<リプレイ>
●光 ……光ってた。 「これだけ事前偵察のしがいの無い敵も初めて、です」 遠い眼差しで、失格者・アスタルテ(a28034)が遠眼鏡を仕舞い込む。 終焉の白・エスティア(a33574)は、ただじっと佇む黄金の瘤をまじまじと見つめ。 「私は金より真鍮とか銀とか、白金の方が好きなんですけどね〜」 「金に執着するあまり金塊モンスターになっちまったってかぁ?」 金の光に対すべく、黒眼鏡越しに敵を見つめる、天魔伏滅・ガイアス(a53625)。 余程、黄金に拘りがあったのだろうか。 動かないまでも、何か行動の癖くらいは。思い、幻想舞踏・フィニス(a33737)もまた黄金を見据えるが……射程内に何も居ないせいか、目立った動きはない。 実に……ある意味で間抜けとも言える敵だが、やるべき事は唯一つ。悪鬼羅刹・テンユウ(a32534)は両の手にした得物を確かめるようにしながら。 「なにはともあれ、砕くしかあるまい」 「放っておいたら周りにどんな影響が出るかわからんしね」 手早く施すのは鎧聖降臨。愛の捕獲人・オレサマ(a45352)は今の内にと、自分を始め、仲間の着衣や鎧へと次々に加護を与えていく。 とはいえ、一人でやるには結構な時間。 前衛から順に鎧聖降臨するオレサマを手伝う為、守護者・ガルスタ(a32308)は後衛陣から順に、鎧聖降臨を施していく。 「己が想いを示せ、纏いて鎧と為せ、其が汝の力なり」 唱えた言葉に応じ、見る見ると姿を変える着衣。 白銀の全身鎧風に姿を変えた我が身を見回し、美しき猛き白百合・シキ(a31723)はちらと黄金と見比べるようにして、皆に問う。 「白騎士って感じでカッコよくない?」 「よく似合ぅておるよ」 いくばかりかのほほんと。しかし、その身には既に黒炎を纏い、玄鱗屠竜道士・バジヤベル(a08014)が頷きを返す。 「さて、ガラクタはガラクタらしく、ぐちゃぐちゃに成ってもらおうよ」 しゃらんと抜いた剣を握り、嗤う白幻・リカーシュ(a57358)が壊すべき目標へと、一歩を踏み出した。
●輝 近付く敵影……というのは、黄金から見ればの話。 見通しの良さは相手にとっても同じこと、獲物が来たとでも思ったか、黄金の瘤は突然輝きを増し、かと思った次の瞬間、黄金の周囲、枯れ始めた草原とその地面が、金色の光を放ち始めた。 「ひょっとして、あれが『金に有利そうな戦場』、ですか」 ぴかぴか輝く大地。見た目は兎も角、現実的にはどのように金に有利なのか……領域の上書きは一先ず置いて、アスタルテは両手で握った杖を構え、一気に間合いを詰めていく前衛陣の背を見つめる。 そして、そんな皆の頭上を一足先に、禍々しい棘を備えた矢が一筋。 布陣する皆の最後方、震える弦はそのままに、自らが射た鮫牙の矢の行く先を視線で追うエスティア。 「破片が飛び散るんでしょうかねー……」 黄金の出血とはこれ如何に。 矢は深々と突き刺さり……砂金っぽいものがさらさらと零れ出したではないか。 と、その周囲に、黄金を更に鮮やかに彩る炎の木の葉が、虹色に輝いて舞い踊る。 「跡形も無く蒸発しちゃいなさい!」 しゃんと伸ばした背筋はそれこそ騎士さながら、古代文字を刻む刀身を掲げるシキの眼前、展開した紋章から噴出する緑の業火が、黄金を取り巻いて燃え上がる。 本物の金ならば熱に弱そうであるが……眼前の瘤においては、煤は残れど形状に変化はなく。 だが、そこには既に、別の脅威が。 「そちらの硬さは承知している……一気に砕かせてもらうぞ」 両の手の先に込めるのは闘気。 新たな外装を得て力を増した一対の短杖。