ゴールデンランプ



<オープニング>


 眩い輝き。
 魅惑の輝き。
 黄金の輝き。

 その黄金の塊は、とてもとても見晴らしのいい、草原のど真ん中にあった。
 様相はさながら、大地に生えた『瘤』。
 瘤は、じっとしていた。
 枯野の茶褐色の中で、爛々、煌々と、独特の光沢を放ちつつ。
 ただ、じっとしていた。
 どのような効力が働いているのか、時折陽光を受けて鈍い光を放ったかと思うと……何故だか、輝きに引き寄せられ、足は勝手に前へ前へ。
 だから、じっとしていた。
 動く必要がないのだ。
 それほどまでに恐ろしい、黄金の魅力。いや、無論金だからというだけでなく、何かアビリティのような力が働いているとは思うが。
 動かない黄金の瘤はしかし、動かないなりに、様々な術を用いる。
 黄金フィールドを広げて金に有利そうな戦場を構築してみたり。
 無数の金箔が蝶のように舞い踊る変な幻覚を見せたり。
 周囲の空間を金色の光で満たして視界を遮ったり。
 延べ棒のような部下を生み出して攻撃してきたり。
 黄金の光線を全周囲にばら撒いたり。
 金の力で理性のタガを外させたり。
 ……なんとなく腹が立つ様々な攻撃を仕掛けてくる。

 なんにせよ、危険な存在には変わり無い。
 何とかしては貰えないだろうか。

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参加者
玄鱗屠竜道士・バジヤベル(a08014)
愚者・アスタルテ(a28034)
美しき猛き白百合・シキ(a31723)
守護者・ガルスタ(a32308)
悪鬼羅刹・テンユウ(a32534)
同盟の白い悪魔・エスティア(a33574)
幻想舞踏・フィニス(a33737)
存在が骨董品な・オレサマ(a45352)
天魔伏滅・ガイアス(a53625)
狂天童・リカーシュ(a57358)


<リプレイ>

●光
 ……光ってた。
「これだけ事前偵察のしがいの無い敵も初めて、です」
 遠い眼差しで、失格者・アスタルテ(a28034)が遠眼鏡を仕舞い込む。
 終焉の白・エスティア(a33574)は、ただじっと佇む黄金の瘤をまじまじと見つめ。
「私は金より真鍮とか銀とか、白金の方が好きなんですけどね〜」
「金に執着するあまり金塊モンスターになっちまったってかぁ?」
 金の光に対すべく、黒眼鏡越しに敵を見つめる、天魔伏滅・ガイアス(a53625)。
 余程、黄金に拘りがあったのだろうか。
 動かないまでも、何か行動の癖くらいは。思い、幻想舞踏・フィニス(a33737)もまた黄金を見据えるが……射程内に何も居ないせいか、目立った動きはない。
 実に……ある意味で間抜けとも言える敵だが、やるべき事は唯一つ。悪鬼羅刹・テンユウ(a32534)は両の手にした得物を確かめるようにしながら。
「なにはともあれ、砕くしかあるまい」
「放っておいたら周りにどんな影響が出るかわからんしね」
 手早く施すのは鎧聖降臨。愛の捕獲人・オレサマ(a45352)は今の内にと、自分を始め、仲間の着衣や鎧へと次々に加護を与えていく。
 とはいえ、一人でやるには結構な時間。
 前衛から順に鎧聖降臨するオレサマを手伝う為、守護者・ガルスタ(a32308)は後衛陣から順に、鎧聖降臨を施していく。
「己が想いを示せ、纏いて鎧と為せ、其が汝の力なり」
 唱えた言葉に応じ、見る見ると姿を変える着衣。
 白銀の全身鎧風に姿を変えた我が身を見回し、美しき猛き白百合・シキ(a31723)はちらと黄金と見比べるようにして、皆に問う。
「白騎士って感じでカッコよくない?」
「よく似合ぅておるよ」
 いくばかりかのほほんと。しかし、その身には既に黒炎を纏い、玄鱗屠竜道士・バジヤベル(a08014)が頷きを返す。
「さて、ガラクタはガラクタらしく、ぐちゃぐちゃに成ってもらおうよ」
 しゃらんと抜いた剣を握り、嗤う白幻・リカーシュ(a57358)が壊すべき目標へと、一歩を踏み出した。

