蕎麦祭りを応援しよう



<オープニング>


 ランドアースの片田舎にある村。この辺りは土地がやせているのであまり多くの収穫は見込めない。昔から天候の悪い年になると収穫が悪く難儀する者が多かった。酷い年には死んでしまう者まで出た程であった。
 ある冬の初め、通りがかった旅人が蕎麦の実を村に残していった。この蕎麦は村のやせた土地でも芽吹き、確実に実りを与えてくれた。餓えて死ぬ者はいなくなり、村はこの旅人を湛え、毎年冬の始まりに祭りを開くことになった。

「それが蕎麦祭りなのですわ」
 エルフの霊査士・マデリン(a90181)は至極真面目な顔をで言ったが、その後でクスッと笑みを漏らす。
「とても大がかりなお祭りなのですわ。村の外からもお客様を招き、実際に蕎麦を打ってみたり、おいしいお蕎麦をいただいたり、創作蕎麦料理の品評会をしたり……」
 マデリンは指折り数えて催し物を数える。実際に村に出向いたことはないらしいのに、随分と詳しそうだ。
「でも、一番村が盛り上がるのは『蕎麦競争』なのだそうですわ。木でお蕎麦の通り道を村中に作り、水を流して一緒にお蕎麦も流すのですって。蕎麦を作っている方々が組になって、誰が一番早い蕎麦か競ったりするのだそうですわ。でも……」

 そう。マデリンは別に世間話をしているわけではない。これは依頼の説明であった。村の祭りに必要な木材の搬送が間に合わない事に気が付いたのだ。このままでは祭りを開催する事が出来ない。木はひとつ山を越えた先にある伐採場にあるのだが、取りに行く人がいない。休み無く移動すれば3日、冒険者なら土地勘がなくても1日半で往復出来るのだが、帰りは7メートルの木材10本を運んでこなくてはならない。しかも、数日前の大雨で途中の川にかかる橋が流されている。元々流れの速い川なのだが、雨で更に増水していて普通の人では渡ることが出来ない。

「せっかく村の皆様が楽しみにしているお祭りですわ。どうか冒険者の力をほんの少しだけ、村の方々の為に貸して差し上げてください。お祭りが開催されれば、きっと美味しいお蕎麦も振る舞っていただけましてよ?」
 さして深刻そうではなく、マデリンは笑って首を傾げた。

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参加者
闇の画報・ミリア(a20674)
棘石竜子・ガラッド(a21891)
全開・バリバリ(a33903)
青銀の飛竜・ウィル(a47045)
海と空を臨む者・ハズィル(a50935)
紋章の申し子・メロディ(a55297)
風任せの術士・ローシュン(a58607)
日輪ノ灯火・シュナ(a58994)


<リプレイ>

●伐採場
 村を出たのは前日の昼頃であった。細い田舎道はやがて山へと続きそこで途切れた。冒険者達は道無き道をゆき、夜は森の中で野営した。そして翌朝、やっと伐採場まで到着したのだ。それでも普通の人であったら後半日は遅れていただろう。
「この材木をあの村に運べば良いんだな」
 青銀の飛竜・ウィル(a47045)は積み上げられた10本の材木を見てつぶやいた。朝の鮮烈な気配はまだ森のあちこちに残っていて、白い霧が視界を悪くしている。紗がかかった様な風景を進むと、夜露に濡れた長い材木がハッキリとわかる。木肌を荒く削っただけの木はまだ幹であった頃の丸みを残している。
「5本をひとまとまりにして、2つに分けてロープで縛ってしまえば良いのですよね」
 荷物の中身をがさがさと探しながら紋章の申し子・メロディ(a55297)は言った。すぐに荒縄や革のロープが取り出される。これで縛って5本ずつ2組で持って運ぼうというのだ。
「そうね……祭りに間に合わせなら急ぐ必要があるわよね。となると、これを全部1回で持って行くしかないわけだから、5本ずつを4人一組で……かしら」
 闇の画報・ミリア(a20674)は材木に近づきそっと手を触れる。伐採してからどれほどの時間が経っているのかわからないが、傷みや亀裂があるようには見えない。
「俺はどうでも構わないぜ。それよりも……」
 材木のくくり方や運ぶ為に人員配置などは棘石竜子・ガラッド(a21891)の関心事ではないらしい。それよりは行きに通った川をどう越すのか、それが気になっていた。『どこでもふわりん』を使う事はまず間違いない。だがそれだけでは不安がある。思案のしどころだとガラッドは顎に手を置き首をひねる。
「とりあえず5本まとめて縛ってみようか。ただ見ているだけじゃ時間がもったいないからね」
 だらだらと過ごす毎日の幸せ・ハズィル(a50935)も持参した革のロープを手に材木へと向かった。上から5本をまとめて縛ってみようとする。
「私も手を貸そう。この大きさと重さではロープ1本では心許ないしな」
 ハズィルの作業に風任せの術士・ローシュン(a58607)も手を貸した。材木の両端、そして中央部分をロープで縛ってみる。手持ちのロープでなんとか用に足りた。
「ちょっと待ってね」
 ロープの結び目にミリアが見えない錠を掛けた。
「とんでもなくぶっとい材木じゃなくてよかったなぁ〜ん。さっそく4人で持ってみるなぁ〜ん」
 全開・バリバリ(a33903)が材木のほぼ中央にミリアと入れ違う様にして取り付いた。逆側にウィルが位置し、ハズィルとローシュンの4人がかりで持ち上げてみる。難なく材木が持ち上がった。肩にかついで運べば長い時間でも運べそうだ。
「すごい! すごい! これなら楽勝だよね!」
 日輪ノ灯火・シュナ(a58994)はその場でぴょんぴょんと跳ねて喜んだ。お祭りはもう開催されたも同然……そんな気分であった。