そこに宿るテンユウの気迫が、矢を受け砂金零す傷口を叩いた瞬間、爆発となって顕現する。 中々の手応え。 反発に弾かれるまま、飛び退いて間合いを計るテンユウと入れ替わるように、こちらもまた二振りの得物を手に、ガルスタが間髪居れず肉薄。 傍らに浮かぶのは護りの天使。 授かった力と渾身を込めて、金粉舞う傷へと、斬撃を落とす。 響く硬質な音。 同じく護りの天使を引き連れて。塊と思えぬ残響に嘆息交じりの苦笑を零し、オレサマが手にした剣を一閃する。 「金ってもっと柔らかいものじゃないのか」 やはり、一応はモンスターだからなのだろうか。 音に違わず柄に戻ってくる感触に、如何ともし難い想いが沸く。 だが、装甲など、透過してしまえば難ということもなし。 「切り裂いて、ざ〜んて〜つ♪」 巧みな足捌きも今は一旦置いて、リカーシュが手にした剣を薙ぐ様に振るう。 迸る衝撃波が、金の大地を渡り、飛ぶ。 とはいえ、効いているのかいないのか。内部に消えた衝撃波を受けてなお、黄金は無表情に佇む。 かといって、効いていない保証もなく。 零れ出る砂金の勢いだけを目印に、フィニスもまた景色を映し輝く刃を薙ぎ振るう。 今一度、金色の内側へと消えていく衝撃波。揺れるでもなく、曲がるでもなく、ただ、砂金が一瞬、埃のように舞って散る。 そんな黄金の表皮を、ぐわしと掴む力強い両腕。 「色々と不便なんでなぁ、ちょいと黙っててもらおうかぁ」 抱え込むように取り付いたガイアスの腕が、一層隆起する。 黄金ゆえなのか、はたまた、別の要因か。 大きさもあっての異常な重さに、だが、それは確かに、大地より浮き上がる。 瞬間、ガイアスの身を取り巻く青い蛇が、紫のガスを噴く。 どのっ、とでもいうべきか。なんとも言えぬ音を立て、剛鬼投げに叩き落される黄金。 そんな黄金に差す、黒い影。 バジヤベルが差し向けた指先、その身に蟠る黒炎が形を成し、悪魔を模して金色の上を飛ぶ。召喚獣の力受け、七色に輝く悪魔は、無表情な黄金の表皮に衝突、金色の大地に眩い火の粉を散らす。 「さて、何を仕掛けてくるんじゃか」 金色に輝く世界。 呼応するように、黄金の瘤が輝きを増す。 次の瞬間。 ひらひらと舞う金箔の嵐が、金の戦場に吹き荒れた。
●眩 ぴか、と。 輝く黄金から、無数の金色の帯が天へ跳ぶ。 「♪響け響け戦神の歌――我等を勝利へ導く為に♪」 瞬間、高らかに響く、シキの歌声。 更に、合わせ奏でるアスタルテの声が乗り、二重奏と成って響く高らかな凱歌が、消えかけた命の灯火を今一度燃え上がらせ、仲間を立ち上がらせ……金色の光に耐える力を取り戻させる。 「鬼さんこちら、楽しんでどうぞ〜♪」 降り注ぐ金色の雨。リカーシュは健勝さを取り戻したその巧みな足捌きでもって、言葉のとおり、鬼ごっこの鬼でも避けるように軽やかに、僅かな隙間へと我が身を導く。 ガイアスもまた、自身に向かい来る一筋一筋をしかと目で追い。 「光をも避ける足捌き、か……やれるかねぇ?」 やってやれぬこともなし。 時に盾でいなし、背で閃く闇色を閃かせ、フィニスもまた降りしきる金の合い間を縫いかわす。 そんな中。 「……例え光だろうが悪意のあるものなら……掴み取れる」 得物を地に突き立て、我が身へと降りしきる金色をかわし、テンユウは円を描くような掌の動きで次々に光を集める。 それは、無風の構え。 かわし、集めた力は衝撃波へと変わる。 「……返すぞ!」 真っ向、弾き返る衝撃。 瞬間、先ほどエスティアの穿った別の傷から、砂金が潮のように吹き上がる。 その様に、霊布を肩に羽織り、片目をちらと押し上げて、バジヤベルが安堵の息をつく。 「やれやれ、間に合ったわい」 ……あれは、初手の金箔攻撃のあと。 