●輝
 近付く敵影……というのは、黄金から見ればの話。
 見通しの良さは相手にとっても同じこと、獲物が来たとでも思ったか、黄金の瘤は突然輝きを増し、かと思った次の瞬間、黄金の周囲、枯れ始めた草原とその地面が、金色の光を放ち始めた。
「ひょっとして、あれが『金に有利そうな戦場』、ですか」
 ぴかぴか輝く大地。見た目は兎も角、現実的にはどのように金に有利なのか……領域の上書きは一先ず置いて、アスタルテは両手で握った杖を構え、一気に間合いを詰めていく前衛陣の背を見つめる。
 そして、そんな皆の頭上を一足先に、禍々しい棘を備えた矢が一筋。
 布陣する皆の最後方、震える弦はそのままに、自らが射た鮫牙の矢の行く先を視線で追うエスティア。
「破片が飛び散るんでしょうかねー……」
 黄金の出血とはこれ如何に。
 矢は深々と突き刺さり……砂金っぽいものがさらさらと零れ出したではないか。
 と、その周囲に、黄金を更に鮮やかに彩る炎の木の葉が、虹色に輝いて舞い踊る。
「跡形も無く蒸発しちゃいなさい!」
 しゃんと伸ばした背筋はそれこそ騎士さながら、古代文字を刻む刀身を掲げるシキの眼前、展開した紋章から噴出する緑の業火が、黄金を取り巻いて燃え上がる。
 本物の金ならば熱に弱そうであるが……眼前の瘤においては、煤は残れど形状に変化はなく。
 だが、そこには既に、別の脅威が。
「そちらの硬さは承知している……一気に砕かせてもらうぞ」
 両の手の先に込めるのは闘気。
 新たな外装を得て力を増した一対の短杖。そこに宿るテンユウの気迫が、矢を受け砂金零す傷口を叩いた瞬間、爆発となって顕現する。
 中々の手応え。
 反発に弾かれるまま、飛び退いて間合いを計るテンユウと入れ替わるように、こちらもまた二振りの得物を手に、ガルスタが間髪居れず肉薄。
 傍らに浮かぶのは護りの天使。
 授かった力と渾身を込めて、金粉舞う傷へと、斬撃を落とす。
 響く硬質な音。
 同じく護りの天使を引き連れて。塊と思えぬ残響に嘆息交じりの苦笑を零し、オレサマが手にした剣を一閃する。
「金ってもっと柔らかいものじゃないのか」
 やはり、一応はモンスターだからなのだろうか。
 音に違わず柄に戻ってくる感触に、如何ともし難い想いが沸く。
 だが、装甲など、透過してしまえば難ということもなし。
「切り裂いて、ざ〜んて〜つ♪」
 巧みな足捌きも今は一旦置いて、リカーシュが手にした剣を薙ぐ様に振るう。
 迸る衝撃波が、金の大地を渡り、飛ぶ。
 とはいえ、効いているのかいないのか。内部に消えた衝撃波を受けてなお、黄金は無表情に佇む。
 かといって、効いていない保証もなく。
 零れ出る砂金の勢いだけを目印に、フィニスもまた景色を映し輝く刃を薙ぎ振るう。
 今一度、金色の内側へと消えていく衝撃波。揺れるでもなく、曲がるでもなく、ただ、砂金が一瞬、埃のように舞って散る。
 そんな黄金の表皮を、ぐわしと掴む力強い両腕。
「色々と不便なんでなぁ、ちょいと黙っててもらおうかぁ」
 抱え込むように取り付いたガイアスの腕が、一層隆起する。
 黄金ゆえなのか、はたまた、別の要因か。
 大きさもあっての異常な重さに、だが、それは確かに、大地より浮き上がる。
 瞬間、ガイアスの身を取り巻く青い蛇が、紫のガスを噴く。
 どのっ、とでもいうべきか。なんとも言えぬ音を立て、剛鬼投げに叩き落される黄金。
 そんな黄金に差す、黒い影。
 バジヤベルが差し向けた指先、その身に蟠る黒炎が形を成し、悪魔を模して金色の上を飛ぶ。召喚獣の力受け、七色に輝く悪魔は、無表情な黄金の表皮に衝突、金色の大地に眩い火の粉を散らす。
「さて、何を仕掛けてくるんじゃか」
 金色に輝く世界。
 呼応するように、黄金の瘤が輝きを増す。
 次の瞬間。
 ひらひらと舞う金箔の嵐が、金の戦場に吹き荒れた。

