大掃除をしよう



<オープニング>


「久々に酒樽亭に行きましょうか、泊まりで」
「へ?」
 突然のミッドナーの言葉に、アルカナはわけが分からないといった顔をする。
「どうも、放って置くと文化的な生活を営もうとしない方がいらっしゃるので」
 誰の事かというと、近くで冒険者スープを食べているデストの事なのだが。
「……放っておいてくれないか」
「ダメです」
 あっさり却下。確かにデストは放っておくと、人のいる所を避けるようにして野宿生活を営もうとする。
 依頼はこなしているし、決して貧乏という事でもないはずなのだが。
「ですから、文化的な生活をたまには営んで戴きませんと」
「……確かに文化的ではないかもしれんが、一人暮らしのノウハウは持っているぞ」
 その言葉に、女性2人の表情が思い切り固まる。
 ミッドナーの家は、正直人に見せられたものではない。使っていない場所か、散らかした場所しかない。
 アルカナの家は、家というのもはばかられる。あちらこちらから集めてきた宝物置き場という言葉がピッタリである。
「……自分をどうにかしたほうがいいんじゃないか?」
 それは、まさに痛恨の一撃。
 女性としてより、人間として大切な何かが傷ついてしまったような気がする。
「……ミ、ミッドナーの家の大掃除とかにするのはどうかな?」
「……そ、それは……」
 さすがにたじろぐミッドナーだが、家が綺麗になるというのは悪くない。自分一人では体力も時間も足らないのが実情ではある。
 散々悩んで、悩みぬいて。
 こうして、此処に大掃除計画が発動したのであった。

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参加者
NPC:夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)



<リプレイ>

●秋のミッドナー邸
 今日は、とても良い日和。
 透き通るような空の下、漢・アナボリック(a00210)にそっくりなネコミミメイドのブロンズ像がたっている。
 本人であるはずも無いと判断され、トレジャーハンター・アルカナ(a90042)が用水路にそれを放り投げる。
「ダメですよ、ちゃんと指定の場所に捨てないと」
「あ、そうだったんだよ。ごめんね」
 何事もなかったかのように夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)は家の扉を開ける。
 鍵がかかっていないのか、簡単に押すだけでそれは開いた。
「わーい!」
 扉が開くなり駆け込んでいく紫月の雫・チェル(a58491)。
 ミッドナーも続けて久々の家に戻ろうとして、振り返る。
「……どうしました?」
「……鍵は?」
「ありませんよ、そんなもの」
 悪をぶっ飛ばす疾風怒濤・コータロー(a05774)の言葉に、ミッドナーはアッサリと答える。
「……鍵をかける必要性が何処に?」
 この町には盗賊など来ないし、よって鍵をかける必要などない、というのが彼女の言い分らしい。
 問題は他にも色々あるような気はするのだが、ミッドナーに他人を疑えという方が難しい事ではある。
 元より鍵とは、性悪説に基づくものなのだ。
「……何か?」
 翔剣士・ヘルムウィーゲ(a43608)の視線に気づいたミッドナーが振り向くと、ヘルムウィーゲは何かを期待するような顔をしている。
 光纏う黄金の刃・プラチナ(a41265)に耳打ちされて気づき、何事かを小声で言い合う……が、やがて観念したように1つ咳払いをして。
「……どうか、最良の結末を」
「では最良の結末の為に、最善を」
 確かに全ては最良を迎えて然るべきだが、自分の家の掃除の最良って何だろうか。
 ふと、そんな悲しい事をミッドナーは考えていた。
「……まあ、ミッドナーも日々大変だろう、皆で綺麗にしようか」
 白霧ノ楔・レゾ(a57127)の言葉に頷いて中に入ると、そこはあまり使われた様子が無かった。
 そう、というよりも。実際、此処はあまり使っていないのだろう、色んな意味で。
 石床の上についた足跡が、住人が居ないのではないかという雰囲気すら醸し出していた。
「こ、これは……!」
 その惨状に、紫苑の献身犬・クァン(a56402)が使命感に燃えた顔を見せる。
 家事大好き人間としては、かなり燃えるものがあるらしく、早速箒を取り出して掃除を始める。
「まずは大掃除の効率を30%アップする為のポージングを皆に伝授するぎゃ!」
「それは後でお願いします」
 いきなり戦力が1人減っては堪らない。
 赤い風・セナ(a07132)の背中を押しつつミッドナーは奥に入っていく。
 こうして、多少の不安をはらみながらも掃除は始まったのだった。