実に、大変なことになっていた。 まるで誘惑するように舞い踊る金箔に、範囲に捕らわれた皆が、なんと軒並みに錯乱。 そこに付け込むかのように、黄金は素晴らしく眩い金の魅力を撒き散らし……理性を失ったり、強敵を望む余り仲間割れしたりと気を逸らされている間に、延べ棒大量生産。 ちなみに、錯乱中、オレサマが、 「目ぇ覚ませやぁ〜〜!」 と、次々に仲間の名を呼びつつ、(自分を含め)顔を拳で張っていたが、あの状況の中では、本当に正気に戻るためだったのか、混乱してたからなのか定かではない。ちなみに、ガルスタは只管黄金本体を叩いていたとかなんとか。 ともかくその状況は、突入前に鎧聖降臨を施していなければ、撤退寸前にまで追い込まれていたに違いないと思えるほど。全体的に全員の体力が高めであったのも、幸いしたといえよう。 それにしたって、効きすぎる。 直りも悪すぎる。 おかしい。 気付き、我に返ったアスタルテが、真っ先に金色の領域を消滅させなければ、今頃みんな、金色の中に沈んでいたやも知れぬ。 「まさに金に有利っぽい領域でした、ね」 「むしろ断然有利じゃった……」 静謐の祈りがあと少し遅ければ、回復の手も間に合っていたかどうか。あと、戦場でよかったとも思う。錯乱祭りを誰かに見られた日には…… だが、まだ残る脅威。 ぎゅんぎゅん飛び回る、台形の物体。 ……懐に仕舞い込みたい衝動はとりあえず脇に置き、アスタルテが両手で握る杖で眼前に紋章を描き出す。 時同じくして、シキもまた手にした切っ先を天へ掲げる。 「光よ! 数多の矢となり敵を貫け!」 輝き、空中に現れる二つの紋章が、黄金とは違った輝きを吐き出す。 アスタルテからは白が。シキからは虹色が。 それぞれ天を経由し、降りしきる光条の雨。 空中でせめぎあう、白と虹と金。 幾つかは砕かれ、幾つかは叩き落され、また幾つかは欠けてなお飛び続ける。 そのうちの一つへ向けて。 祈る手を止めたバジヤベルの黒炎が、今一度悪魔を形作る。 真っ直ぐに飛翔する悪魔は、空中で延べ棒の一本をそのあぎとに捕らえ、飲み込んで炸裂。 そして、砕け散った火と金の粉から甦る、黄金の輝き。 延べ棒は新しい主となったバジヤベルの言うがまま、周囲に残るかつての同志へと襲い掛っていく。 金色の領域を失ってからの黄金は、序盤の凶悪さが嘘のよう。 「やっと少し落ち着きましたねー」 最も距離を取っていたお陰で、唯一、一部始終を見届けていたエスティアは、延べ棒も減って幾分かよくなった視界の先へと、幾度目か弦を引き絞る。 かっと煌く雷光。 避雷針に向かうかの如く、天より黄金を貫く稲妻の矢。 ぱしん、と火花を散らして消えた矢の跡に、今だ治らぬ傷から飛沫いた砂金が舞う。 その傷口へと閃く、三つの銀光。 「突いてくよ! 激しく!」 巧みな足捌きから一転、素早い身のこなしで二つの残像を引き連れたリカーシュの剣が、輝く傷を更に深く、激しく、穿つ。 ……その後ろに、もう一つ、三つの影。 「幻惑はお前さんの専売特許じゃあねえんだよぉ」 素手から槍へ、持ち替えた切っ先を煌かせ、ガイアスの姿もまた三つに割れる。 もぐりこむ切っ先。 硬質な音を立て、だが確かに、黄金の亀裂は大きさを増し…… いや、もう一陣。 次に三つの姿で以って現れたのは、フィニスであった。 途切れる事なく襲い掛かるミラージュアタックの連打。 それぞれが感じた手応えは、相変らず硬かった。 しかし、三人――残像をも含めれば、九人になるのか――が突き入れた亀裂からは確かに、大量の金の砂が零れ落ちている。 なれば、あとは叩くのみ。 消えた護りの天使を喚び戻し、ガルスタが双剣を左右に閃かせる。 