたりで大きな鴉を見なかった?」
 隊列の先頭をタイガと共に歩みながら、ミレアムは姿を見え隠れさせる小さな動物たちを歌声で呼び止めた。冒険者たちは田のそばに広がる緑へと戻り、山の向こうへと去った鴉たちの巣を探していた。
 そんな折、アニエスが出会ったのは、けっして大きくはないものの、嘴の形や羽根の色つやからして、あの『黒衣の淑女』たちに良く似た美貌を持つ、一羽の森の住民だった。
「キラキラしていて綺麗だろう?」
 アニエスが歌声でそう伝えると、利発そうな目をした鴉は肯き、その黒い嘴に輝石を含んだ――が、それでは鳴けないことに気づき、足元に取り落とすと、カアカアとこんなことを言った。
「お日様の昇る方へ行ってみな。馬鹿でかい巣があるよ。僕なんかは恐くって、近づけもしなかったけどね」
 輝石の一粒と引き替えに得られた情報は正確で、ほどなくしてミレアムは、木々の根元に散乱する黒い羽根を見つけたのだった。濡れ羽色の忘れ物を拾いあげると、クオフィは幹の上を見あげた。半円状の巨大な何かが、幹の中途に引っかかっている。あれが、件の鴉の巣なのだろう。
 白い猫の尾をゆらゆらとさせて、世界に一匹だけの猫・アルテミス(a26900)は見事な木登りの技を披露した。森で育った彼女にとって、それくらいはお手の物で――。
 
「出来れば、収穫の手伝いなど、そういった仕事は好きなので、な」
 ラズリがそう申し出ると、農夫は嬉しそうに研ぎ終えたばかりの鎌を手渡してくれた。束となった稲の根元に刃を入れるたび、ラズリはその茎が支える重みを感じるのだった。一年をかけて実らせた稲穂を、農夫は嬉しそうに抱えて畦道へと運んでいった。
 田の中央には、ぽつんと小さな姿だけが残されていた。その足元から伸びた影は長く、肩の上には麦わら付きの頭が載せられている。その顔からは、煌めく石が抜かれていたが、閉じられた瞳はにっこりと微笑んでいて、農夫のもっとも良い日を喜んでいるかのようだった。


マスター:水原曜 紹介ページ
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