●ただいま掃除中
「こまめに掃除をするというのは、自分が楽をするためなのだぞ。長期間溜め込むから自分の手にはおえなくなるのだ」
「なるほど」
「常日頃から整理整頓を心がけ、片付ける習慣を付けておけば良いのだ。習慣付けておけばさほど労とも思わなくなる」
「なるほど」
 守護者・ガルスタ(a32308)が、掃除をしながら近くにいるミッドナーに薀蓄を語る。
 当のミッドナーはというと、掃除時に引っかかりやすい罠である「懐かしいものに見入る」事をしている。
「……聞いているのか?」
「聞いてますよ」
 どうやら、生返事ではないらしい。
「うっわ、ひで」
 彩雲追月・ユーセシル(a38825)が扉を開けると、そこには様々な道具類が所狭しと積まれていた。
 あまり上等なものがあるようには見えないが、冒険者にはありがちな戦利品の群れであろう事は推測できる。
 ほぼ未分類のまま積まれている道具類には、大量の埃が積もっていた。
「ひぃ崩れた!? 換気ー換気ー」
 崩れた道具類にセナが埋もれたような気もしたが、それはさておき。
「綺麗好きの闘志が汚れを許すなと叫んでるよ。掃除こそ我が領域、拭き掃き磨き洗浄廃棄なんでもござれ」
 ユーセシルの指の間に、様々な掃除用具が現れていく。
 彼もまた、掃除が得意な人間としてのプライドがあるのだろう。
「今や覚醒したこのユーセシルの前では汚れも埃も黴もこの場には許さないよ」
 テキパキと掃除をこなしていくユーセシル。掃除に片付けに分類に。
 セナを掘り起こして2人でやれば、決して出来ない量では無かった。
 そして、その頃。
「ほら、ミッドナーどいたどいた。ここまで散らかし……散らかし……」
 ドアを開けた天魔伏滅・ガイアス(a53625)は、そこの光景に絶句する。
 散らかっていない。というより、物が無い。
 殺風景、では無い。何も無い。
「……これが本当に年頃の娘の家かぁ?」
「何か買う必要性を……感じませんし」
 考えてみればミッドナーとて、かつては東へ西へと飛び回っていた戦闘職の冒険者だったのだ。
 家具とかのかさ張る物に対する想いが、あまりにも薄いのかもしれない。
「これだけ散らかっていると、掃除のしがいがあるわ♪」
 一方の部屋では大量の羊皮紙が散らばっており、紅月の雫・セシル(a55640)が蒼月の雫・クリス(a56132)と一緒に楽しそうに掃除をしている。
 この部屋にある羊皮紙類は要らないものだと聞いているので、気楽なものだ。
「しっかし……なあ」
 クリスはそう言って首を振る。
 散らかっているように見えたが、こうして片し始めて見ると、この部屋には椅子と机……そして羽ペンと羊皮紙しか無い。
 スペースの無駄遣いもいい所だった。
 そんな事に気づいて、ふと溜息をついた時、チェル(a58491)の腕に何か見たようなものがあるのをセシルは見つける。
 離れていた兄弟の、ふとした再会。多少ムードは無いが、3人はそんなささやかな運命を喜び合った。
 ちなみに、3人が再会を喜びあっている間に現れた東方ドリアッド所属・アスゥ(a24783)が、テキパキとした動作で部屋を片付けていったそうである。
「ふう……まさか台所に埃が積もっているとは思いませんでしたわ」
 かつて家事修行をしたミッドナーではあったが、何だかんだでおざなりになっていたらしい。
 普段から冒険者の酒場に居るのであるから当然ではあったろうが、黒玻璃の月華・ルレイア(a34066)はある種の哀愁を感じざるを得なかった。
「簡単に片付けて水拭きで良さそうだな」
 そう言って暁天の武侠・タダシ(a06685)が辺りの空樽を台所の外へ運び出していく。
「この辺りの酒瓶は空いてるか……」
 その近くで依頼依存症・ノリス(a42975)もまた、酒瓶の分類を始めていた。
 まるで何処かのワインセラーと化した台所は、酒屋が開けそうなくらい多種多様な酒が積まれていた。
「むむっ……これ捨てるのなら、譲ってほしいですなぁ〜ん!」
 ガラクタを集める者・トリン(a55783)が樽を見つけて磨き始める。
 捨てる神あれば、拾う神あり。
 これもまた、大掃除の醍醐味である。
「さて、と……ひとまずはこれで捨ててくるか」
 ノソリン車にアスゥから受け取ったゴミを載せていた悪をぶっ飛ばす疾風怒濤・コータロー(a05774)の前に、デストが現れる。
「ん? どーした?」
「これもゴミだそうだ」
 そう言ってノソリン車の荷台に乗っけたものは、何故かブルマを被った笑劇の伝道師・オメガ(a00366)。
「……なんだこりゃ?」
「良く分からんが。箪笥に妙な衣装を仕込んでた所を見つかったらしい」
 手に取るように状況が理解できたコータローは、そのまま何も言わずにノソリン車を動かしていく。
 下手に触れない方がいい状況というものも、時として存在する。
「ス、スーツとワイシャツと……普通の服が全然無いのじゃ」
 衣装棚を整理していたプラチナが、予想通りの状況に絶句する。
 ファッションに興味が無い事は知っていたが、此処までとは思わなかった。
 持ってきた婦人服が幾らかあるが、果たして着るかどうか。
「かつて、酒樽亭で学んだ掃除スキルを発揮する時が来たようね。我が手腕、篤と御覧あれ」
 悩むプラチナの後ろで掃除をしていた欠片の少女・ルノア(a42211)は、デストが掃除している姿を見ていない事を思い出す。
 まあ、デストがあの仏頂面で掃除をしている姿というのは、想像するだけでなんだかアンバランスではあるのだが。
「出来る」と「やる」は違うということだろう。
 実際、その辺りは本人のやる気次第だ。
 掃除も終盤に近づき……意外と気づかない壁をしっかり丁寧に寵深花風なリリムの姫宮・ルイ(a52425)が磨き上げたおかげで、ほぼ新築のような雰囲気すら漂わせていた。
「ふう、大分片付いてきましたわね……」
 言いながらも掃除を続ける紅色の剣術士・アムール(a47706)の所に、美味しそうな匂いが漂ってくる。
「あら、この香りは……」
 スープの香りに、肉を焼く匂い。
 人数分の材料を用意してきた者がたくさん居たらしく、恐らくは豪華なメニューに仕上がっているのだろう。
「……良い香りですね」
 深淵の流れに願う・カラシャ(a41931)も手を止めて、台所から漂ってくる香りに想いを馳せる。
 程よく疲れて、きっと美味しく味わえる事だろう。

