【シフォンの冒険日記】ノソリン渡し〜クレタ河原の巨大ザリガニ



<オープニング>


「ほいじゃ、お客さん行きますよ。ホイ、立つんだ」
「なぁ〜ん」
 背中に数名の人間を載せたノソリンは、ゆっくりと急流の川へと入っていくと、川を渡りはじめる。その後ろには、大きな荷物を積んだ別のノソリンが続く。ノソリンが渡るこの川は暴れ川として知られており、一度大雨が降るとたちまち川は氾濫した。ここクレタ河原周辺は、特に氾濫が酷く、橋を架けるたびに流されるため、近隣の住民たちは橋を架け直すのをあきらめてしまったほどである。上流か下流の橋まではどちらも数キロも離れており、不便を強いられていた。水かさが低いときは、川を無理やり渡る者もいたが、そのために無理をして、流される者も出ていた。
 2年前、1人のノソリン使いが、自分のノソリンを使って渡し舟ならぬ渡しノソリンを始めた。ノソリンの背中に人を載せて川を渡るというアイデアはすぐに住民たちに受け入れられ、たちまち商売繁盛となった。最初はノソリンの背中に直接載せていた渡し客も、きちんとした荷台に客を載せるようになり、今では十数頭のノソリンが、毎日のように人を載せて川を横断しているという。

「ところが、困ったことが起きたんだよ」
 霊査士のアリシューザは、キセルを吹かすと言った。
「川に怪物が現れちまって、そのノソリン渡しを襲うようになっちまったのさ。幸いまだ死人は出てないけど、ノソリン渡しはストップしちまった。住民も不便してるけど、何よりもノソリン使いたちが、仕事がなくなって悲鳴を挙げちまった。連中は生活がかかってるからね」
「怪物って?」
「こいつを馬鹿でかくしたような奴さ」
 アリシューザは、テーブルの上になぜか並んだ、赤くゆで上がったザリガニを見た。依頼を持ち込んだノソリン使いが持ってきたもので、クレタ河原の近辺は、川ザリガニが取れるそうで、その味はエビと変わらないくらい美味しいのだという。
「んぐんぐ、アリシューザお姉様、これ、美味しいです!」
 二つお下げのシフォンが、右手にザリガニのハサミ、左手にザリガニの尻尾を手にして笑顔を見せた。
「シフォン、そいつは逃げないから、依頼を聞くときくらいは食べるのをやめな」
 冒険者たちが爆笑し、シフォンが真っ赤になってうつむく。
「クレタ河原に、その怪物化したザリガニが住み着いちまったのさ。奴は、これまでにノソリン渡しのノソリン2頭を食っちまったんだけど、どうも味をしめたようでね」
 キセルをくゆらせると続けた。
「今回の依頼っていうのは、その怪物ザリガニを倒して欲しいんだよ。ザリガニは、大体全長7メートルちょっと。ばかでかいハサミが2本ついてる上に、ザリガニなんで外側は相当堅い。見かけによらず動きが素早い上に、泡を飛ばしてくるよ」
「泡、ですか? まるでカニみたい」
「そう。毒性はないけど、やたらと粘着質でね。こいつを被ると、動きが相当鈍くなっちまうだろうね」
 アリシューザは、キセルを煙草盆の縁に叩き付けた。
「怪物ザリガニは、ノソリンが川を渡ると、川底に作った巣穴から出てきてノソリンを襲うよ。戦闘が川の上ってことで、陸上でのようにはいかないんで気をつけな。川幅は約40メートル。水深は浅いところでひざ上。深いところは腰近くある。何よりも流れがとても早いからね」
 顔を見合わせる冒険者たちに、アリシューザはキセルに火を入れ直す。
「今回、ノソリン渡しギルドの方から、最大3頭のノソリン渡し用のノソリンを貸してくれる。川を渡ることに関しては、そのノソリンとノソリン使いがなんとかしてくれる。毎日激流を渡ってるだけあって、ノソリンの方は少し位のことじゃびびったりしないから、その辺は安心してもいい」
「あの……」
 シフォンが不安そうに言った。
「何だい、シフォン?」
「わたし……あまり泳ぎ自信ないんですけど」
「誰が泳げって言ったんだい。大体、孤児院時代に、あたしがプールに散々突き落としてやったじゃないか」
「でもぉ……くすん」
「カナヅチは、万一のことを考えたら、この依頼に参加しない方がいいね。ま、そこのゆでザリガニみたいに、上手いこと食っちまっとくれ。じゃ、しっかり稼ぎな」

