悪意の黄金



<オープニング>


 黄金。もっとも分かりやすい宝の1つ。
 その輝きは大抵の人間を魅了し、その内に潜む欲を暴きだす。
 黄金。もし、目の前にそれがあったとしたら。
 怪しいと思う事もあるだろう。
 だが、もし怪しくなかったなら。
 回りに、他に誰も居なかったなら。
 手を出さずにいられる人間がどれ程居るだろうか。
 つまりは、たったそれだけの悲劇だったのだ。
「……1つの村が滅びました」
 ミッドナーの口調は、酷く重い。
 そのモンスターの特性として、1つ大きなものが挙げられる。
 何かがその体に触れたならば、辺りに居る人間を壊しつくすまで暴れ続ける。
 たったこれだけに過ぎない条件が、その村で発動してしまったのだ。
 それは、モンスターの姿に原因がある。
 普段はその身を丸めるようにして硬くなっており、外から見た感じはさながら黄金の財宝そのもの。
 体の突起がコインや様々な財宝に見える所が、その姿を財宝と誤認する原因に拍車をかけている。
 つまりは、それを宝と勘違いして触れてしまったのだ。
「愚かと笑う事など出来ません。悪いのは彼等ではなく、モンスターなのですから」
 モンスターは、未だ村に居座り続けている。
 静かに、ただ静かに。
「……霊査した所、2人の女性がまだ、生き残っています。名前はアリアとメル……村の何処かの家で恐怖に震えながら隠れているようです」
 幸いにもまだ生き残ってはいるが……いつ、どんなタイミングでモンスターの体に小石か、崩れた家屋の欠片か……何が触れるか分かったものではないのだ。
「どうか……最良の結末を」
 ミッドナーは、そう言って軽く一礼するのだった。

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参加者
夜鎖・シンヤ(a14569)
紅蓮の獅子・ディラン(a17462)
生屍・レイオット(a19271)
白の戦鬼・ブラス(a23561)
斬空術士・シズマ(a25239)
怨嗟の黒狐・シイナ(a37130)
紫霞の・カオル(a48252)
楽園の小飛虎・リィザ(a49133)


<リプレイ>

●瓦礫の村へ
「……酷いな、これは」
 白の戦鬼・ブラス(a23561)の呟きは恐らく、全員の気持ちを代弁していただろう。
 村の建物のほとんどは崩れ落ち、辺りには未だ消えぬ濃厚な血の匂いが漂っている。
 それも当然だ。彼等の死体をかたす者など居ないのだから。
 飛び散った「死」は、強く匂いを放っている。
 そう……村中に、「死」が広がっている。
 そして、これをもたらしたモンスターは未だ、村の何処かに居るのだ。
「悪意の黄金……ですか。古来より黄金には人を堕落させる性質や害があると聞いたことがありますが……まさか現実にそのようなモンスターが存在しているとは……」
「……何とも醜悪なモンスターですわね」
 黒閃・シズマ(a25239)の言葉に、楽園の小飛虎・リィザ(a49133)がそう言って首を振る。
「そんなものが転がってたら、ついつい触っちゃうのも無理ないよ。ただそれが原因で……皮肉だね」
 そう、夜鎖・シンヤ(a14569)の言う通りだ。
 誰が責める事が出来ようか。
 触ったであろう人物は、恐らくは最大の恐怖と共に……もはや粉微塵となってしまっているのだから。
 それは、充分すぎる程の贖罪だ。
 そして何より……責められるべきは、村人では無いのだ。
「……偽りの黄金で人々を惑わす金獅子、か。人知れず死に場所を求め、戦いの中で最期を迎えた気高き雪獅子とは大違いだな」
 獅子の魂を継ぎし者・ディラン(a17462)は己の中に秘めた誓いと共に、剣を握る。
 それは称号に獅子を背負う者としての想いもあるのだろう。
 だが、何よりも共通の想いは、冒険者としての怒り。
 そう、責められるべきは村人では無くモンスターなのだ。
「どっちにしろ……楽しませてもらおうか」
 高揚感を求め、生屍・レイオット(a19271)は呟く。
 この死の匂いが立ち込める村にも、未だ生きている女性がいる。
 それを助ける事も、彼等の重要な使命なのだ。
「……居ない、か」
 シンヤが辺りを見回すが、そこには鳥一匹見えはしない。
 この余りにも濃厚な死の匂いが、動物達を遠ざけているのだろうか。
 いや……猫が一匹。この小さな村にも、猫の一匹くらいは居るという事か。
「お腹空いて無い? 手伝ってくれたら満腹にしてあげるよ」
 獣達の歌で話しかけたシンヤは猫との交渉を済ませ、仲間達と二手に分かれて歩いていく。
「皆さん、気をつけて……」
 怨嗟の黒狐・シイナ(a37130)の言葉に全員が頷き、歩いていく。
 救うべきは、2人の女性。
 倒すべきは、悪意の黄金。

