【白影】ミストアサシン



<オープニング>


 旧同盟領西部。ドリアッドの森との交易が行われる事になり、周辺の住民や商人達が協力して街道の整備をしていた。
 その一組の男女も、整備を引き受け街道を歩いていた。
「……霧が出てきたね」
 女が言う。
「そうだな」
 男が答える。
 いつの間にか、二人の周りは霧に包まれていた。それが酷く急速だったことに、女は恐怖を感じたようだった。
「……何だか怖いわ」
 震えだしそうな自分の肩を抱いて、女が怯えるような声で言う。
 しかし今度は、男からの返答は無かった。
 不審に思い、女は男に目を向ける。
 男には頭が無かった。首から上が消失している。
 目の前の現実に女の理解が追いつく前に。
 首にかかる冷たい感触と共に、女の意識は途切れた。


「旧同盟領とドリアッドの森を結ぶ街道で殺人事件が起こっているんだ」
 双面の霊査士・アルフレッドが言った。
「被害者はこの街道整備のをしている近隣の住民や商人達。
 犯人を特定する証拠はまったくと言っていいほどに無い。霊視するための残留物も見つからず、結局犠牲者の遺体を使うしかなかった。その結果、犯人は……人型の何者かだった。全身が真っ白で、武器をつけているのかそれとも自前なのか、爪がひどく長い。おそらくはこれが凶器だろう。
 ……犯人を『人型の何者か』と言った理由は、被害者を殺害した後、その犯人は霧と共に影も形も無く消え去っていたからなんだ。『立ち去った』ではなく、『消え去った』のさ。
 初めは、未知の特殊能力を持った化け物かとも思ったんだけど……どうも馴染みのあるニオイがするんだよね」
 アルフレッドは鼻を擦った。
 彼が言ったニオイとは、嗅覚で感じたものではなく、思い出せそうで思い出せないあやふやな感覚を表現したものある。
「以上のことを踏まえて調査を頼む……あ、それと、犯行は少人数でいる人間を襲っている。調査するなら単独行動に気をつけてね。真正面から戦えば君達の敵じゃないだろうけど、やっぱり不意打ちは危ないから」
 そして、アルフレッドは小さな声で付け加える。
「……もっとも、犯人を誘うというのも一つの手ではあるけれど」

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参加者
荒野の黒鷹・グリット(a00160)
力を求める者・ニック(a00270)
フレイハルトの護衛士ー紅神の・フーリィ(a00685)
白いカラス・カイ(a02188)
無限の転校生・ソーウェ(a02762)
百合の導き手・シンシア(a04647)
紅蓮の鬼姫・マイ(a05398)
蒼穹を見上げ歩む者・イレーヌ(a06766)


<リプレイ>

●推測
「白い暗殺者か、正体掴んで手早く仕留めたい所だな」
 対峙するであろう敵を思い、氷嵐劫破・グリット(a00160)が言う。その言葉を受けて、
「暗殺者としては失格だな。火の気は無くとも煙が立ちまくりだ」
 血と涙に濡れし純白の翼・カイ(a02188)は嘲るように言ったが、警戒の必要性を感じているのだろう、その目の奥には真剣な光が覗いている。
「匂いに覚えがあるって事は、過去に覚えがあるのかしら?」
 エルフの薬物士・フーリィ(a00685)は、双面の霊査士・アルフレッドが過去に受け持った依頼の報告書を読んでいた。
「グドン退治に、モンスター退治。救出に護衛。説得……どうも、これだってのが無いわねぇ。襲撃の動機を考えてみると何か見えてくるかとも思ったんだけど」
 そう言って、借りてきた報告書を置いた。
 そんなフーリィを見ながら、
「可能性としては同盟の冒険者か」
 グリッドが言った。しかしその後、
「だが誓約がある以上、同盟の者とは考えたくないが……」
 と小さく呟く。
「確かに、同盟の冒険者が一般人を殺すのは妙だよね……モンスターの仕業って事も考えられるけど……」
 力を求める者・ニック(a00270)も、彼と同じ事を考えていたようで、そう言った。
「大まかにモンスターの特殊能力は、特殊化している事はあっても多様性は少ないもの。今回がその例外であることを祈るが……」
 鋼撃手・ソーウェ(a02762)がため息をつく。言ってみたものの、その可能性が低い事を、彼は分かっていた。
 三人の話を聞きながら、フーリィが推測を述べた。
「この事件と同じ事を冒険者がやろうとするなら、ミストフィールドとエルフの夜目、ハイドインを使って接近、カラミティエッジで殺して再びハイドインで消える、と……出来てしまうわね。可能か不可能かと言う観点からなら、エルフかリザードマンの忍びが灰色かしら……。ま、何にしろ、不意打ちしかできないような輩は脳に緊急オペが必要ね」
「そうですね……無闇に人々を脅かすような方には、おしおきっ! ……ですわ」
 蒼穹を見上げ歩む者・イレーヌ(a06766)もフーリィに同意した。だが、すぐに不思議そうな顔になる。
「けど、何のためにこんな事をするのかなぁ……?」
 それに対して、グリッドが推測を述べた。
「推測に過ぎないけど……俺は、先の戦乱で残ったリザードマンの忍びの仕業だと見ている。動機としては、スパイ工作とかかな」
 続いて、
「ドリアッドの冒険者が、何かの理由で人里を何ヶ月も離れていて、同盟から侵略者が来たと思い込んだ挙句、事情を知らないままゲリラ戦を始めたと言うのは?」
 ニックが推測を述べた。
「でも、『消え去った』ってのは気になるわね。ハイドインシャドウってそんな上手く『消え去れる』ものなのかな……」
 紅蓮の鬼姫・マイ(a05398)が考え込むが…
「……」
 それまで、敵やらなんやらをモーニングスターでぶちのめしてきてばっかりで、頭使わなかったためか。
「あ〜〜〜も〜〜〜〜!!私頭使うのに苦手なのよ!!こんがらがるあ!!」
 突如、叫んだ。
 どうやら考える事に耐え切れなくなったらしい。
「ずる賢いことだったら考え付くのに……」
「ま、想像だけじゃ結果は出ませんな。まずは情報を集めてみた方が良いね」
 ニックは、荒い息を吐くマイを宥めるように言って、肩を竦めた。
 その言葉に他の冒険者達は頷いて、問題の街道へと向かった。
「……あっ、いってらっしゃい」
 冒険者達が話し合っている側で考え事をしていたアルフレッドは、酒場を発つ冒険者に気付いて、慌てて見送った。
「特殊化したアビリティ、か……」
 そして冒険者達の姿が見えなくなると、彼は呟いて、再び考え事を再開した。