●ただいま宿泊中
「準備くらいはそれこそ毎日でもいいけどな。でも片付ける習慣くらいはつけておいたほうがいいぞ」
「はあ、そうですね……」
 タダシに説教されるミッドナーの近くでは、酔いどれ人魚・フレイ(a49912)が気持ち良さそうにお酒を飲んでいる。
「あ、それは私の……」
「まぁ、ほら、酒飲みは皆友達って事で……」
「な……こんなもの、何処から……」
「台所から?」
 何やら壮絶に交し合う2人を他所に、セナがタダシに酌をする。
「ま、なるようにしかならんぎゃ」
「だよなあ」
 その言葉に、コータローが頷いて。
「かぁーっ、一仕事した後の酒は五臓六腑に染みるねぇ!」
 ガイアスが、あっという間にコップに入った酒を飲み干してしまう。
 そんな風に青年組が酒盛りをしている横の部屋では。
「……」
 色々と考えすぎて眠れないルノアが、目を閉じる。
「……任務、完了、むにゃ」
 そんな平和な寝言が聞こえてきて、思わず気が緩む。
 そう、此処は平和な空間。それを自覚できて、やっと眠りにつけそうだった。
 そして、そんな喧騒からも静寂からも離れた屋根の上で、デストは一人空を見上げていた。
 特に浪漫や詩情に浸るわけでもないが、夜空は嫌いでは無かった。
「暖かい内にどうぞ」
 ふと横に差し出されたポトフに気付くと、其処にはルレイアが立っていた。
 拒否する理由も思い当たらないので、受け取って食べる。
 まさか、こんな所に探しに来るとは思わなかったが……。
「又、作った時には食べて頂けますかしら……?」
 そんな事を言うルレイアに、どう答えたものか迷う。
 約束とは、互いを縛る鎖に他ならない。
「……気が向いたら、な」
 考えた末、そんな事を口にする。
 ルレイアが去った後、再び夜空を見上げる。
 程なく、再び声がかけられる。
「デスト様、少しお酒はいかがでしょうか?」
 やはり、特に拒否する理由は無い。
「……貰おう」
 持参してきたらしい酒を飲んで、夜空を見上げる。
 横にシャナが肩を並べて座っていたが、特に気にする事も無く。
「……一杯飲んだら、中に入って寝ろ。近頃の夜は冷える」
 そう言って、再び夜空を見上げる。
 いつの間にかシャナの気配は消え、再び誰かが現れる。
 視線を下ろすと、そこには真夜中に降り積もる牡丹雪・ユキノシン(a37388)の姿があった。
「デストはん、一杯どうや?」
 やはり、特に断る理由は無い、のだが。
「……何とも物好きの多い夜だ」
 そう言って、杯を受け取る。
「デストはん、野宿生活をするんやって。今度、何か上手いもん取れはったら持って来てくれへんかのぅ?」
「……気が向いたら、な」
 他愛も無い会話をしながら、酒を飲む。
「何になりたいん?」
 他の会話と変わりないように思えるが、何かを込めたユキノシンの問い。
 けれど、デストは今までの会話と変わりない調子で答える。
「……俺か? 俺はな……俺になりたいのさ」
 自嘲するように、しかし。まるで明日の天気を語るかのような調子で。
 それ以上、特に語る事も無く。ただ、夜空の星を肴に飲み続けた。
 こうして、夜は更けて行き。ミッドナー邸の大掃除は静かに幕を閉じたのだった。


マスター:じぇい 紹介ページ
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