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参加者
翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)
厄災の萌・カール(a00521)
陽だまりの風に舞う・シルキス(a00939)
千変・ギネット(a02508)
氷雪の淑女・シュエ(a03114)
真白に閃く空ろ・エスペシャル(a03671)
白き一陣の旋風・ロウハート(a04483)
凛花姫・シャルラハ(a05856)
NPC:二つお下げの戦乙女・シフォン(a90090)



<リプレイ>

「はぁぁぁっ!」
 気合いの掛け声と共に、激しい打撃音が響き渡り、一抱えもあろうかという大木が倒れた。ポニーテールが揺れ、髪をかき上げた少女は、立ちすくむもう一人の少女ににっこり微笑んだ。
「後は枝を払えば、大丈夫だよね?」

「ここですか、怪物ザリガニが棲むというクレタ河原は」
 釣り竿を背負った千変・ギネット(a02508)が、麦わら帽子のツバを指で押し上げた。
「怪物ザリガニ、勝負ッ!」
 仮面越しの目が光り、釣り竿を川面に向けるギネット。
「ザリガニ退治ですか。きちんと仕留めて、おいしく食べたいですね」
 白き一陣の旋風・ロウハート(a04483)は、恋人からもらったクッキーを頬張りながら川面を見つめた。
「巨大ザリガニ、ちょっとワクワクしちゃうな」
 陽だまりの風に舞う・シルキス(a00939)の言葉に、顔をしかめたのは、厄災の萌・カール(a00521)。
「シルキス、相手は怪物ザリガニだが?」
「うん、だから楽しみ」
「んー。怪物ザリガニ。大きい分、大味なのかな」
 白閃空・エスペシャル(a03671)が真面目に考え込む。
「ちょっと待て。大体食えるかどうか……」
「やはり、大きいだけに大味かもしれないですわね」
 氷雪の淑女・シュエ(a03114)がうんうんと頷く。
「だ、だから」
「ザリガニは高級食材にもなるんだよね」
 凛花姫・シャルラハ(a05856)が、答える。
「でも、かなり大きいみたいだから、味も大味でそうもいかないかな?」
「お前ら、食う算段ばかりしてる場合か? 相手は怪物なんだぞ?」
「どうやって料理したらいいと思うなりか、シャル?」
「うーん。シャル、茹でるには、大きすぎるかも」
「ならエスペシャルさん、塩焼きにしましょう。多分大きすぎて鍋には入りませんから」
「あ。ロウハートさん、塩は、薄めにして欲しい」
「シャルは薄味好みなりか?」
「味見は、ギネットにお願い出来ません?」
「味見ですか? 構いませんよ。でも、川の主ですから、釣るのが大変そうですね」
 カールの心配は、完全にスルーされた。
「ところで、ナタクの奴はどこだ? シフォンもいないじゃないか」
「はい、ナタクさんなら、上流から丸太で流れてくるって言ってたなりよ」
「な、何ぃ?」
 詰め寄るカールに、後ずさるシャルラハ。
「ナタクさんと、シフォンさんは丸太でザリガニに体当たりするって。シフォンさんが丸太の舵取り役っていって、引っ張られたなりよ」
 カールは天を仰いだ。

「ほ、ホントにやるんですか?」
 二つお下げの戦乙女・シフォン(a90090)の言葉に、翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)が笑みを浮かべた。シフォンの目の前には、枝を払われた丸太が転がっている。
「大丈夫だよ、シフォンさん。シュエさんにも言ってあるし。こういう時のために鍛えてるしね」
「えと、だからそうじゃなくて」
「シフォンさん、そっち持ってくれるかな?」
 笑みを浮かべるナタクの目は笑っていなかった。シフォンは、こくこくと頷くとナタクと二人で、丸太を川に放り込んだ。
「川下りなんて、腕が鳴るね」
 そう言って、シフォンが手渡されたのは、枝を払っただけの太い木製の杖のような竿だった。
「これで丸太を操ってね?」
 シフォンは、帰りたくなった。