●眩
 ぴか、と。
 輝く黄金から、無数の金色の帯が天へ跳ぶ。
「♪響け響け戦神の歌――我等を勝利へ導く為に♪」
 瞬間、高らかに響く、シキの歌声。
 更に、合わせ奏でるアスタルテの声が乗り、二重奏と成って響く高らかな凱歌が、消えかけた命の灯火を今一度燃え上がらせ、仲間を立ち上がらせ……金色の光に耐える力を取り戻させる。
「鬼さんこちら、楽しんでどうぞ〜♪」
 降り注ぐ金色の雨。リカーシュは健勝さを取り戻したその巧みな足捌きでもって、言葉のとおり、鬼ごっこの鬼でも避けるように軽やかに、僅かな隙間へと我が身を導く。
 ガイアスもまた、自身に向かい来る一筋一筋をしかと目で追い。
「光をも避ける足捌き、か……やれるかねぇ?」
 やってやれぬこともなし。
 時に盾でいなし、背で閃く闇色を閃かせ、フィニスもまた降りしきる金の合い間を縫いかわす。
 そんな中。
「……例え光だろうが悪意のあるものなら……掴み取れる」
 得物を地に突き立て、我が身へと降りしきる金色をかわし、テンユウは円を描くような掌の動きで次々に光を集める。
 それは、無風の構え。
 かわし、集めた力は衝撃波へと変わる。
「……返すぞ!」
 真っ向、弾き返る衝撃。
 瞬間、先ほどエスティアの穿った別の傷から、砂金が潮のように吹き上がる。
 その様に、霊布を肩に羽織り、片目をちらと押し上げて、バジヤベルが安堵の息をつく。
「やれやれ、間に合ったわい」
 ……あれは、初手の金箔攻撃のあと。
 実に、大変なことになっていた。
 まるで誘惑するように舞い踊る金箔に、範囲に捕らわれた皆が、なんと軒並みに錯乱。
 そこに付け込むかのように、黄金は素晴らしく眩い金の魅力を撒き散らし……理性を失ったり、強敵を望む余り仲間割れしたりと気を逸らされている間に、延べ棒大量生産。
 ちなみに、錯乱中、オレサマが、
「目ぇ覚ませやぁ〜〜!」
 と、次々に仲間の名を呼びつつ、(自分を含め)顔を拳で張っていたが、あの状況の中では、本当に正気に戻るためだったのか、混乱してたからなのか定かではない。ちなみに、ガルスタは只管黄金本体を叩いていたとかなんとか。
 ともかくその状況は、突入前に鎧聖降臨を施していなければ、撤退寸前にまで追い込まれていたに違いないと思えるほど。全体的に全員の体力が高めであったのも、幸いしたといえよう。
 それにしたって、効きすぎる。
 直りも悪すぎる。
 おかしい。
 気付き、我に返ったアスタルテが、真っ先に金色の領域を消滅させなければ、今頃みんな、金色の中に沈んでいたやも知れぬ。
「まさに金に有利っぽい領域でした、ね」
「むしろ断然有利じゃった……」
 静謐の祈りがあと少し遅ければ、回復の手も間に合っていたかどうか。あと、戦場でよかったとも思う。錯乱祭りを誰かに見られた日には……
 だが、まだ残る脅威。
 ぎゅんぎゅん飛び回る、台形の物体。
 ……懐に仕舞い込みたい衝動はとりあえず脇に置き、アスタルテが両手で握る杖で眼前に紋章を描き出す。
 時同じくして、シキもまた手にした切っ先を天へ掲げる。
「光よ! 数多の矢となり敵を貫け!」
 輝き、空中に現れる二つの紋章が、黄金とは違った輝きを吐き出す。
 アスタルテからは白が。シキからは虹色が。
 それぞれ天を経由し、降りしきる光条の雨。
 空中でせめぎあう、白と虹と金。
 幾つかは砕かれ、幾つかは叩き落され、また幾つかは欠けてなお飛び続ける。
 そのうちの一つへ向けて。
 祈る手を止めたバジヤベルの黒炎が、今一度悪魔を形作る。
 真っ直ぐに飛翔する悪魔は、空中で延べ棒の一本をそのあぎとに捕らえ、飲み込んで炸裂。
 そして、砕け散った火と金の粉から甦る、黄金の輝き。
 延べ棒は新しい主となったバジヤベルの言うがまま、周囲に残るかつての同志へと襲い掛っていく。
 金色の領域を失ってからの黄金は、序盤の凶悪さが嘘のよう。
「やっと少し落ち着きましたねー」
 最も距離を取っていたお陰で、唯一、一部始終を見届けていたエスティアは、延べ棒も減って幾分かよくなった視界の先へと、幾度目か弦を引き絞る。
 かっと煌く雷光。
 避雷針に向かうかの如く、天より黄金を貫く稲妻の矢。
 ぱしん、と火花を散らして消えた矢の跡に、今だ治らぬ傷から飛沫いた砂金が舞う。
 その傷口へと閃く、三つの銀光。
「突いてくよ! 激しく!」
 巧みな足捌きから一転、素早い身のこなしで二つの残像を引き連れたリカーシュの剣が、輝く傷を更に深く、激しく、穿つ。
 ……その後ろに、もう一つ、三つの影。
「幻惑はお前さんの専売特許じゃあねえんだよぉ」
 素手から槍へ、持ち替えた切っ先を煌かせ、ガイアスの姿もまた三つに割れる。
 もぐりこむ切っ先。
 硬質な音を立て、だが確かに、黄金の亀裂は大きさを増し……
 いや、もう一陣。
 次に三つの姿で以って現れたのは、フィニスであった。
 途切れる事なく襲い掛かるミラージュアタックの連打。
 それぞれが感じた手応えは、相変らず硬かった。
 しかし、三人――残像をも含めれば、九人になるのか――が突き入れた亀裂からは確かに、大量の金の砂が零れ落ちている。
 なれば、あとは叩くのみ。
 消えた護りの天使を喚び戻し、ガルスタが双剣を左右に閃かせる。
 鏡張りに、中央、目指す一点に向けて吸い込まれる斬撃。天使の力得た強靭な一撃に響く、今までとは違なる金属音。
 ごとり、と。
 落ちる、塊。
 こうなると、黄金色の岩に見えなくもない。
 欠けて剥き出た艶やかな断面へ、護りの天使を引き連れたもう一つの影が迫る。
 そろそろ片付いて貰いたいもんだ。少々辟易気味な表情を覗かせて、オレサマの銀光が閃く。
 ぎぃんと、少しばかり嫌な音を立て、滑らかに削ぎ落とされる黄金。
 そして、天使を連れた二人が飛び退いたその真中を突っ切って、テンユウが両の手に闘気を注ぎ込む。
 交差し、叩きつけられた短杖より迸る爆発。
 抉れた跡から舞い飛ぶ砂金。
 その頂点へ。
 また落ちるエスティアからの落雷。
 砂金はもう一度大きく弾けて舞い、特殊効果のように連撃を終えた三人を彩る。
 俄に。
 再び広がる、金色の領域。
 ……黄金にしてみれば、あの頃よもう一度、といった所だろうか。
 まさに黄金の黄金時代。
「これをもう一回上書きするのは少々厳しそうです、ね」
 アスタルテが今一度展開した安全な寝袋は、しかし、黄金の渾身で広げた金色の領域を消滅させるには至らず。
 だが最早、上書きを待つまでもなかった。
 今だかつてなく。
 リカーシュが、深く一歩を踏み込む。
「さぁ散って♪ ガラクタぁァァァァァァ!!」
 割れる姿は残像を生み、三重の銀光が深く深く、黄金へと潜り込む。
 軋む音。それはまるで金属の悲鳴。
 刹那、縦横無尽に走る亀裂。
 ……その背に、光が差す。
 光源は、シキの頭上にあった。
 紋章の力を集結した巨大な火炎が、身を繋ぐ召喚獣の力を得て虹色に明滅する。
「これでトドメよ……お休みなさい」
 飛翔する、エンブレムノヴァ。
 水のように火花散らして散る虹色。その中に紛れ、黄金もまた、砕けて散った。

