シルベンロッド



<オープニング>


 眩くそり立つ銀の棒。
 とん、と跳ねたと思ったら、獲物の場所までひとっとび。
 ぐさっと刺さってあら大変。

 太さは、槍の柄くらい。
 長さは、大人の身長の倍くらい。
 飛距離は、弓矢と同程度。
 とにかく、わざわざ刺しに飛んでくるらしい。
 金属質な見た目の通り、細い割に外皮は相当に硬い。多少の金属くらいなら、真っ向勝負で貫く威力。
 そんなに硬いくせに、時々、ネジのように身体を捻って、貫通力を高めたりもするらしい。突き抜けるわ、血は出るわで、直撃するとただでは済まないこと必至。
 なにしろ、飛んでくる。
 とはいっても、上から落ちてくるだけでなく、地面擦れ擦れを弧を描いて飛んだり、突然アクロバティックな動きで時間差着弾してみたり。
 とにかく、飛んでくる。
 危ないので、なんとかしてはくれないだろうか。

マスター:BOSS 紹介ページ
 刺さりたいお年頃なのかも。かもかも。

参加者
白鴉・シルヴァ(a13552)
親愛なる隣りの魔王・マオーガー(a17833)
虹兎・イーリス(a18922)
迅雷と共に駆ける者・レイファ(a19084)
風薫る桜の精・ケラソス(a21325)
銀の剣・ヨハン(a21564)
月夜に舞い降る銀羽・エルス(a30781)
美しき猛き白百合・シキ(a31723)
守護者・ガルスタ(a32308)
悪鬼羅刹・テンユウ(a32534)


<リプレイ>

●銀
 晴天。
 降り注ぐ日差しの中、凝らした目に。
「あの辺でキラキラ反射してる……あれがそうなのではないかのぅ?」
 虹兎・イーリス(a18922)の指し示す先へ、素早く遠眼鏡を巡らせる、銀の剣・ヨハン(a21564)。
「そのようです」
 頷き、遠眼鏡を仕舞うその手に、早々と握られる柄。すらりと抜き放たれるのは、彼が冠すと同じ銀の剣。ウェポン・オーバーロードで力を与えられ、壮麗さを増した刃越しに、ヨハンは。
「銀とは正義の名の下に振るわれてこそ誇り高く輝くのです……それ以外は黒く錆び付くだけ!」
 実に真面目な表情。相当、思う所があるらしい。
「銀の棒か……モンスターでないなら結構な値打ちの代物だろうに」
 敵影確認、悪鬼羅刹・テンユウ(a32534)は未だ遠くちかちかと瞬く物体に目を凝らし、手早く鎧聖降臨を開始する。
 俄に、きらきらと飛び上がる敵。
 白鴉・シルヴァ(a13552)はイーリスに施された鎧聖降臨で、周囲に溶け込むような形容に着衣を変貌させつつ、軌道を視線で追いかける。
「空飛べるっていーなぁ。楽しそうだ」
 でも、棒は大人しくどっかに突っ立ってりゃいいと思う。
 その危なっかしい敵に向け、美しき猛き白百合・シキ(a31723)は。
「……変なモンスター」
 呟き一つと引き換えに、摘んだ塩は見る見ると質量を増し、青く輝くクリスタルインセクト偵察形態へと変貌する。そして、間隔を共有し、ままならない我が身を、守護者・ガルスタ(a32308)の背後に忍ばせる。
「か弱い女の子を守るのが重騎士の役目でしょ?」
 言わずもがな。ガルスタは返答の代わりに、鎧へ加護を与えるための言葉を紡ぐ。
「己が想いを示せ、纏いて鎧と為せ、其が汝の力なり」
 施される鎧聖降臨。そして、もう一つ、そっと手を触れて唱えるのは誓いの言葉。
「誓おう、我は不破の盾であると」
 それらは三度ずつ告げられ、月夜に舞い降る銀羽・エルス(a30781)、風薫る桜の精・ケラソス(a21325)の着衣と生命そのものに強固な守りを与える。
「何と言いましょうか、こういう怪物も居るのですね」
 囮の姿を察したか、飛んで飛んで距離を縮める細長いものに、ケラソスはなんともいえない眼差しを投げる。
 小さな針が指に刺さっただけでもとても痛いのに。あんな大きな針が刺さったら……
 間違いなく、すっごくすごく痛い。
 想像するだけでぶるぶると沸き上がる震えを抑え、エルスは黒き炎を呼び起こす。
「深遠の業炎よ……」
 ちなみに、怖さからか大きな仲間の後ろに居るので、びみょーに死角になってたり。
 適度な距離をおき、雑音形態に変えて次々に放置されるクリスタルインセクト。
 その一体へ……降り注ぐ、銀の棒。
「馬鹿でかい針というか、釘というか……見た目は『ふざけるな』って言いたくなるな」
 左半身を重点的に防護する、黒曜石のようなパーツ。テンユウからの鎧の加護に力を増し姿を変えた着衣に身を包み、迅雷と共に駆ける者・レイファ(a19084)ははっきりと見え始めた敵影を睨む。
「溶かしてインゴットにでもするのが手っ取り早いか……」
 仕上げの沸き上がる黒を纏いつつ、テンユウは眩しく光る棒を目で追う。
 そして、ガルスタが、黒い炎を呼び起こす。
「我が闘志よ、燃え上がれ。敵、討たんが為」
 準備は整った。
 飛び石でも渡るような動きで近付く銀を、首ごと動かして追いかけ、親愛なる隣りの魔王・マオーガー(a17833)はやれやれと細く長い息一つ。
「んじゃま、サクサク行こか」
 ……ん? むしろこっちがサクサクやられちゃう?
 目前では、がしゃんがしゃんと破壊される囮ユニット(クリスタルインセクト)。
「いや嘘、勘弁……」
 汗交じりの訂正。ただ、うっかり聴こえちゃったエルスだけは、またぶるぶる。
 そして、次の囮目掛け、銀の棒が高らかに飛び上がった。

