はじめての妹〜悩めるマリモさん〜



<オープニング>


「マリモさ〜ん、またこんなお手紙がきてたよ〜?」
 数枚の紙切れを手に、ぱたぱたとマリモに走り寄るユカ。
「……また? ふぅ……いい加減にしてほしいものね……」
 いささか疲れた表情のマリモがぴらりと開くそのお手紙には
 
 は〜い! ユカちゃんナコちゃんイルちゃん、そしてマリモちゃん元気〜!? 僕達はすっごく元気だおー! あ、元気って言っても変な意味じゃグシャリ
 
「はぁ……どうにかならないかしら」
 頬を突きながら憂鬱そうに外を眺めるマリモ。
「本当、その人達、この前も私の足をいやらしそうな目で見ていたんですから」
 さらりと流れる髪を耳にかけ、両手でティーカップを持ちながら呟くナコ。かわいい。
「ユカ、そういうのはよくわからないけど、天然系妹万歳? ってよく言われるよー」
 お気に入りのクマさんのぬいぐるみを抱えながら、んしょっ! と前に乗り出すユカ。かわいいなあ。
「そうそう! ボクにも『ボクっ娘萌えー!!』とか言ってきたことがあるんだよ!!」
 すっこんでろ。
「……どちらにしろこのままにしてはおけないわね……」
 マリモは顎に手を当てながら宙を見据え、そうね、と一つ頷いた。 
 
●依頼
「……みんな、依頼だよう……こんな不真面目な人たち、ボク許せないんだよ……」
 誰!!?
「……ふにゃ……あ、あ、いや、今のはなしなのです! 昨日少し夜更かしをしていたもので、ちょっと寝ぼけていたのですからして、今の出来事はきれいさっぱり忘れてほしいのです!!」
 ユバだ。
「……ごほっ、ごほっ、おぉぅっ、こほん……あー、あー、えーとですね、要するに以前護衛をしたユカさんナコさんイルさん達という歌い手3人組さんなのですが、最近どうも妙なファンに付き纏われているようで、またその人達からこれまた妙なお手紙が送られてくるようなのです!!」
 これなのです!! とひらひらと紙片を取り出す。
「人気があることはよいことなのですがこのような不真面目なお手紙を出す人達を野放しにしていてはいけないのです!! ぜひここはその3人をとっつかまえて厳しくお説教をしてほしいのです!! このお手紙を霊査したところいかにもな3人組の姿が見えたのです!!」
 先ほどの一件には断固として触れさせねえ、と言わんばかりにすげえ勢いで描かれていく似顔絵。
 どうでもいいけど、その顔にくっきりとついた枕のあとはつっこまないことが優しさか。

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参加者
笑劇の伝道師・オメガ(a00366)
未明の洋燈・ティー(a19469)
ヒトノソリンの邪竜導士・ブランシェット(a32419)
みなもを彩る水花の如く・レシュリアナ(a35804)
無垢なる白・ラシェット(a40939)
根性戦士・ウォード(a54098)
セイバーファング・ジル(a55823)
瑠璃の太公望・アリア(a57701)


<リプレイ>

●強制退場
「まてまてまて! 俺は奴らの仲間じゃない!!」
 警護隊に両腕を抱えられながらずりずりと引き摺られていく笑劇の伝道師・オメガ(a00366)。
 握り締めた紺色のブルマが、厳し過ぎる冬の訪れをそっと告げていた。
 
