悲劇の村



<オープニング>


●西からの凶報
 西方から届いた報告は同盟全体に大きな衝撃を与えた。
 それは、同盟諸国西部の城塞都市レグルスが、リザードマンの襲撃により陥落したという凶報であった。
 城塞都市レグルスは、同盟諸国の西の要として難攻不落を謡われていたのだが、それも、列強種族の侵攻の前には、あまりに脆かったのだ……。

 ランドアース大陸東方は、列強種族が抗争を繰り返す大陸中西部から隔絶し、数百年の平和な時代を過ごしてきた。
 しかし、その平和が破られる時が来てしまったのだ。

 列強種族リザードマンの侵略。

 レグルスを陥落させたリザードマンの軍勢は、そこを拠点として周辺地域への侵攻を開始した。
 既に同盟諸国の西方では、幾つもの村が襲われており、リザードマンに占拠された村々では、とても酷い蛮行が繰り返されている。
 また、略奪した食料や財貨はレグルスへと運び込まれ、大規模な戦いの準備も行われているらしい。

 この状態を放置する事は出来ない。
 冒険者の皆は、霊査士からの情報を確認し、占領された村々の開放、或いは、略奪の阻止に向かって欲しい。

 希望のグリモアの冒険者達よ、このリザードマンの魔の手から人々を救うのだ。


●悲劇の村
 その日、少年は兄弟2人で川へ釣りに出ていた。
 ほんの数尾、けれど、少年達にとっては大きな収穫を手に、母に披露する瞬間を思い描きながら家路を辿った時、自分達の村に攻め入る複数のリザードマンの姿を見た。
 悲鳴が幾重にも辺りに響き、彼らはその場に立ち竦む。
 震え、涙が流れた。
 父母の待つ村に何が起こったのか、兄弟は見る事なしに悟ったのだ……。

「西方で起こっている事について、既にお聞き及びの方も多いと思います。実は……」
 説明を始めた霊査士・リゼルの表情は暗い。
「虐殺が……起こっていると、報せが入ったの」
 リザードマンの一団が、村を襲って罪も無い人々を殺しているのだと言う。彼らはただ、手慰みに人を殺す事を楽しんでいる。
「皆さんにお願いしたいのは、既に襲われた村の生存者を可能な限り救う事。そして、次の場所へと移動するリザードマンの一団を追い、討伐して頂きたいのです」
 悲惨な有様を見る事になるだろう。また、リザードマンも10人程度と数も多いので、反対に返り討ちにあう危険もある。

 土地勘の無いリザードマンは街道ずたいに移動しているので、原野や林を突っ切り近道をすれば、追いつく事は難しく無い。
 問題は、彼らをどのように捕捉し、かつ、自らは捕捉されないかで、これが依頼の成功の重要な鍵となるだろう。
「どうぞ、お気をつけて」
 リゼルは言うと、丁寧に頭を下げた。

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参加者
静流の癒しの雫・リッカ(a00174)
深紅の戦女神・グリンダ(a00314)
厄災の萌・カール(a00521)
破壊の杖を振るいし者・サフィニア(a00785)
紅き瞳を持つ魔眼龍・シンゴ(a00942)
翳る紅月・リィズ(a01358)
紺青の氷輪・アルフィルク(a01617)
蒼を纏いし白き癒し手・ニーナ(a01794)
夕星・オニキス(a02108)
気まぐれ出現者・ラディス(a02174)


<リプレイ>

 村は赤く染まっていた。
 朱色、紅、そしてどす黒い……血に。
 至るところ、犬猫すらもが無残に斬られ、倒れるままに放置されていた。
「酷いな……」
 口数少ないヒトの邪竜導士・シンゴ(a00942)が小さく漏らした声は、冒険者達の耳を打つ。あまりの、静寂の為に。
「ここから、まだ生きてる奴を探せってか……」
 眉を寄せたヒトの武人・アルフィルク(a01617)は、もう1つの現実――生きてここに立つ自分達を感じたい気持ちで、ストライダーの武道家・グリンダ(a00314)を見やり、そして目が合った。お互いに言葉はなく、ただ……、後に控える戦闘へ臨む気持ちを確認するように、2人は小さく頷き合う。
「……っ」
 ヒトの医術士・リッカ(a00174)は息を呑んで立ち尽くしていた。
 早く助けなくてはと思っていたのに。あまりの惨状に震える心が、身体を硬直させてしまった。
「……急ぎましょう、リッカさん。私達がやらなくちゃ……ね?」
 グッと堪えるような様子で、ヒトの医術士・ニーナ(a01794)はリッカの背を叩く。
「……うん」
 我に返った、その瞬間に、リッカは走り出す。
「頼みます」
 時間はない。グリンダは言うと、リザードマン達の先回りをする先発隊のエルフの翔剣士・リィズ(a01358)やエルフの牙狩人・オニキス(a02108)達を振り返る。
「行こう」
 ストライダーの翔剣士・ラディス(a02174)の冷静な声が、彼らの足を進めた。

