<リプレイ>
旧東方ソルレオンの聖域・神鉄のグリモアがあるグヴェンドリン城塞は、さいはて山脈の麓、少し高台になっている地域にある。 湯治場であった街跡は、その城塞よりも東側の山脈寄りにある。 冒険者達を出迎えたのは、秋の落ち葉に埋もれる温泉と、年月がもたらした荒廃。 グヴェンドリン護衛士が回った村跡などでは、戸締りもそこそこに逃げ出したと思しきものもあり、獣などが荒らすままになっている場所が少なくない。 この街もその例に漏れず……であったが、そんな中、この湯治場で1番の大店『湯の花』は、戸締りもしっかりされ、残された食料目当てに熊が打ち破ったらしい壁がある以外は、比較的まともな状態を保っていた。 「うう〜ん。商売人の心意気みたいなものを感じます……」 鶏冠をフリフリ、宿の外観を見上げたフラレ(a42669)は、国の崩壊で恐れ逃げ惑う瞬間にも、再起を誓っていたかのような跡を見て言った。伊達に、商家の生まれではない。 「そうね」 目利きは確かなルティア(a36345)が、確かに……と呟いて頷いた。 宿の西は庭園。回り込む小径には、草と落ち葉に埋もれた中に、飛び石が配され、温泉特有の硫黄の匂いが漂っている。そして、東はさいはて山脈に面した露天風呂となっていた。 温泉の一部を占領している猿の声が聞こえるのも、東側からだ。 宿の佇まいは、元は素晴らしいものだったろうし、庭の木々も、荒れてなお、秋の彩りとして美しい配置で出来上がっている。 後で分かったことだが、この宿には、ルティアが思わず目を見張るような調度なども多くあった。 「温泉か〜これからいい季節だなー」 ほう……っと夢見がちに一息。掃除道具一式を抱え、ウォルルオゥン(a22235)は宿の建物の向こう、湯煙を覗き見る。 「さて。仕事、仕事ーっ お掃除しますよっ」 「長期戦になっても準備万端だよ」 やる気満々で腕まくりしながら、ウォルルオゥンの前に出たニューラ(a00126)やカリナ(a18025)達は、宿『湯の花』の引き戸前に『×』字に打ち付けられた板を剥がす。 彼女達はさっさと中へ入り、雨戸を開けて掃除にとりかかっている。その姿を、珍しい物を見るようにしながら、アティカ(a12138)は「ほぅ……」とため息を吐いた。 「そりゃ、俺も、何から何まで揃ってるなんて期待してなかったけどな」 彼女の様子をチラッと見ると、地域事情を良く知るマサト(a47419)は、手桶・手拭い持参でボソリ。仕方ないとぼやきながら、洗い場の修繕に向かう。 「修理と準備まで自分達でするなんて……」 悩ましい表情を作って尻尾を揺らし、艶かしい腰つきで歩くアティカの豊かな胸は、黒いビスチェから溢れんばかり。そのまま風呂掃除でもしようものなら、入浴を待たずにポロリがありそうだ。 「仕方ないわね」 「おおおっ!」 どこかから期待に満ちた歓喜の声がした。どうやらゼイム(a11790)らしい。 それに、キッと厳しい目を向けたラン(a20145)は、蜘蛛大鉈を一閃して笑みを浮かべる。不届き者は成敗するぞと、キラリと光る刀身が言っている。 女湯覗きの勝負(?)は、今から始まっているのだ。 「やっぱりお風呂は、男は男同士、女は女同士だよね。裸で入れるやつがいいなー」 なんて、今から思いを馳せているカリナはともかく。 真面目くさって、覗き穴となりそうな箇所を、1番最初に塞いで回ろうとしているバルモルト(a00290)などは、男のクセに男の敵。いや、ゼイムの敵。 錐ぐらい、用意して来なかったことが悔やまれる。悪事は用意も肝心だ。 ま、直す方も、工具を持参していたのは、ヴァイス(a06493)とノリス(a42975)、それにワング(a48598)の3人位だったのだが。あるだけマシだ。 ショウ(a27215)などは、ウェポンオーバーロードで済ませるつもりなのだから、侮れない。というか、それでいいのだろうか。武人として……。 「別に、混浴でも構わんと思うが?」 下心の無いショウがサラリと言うのを、掃除に精を出していたマサトはじぃーっと見上げた。 きっと、ショウの経験値には女の子経験も入っているに違いない! ――と、寡黙と表現してやるにはまだまだ幼いマサトは、心の中で思い、訳知り顔で1人頷いた。 そうこうしている間にも、穴だらけだった風呂場の衝立は、工具を借りたカリナやバルモルト達の手で直されて行く。