●力を合わせて
「彼女らに会うのも久しぶりね。覚えてるかしら私の事……まぁ、それはどちらでもいいんだけれども。でも、女性に不快感を与える輩は気に入らないわ。しっかり私達の手で更正させましょう」
 自分達7人が力を合わせ、きっとこの依頼を成功させてみせる。
 生命の監視者・ラシェット(a40939)はそんな決意を胸に秘める。確か酒場を出た時は8人だった気もするが、その方はハイドインブルマによってその存在を消されたのだと風の噂で聞いた。
「えと、ユカおねぇちゃんと、ナコおねぇちゃんと、イルおねぇちゃんは、ひさしぶりで、マリモおねぇちゃんは、はじめましてで、こんにちわ、なの。それで、んと、へんなおてがみのおにぃちゃんを、いっぱい、めっ、てしちゃおうかなって、いっぱいがんばってみるつもり、なの」
 ちっちゃなりょうてをぎゅっとにぎりしめながらさいごにうにゅっ、とうなずいてみせるみなもを彩る水花の如く・レシュリアナ(a35804)。相変わらずご本人様が物凄く妹属性を発揮されておりまして誠にありがとうございます。
「アイドルか〜。俺、見んのは初めてだな。今回の相手は、度が過ぎちゃったファンね。まぁ悪気はないんだろうけど、そこがタチの悪い所でもありそうだよなぁ」
 ぽりぽりと鼻の頭をかく根性戦士・ウォード(a54098)。がっしりとしたその体格は、きっと妹達にも心強いおにぃちゃんになれる資格十分である。
「今回は妹さんたちをつけねらう困ったさんを何とかするのですね。好きだからって困らせてはいけないのですよ。んー、でもちょっとだけならー……いえいえ、今回は行き過ぎなのですよっ」
 蒼翠望む・ティー(a19469)は少し傷む身体を揺すりながらうなずく。
「あ、ユカおねぇちゃんたち、なの」
「そうね」
 噴水の前に見覚えのある4人が佇み、その中の1人が近づいてくる冒険者達に気が付くと、ぶんぶんと手を振ってみせる。
「あ、レシュリアナちゃんだー!」
 ぴょん、と噴水から飛び降りるとレシュリアナに走り寄るユカ。
「久しぶりだね♪」
「ふみ、ユカおねぇちゃん、おひさしぶり、なの」
 互いに手を取り合い、再会の喜びをわかち合う。
「不貞の輩は必ず捕まえます、ご安心を〜」
 4人の依頼人に深々と礼をするセイバーファング・ジル(a55823)。
 今回お世話になる冒険者の真面目そうな顔ぶれに少し安心をしたのか、ええ、よろしくお願いします、と微笑むマリモ。前回までの冒険者が不真面目というわけではない。断じて、ない。
「じゃ、とりあえずの作戦なんだけど」
 素敵なおにぃちゃん、ウォードがそう切り出すと、一行は作戦の再確認を始めるのだった。
 
●突きン棒
「それにしてもいい天気ね」
 ユカ、ナコ、イル、マリモ、そしてレシュリアナとラシェットはトコトコと街をお散歩する。こんなにいいお天気であるにも関わらず、セクハラ男が存在するなど不届き千万である。
(「とりあえず様子を見ましょか、冒険者と見破られて警戒されてはいけませんし」)
 少し離れたところから6人を見守るジル。武器などをマントの下に隠しそろそろと歩く姿は、傍目から見ればどう見ても一般人である。と言いたいところだが、一般人はあまりマントを着用していないんじゃねーの。
『あやしげな人がいたら教えてね?』
 瑠璃の太公望・アリア(a57701)は鳥達にそう告げるとジルより少し前を歩く。
(「わ、私もずっと、舞台に立ってアイドルになりたいと思っていたですのなぁん。そういうお仕事ができるなら冒険者を辞めてでもって覚悟なのですのなぁん」)
 ユバからもらった萌え萌え3人組の似顔絵を片手に、前を歩くユカ達を見つめるヒトノソリンの邪竜導士・ブランシェット(a32419)。注目の眼差し。浴びせられる大歓声。今この瞬間、ブランシェット(15歳)はとっても輝いて。
「はぁ……いいものなのですなぁん……」
 明るい未来を夢見て呟くブランシェット。果たして自分がアイドルとして通じるのかどうか、それはあとのお楽しみである。
「あ! 屋台!」
「ユカおねぇちゃん……? ふえええぇ」
 レシュリアナの手を引っ張りながらトテトテと屋台に走り寄るユカ。レシュリアナは転びそうになりながらもなんとかついていく。
「ユカさんは相変わらずなのね」
 苦笑気味にその光景を見つめるラシェットに、ごめんなさいと謝るナコ。
 そんな謝ることないわよ、とナコに声をかけると、一行は屋台へと向かう。ちなみにナコの方がラシェットより年上なんだけどもね。見た目はね。
「あー、これも美味しそうだし、これも美味しそう! ユカ、迷っちゃうな〜」
 一つ一つ指をさしながら、首をひねりながら屋台に並ぶたこ焼きやお好み焼きを吟味するユカ。
「……どれかひとつになさい」
 はぁっ、と軽いため息をつきつつマリモが促すと、
「んと、んと……じゃあ……これ!」
 と指をさ
「わーい! ユカちゃん、僕のことを選んでくれたんだね!」
「いいやボクちんのことだ!!」
「なにおう! ボクちゃんのことだ!!」
 騒ぎ始める屋台の店員。
「あなた達……」
 すっとユカを背後にまわすと、前に立つマリモ。
「ああ! マリモさん! 今日もお美しく! はぁはぁしてもいいですか!! はぁはぁ!!」
「あ、ずるいぞ!! ボクちんだってはぁはぁ!」
「ボ、ボクちゃんだってはぁはぁしたい!! はぁはぁ!!」
 地べたをごろごろし始める3人。
(「は、はは……しょうがないなぁ……」)
 遠くで戦況を見守っていたウォードから乾いた笑いが漏れる。
 ゴスゴス
 ゴスゴス
 終始無言にて杖で3人組をつつき始めるラシェット。
「あぁ!! もっとついて!! ろりっ娘女王様万歳!!」
 ゴスゴス
 ゴスゴス
 突きン棒は、終わらない。
 