 緩やかに曲がり、林を迂回してゆく道筋が先には見えていた。先回りで出られるように、先発隊は村に入らず木立へと分け入る。
 一方でヒトの武人・カール(a00521)やエルフの邪竜導士・サフィニア(a00785)、アルフィルクといった面々は、村を突っ切って道なりに敵の追跡に入る。
 駆けるサフィニアの視界の端で、何かが動いた気がした。
「……っ?!」
「サフィニアっ! 急げ」
 声を張り上げるカールに、「待て」と手を挙げ返しよく見ると、村の境界に倒れていた男の手が微かに動いた。
「こっちだ、ニーナ!」
 先に声に気付いたのはヒューガ。行っていい、とサフィニアを促すと、動けぬ男を抱えニーナの元へ運んで行く。
 時間は、流れる血となって零れ落ちる。
 アルフィルクは村人から少しでも情報を聞いておきたかったが、それは酷に見えた。自力で追跡するしかないだろう。――自分には出来るのだから。
 医術士達のアビリティは、使える限度を考えれば無駄遣い出来ない。少し回復させては応急処置をする、というニーナの努力で命を取りとめたその男も、蒼白な顔で力なく横たわっている。
 出来る事はここにはない。サフィニアは思うと、アルフィルクの腕を引き、すぐにカール達を追った。


「やっぱり、街道づたいで移動してるようやな」
 膝を付き、じっと地面を探っていたアルフィルクは、リザードマンの入り乱れた足跡を見つけた。隠す気もないそれには、追われる事を思いもしていない無用心さが見える。
 迷う必要はなかった。
 脇へ逸れる小径には目もくれず、彼らは走る。
 同じ頃。
 オニキス達は林を抜けているところだった。
「……っ?!」
 木の根が張る足場の悪さと、踏みつけられた下草の滑りで、シンゴが足を取られる。咄嗟に腕を伸ばして掴まえたのはラディス。遅れがちなシンゴを、彼だけは少し気にかけていたのだ。
「大丈夫か?」
「……ああ」
「引っ張って行ってあげようか?」
 先頭でクスリと笑って言うリィズ。からかっているのだと気付いたシンゴは、歩み寄ると意趣返しにガッシと彼の肩を掴んだ。

 林を抜け、斑にある原野を駆け続けた先発隊の目に、横たわる街道が見えた。
「リザードマンは……?」
 ラディスはすぐに村の方角を振り返り、敵がまだ見える位置にはいない事を確認した。
「待機場所を探してきます」
「急いでくれ!」
 具合の良い木や岩場を探し、オニキスが辺りを見回して歩いて行くのに、ラディスは焦った声で催促した。グリンダは彼女の位置を見ながら、戦いの場を目測ではかる。
 しかし。
 数の不利を承知で陽動役を負っているはずの彼らには、注意が足りなかった。
 リザードマンの動きに気を配っていたのもラディスだけ。隠れもせず、ただリザードマンを迎えただけの5人は、人と見れば襲うような倍の数の敵に、備える時間を与えてしまった。
 彼らが過ちに気付いたのは、現れたリザードマン達が武器を構え、切っ先が中天を過ぎた陽に煌いた時――。
 間合いは、一気に詰められる。
 先手の斬り込みは冒険者達。その余裕とストライダーならではの反応力で、グリンダは懐へ潜り込み、鳩尾への肘突きを叩き込む。相手の小さな呻きが聞こえたが、鱗が邪魔をしている。返される大剣が、即座の離脱をかけたグリンダの肩口を斬った。
 追い討ちを止めたのは、シンゴの杖から迸る衝撃波。
「援護は俺に任せて、好きにやってくれ。これ以上、非道をさせないためにもな!」
「そうは行かねぇ!」
 シンゴに応えたのは仲間ではなかった。その瞬間、援護に回る彼を、敵の後方から放たれた魔矢が射抜いた。
「……くっ!!」
 十分に狙いすまされたそれは、シンゴの脇腹に突き立つ。
「大丈夫かっ?」
 振り下ろされようとする刃を、滑り込んだラディスのレイピアがいなした。そのまま退き、シンゴとラディスはリザードマンから距離を取る。 
 鍔迫り合いの音はその横合いから。
 力で勝る相手の剣を、受け、流し、そして退くリィズ。彼の動きはリザードマンに劣らなかったが、それでも、多勢が相手では『意図した退き』から『押される』状況に変わるまでは幾許もない。
 かすり傷は徐々に増え、回り込んだ敵が彼の胴を薙ごうという一瞬、潜んでいたオニキスの矢が飛んだ。
 しかし。
「効かない……?!」
 全く効かない訳ではなかったが、大したダメージにならなかったのは確かだ。
 その間に、構わず続けた怒涛のような連撃がリィズを襲う。切り抜ける一手にライクアフェザーを使えなかったら危なかったところだ。
「まだですか……?!」
 焦燥感にかられてオニキスが街道に目をやると、後発隊がやって来るのが見えた。
 安堵する間もなく、自分を狙って迫るリザードマンから逃げ、仲間達の後方に回ると影縫いの矢を放つ。温存していれば、この場で勝負は終わってしまう。
(「許せない……っ!!」)
 持ち堪えられない自分達が。そして平和を乱すリザードマン達が。
 オニキスの心の叫びは、魔矢となって空を裂く。
 動けなくなった1人にリィズが斬り込み、追い撃つシンゴのブラックフレイムで葬られたが、その反撃は多方からくる。退くリィズの2度目の回避は、成らなかった。

