タケノコの里



<オープニング>


「……という訳で、筍掘りだ!」
 どういう訳だかさっぱりだが、説明に現れた護りの黒狼・ライナス(a90050)は意気込んでいる。何か、個人的事情で筍に思い入れがあるのか……。
 まあ、彼がタケノコスキーだとしても、とりあえず他の冒険者達にとってはどうでもいい事なので置いておこう。
「『タケノコの里』って言われてる村があってな。何でも『キノコの山』の奥らしいんだが……」
 それは新しい童話の1つか、真面目な話かと、冒険者達は訝しげな表情になる。
「む。地図もあるんだぞ、ほら!」
 ライナスが取り出した巻紙には、何だかすごく適当っぽい絵地図が描いてあった。
 さいはて山脈のどこかが『キノコの山』と呼ばれているという線は……その絵地図を見る限りは違うようだ。
 というか、山などない。筍狩りのできる竹薮の近くに、『キノコの山』に見えるものがあるだけなのだろう。
「山なんて無いけど……?」
 案の定、冷めたツッコミが聞こえる。
「本当の山とは限らないだろっ 『山のような茸』だったらどうするっ」
 それは『大きな茸』という意味か、はたまた『沢山の茸』か。どちらにしろ、あまり良い目印でないような気がして仕方ないが。
 そろそろ、話を聞いているのは、筍狩りに付き合う気になっている奇特な冒険者達だけだろう。
「ちなみに、リゼルにちょっと『視て』もらったから、筍狩りがちゃんと出来るのだけは保証付きだ。……目的地に着ければ」
「「「……」」」
「ま、きっと大丈夫さ。ヒントももらっておいたしな」
 霊査士・リゼルによれば、その村はさいはて山脈に近く、少し大きな街の朝市ででも聞きまわれば、1人や2人は知っているだろうという事だった。
「じゃ、準備はいいな?」

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参加者
NPC:護りの黒狼・ライナス(a90050)



<リプレイ>

 朝顔の花を揺らしながら、レイン(a06389)は「るる〜らら〜♪」と鼻歌混じりに上機嫌。皆より先に……。
「どこに行けばいいんだろう?」
 2回しかない獣達の歌で聞いてみたが、見つけた野良犬は目指すタケノコの里を知らなかったらしい。
「えーと……」
 笑顔がしばらく硬直した後、朝靄の中、レインは「うわぁんっ」とジョニーを抱えて他の冒険者達のいる市場まで戻ったのだった。

 筍の生長は早いからと、テンオー(a01270)はまだ夜も明けきらぬうちから市場を訪れ、商売準備に起き出したばかりの露店商などから聞き込みをしていた。
 筍売りを探しに来たカルーア(a01502)と行き会い、
「なんでも、タケノコの里は『筍通』には有名な穴場らしいんや。楽しみやぁ。皆で頑張ろなぁ」
 そう言ってにっかと笑う。場所のヒントをもらい、準備も万端でホクホク顔。
 カルーアの方も、筍を入れる籠をしっかり背負って、今日ばかりは冒険者に見えなくても仕方ない感じ。旅団仲間のアルシー(a02403)とサファイ(a00625)を見つけ、彼女は軽く手を上げた。
 ライナス(a90050)に朝一の集合をかけられていた他の皆も、順に到着し始めたのだ。
「誰か案内してくれる者はいないのか?」
 ルシール(a00620)の荷物をひょいと担ぎ、バルト(a01466)は辺りを見回した。
「バルトの分の筍御飯を報酬にしていいなら……1人ぐらい案内してくれるかもな」
 ボソリと呟くレスター(a00080)に「むむっ」と視線を走らせ、筍御飯のため! バルトは案内人を諦めて市場を後にする。――と、ルシールが慌てて追って来るのに気付いて顔を赤らめた。
「す、すまん。ちょっと……歩くの早すぎたな」
「え? ……大丈夫ですよ。バルト」
 にこっと微笑まれてまた赤くなる。
「春ね〜」
 見ていたレビルフィーダ(a06863)は、そう言うとほんのり微笑んだ。
 ただ、皆が筍掘りへと出発する中、イングリド(a03908)だけは気付かず、市場のおばちゃんとの井戸端会議に花を咲かせているのだった。

 筍もだが……。
「『キノコの山』も気になるな。大きいのかな?」
 ふむ……と考えてみるレイク(a00873)。もしも『山のように大きい茸』だったら……。
「とりあえず胞子を持ち帰って育ててみるとか……」
「まさかアイギスで?」
 市場で仕入れておいた料理材料を抱えたニオス(a04450)は、菜園に巨大茸が生えている姿を想像して……。
「……」
 ノーコメントを貫いておく事に。そして、
「大きな茸……美味しい、かも?」
 小耳に挟んだアゼル(a00436)はちょっと夢見ていた……。