●金!
 静けさを取り戻した草原。
 転がる破片を砕き壊し、オレサマは着衣の襟元を正す。
「やれやれだね」
 破片は砂のように……まさに砂金のように零れ、大地に散らばる。シキはそのさまをまじまじとみつめ。
「これが本物の金ならねぇ……」
 一人ごちる心中で、一獲千金なんて期待せずこれからも地道にやっていこうと、何故か決意を新たにしていたり。
 ……とか言ってる間にも、持って返る気満々の者も居る訳で。
「ふふふふふ、お持ち帰りお持ち帰り〜♪」
 価値はともかく、とにかく欲しいから。エスティアはそこそこの大きさで残っている塊を物色、ばっちり入手。
 アスタルテのほうは……本体ではなくて、上手い具合に原型そのまま残っていた延べ棒を回収。
 その他の部分はほぼ砂化していたため、土をかけて散らすだけになってしまったが……兎も角は、それで埋葬とすることに。
 ガイアスは墓標もない地に向かい、万寿の栓を抜く。
「弔いの酒だぁ。どうだ、美味いだろぉ?」
 染みていく地の下に視線を落とし、フィニスは。
「もしこれが、本当の黄金だったなら、結構な財産になったでしょうけれどもね……」
「けど、黄金だとかって食べれないしねぇ」
 興味なさげに、リカーシュは砂に紛れた辺りを見回す。
 食べれるものを、よ・こ・せ♪
 それは実に……判り易い主張であった。


マスター:BOSS 紹介ページ
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作成日:2006/11/27
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