●ハイドインブルマ
「だからね! 俺は妹3人組に新たなアクセントをつけようとだね!」
「うるさいっ! そんなものを握り締めたやつの言葉を誰が信じるか!!」
「だーかーらー! これはなぁ!!」
 響き渡る悲痛な叫び。
 ブルマを握り締めながらの弁解も虚しく。
「とりあえずもう少しそこで反省してろっ!」
 バタン
 無情にも閉じられる扉。
 あんなことやこんなこと、まだまだいっぱいやりたいことがあったはずなのに。
「俺はあいつらの仲間じゃないからああぁぁぁぁ!!!」
 薄暗い監獄に、がしゃがしゃという哀の調べのみがやけに気高くこだました。

●捕縛
「不届き者はふんじばってやるのです!」
 ロープを手に、ごろごろしている3人の前に躍り出るティー。遠目から見ていてその異変に気が付き咄嗟に飛び出したのだ。まあ、大の大人が3人地べたに転がりつつ、いたいけな少女に杖で小突かれているところを異変と感じないわけはないのだが。
「ショートカット! ボーイッシュ! 萌えるぅっ! 萌え死ぬぅっ!」
「うっ……」
 ティーを目視するとさらに転がり始める3人組。思わず怯んじゃうティー。
 結局誰でもいいんかおのれらは。
 というか、またこういう展開なんですね。
「あの、おにぃちゃんたちは、ナコおねぇちゃんたちへへんなおてがみのおにぃちゃんですか?」
 レシュリアナがマリモの後ろから控えめに問いかける。いろんな意味で追い討ちとも言う。
「そうでーす! ボクちゃん達がへんなおにぃちゃんたちでーはべっ!?」
 ゴンッ、と、ラシェットは少しだけ強く小突いちゃった。
「……貴方達は彼女達の魅力を、『萌え』とかそんな単位毎でしか理解する事ができないのかしら? 『僕っ子』だとか『天然系』だとか『妹属性』だとか、変な記号つけるの止めなさい。そこだけしか見られてないのかと思って、悲しい気持ちになるわ」
 静かに呟くラシェット。耳が痛いとはまさにこのこと。みんなもよく反省するように。みんなって誰。
「おにぃちゃん、めっ、なの。そんなことをしてると、イルおねぇちゃんたちが、おにぃちゃんのことを、いっぱいきらいになっちゃうかもだから、えと、きらいになっちゃわないように、いっぱいがんばらなくちゃね、で、んと、マリモおねぇちゃんの、ゆうことをちゃんときいて、いっぱいがんばれば、ユカおねぇちゃんたちも、おにぃちゃんのことを、きらいになっちゃわないで、だいすきなおにぃちゃんで、いられるんじゃないかな?って、ちょっとだけおもうかも、なの」
 レシュリアナちゃんてば結構なげえけど割といいこと言ってる気がするよおおお!! で、一息?
「女の子の嫌がることをするのは良くないと思うのですのなぁん」
 ブランシェットも必死の説得を試みる。いつか自分がアイドルになった時のことを考えると、他人事とは思えない気がしないでもないのだ。
「大好きでも、直接的な行動で嫌われたら本末転倒ですよ。妹さん達のために、そっと心に秘めておくのも大切なのです」
 ティーもうんうんと頷きながらその心を説く。もちろん3人はロープで縛っちゃうけどね。
 よし、ここで一発ガツンとほら、ナコよ!! ウォードさんから聞いた一撃をお見舞いするのだ!!
「周りに迷惑かける人、キライです」
 冷たい視線と共に放たれる詞。
「はぁああああああ!! そういうキツイところもステキぃぃぃぃ!!」
 必殺逆・効・果!!
「ファンも結構、応援も結構、しかし全ては節度を守って行動しなければいけませんよ? 相手に嫌がられる等もっての外デス」
「ファンは結構コケコッコー!!」
 ジルの思いも空振りまくりで彼らの耳には届かない。
「……」
 後ろで見ていたアリアはすっと前に出ると、すたたんすたたんと踊り始める。
「むっ、いいひぃ! いいひぃいぁやぁぁぁ!!」
 それにつられてぐねぐねとうごめき始める3人組。
 なんというか、芋虫さんが地面をはいずりまわってるような、そんな怖い光景が繰り広げられる。
 さて、そこで本日の教訓。
 