「最近やっている業務とは逆のことをするわけですが、……気晴らしにはいいかもしれないですね」 「どっちも土建屋に変わりないがな」 フィリス(a18195)にそう返したヴァイスは、 「間欠泉はどこだ?」 そう言って、彼と連れ立って、崩れた岩で塞がれてしまったという『湯の花』の名物を探しに行く。 「大変そうなのはお任せにゃあ〜」 ヒラヒラと彼らに手を振ったタンゴ(a36142)は、宿の掃除組へ合流するようだ。 その彼女すらも見送ったティキ(a02763)は、あちらこちらで、岩やら板やら担いで歩く冒険者達を見渡した。 「ついに温泉開業か。俺がサボってる間に(マテ) そこまでいったか。素晴らしい」 やや棒読み。ツッコミが居たら、シバキ倒されているところだ。 これから、ティキが『湯花』の復刻を試してみるつもりなのは、決して土建屋仕事から免れたいわけでは……ない、と思う。 「しかし……グヴェンドリンが、観光地とそこへのインフラを整える護衛士団だったとはな。情報系というのは観光情報か。さすが円卓議長、ユリシアさんは考えも奥が深いな……」 「頭脳労働していた頃が懐かしいです……」 ティキの隣で、レイク(a00873)とテイサ(a47791)はしみじみと頷き合う。 「ま、やるからにはここを同盟一の観光地に……するよう頑張れ、クウガ」 肝心なことをクウガ(a90135)に丸投げして、肩をぽむっ。レイクは涼しい顔で、ペットを温泉の方へ放すと、自分も作業に入った。 「ええっ? おらだべか?!」 縋るような視線を、テイサは笑顔で受け流し、ティキは元から聞こえていなかったフリ。 「ほら、私達、肉体労働に慣れてしまって。頭の使いどころの勘が鈍ってますから」 「嫌味ならユリシアに言ってほしいだよ」 クウガはそう言って嘆息した。彼も、耕すのと均す方が専門である。 「僕がお手伝いするなぁ〜ん。大丈夫なんだなぁ〜ん」 クリクリッと瞳を見開いて、笑顔でプラスト(a13989)が駆けて来る。クウガが何で項垂れているのか、会話が聞こえていなかったプラストは、分かっていないに違いない。 「ありがとうだよ」 でも、何となく癒される。 「ヒトノソだからだべかなぁ?」 ヒトノソリンは癒し系である。 「???」 クウガの呟きを、当のプラストは首を傾げながら聞いていた。
「じゃ、バルモルト、サンタナっ 出来たら起してくれ!」 ニッカと漢笑いで昼寝に入ろうとするダグラス(a02103)、ついでに、サボっているゼイムとアスト(a58645)に、サンタナ(a03094)の鉄拳が飛んでいる頃。 間欠泉では岩の除去が始まっていた。 「え、地道に動かすのか? 面倒だぜ?」 「ですね」 「え?」 適当な棒を探してきて、梃子でも使って動かそうとしたのは、頓狂な声を上げたヴァイスぐらいで、ワングやフィリス達は、アビリティで粉砕するつもりでいた。 「大地斬で」 「デストロイブレードで」 「斬鉄蹴でもいいわよ?」 万一、壊しても怒る主人がいるわけでもなし。1発ずつなら大丈夫だろうと、案外、適当なことを考えている冒険者達。 豪運だしね。 「一応、動かしてからにしたらどうだ?」 折角、太い棒も用意したのだから。使わないで、拙い所まで抉る結果にはるよりはと、ヴァイスは岩の下へと棒を差し込んだ。 案外、生真面目な彼。 「あっ! いよいよ間欠泉が復活しますよーっ」 作業に気付いて、ルティアが室内から出て来る。パンパンと手を叩き、いざ湯の復活、と冒険者達の注目を集めた。 ワングとフィリスも手伝って、元々あった岩を支点に、差し込まれた棒がミシッと音を立てながら動く。 途端、じわじわと溢れ出した湯が、やがて勢い良く噴き出した。 「気を付け……」 ルティアがみなまで言い終わらないうちに、ヴァイス達は噴出し始めた湯に、「うわっ」と叫びながら棒を手放す。塞いでいた岩のせいで、岩盤に余計な亀裂が入っていたのか、湯は斜めに飛沫を上げルティアを直撃した。 「あう〜……」 「……すまん」 つい謝ったワングもびしょ濡れ。 間欠泉の復旧は、亀裂を新たな岩で塞いでおく必要もありそうだった。