●瓦礫の村にて
 1人目は、驚く程あっさり見つかった。
「……そこの方、まずはそのまま動かないでください」
 怨嗟の黒狐・シイナ(a37130)の言葉に、女性は身をビクリと震わせる。
 当然だろう。こんな場所に人が来るなんて思ってはいなかったし、動くなと言われるなどとも思わなかっただろう。
 混乱した頭は、何をどうするべきかが全く分からなかった。
 敵だとか、味方だとか。そんな事すら分からない。
 だからこそ、シイナの呼びかけは的確だった。
 もし、この場で呼びかけを間違えたならば……彼女は恐慌状態に陥っていたかもしれない。
 助けに来た、という呼びかけは極限状態ではプラスに働くかマイナスに働くかは五分五分だ。
 特に、今は刺激を与えてはいけない「悪意の黄金」が何処にいるか分からない状況だ。
 つまり、この状況で正しいのは「動くな」という呼びかけということだ。
 ブラスが「生存者発見」の印である3回の笛を吹く。
 仲間達が今何処にいるかは不明だが、恐らくは届いているはずだ。
「……貴女の名前は?」
 聞きだせる事は聞きだしておきたかった……が、女性からの答えは無い。
 ある種、当然ではある。
 一般人である女性が、この極限状態において質問に答えられる状況にあるだろうか?
 そして当然、固まるようにして動かないでいた彼女は、1人で立てる状況では……いや、歩く事すら不可能だろう。
「ボクが運んでいくよ」
 此処までの道程の安全は保障されている。
 紫霞の・カオル(a48252)は女性を背負って歩き出す。
 一時的に1人戦力が減ってしまう事にはなるが、彼女を此処に放って置くよりは余程いい。
「任せましたよ」
 そう言って、シズマは再び辺りに注意を払う。
 一刻も速く、悪意の黄金を探し出さなければならないのだ。
 そう、これは勝負だ。
 悪意の黄金が暴れ始めるのが先か、冒険者達が悪意の黄金を見つけ出すのが先か。
 一瞬たりとて、無駄に出来る時間は無い。
 そして、その頃。ディラン達もまた、瓦礫の中を歩いていた。
 村の南から始めた探索は、かなり難航していた。
 それもある種当然ではある。
 ディラン達が担当している方角は比較的、家々の損傷が少ない箇所が多い。
 しかし、損傷が少ないという事は其処に生き残りの女性がいる「かもしれない」といった事でもある。
 そしてほんの少しでも可能性がある限り、見落としは許されない事を彼等は知っている。
「アリア、メル! いるなら返事をしてくれ!」
 レイオットが家の入り口から入り、叫ぶ。
 少し期待していたような返事は無い。
 けれど、返事が無いから居ないという訳でもない。
 恐怖に耐えかねて気絶しているという可能性だってあるのだ。
 いや、それならまだいい。
 恐怖に耐えかねた人間が、例えば思い切り走り出して。
 例えば、その時に蹴り上げた小石が「悪意の黄金」に当たりでもしたら。
 その時に彼等が出会うものは、新しい死体と襲い来る「悪意の黄金」という事になってしまうのだ。
「……祈るしかないね」
「……そうですわね、悔しいですが……」
 シンヤの言葉に、リィザが頷く。
 見つかれば、それで良し。しかし、見つける事が出来なければ。
 気づかず汗ばむ手を、シンヤはしっかりと握り締めた。
 そして……その時、村中に響き渡らんという大きな笛の音が、響き渡った。
 2回目の音は無い。それはすなわち、戦闘中だという事。
 笛を吹いたブラスは、そのまま一歩下がって黒炎覚醒を発動する。
 目の前に居た悪意の黄金が、何故戦闘形態になっていたのか。
 恐らく、大した理由は無いだろう。
 ほんのちょっと小石が当たったとか、あるいは風に飛ばされた枯葉が触れたとか。
 恐らくはその程度。けれど、それだけで充分なのだ。
 噛み付かれた肩を抑えつつもイリュージョンステップを発動したシズマは、まだB班からの笛の音が無い事を思い出す。
 まだB班が女性を確保していないならば、此方への到着は遅れるだろう。
 つまり、それまでの間持ちこたえなければならない。
 そして、足止めしなくてはならないのだ。
 シイナの身体を黒炎が包み、カオルの鎧聖降臨がシズマに発動する間にも、悪意の黄金は身体から黄金の欠片を弾き飛ばしてくる。
 黄金の欠片は恐ろしい速度で飛来し、ブラス達の身体を貫いていく。
「つ、強い……!」
 此方が準備を終えるまで相手が待ってくれるはずもなく、そして一撃が重い。
 すぐにヒーリングウェーブを発動するが、回復力が足りていない事は明らかだった。
 シイナのデモニックフレイムが悪意の黄金に喰らいつくが、苦悶の声をあげるとそれを振り払う。
 派手な外見から予想はしていないわけでは無かったが、術的な防御力も備えているようだ。
「我が刃に……斬れぬもの無し!」
 シズマが夜鴉を構え、悪意の黄金のスピードに負けじと追いすがる。
 2人のスピードは、ほぼ同等。やがて放たれた薔薇の剣戟は悪意の黄金を捕らえ、しかし2度の連撃で終わってしまう。
 やはり、そう簡単には仕留められないという事か。
 放たれた黄金の光線を受け、思わず苦痛に顔を歪ませる。
 やはり、足りない。手数も、回復力も、何もかもが。
「僕は……退きたくない。必ずしとめますよ」
 シイナの言葉に、冒険者達は決意を新たに武器を構えなおす。
 だが、このままでは。そう考えた時……B班がもう1人の女性を発見した事を示すトランペットが鳴り響く。
 それから大分たって、ではあるが。B班の仲間達が悪意の黄金の姿を確認して走りよってくる。
「ライオンハート、ディラン・トルーブレイド! 推して参る!!」
 やっとの事で合流したディランが叫び、獅子王を引き抜く。
 レイオットの放った緑の業火が、悪意の黄金を消耗していたA班の仲間達から引き離す。
 時間が予想以上にかかりすぎた。
 A班の笛がなった地点は分かってはいたが、あれから随分移動していたが故に、正確な場所を割り出すのに時間がかかった。
 戦闘の音が無ければ、もっと時間がかかっていただろう。
 だが、追いついた以上はもう大丈夫だ。
 これ以上、絶対にやらせはしない。
 リィザの斬鉄蹴が悪意の黄金の装甲を削り、しかし強烈な光線が彼女を数歩後退させていく。
 シンヤの高らかな凱歌が響き、消耗していた仲間達も立ち上がっていく。
 だが、それとて悪意の黄金にとっては些細な事だ。
 中々倒れない人間が、性懲りもなく立ち上がった。ただそれだけの事だ。
 強烈な咆哮と共に、黄金の竜巻が巻き起こっていく。
 それは、余りにも圧倒的な威力を伴ってレイオット達を切り刻んでいく。
「……流石だぜ。来いよ、もっとオレをアツくさせてくれ!」
 何とか踏みとどまりつつも、ディランは。レイオットは、シンヤは……仲間達は、闘志を失わない。
 それは、守りたいものがあるから。
 それは、倒すべき敵があるから。
 それは、強い意志があるから。
「……ここを通させなどしません。ここで確実に終わらせます」
 シズマは、そう言って再び悪意の黄金へと接敵する。
 そう、守りたいという意思は何よりも強い。
 それは、モンスターには無くて、冒険者達にはあるもの。
 何処にでもあって、誰でも望めば手に入れる事が出来て。
 でも、持ち続けるのには確かな意思が必要で。
 けれど、きっと。それは無限へ届く力。
 故に。冒険者達が悪意の黄金に負ける理由は。
 少なくともこの場所には存在していなかったのだ。
 