 ――縛られている相手にフールダンスは鬼門――

「くぅー……すぴぴぴぴ……」
 幸せそうな笑顔で寝入る3人組。
 アリアの眠りの歌はついにその火を噴き、3人を永遠の眠りへと誘ったのである。
「彼女達のファンである事は問題ないの。ただ、彼女達に不快感を与えるのは良くないわ。なにが良くてなにが良くないのか。それをよく考えて、良きファンである事を心がけなさいな」
 夢見心地の彼らにラシェットの声は届いたのかは定かではない、が、
「お仕置きだよー♪」
 しょりしょり
 かがんだアリアが3人組に何かしているようだが、あまりにむごすぎてこれ以上はお伝えすることができないことが大変残念に思えます。

●デビウ
 わいのわいのと広場に集まる人々。
 今日は待ちに待った妹歌い手3人組の公演日。
 ステージ場には3人の妹たちが立ち、愛嬌を振りまく……って、なんか1人増えてるような。
「〜〜〜なぁーん♪」
 夢にまで見た晴れ舞台。
 ブランシェットはご機嫌で手を振る。今回の依頼が無事成功したことによるささやかなお礼を、と、マリモが気をきかせてくれたのである。
 ひとしきり挨拶が終われば妹たち4人による公演の始まりである。
「お〜にぃちゃん、おねぇ〜ちゃんなぁん♪ ずっと、ずぅ〜っとそばにい〜てね〜なぁん♪」
 ばたばたと振りをつけつつ踊る4人。妙な語尾がついている気もするがそこは気にせずに。
「……な、なぁ……なぁん♪? ふええ、なぁんが取れないのですなぁん」
 頬を紅く染めながらうつむいてしまうブランシェット。
 やはり自分には無理だったのか。そんな悲しい現実が、
「うおおおおお!! なぁ〜〜ん!!」
 盛り上がった観衆達にはその仕草がまたいたく可愛くうつったらしく、赤や青、黄色のハンカチが所狭しと舞い始める。よかったじゃなーい。
(「……んと、ね、ユカおねぇちゃんたちと、いっしょにおうたを、うたってみたいって、いっぱいおもったから、ちょっとだけいっぱい、がんばってみたの 」)
 流れる歌をぽそぽそと一緒に口ずさむレシュリアナ。
(「妹ねぇ……妹かぁ……妹、妹、妹妹妹妹妹」)
 妹達を見つめ続けているうちに妹高速思考展開しそうになっているウォード。
 かくして今回の妹依頼も、またしても大成功のうちにその幕を閉じたのである。

●OH! メガ!
 ぴちょん、ぴちょん、と、雫が規則的な音を奏でる。
 握り締めたブルマは明日への揺るぎない希望。
 ほんのちょっぴりだけど、心があったかくなるような、そんな不思議な気持ち。
「ユバが保証人になってくれるかなぁ。めっちゃ怒られるなこりゃ……」
 うん。
 きっと、なってくれないと思うよ?


マスター:湯豆腐 紹介ページ
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作成日:2006/12/04
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