「ザリガニの巣は、あそこよ」
 ロングヘアを無造作に束ねた女ノソリン使いが指さしたのは、下流の川幅一杯に広がる広い渕だった。よどんだ緑色の水がたたえられたそこだけ、流れがほとんどなく、かなり深いのか川底はまったく見えなかった。
「あそこだけよどんでるけど、川底は流れ早いから」
「あの、先にお話ししておきたいことがありますの」
 丸太でナタクが下ってくるという、シュエの話を聞いたノソリン使いは頷いた。
「わかったわ。せいぜいぶつからないように祈ってて」
「それだけか?」
 カールの問いに肩をすくめるノソリン使い。
「努力はするわ。けど、ここの流れ、見た目よりかなり早いから、最悪の場合はノソリンごとあの世行きかしら。その丸太娘さんが、ちゃんと舵取りできるといいけどね」
「川底が浅いのはどの辺りだ?」
「そうね……川の中央部は、浅瀬になってるわ。冒険者なら立てるんじゃない? ふくらはぎくらいまでしかないから」
 カールは無言で頷いた。
「なら、川の中央部に誘い込むのがよいですね」
 ロウハートの言葉に頷くギネット。
「投網の準備は出来たなりよ」
「こっちも」
 エスペシャルとシャルラハが、渡しノソリンの荷台に投網を積み込んだ。エスペシャルが、ノソリンを撫でた。
「ちょっと怖いかもしれないけど、よろしくね」
「なぁ〜ん」
「ん。なあーん」
 ノソリンの声を真似るエスペシャルに、笑い転げるシャルラハとシルキス。カールが尋ねた。
「一つ質問なんだが、なぜ釣り師の恰好してるんだ?」
「相手が怪物ザリガニだからです」
 爽やかな笑みと共に、渡しノソリンに乗り込むギネット。カールがそれに続き、シュエが最後に乗り込む。2頭目の渡しノソリンにはシャルラハとエスペシャル。3頭目のノソリンには、ロウハートとシルキスが乗った。合図と共に、3頭のノソリンが一斉に立ち上がると、ゆっくりと川に入っていく。
「岸近くでおびき寄せた方がいいんじゃないのか?」
 カールの問いに、ギネットが答える。
「川の中央部までいかないと、ザリガニは出てこないそうです。虎穴に入らずんば、ザリガニを得ず、ですよ」
 ギネットは、渕を睨んだ。

 渡しノソリンが川を渡り初めてほどなくのことだった。
「ギネット。あれを!」
 遠眼鏡をのぞき込んでいたシュエが渕を指さした。水面にあぶくが大量に発生し、渕の中の泥が巻き上げられて茶色く濁った。
「でましたね。怪物ザリガニ」
 やがて、水面を割って浮かび上がってきたのは、緑色の巨大なザリガニだった。
「お、大っきい〜」
 目を丸くするシルキス。
「シャル、出たよ」
 冷静な口調で、シャルラハが怪物ザリガニを見据えた。
「うん。大丈夫」
 投網を握りしめるエスペシャルが頷いた。
「浅瀬に引きつけた方がいいだろう」
 カールの言葉に、3頭の渡しノソリンが一斉に川の中央部の浅瀬へと進む。そこは、川のどこよりも浅かった。ノソリンに引き寄せられるように、怪物ザリガニが川の流れに逆らうようにして近づいてくる。その動きは早い。
「来るぞ!」
 カールの言葉に、エスペシャルとシャルラハが一斉に投網を投げた。投網は、大きく広がると、怪物ザリガニの頭上に綺麗に落ちた。目の前の視界を遮られた怪物ザリガニが、それを取ろうと両ハサミを振り回した。
「なぁ〜ん」
 ノソリンが、その様子に脅えた鳴き声を出し、ノソリン使いが必死になだめる。
「じゃ、ボク行くね」
 真っ先にノソリンから飛び降りたのはシルキスだった。降り立った川の中がふくらはぎほどの深さしかない浅瀬であることを確認すると、幻惑の剣舞を舞った。一瞬だけ怪物ザリガニの動きが止まったかと思うと、激しくハサミを振り回し始めた。口の部分から泡を吐きだしたが、それが全て投網にまとわりついたせいで、怪物ザリガニの混乱はピークに達した。
「ノソリンから降りろ!」
 カールが怒鳴ると、全員がノソリンから飛び降りた。
「ノソリンを岸にやってくださいッ!」
 ギネットの言葉に、ノソリンが一斉に岸へと戻り始めた。ノソリンを追いかけようとする怪物ザリガニに、ロウハートとカールがチェインシュートを放ったが、どちらも怪物ザリガニの堅い殻に阻まれて弾き飛ばされた。
「ちくしょう、堅いな!」
「ここはわたくしにお任せですの!」
 シュエのホーミングアローが、怪物ザリガニに放たれると、片方のハサミに命中した。だが、ザリガニの動きを止めることは出来ない。
「シャル、援護お願い」
「うん、任せて」
 怪物ザリガニの間合いに飛び込むエスペシャル。援護する形で、シャルラハが気高き銀狼を放った。銀狼が、怪物ザリガニに食らいつくと、エスペシャルが怪物ザリガニにスピードラッシュを叩き込む。だが、その攻撃も堅い殻に阻まれて、思うようにダメージを与えられない。
「手ごたえがないよ」
 銀狼を振り払った怪物ザリガニのハサミを、すんででかわすエスペシャル。
「殻が堅すぎるね」
 シャルラハがそう呟いたときだった。