●滅びた村
「……その。ありがとう、ございました」
 そう言って、アリアは頭を下げる。
 村には未だ死が濃厚に漂い、埋葬するには手が足りなさすぎた。
 恐らくは、このまま風葬か……残酷な話ではあるが、土に還るのを待つばかりだ。
 村自体が、墓標というわけだ。
 未だ震えるメルを支えるようにして、アリアは頭を下げる。
「これから……どうなさるんですの?」
 そんなリィザの問いに、アリアは力無く笑う。
「……分かりません。でも、生きてますから。知り合いを頼ってみようと思います……彼女と、一緒に」
 それは、一種の親近感だろうか。どちらにせよ、メルをこのまま放って置くわけにもいかなかったのだろう。
 シイナは2人の姿を見て、思う。
 今度の事における、最良とは何だったのか。
 こうなっては、それは分からないけれども……二人が生きていることが幸いと言えるならば、あるいは。
「僕の存在にも、もしかすると意味があるのかもしれません、が」
 そう呟いて、2人を送っていこうと話す。
 その言葉に、仲間達も頷いて歩き出す。
 濃厚に死が満ちる村に、一陣の風が吹いていく。
 その風に乗って流れていく匂いは……1つの村の終焉を、静かに告げていた。


マスター:じぇい 紹介ページ
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獅子の剣を鍛える者・ディラン(a17462)  2009年09月03日 16時  通報
…オレとしては、オレらしく振舞えたことで満足だけどな。ラストが何とも切ないぜ…。