さて。 残る障害は、奥の温泉を占拠している猿達。 いきなり現れた冒険者達に、警戒心丸出しで様子を窺っていた群れに、クリスタルインセクトを呼び出して対峙しようとしたダグザ(a58531)は、タンゴの悲鳴を浴びてあたふたした。 「な、な、何だよ?」 「お猿さんも話せば分かってくれるにゃあ。無理やりどけたら可愛そうにゃよ〜っ」 とタンゴは涙目。 涙目っ! うるうるうるうるっ! 「……うっ ご、ごめん……」 年端も行かない子を泣かせてしまうとは、男としてあるまじき行為っ 「ん? 女の子を泣かすなんて、漢じゃねぇな」 サンタナに作られたたんこぶを押さえつつ現れたダグラスに、さらに弱点を抉られると、ダグサは猛省を通り越して落ち込んだ。 「わっはっはっ 何、落ち込んでやがる」 自分が止めを刺したクセに、ダグラスはバンバンとダグサの背中を叩いて笑う。 そうして、猿達と話しに行った。 彼が雌猿をナンパしようとして、ボス猿と一触即発になりかけたりしたのは、その後の顛末。 ヘソを曲げてしまったボス猿を、後からタンゴなど獣達の歌を用意していた冒険者で宥めて回り、その一角は猿達の温泉にすることで話がついた。 居ればいたで名物になるだろうから、多分、問題無い。
作業があらかた終わったところで、厨房からミキ(a18182)が顔を出す。 厨房の掃除から始まり、近辺で薪と食材探し。1日、それで明け暮れてしまった彼女が用意していたのは、山菜ご飯と焼き魚。 途中でワングが手伝って、煮物も加わったメニューが、皆の早めの夕食だ。 「どうぞ。温かいうちに食べて下さい」 「わーいっ」 「頂きますっ」 労働の後の食事はまた格別。あちこちで歓声が上がる。 しまい込まれていた器に盛られ、テーブルに食事が並ぶと、宿の昔の姿が垣間見える気がした。
最後は、もちろん温泉。 「クウガさんはお誕生日ですし、温泉で宴会しましょう」 ニューラの誘いに、真っ赤になるクウガ。尻尾がピキピキとおかしな動きをした。 「えっ?! 混浴するだかっ?」 「別に、いいじゃないですか? それに、一緒じゃなきゃ、お酌出来ないじゃないですか」 と持参のお酒を示して、ニコリ。 若干1名、ひゃっほぅ! と小声で歓声を上げていたのが誰かは言うまでも無いが。 「そういうことなら、僕も一緒でいいや」 カリナやプラストら子供等も付いて行き、拘っていないアティカやショウも「それじゃあ……」と混浴に向かう。 「の、覗きではないのだな……っ?」 合意なら覗きとは言わないだろう。むむむ、と不服そうながらも見送るラン。 後は、思い思いに。 猿と戯れているヴァイスもいれば、やはり酒とつまみを持参でゆったりと入るフィリスや、晩酌に付き合うワングも。 バルモルト達に無理やり引きずられて行ったサンタナが、ブチ切れて蜘蛛糸の簀巻きで応酬していたのは男湯で。 騒ぎに苦笑しつつ、簀巻き2つを肴に、レイクやウォルルオゥン達はのんびりと湯に浸かっていた。 「おや?」 天高く、熊降りる秋。(ホントか?) 山の麓には、熊の親子が仲良く歩いていた。 「業務に疲れたら、また来たいものですね」 フィリスは笑んでそう言った。
「あっ 皆さん、お揃いですね」 帰りがけ、何やら四角い木桶を抱えて入って来たのは、フラレやノリス、『湯花』の復刻を試していた者達だ。 試行錯誤。噂やら、ショウの豆知識やらを総合して、湯を冷やすことから初めた復刻は、掃除が進むにつれて、道具らしいものも見つかり、どうやら形になっていた。 「温泉では試せないんですが……お土産分を作ってみましたから、どうぞ」 使い心地が良かったら、ご当地名物の誕生となりそうだ。

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参加者:25人
作成日:2006/11/23
得票数:ほのぼの26
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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