「シフォンさん、右よ!」
「は、はい!」
 ナタクとシフォンの乗った丸太は、川の流れに乗って下っていた。シフォンが心配していた滝つぼも障害物もなく、順調に下っていった。だが、見た目よりもはるかに流れは速く、驚くほどのスピードが出ていた上に、シフォンの足元には川底が全く見えない緑色の深淵が続いており、それがシフォンの恐怖を誘った。そんなシフォンとは裏腹に、ナタクは子供のように歓声をあげている。
「いたよ!」
 シフォンが前を見ると、ハサミを振上げる緑色の怪物ザリガニの姿が見えた。
「ザリガニ、緑色だったんだ。酒場で見たときは赤かったのに」
 変な感心をするシフォンに、ナタクが叫ぶ。
「つっこむぞぉぉぉぉぉ!!」
 
 ナタクの言葉に真っ先に反応したのは、シルキスだった。
「ナタクさんだ!」
「本気でザリガニに丸太をぶち当てる気なのか?」
 カールは、素早くナタクの丸太と怪物ザリガニに目を走らせる。
「このままじゃ当たらないぞ?」
 ロウハートが、ギネットを見た。頷くロウハートに、ギネットは全てを理解した。
「シュエ、浅瀬にザリガニを!」
「分かったのじゃ!」
 ギネットの言葉に、エスペシャルとシャルラハが顔を見合わせた。
「そういうことなら、任せてね」
 シャルラハはエンブレムシュートを放った。それは怪物ザリガニの頭にまともに命中した。怒った怪物ザリガニが、その大きな胴体を持ち上げてハサミを振上げると、シャルラハ目掛けて突っかかってきた。
「こっちだ! 怪物ザリガニがッ!」
 ギネットのブラックフレイムが命中する。怪物ザリガニは、そのままじりじりと、浅瀬に乗り上げた。浅瀬が急に深くなるぎりぎりまで、引き寄せるカール。
「シュエッ!」
 カールにハサミを振上げようとした時、シュエが絶妙のタイミングで影縫いの矢を放つ。その背後で、シフォンが悲鳴を挙げた。
「カールさん、よけてぇッ!」
 腰まで水に浸かっていたカールは、背後に迫ったナタクの丸太を川に飛び込むようにしてかわした。
「いっけぇぇぇぇぇ!」
 ナタクの裂帛の叫びが川面のせせらぎを切り裂いた次の瞬間、鈍い音がして、丸太は怪物ザリガニの胴体に、まともに命中した。丸太は衝撃で大きく左に旋回した。川面に投げ出されるシフォンとナタク。
「シフォンさん!」
 シフォンを助けようと飛び出すシャルラハとエスペシャル。浅瀬に投げ出されただけで、すぐに助け出される。丸太の直撃を受けた怪物ザリガニは、その攻撃によほど驚いたのか、じりじりとあとずさりを始めた。
「逃さんッ!」
 ギネットがスキュラフレイムを放った。川面が鮮血に染まり、激しくのたうつ怪物ザリガニに、カールが居合斬りで怪物ザリガニに一撃を与える。
「負けないよ!」
 シルキスの細身剣が、怪物ザリガニの堅い殻と殻の間に深々と突き刺さる。だが、怪物ザリガニの尻尾が、シルキスをはね飛ばした。
「これで止めだよ!」
 ナタクの破鎧掌が、怪物ザリガニの横腹に命中した。激しく暴れながら、体を起こした怪物ザリガニに、エスペシャルのスピードラッシュが立て続けに命中し、シュエのホーミングアローが、ついにその堅い殻を貫いた。ぐらりと傾いた怪物ザリガニは、最後に炸裂したギネットのスキュラフレイムで止めを刺されると、派手な水柱と共に崩れ落ちた。
「やったなり!」
 喜ぶシャルラハ。剣を収めたカールが言った。
「てこずらせやがって」
「シフォンさん、大丈夫?」