 目印の『キノコの山』は、「とにかく見れば分かる」としか言われなかったが、タケノコの里と呼ばれる村の場所は、西。『キノコの山』近くの小川を渡り、さいはて山脈方向に細い細い道を歩くとあるのだそうだ。
「タケノコのこのこのっこのこ〜」
 ノソリンに酒を積み、異様に上機嫌のシュウ(a00014)を生温かーく見やって、ティキ(a02763)は「ふぅ」と溜息。いい歳をして……とその視線が語っている。
「荷物はなぁに? お酒?」
 期待するレビルフィーダに、ぐっ! と親指立てて見せるシュウ。
「やっぱり酒がないとなっ」
「もうすぐかな? あ、やっぱりもうすぐだよ。アルファさん」
 浮かれた様子はこちらも同じ。市場のおばちゃんに描いてもらった地図を片手に、ターカート(a04904)は声を弾ませてアルファ(a04076)の手を引く。
 やがて。見えてきたのは――。
「あれが筍……!」
 尻尾を振って歓声を上げたヒース(a00692)に、どげしっとミリアム(a03132)が蹴りでツッコんだ。※注・医術士
「茸だろっ!」
 冒険者達の目の前には、確かに『キノコの山』があった。
 小川の傍にある岩壁に、たくさん積み上げられた薪の山には、20センチ程の巨大茸が群生しているのだ。後で確認したところによると、何がどうしてそうなったのかは、近隣の村人にも分からないのだという。1本が生え出して、今ではモコモコわさわさ……。
 薪を積み上げておくだけで生えるが、その場所以外では茸が小さくなってしまうらしく、今ではその一角が全て茸……。
 キラキラキラッ
 アゼルは瞳を輝かせ、筍の前に茸を分けてもらいに行くのだった。

 そして、『キノコの山』から北へ行くと……。
「あれだね」
 オリエ(a05190)はヒースの肩をぽむ。
「しっかり掘ってくれよ」
 とニッコリする。
「何で僕が……あ……っ」
「おおおっ 目指すタケノコの里だ! 行くぞ、ヒースっ!」
 有無を言わせずのセイガ(a01345)に捕まり、彼は引きずられて行った。
「あははははーっ 頑張れー」
 笑って見送るダグラス(a02103)とチェリム(a03150)達。
「でも、セイガ様達、ちゃんと筍掘りできますの? 優しく、先っぽを見つけ出してあげないといけませんのよ」
 チェリムが小首を傾げる。
「ふむ、じゃあ手伝っておくか。ぽか、すか、たん(ハム) も行くぞー!」
 ハムスターで何をしようと言うのか。片手に3匹団子にして、ダグラスは息抜き隊♪ の面々を率いて駆け出すのだった。


 思い思いに準備して。いざ、筍探し――と思ったら、先客がいた。
 やせこけた柴犬が1頭、冒険者達をお座りで出迎えると、ワウワウッ と竹林の奥へ。
「「「……???」」」
 皆は「何だ?」と顔を見合わせる。
 その間にも、竹林をウロウロしていた柴犬は、サクサクサクッ と地面を掘り出した。
『何や? 何してんのや〜♪』
『まさか、筍掘ってるのか?』
 犬好きのテンオーとライゼウィン(a03060)が駆け寄り、獣達の歌で聞いてみると、バウッ とひと声。肯定が返って来た。
「ここにいるのはパンダじゃなく犬か……」
 でも、犬も気になる動物系旅団長・レイク。その後ろから、
「何? なにー?」
 とバーミリオン(a00184)やクロノシン(a04628)達が覗き込む。
「筍を探してくれる犬なのか……?」
 是非とも話してみたいがアビリティがないキャスレイ(a02922)は、興味深げに犬を見る。すると、持っているだけのアビリティを全て使って、犬と会話し続けていたテンオーが、いきなり「ぐしっ」と泣き出したかと思うと、犬をぎゅーっと抱きしめた。
「た、筍探すと、人が御礼をくれるって言うんやっ ……ぐしっ こいつは去年の春に捨てられて1人ぼっちだって……ぐしぐしっ」
 大男が泣いている姿は激しくウザいが、犬好きの面々はもらい泣き。わんこ組のミヤコ(a00675)とファルク(a01733)も、
「健気な子やー」
「可愛いヤツぅ〜」
 と瞳を潤ませる。わんこ組で飼ってあげると申し出たが、テンオーが撫で尽くして離さなかった。
「俺に引き取らせてや。な?」
 男泣きのお願いでは首を縦に振らない訳にはいかない。
「そうと決まったら、ゴンスケ! このわんこに習って筍探しだっ」
 イルガム(a03321)が愛犬に声をかけ、2頭の柴犬はワウワウワウッ と駆けて行く。
「チビノシンとブチも頑張っとくか〜」
 クロノシンも愛犬達を放してやり、あちこちで『ここ掘れわんわん』。
 リンディ(a06704)が、犬が掻き出した筍を土塊の下僕に掘らせ初め、いざ、筍掘りのスタート!
 オリエル(a00348)の猿・コウイチまでが竹に登ってはしゃいで。
「ああっ かじったらダメだって、ゴンスケ〜っ!!」
 イルガムが「あわわっ」と叫んだり……、竹林は俄かに騒がしくなる。
 丁寧に掘っているカルーアや、アビリティで犬に話しかけながら掘っているサファイ達に混じって、フィル(a00166)やヒース……あちこち包帯を巻いた重傷者が掘り手に多いのが、なんとも凄い光景だったが。
「ライナス、掘るのはよろしくなー。ほら、俺、重傷だし」
 ひらひら手を振るティキのような者も何人か……。
「……俺も重傷なんだけど?」
 ティキを振り返ったライナスは、ターカートが巨大剣で筍を掘りにかかっているのを発見して固まった。
「……」
 いや、多分それは無理だろう……と思っている間に、筍が掘り返される。が、剣先で近くの竹の根元を切ってしまったらしく、竹が1本、ザザザーッと音を立てて傾いだ。
「…………」
「あ、俺が掘ってあげるよっ♪」
「ん? あ、どうもな」
 皆で出かけるだけで楽しいらしい。バーミリオンは笑って、ライナスから筍掘りを引き受ける。
「そこら辺かな? たくさん掘れたら、アイギスにも持ち帰りたいね」
 楽しければ良いのはレスターも同じ。のんびりと話しながら、土を探るライゼヴィンが筍を見つけるのを待つのだった。