●棒
 砕け、塩へと還る結晶の虫。
 銀に負けじと全身白銀に身を包むヨハンが、立ち塞がるのように進み出で、刀礼の儀をして見せる。
「さあ、掛かってきなさい!」
 言葉通りか、それとも、飛び上がったとき後方に潜んで構える冒険者らをすでに見つけていたのか。唯一残った細長い銀は、我が身を捻り……
 その頭上に、突如降り注ぐ粘々の糸。
 射程が長いのは重々承知、こうして距離が縮まるのを待っていた。
 絡め取ろうと、粘り蜘蛛糸の根元を引き絞るシルヴァ。だが、思惑と裏腹に、銀は捩れた身体で糸の隙間からひょいと飛び出し、糸をかわす。
 ……が、待っていたのはそれだけではない。
 折角抜け出た銀の周囲には、既に無数の木の葉が渦巻いていた。
「ドリアッドが伝えし技、その身に受けてもらいましょう」
 ケラソスが翳す術手袋と、シキが掲げる剣の切っ先。二つ開いた紋章から、召喚獣の力を受けて虹色に明滅する緑の束縛が、二重の円を描いて銀へと襲い掛かる。
 折角捻った身体に隙間なく木の葉を張り付けられ、棒は銀から緑に色を変え、ぽてりと地面に横倒し。
 そこに早速飛んでくる、黒い炎。
「うう。刺さらないようにがんばって倒すのじゃ〜!」
 この期に狙わぬ手などない。イーリスがその身に蟠る黒炎を切っ先に集め、横たわる緑へと差し向ける。
「妾の炎を喰らえ〜っ!」
 難なく衝突、砕けて散るブラックフレイム。
 ……が、更に、二つ。
 背面の術士らを守るように立つテンユウ、ガルスタそれぞれが、鏡面合せのように黒い炎を解き放つ。
 交差し、混じりあって弾ける炎。
 そして、まるで黒炎連打の仕上げだとでも言うように。
 エルスが身体を取り巻く黒を一点に集約、炎は徐々に悪魔のような姿を形成する。
 両の手にした術手袋の青い石に蝶の紋様浮かばせて、解き放たれるデモニックフレイム。
 特大の炎は飛沫のように砕け散って、火の粉を辺りにばら撒く。
 再びぽつんと佇む銀の棒。緑塗れで今一つ判り辛いが、くねくねと嫌そうに蠢いているのを見るに、効いているのは間違い無さそうだ。
 そんな銀を、今度は強い物理的な衝撃が襲う。
 傍らに浮かぶ護りの天使の力を上乗せて、ヨハンの叩き落す銀の剣が、実に甲高く澄んだ音を辺りに響かせる。
 その傍らに、ふらりと湧く影。
 殺気のない――無風の構えのまま寄って来たマオーガーは、ひっくり返っている棒の端を掴み上げ。
「あらー、このまま勝てちゃったり? ……しない?」
 回る。とにかく回る。
 回して回して……えいよや。
「てか、なんかもう槍投げの競技をホーガン投げのフォームでやってる感じだな」
 笑み混じりにデンジャラススイングで投げ飛ばした銀の棒は、少し先の地面に斜め三十度で激しく衝突。見事に突き刺さり、一回ぐにゃっと曲がって、伸びて、それからまたぱたりと地面に倒れ付す。
 そこへ軽やかな足取りで接近するレイファ。蛇腹を開いて弧を描く剣の軌跡から、無数の薔薇が生まれ出る。
 刹那、鋭く風を切り、銀を薙ぐ斬撃。
 硬質な音を立てて跳ねる……その体から、ようやっと剥がれ落ち始める木の葉。
 艶やかな銀の体が、再び陽光の元へと、姿を現した。