 駆け寄るナタクにシフォンは答えた。
「わたしは大丈夫です。でも……」
「?」
「もう二度と丸太で川下りはしたくないです」
 ぷ、と吹き出すシュエ。
「でもナタクさんもシフォンさんもかっこ良かったよ」
 シルキスの言葉に、苦笑いするシフォン。全員が笑った時だった。
「きゃっ!」
 ナタクがいきなり川に引きずり込まれた。ナタクの足に、ザリガニのハサミがしっかりと食い込んでいた。怪物ザリガニは、川を紅に染めたまま、渕へとその体を引きずっていく。
「ナタクさんッ!」
 シフォンが剣を抜いて怪物ザリガニに突っ込んだ。
「殻の継ぎ目を狙って下さいッ」
 ロウハートの言葉に、シフォンは、ナタクの足を挟んだハサミの殻と殻の間に、渾身の一撃で剣を突き立てた。シフォンと共に飛び出したロウハートが、渕に引きずり込まれようとするナタクに手を差し伸べて叫んだ。
「ふぁいとぉぉぉ!」
 シフォンの剣が、怪物ザリガニのハサミに食い込む。ナタクがロウハートの手をしっかりとつかんだ。
「いっぱぁぁつ!」
 次の瞬間、ハサミがナタクの足を放した。そのまま剣ごと引きずり込まれそうになったシフォンは、死に物狂いの形相で剣を引き抜く。ナタクは、ロウハートにひっぱり上げられ、そのまま怪物ザリガニは渕の中に姿を消した。
「大丈夫ですか、ナタクさん?」
「うん、ありがとうロウハートさん。っつ!」
 ナタクの足首は、ハサミにつかまれたせいで怪我をしていた。
「今、治療するなりよ」
 シャルラハが、癒しの水滴をナタクに与える。
「怪物ザリガニに逃げられてしまいましたわ」
 シュエの言葉に、ギネットは渕に目を向けた。
「いや、あれだけの手傷を負いましたからね。おそらく助からないでしょう」
「怪物ザリガニ、食べられると思ったのに」
「うん。確かに」
 残念そうなシルキスとエスペシャル。
「へっぷしゅん!」
「風邪引いたなりか?」
「うん、ちょっと寒いかも」
 くしゃみをしたシフォンをシャルラハが心配そうに見た。
「さあ、風邪引く前に川から上がろう」
 そう言ったカールの後ろで、渡しノソリンが川を渡ってくるのがみえた。

「大体、丸太なんかで川を下る危険を犯すくらいなら、最初から怪物ザリガニを攻撃した方が早くなかったか?」
 ノソリン使いたちが用意してくれたたき火を囲みながら、カールが言った。ナタクは、満面の笑みを浮かべて答えた。
「何か言った、カールさん?」
「目が笑ってませんよ、ナタクさん」
 ギネットの言葉に笑う一同。
「これくらいしか出来ないけど、たくさん食べて帰ってね」
 女ノソリン使いが、ゆで上がったザリガニを一同に振る舞う。たき火には、ザリガニ汁が美味しそうな湯気を立てていた。
「あ、このザリガニ汁美味しいですね」
「見て見て、ここ引っ張るとハサミが動くよ」
「面白いなりね。ボクもやるー」
 ザリガニ鍋とザリガニの塩焼きでお腹を満たした一同は、無事に帰途についた。

 渕に消えた怪物ザリガニがその後どうなったかは分からないが、風の噂で、川のはるか下流で、巨大なザリガニの死体が打ち上げられたという。


マスター:氷魚中将 紹介ページ
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作成日:2004/03/31
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