 後発隊が到着するまで、時間はさしてかかっていなかっただろう。しかし、剣技の応酬は秒単位の勝負。
 過ちの上に立てられた策は、効果を半減させ、後発の仲間が到着した時には、冒険者達の劣勢は明らかだった。
 合流には、時機を見極めるまでもない。
 敵の後方から突進するカールとアルフィルクに、警戒はかかっていない。
 抜刀の鞘走りから刃の閃きは一瞬。完全に無防備だったリザードマンを、さらに返す剣でカールは斬り伏せる。その眼前で、リィズの身体がゆっくりと傾いだ。
「……っ!!」
 ――夢見が悪かった。
 起きた時には覚えていなかったけれど。
 とても。
 嫌な予感を運ぶ夢だった。
 夢の中でも自分は、こうして叫ばなかったろうか――。
「リィズっ!!」
 カールの叫びは、打ち合わされる剣の鈍い音に消された。

(「グリンダは……っ?!」)
 アルフィルクが斬り込んだのは、数瞬の差。寸前にサフィニアの衝撃波がリザードマンの背を撃ち、その振り向きざまを居合い斬りで討ち倒す。
 本来なら、これで数の劣勢は無くなったはずだったが、実際は違う。怪我人と重傷者を抱える事になった冒険者達にとって、今の混乱こそが離脱のチャンスとなるだろう。
 見極めたのは、サフィニア。
「撤退をっ!!」
 これ以上は無駄に戦力を削る戦闘となりかねない。だが、カールだけは従わなかった。
「「カールっ!!」」
 リィズを抱え、離脱したラディスとグリンダの叫びが上がる。
 力の限りに斬り続ける彼は、自分達の離脱の手助けとなった。しかし、最初の混乱の収まればリザードマンに囲まれるだろう。
 思う瞬間にも、朱色の飛沫が散る。
「退け! カールっ!!」
 シンゴのブラックフレイムが最後の手助け。
「ち……っ!」
 限界に気付かぬほど理性を失ってはいない。カールは舌打ちして退いた彼の肩に、追い撃たれた魔矢が突き立った。
 サフィニアが牽制を放ち、倒れ込んだ彼を支えて退いた。


 生存者よりも、圧倒的に死者が多い。屍の中の露命を探し、リッカは村をくまなく走り回っていた。
「ボクの声、聞こえる?!」
 やっと見つけた命は、ほとんどが癒しの水滴なしでは儚くなってしまいそうで。惜しんではいられなかった。回復をかけ、応急手当を施す。
「ごめんね。ももっとアビリティが使えたら、沢山の人の怪我、すぐに治してあげられるのに……」
 泣きそうになりながら、それでも止まれない。
 彼女自身も血まみれになって、子供を抱えてニーナ達の元へ歩いていた時、村を窺う子供2人を見つけた。
「あの子達……」
 この村に住んでいた兄弟だろう。
 気付いたニーナも立ち上がる。そっと歩いて行き、怯えの為か、ものも言えずに立ちすくむ2人を、彼女は優しく抱きしめた。
「怖かったわね……」
「ふえっ……」
 小さな方が泣き出すと、堪えきれずに上の子も泣き出した。
 兄弟2人と、その祖母、他に6人が命を取りとめたのだった……。


 重傷のカールとリィズを休ませ、冒険者達は後の弔いまで世話をした。
 村が活気を取り戻し再生する日は、まだ遠い。そして、リザードマンの非道もまた、続いたのだった。


マスター:北原みなみ 紹介ページ
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作成日:2003/09/22
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重傷者:厄災の萌・カール(a00521)  翳る紅月・リィズ(a01358) 
死亡者:なし
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