●刺
「捻ってるぞ!」
 注意を促すシルヴァの声が飛んだ。
 刹那、飛び上がる銀。
 太陽に重なって消える影。
 何となく狙われてる気がするヨハン。
「いかにあなたが刺さりたい年頃でもこっちは刺さりたくない年頃なのです!」
 だが、瞬きを終えたその時すでに、奴はもう目の前に。
 物凄い衝撃。
 甲高く、しかし、どこか鈍い音が当たりを木霊する。
「やりますね……っ」
 鳩尾と脇の中間辺りを突き抜けたのだろうか、じわじわと広がる痛みと、何かがすうっと抜けていくような感触……これは、流血が激しい証拠なのか。
「ヨハン殿、大丈夫かっ!?」
 背面より届く声は、イーリスのものだろうか。
 だが、その一撃のみでヨハンの膝を折るにはまだまだ遠く。
 すかさず凱歌を奏でるエルスの歌声によって、流れ出る血は止まり、
「癒しの力よ、我が友を護れ」
 続くガルスタから届けられた柔らかな癒しの光が、開いたばかりの傷を跡形もなく塞ぎ切る。
 しかし、とんでもない威力には違いなく。
「うへぇ……食らいたくないねぇ」
 散らばった血痕を飛び越えて、マオーガーは飛び上がろうと屈伸している銀を、今一度むんずと掴み上げる。
 嫌そうにもがく銀を無理矢理デンジャラススイングでぶん回し、後衛とは逆方向の地面に、叩き付けるように投げ飛ばす。
 こわーんと、中々いい音がして、一度大きく跳ねて転がる銀の棒。
 それが再び立ち上がり攻撃の態勢を取るよりも一瞬早く。
 銀を丸々覆い尽くして余りある巨大な剣の影が、銀の頭上に落ちる。
 炸裂するデストロイブレード。
 起き上がろうとした銀を巨剣の刃が強引に地面に押さえつけ、逃げ場のなくなった銀の身体を、限界にまで溜め込まれたシルヴァの闘気が、これでもかと撃ち据える。
 ぱみーん……という、妙な音を立て、爆風の中から抜け出した銀は。
「……折れた?」
 なんとなく短くなった気がしつつ。
 それを確かめるよりも早く、銀は飛び出した体勢から即座に、地面擦れ擦れを風のように飛んでいた。
「正面からは点だが……側面から見れば線になる。当たり前のことだが」
 殺気を消し身構える切っ先を、飛翔する銀にあわせるテンユウ。
 その軌道は弧を描き、徐々に点のように……
「……点の攻撃も速さに慣れれば落とせる」
 今迄幾度、この動きを見てきたか。
 闇のマントが翻り、僅か捻った脇腹を、風がかすめる。
 がしん、と後方に突き立つ棒。
 見事その一撃をかわし切ったテンユウの握る剣、その柄で揺れる鈴が、涼しい音色と共に反撃の衝撃波を解き放った。
 後ろから押される格好で衝撃を受けた銀が、空制動を誤り、急上昇して宙返る。
 その周囲に湧く、無数の木の葉。
 天に向けて掲げた掌。傘のようにケラソスの頭上に展開した紋章から噴出する木の葉に、高速具で繋がった召喚獣の虹色が重なり、燃え上がる炎をも虹色に染め上げる。
「燃えてしまいなさい!」
 中空で激しく燃え盛る、緑の業火。
 消えない魔炎を纏わりつかせ、だが、銀はその場から一発逆転でも狙おうというのか、ぎらりと輝く身体を、今一度捩る。