鏡張りに、中央、目指す一点に向けて吸い込まれる斬撃。天使の力得た強靭な一撃に響く、今までとは違なる金属音。 ごとり、と。 落ちる、塊。 こうなると、黄金色の岩に見えなくもない。 欠けて剥き出た艶やかな断面へ、護りの天使を引き連れたもう一つの影が迫る。 そろそろ片付いて貰いたいもんだ。少々辟易気味な表情を覗かせて、オレサマの銀光が閃く。 ぎぃんと、少しばかり嫌な音を立て、滑らかに削ぎ落とされる黄金。 そして、天使を連れた二人が飛び退いたその真中を突っ切って、テンユウが両の手に闘気を注ぎ込む。 交差し、叩きつけられた短杖より迸る爆発。 抉れた跡から舞い飛ぶ砂金。 その頂点へ。 また落ちるエスティアからの落雷。 砂金はもう一度大きく弾けて舞い、特殊効果のように連撃を終えた三人を彩る。 俄に。 再び広がる、金色の領域。 ……黄金にしてみれば、あの頃よもう一度、といった所だろうか。 まさに黄金の黄金時代。 「これをもう一回上書きするのは少々厳しそうです、ね」 アスタルテが今一度展開した安全な寝袋は、しかし、黄金の渾身で広げた金色の領域を消滅させるには至らず。 だが最早、上書きを待つまでもなかった。 今だかつてなく。 リカーシュが、深く一歩を踏み込む。 「さぁ散って♪ ガラクタぁァァァァァァ!!」 割れる姿は残像を生み、三重の銀光が深く深く、黄金へと潜り込む。 軋む音。それはまるで金属の悲鳴。 刹那、縦横無尽に走る亀裂。 ……その背に、光が差す。 光源は、シキの頭上にあった。 紋章の力を集結した巨大な火炎が、身を繋ぐ召喚獣の力を得て虹色に明滅する。 「これでトドメよ……お休みなさい」 飛翔する、エンブレムノヴァ。 水のように火花散らして散る虹色。その中に紛れ、黄金もまた、砕けて散った。
●金! 静けさを取り戻した草原。 転がる破片を砕き壊し、オレサマは着衣の襟元を正す。 「やれやれだね」 破片は砂のように……まさに砂金のように零れ、大地に散らばる。シキはそのさまをまじまじとみつめ。 「これが本物の金ならねぇ……」 一人ごちる心中で、一獲千金なんて期待せずこれからも地道にやっていこうと、何故か決意を新たにしていたり。 ……とか言ってる間にも、持って返る気満々の者も居る訳で。 「ふふふふふ、お持ち帰りお持ち帰り〜♪」 価値はともかく、とにかく欲しいから。エスティアはそこそこの大きさで残っている塊を物色、ばっちり入手。 アスタルテのほうは……本体ではなくて、上手い具合に原型そのまま残っていた延べ棒を回収。 その他の部分はほぼ砂化していたため、土をかけて散らすだけになってしまったが……兎も角は、それで埋葬とすることに。 ガイアスは墓標もない地に向かい、万寿の栓を抜く。 「弔いの酒だぁ。どうだ、美味いだろぉ?」 染みていく地の下に視線を落とし、フィニスは。 「もしこれが、本当の黄金だったなら、結構な財産になったでしょうけれどもね……」 「けど、黄金だとかって食べれないしねぇ」 興味なさげに、リカーシュは砂に紛れた辺りを見回す。 食べれるものを、よ・こ・せ♪ それは実に……判り易い主張であった。

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参加者:10人
作成日:2006/11/27
得票数:戦闘15
コメディ2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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