「さ、筍掘りは殿方にお任せするとして。女性陣は料理の準備をすると致しましょうか」
 リーファン(a04756)がファオを誘い、
「はい。では、私はお料理してきますねっ」
 そう言って、旅団仲間に手を振ると、「いってらっしゃい」の挨拶が彼女を送った。
「あ、そうだね」
「私も手伝います。兄に美味しいものを食べさせてあげたいですし」
 ライラブーケ(a04505)とフェルマータ(a01932)も用意にかかる。
「えーと。女の子じゃないけど……、いいよね?」
 花園になりそうな調理場所に、気持ちだけ壁に隠れながら踏み入るシュハク(a01461)。しっかり装備は白エプロン。
「アゼルさんが掘ってくれてるから……」
「もちろんですわ、シュハク様。梁山泊でご一緒する貴方様を、このわたくしが省く訳が無いではありませんか。先ほどのは、言葉のあやですわ」
 そんなシュハク達のやり取りも気にせず、荷物を置いて小川へ水汲みに出るのは――料理が得意で寡黙な男・ニオス。
「俺も……こちらで手伝いを」
「僕もね」
「あら、すっかり始まってしまっいますのね」
 ニオスの姿があるのにホッとして、手伝いに名乗りをあげたキャスレイとレイン、井戸端会議で遅れたイングリド達も揃って、人手は十分。
「ちゃっちゃと用意しちゃいましょう」
 ゆったりした会話にアルシーが喝を入れ、調理部隊が始動した。
 竹林の端の方では、アルファが漬物石になる大きめの石を探してウロウロ。カコーン、ザザーッと竹を切り倒しているシュウは、それで器を作るつもりなのだ。ターカートが間違って切り倒した竹も回収し、小川では準備してきた酒も冷やしてある。
「あとは筍料理を待つだけだな〜♪」
 浮かれ気分は継続中ー。

 鍋に湯も沸く頃、ローラ(a04638)とオリエルの土塊の下僕達が、とてとてっと走ってきては、筍を2本置いて行き、瞬く間に筍の山が。
 筍とお裾分けしてもらった茸の料理の間は、お食事処の準備。
 竹の器が配られて、ファルクは瞳を輝かせ、尻尾をフリフリ出来上がり待ち♪
「箸がないぜー?」
「あら、いけない。料理準備ばっかりに気をとられてたわね」
 アルシーはどうしようかと辺りを見回して、旅団仲間のサファイに目を留めた。
「よろしく」
 肩をぽむ。
「待て。まさか、俺のライトニングブレードで箸作れって言うのか……?」
「筍料理、食べたいでしょ?」
「う……」
「竹箸、40膳ね!」
 にっこり笑って彼女はサファイを送り出した。自分が掘ったのに――と、どこか割り切れないサファイだった……。
 やがて。
 小川で冷やした酒が運ばれてくると、筍御飯にピリ辛炒め、煮物のいい匂いが……。
 その他にも、漬物や木の芽和え、茸料理が並んで、パーティ気分。


「バルトっ! 勝負だーっ!」
 筍御飯の釜が開いた途端、オリエルが宣戦布告して真っ先に並ぶ。大食い競争はモノの確保から始まるのだ!
 触発されたか、テンオーやらセイガなども参戦して大食い競争が始まる。
 一角では、今日だけは重傷の兄を思いやってみるフェルマータや、旅団仲間で集まってはしゃぐ、ミリアムやバーミリオン達の姿がある。
「美味しいでしょ? もっと食べてー!」
 上機嫌でダグラスに勧めているミリアムの料理の味は……。口にした途端、
「ぬおっ」
 と叫んだダグラスの反応で推察しよう。

 やがて大人達はお酒でほろ酔いになり、気分は上々。
 美味しい料理と仲間の笑顔とが揃ったひと時を過ごす。
 そして、来られなかった友人達へのお土産を持って、冒険者達は家路につくのだった。


マスター:北原みなみ 紹介ページ
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参加者:40人
作成日:2004/04/07
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