 確かに身長の差……それは問題であった。バリバリ、ウィル、ハズィルそしてローシュンの場合は少しバリバリが低めなぐらいでそう大きな問題ではない。けれど、ミリア、ガラッド、メロディそしてシュナでは飛び抜けてガラッドが背が高く、ガラッドの肩に位置を合わせるとシュナやメロディでは材木に手が届くかどうかすら危うい。実質ガラッド1人が持ち、かろうじてミリアが補助出来そうだという感じだ。
「実際に4人ずつ別れてみたけれど、これはちょっと無理が無いかなぁ〜ん?」
 バリバリはしゃがみこんで考える。とてもとても考える。しばらくしてひらめくものがあったのか、スクッと立ち上がった。
「発想の転換なぁ〜ん。4人で5本を持つんじゃないなぁ〜ん。同じ位の身長の者が2人組になって2本か3本を持ってみるのはどうかなぁ〜ん」
 それぞれ背格好が似た者同士が組めば、材木が斜めになってしまう事もないだろう。
「それってボクだったらメロディちゃんと一緒にって事かな?」
 シュナは同じ年格好のメロディを見てバリバリに尋ねる。
「そうなるなぁ〜ん」
 小柄で年齢も同じ10歳相当の2人は悩む必要もなくペアだろう。バリバリは即答する。
「それですと、人を入れ替えて4人で運ぶ……という事ではなく、そもそも4人では運ばない……ということなのでしょうか?」
 小首を傾げて言うメロディの表情はやや不安そうだ。たった今まで4人で運搬するものだとばかり思っていたのだから、気持ちが切り替わらないし2人で運ぶと決断しにくい。
「私もてっきり4人で運ぶものだと思っていたのだ、メロディ殿の困惑もわかる。いや、貴殿の案も悪くないと思うのだよ、バリバリ殿……しかし、どちらが最適だろうか」
 ローシュンにとってもバリバリの案は突然であった。確かに理に叶う部分もあるだけに、尚更どうして良いものかと迷ってしまう。
「俺はどうでも構わんぞ。1人で5本持てというなら、やってみない事もない」
 ガラッドは大きな口を開けて笑う。体躯の逞しさ、力強さは誇るまでもなく自認している。
「運びやすい並び順にしなくては……とは考えてたけど、4人じゃなくて2人ずつって、これは根本から考えを改める必要があるって事かな」
 ハズィルは軽く腕を組んで思案顔になる。何をどうやっても運べないという事はないだろう。ただ、より早くより確実に……となると……どうなるのだろう。
「難所なら俺が土塊の下僕を喚んで手伝わせることも出来るが、そう何度もは喚べないからな」
「こうなったら臨機応変に対処するしかないわね。ロープの結び目は解かなきゃならなくなりそうだから……解除するわね」
 ウィルまで考え出すとミリアは材木を縛ったロープの結び目に手を触れた。するとミリア自身が掛けた錠が現れる。この特別な錠は例え掛けた本人であろうとも、解除しなければ効果を発揮しつづける。冷えた指先を息で暖め、ミリアは複雑に絡み合う錠を分解しはじめた。
 ここへ来ての相談だが、少し時間が掛かりそうであった。