「上等! こちとら賭け事には滅法強い性質なのよ?」
 こっちにくる。察したシキが言ったその時には既に、頭上に巨大な火炎の玉が形成されていた。
 背で繋がる召喚獣の力が与えられ、灼熱の赤から虹色へと変貌し、エンブレムノヴァは落ちるように襲い掛かる銀と真正面で衝突・炸裂。
 特大の炎は派手に弾け、打ち上げ花火のように虹色の炎を四方八方へ撒き散らす。
 だが、影は真っ逆さまに……
 痛みはなかった。
 それは、代わりに受け止めた者が居たから。
 間髪居れずで庇いに割り込んだガルスタは、己の身に突き刺さる棒引き抜き、放すまいと握り締める。
「弱き者護るため、己が道歩むため、いざ、我ら立ち上がらん」
 上がってくる血は吐き捨て、彼は自らの声で高らかに凱歌を歌う。一度で収まらぬ傷は、しかし。
「天使の回復なのじゃ〜!」
 イーリスが剣を掲げ広げた癒しの光を浴びて、跡形もなく消え去っていく。そんなイーリスに届く、ケラソスの声。
「回復残量はどうですか?」
「大丈夫じゃ、まだ三分の一は残っておる」
「そこまで待たせやしないさ!」
 遮るように、レイファがちょっぴり寸足らずになってもがく銀へと駆け抜ける。
 踊るように開いた蛇腹の軌跡に、舞い踊る薔薇の花。
 鋭く風を切る刃は、ガルスタから銀の棒を奪い取るように絡め取り、一気に引き絞って螺旋の傷跡を刻み付ける。
 最早、満身創痍。
 それをまた更に拾い上げ、後衛から引き放すように放り投げるマオーガー。
 ごすりと突き立つ衝撃でへし折れ、また少し寸足らずになる銀の棒。
 その傍らに。
 いつの間に近付いたのか。
 輝き失せた銀の棒とは対照的に、今もなお眩く輝く鎧と剣と召喚獣を引き連れて、ライバル(?)ヨハンが、銀の間合いへと無造作に入り込む。
 刹那、煌く銀光。
 それは、達人の一撃のせいなのか、色褪せた自分との比較によるショックなのか。
 やる気をなくした銀の棒は、ヨハンの剣に打たれるままに、からーんと地面に横たわる。
 その頭上を、何度目か巨大な剣の影が覆う。
 陽炎が見えそうなくらい、込められた闘気。
「こいつでお終いだぜ」
 渾身で振り落とされる、シルヴァの巨大剣。
 叩き付けられる凄まじい衝撃。
 銀の棒は無数につけられた傷跡にそって折れ、巻き起こった爆発の中で、粉々に砕け散ったのであった。

●埋
 砕けた本体が、きらきらと地面に舞い落ちる。
「本当に金属ものですか?」
 興味深そうに破片に触れるエルス。
 確かに、感触は金属っぽいが……本当に『銀』なのかは、微妙な気がした。
 ともあれ、残骸は丁重に埋葬される事に。
 拾い集められ、一所に埋められる銀。
 次こそは正義の名の下に生をまっとうできるよう。
 祈り、ヨハンは掲げた剣を、鞘へと収めた。


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作成日:2006/11/15
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