●橋のない川
 伐採場を出発したのは昼にはまだ間がある頃であった。それぞれがそれぞれに決めてあった行為を覆すのは容易ではない。どのようにしたら良いのか意見を出し合い、その話し合いがある程度の形を為すのにはどうしても若干時間が必要であった。結局、小柄なメロディとシュナが2本、体力に余力があるバリバリとガラッドが3本。そしてミリア、ローシュン、ハズィルそしてウィルが4人一緒に5本を持つ。誰の希望もそのまま通ってはいない苦肉の折衷案であった。大きくとりまわしの難しい荷を負っての下りの山道は消して楽ではなかったが、冒険者達は材木に傷をつけたりしないよう慎重に移動する。移動の速度はあがらない。
「やっぱりあの岩はどけておいて正解だったな」
 5本に束ねた材木の重みを肩に受けつつ、ウィルは行きに破砕した岩があった場所を見た。確かにその岩があったら、この長い材木を移動させるのは面倒だっただろう。
「あぁ。あの岩の奥にはキノコがあったのだったな。辺りの小石を払っていたら偶然見つけたのだが、大層美味であった」
「うん、ボクのお弁当にぴったり合ったよね」
 ローシュンの言葉に木の端を持ったシュナが嬉しそうに言う。昨夜の野営では焚き火で採ったばかりの山菜を焼き、行楽に来ているかのような楽しい夕餉を取った。その思い出はローシュンやシュナの心にしっかりと焼き付いている。
「あ、もうすぐ川が見えてみます」
 メロディは木々が途切れ視界が拓けるとすぐに水の匂いを感じた。もしかしたらまた雨が降るのかもしれない。見上げれば重く灰色の雲が空を覆っていた。木材を川の近くに置き、皆は水際に近寄ってみた。ゴォーという音が響いてくる。
「あまり変わってないわね」
 ミリアは昨日ここを通った時の事を思い浮かべた。その時と比べて水かさはあまり変わっていないように見える。相変わらず何もかも押し流そうとしているかの様な急流だ。
「しかしここを越えねば村には戻れないんだぜ……俺はちょっと他の場所の様子を見てくる」
 ガラッドは下流へと歩き出した。橋が架かっていたのはこの場所かもしれないが、ここを通らなくてはならないわけではない。もっと楽に渡河出来る場所があるのならそこで材木を運びたい。
「僕らはどうしていようか? 先に川を渡っている人がいてもいいと思うんだけど……どう思う?」
 ハズィルは皆を見回して言う。
「そうなぁ〜ん。出来れば2人以上が先に渡っているといいなぁ〜ん。俺とハズィルが先に行くなぁ〜ん?」
 バリバリの思いは虚空に届き不思議で可愛いモノを喚ぶ。地面から1メートルほどの空中をふわふわと浮くフワリンだ。
「いや、バリバリにはこっちの岸でフワリンを喚んでもらいたい。そうだな……シュナ行ってくれるか?」
 ウィルはフワリンを喚ぶ事の出来ないシュナに声を掛ける。
「うん! ボクも先に川を渡った方がいいのかなって思ってた。ごめんねバリバリ、代わりに乗っけてもらっていいよね」
「勿論だなぁ〜ん。ハズィルもシュナと一緒に乗って川を渡るなぁ〜ん」
「……ありがとう」
 バリバリが喚び出されたフワリンは意外に頑丈で、ハズィルとシュナが背に乗ってもびくともしない。そしてゆらゆらとのんびり川を渡っていく。
「他もそう変わりないぜ。ここから渡るか」
 下流から戻ったガラッドが短い言葉で報告をする。上流方面には辿る道がない。もっと川面との落差が少なく、水量の少なそうな場所から渡りたかったのだが贅沢は言っていられないようだ。ガラッドは残っていたロープを腰に巻始めた。

 キツい流れの川。そのほぼ中央にミリアとガラッドが立っている。もし、彼等が冒険者ではない普通の民であったなら、即座に水に押し流されていただろう。けれど、2人は増水した川の流れに逆らって腰まで水に浸かりながら踏ん張り続ける。
「あんまり長く水に浸かってると感覚がなくなってしまいそうね」
 それでも不慮の事故に備えてとミリアは気力を奮い立たせる。もし、材木が流されそうになったら……そんな事態まで想定していた。
「無理はするなよ。おまえなら自分に何が出来て何が出来ないのかよくわかっているだろう」
「……引き際は判っているつもりよ」
 表情のわかりにくいガラッドだが、多分それはいたわりの気持ちから出て言葉なのだろう。ミリアはまだ余裕のある笑みを浮かべて小さくうなずいた。

「こちらは準備できました」
「私もだ。進んでくれ」
 メロディとローシュンが喚びだした2体のフワリンは、材木を背負ってそっと川へと向かって移動を始める。移動の速度は揃えなくてはならないので随分とゆっくりだ。
「もう1回フワリンを喚ぶなぁ〜ん」
「俺も……」
 バリバリとウィルもフワリンを喚びだした。その背に別の材木をしっかりと縛り始める。バランスも大事なので作業は緻密さを求められる。
 対岸ではやってきたフワリンの背からハズィルとシュナが材木を降ろす。
「こっちは持ったよ」
「ボクも……じゃせ〜の!」
 2人とも腕力がある方ではないが、ゆっくりと丁寧に河原に材木を降ろす。荷のなくなったフワリンはまた元の岸へと戻っていく。

 10本の材木が全て川を越えると、山側の岸にいた冒険者達はフワリンに分乗し……さらに川の中にいた者達も引き上げて一緒に渡った。それからもう一度材木を縛り運び始める。最後はカンテラの灯りを頼りに夜道を急いだので、村に到着した時はさすがの冒険者達もぐったりと疲れた者が多かった。そんな村は……祭りの前とは思えない程ひっそりとしていたが、冒険者達が到着すると大歓声で迎えてくれた。
「もう今年は駄目かと思っただよ。ありがてぇ……ありがてぇ。これで遠路からのお客人もがっかりさせずに済む。ほんと、助かっただぁ」
 村長は涙を流さんばかりにして感謝してくれた。予定よりは若干遅れてしまったが、遅くなりすぎる事はなかったようだ。
「さぁ! 夜っぴぃて準備をするだ!」
「おおおぉぉ!」
 村はにわかに活気づいた様であった。


マスター:蒼紅深 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2006/12/05
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