●聞き込み
 冒険者達は、街道に近い村へに寄り、情報収集を行っていた。
「やぁ、ちょっといいかな?最近の事件の事についてだが……」
 グリッドは、村人にリザードマンなどの不審者の目撃情報を尋ねるが、帰ってきた情報は無い。村での目撃例をあげる事は出来なかった。
「それじゃあ、食料品店や畑に盗難が出ていたりは?」
 続いてのカイの質問にも、村人は首を振った。

 次いでイレーヌは、これまでの事件がどの時間帯に起きているのか、犠牲者に何か共通点がないかを調べようとしたが。
「俺たちが街道に出るのは日中だよ。夜に行っても意味が無いしな。犠牲者の共通点は……街道を少人数で歩いていた、と言う事ぐらいだな」
 と、芳しい情報は得られなかった。
「囮作戦に役立てようと思ったのですけど……」
 イレーヌは困ったようにため息をつく。

「……これはどう言う事だろうね」
 用意した地図を持って、ニックが呟く。犯人の拠点や休憩場所になりそうな地点を絞り込んでいこうと、聞き込みをしたものの、街道周辺の地理はあまりにも曖昧だった。街道の傍に森があると言う事がせいぜいである。
 カイも、近くに食べられる野草が潤沢に生えていないかを聞いたが、村人達は、詳しい事は分からないと言った。
「ドリアッドと通じる前ならともかく、彼らが同盟に入ってからそれなりには時間が経ってるはずだろう?街道の周りは調べなかったのかい?」
 ニックの問いに、返って来た村人の答えは。
「調べに行った奴は、誰一人帰って来てないんだよ」
 酷く疲れた声だった。

「聞きたい事があるんだけど♪」
 百合の導き手・シンシア(a04647)も、色っぽい仕草で村人に話しかける。
「街道整備の反対勢力ってあるかしら?」
 その色香に照れながら、村人は彼女の質問に素直に答えた。
 しかし、素直に答えたからといって、有用な情報を得られるわけでもなく。
「い、いや、俺達は皆、ドリアッドとの交流を望んでたんだ。反対するなんて……」
「お前が、そう思ってるだけかもしれねぇぜ?」
 カイはそう言って、さらに深く聞き込んでいく。
「人との付き合いを絶っている奴、ドリアッドに酷いことをされた等特殊な事情がある奴はいるか?」
「あ、あんた、俺達を疑ってるのか?」
 気分を害したように、村人が答える。
 其処を、シンシアが助け舟を出した。
「そんな事無いわ。でも、何が手がかりに繋がるか分からないものだから、一応聞いておきたいのよ」
「ん、でもなぁ……」
 ソーウェが後を継で尋ねる。
「とりあえず、『エルフとドリアッド』『街道設置、整備に関しての出来事』『ドリアッドの森との交易にからむ利害関係』あたりで、何かないかのう?噂話程度でも構わんので教えてくれんか」
「そうだなぁ……いつも村に来ている行商人は、ドリアッドの所まで脚を伸ばせるって喜んでたけど……」
「ほう?」
 冒険者達の目が光る。
「でも、それで被害を被る奴なんて居ないし……。街道の整備に関しては、今回の事以外は特に何もなかったよ……」
「そうか……」

「へぇ……こういう風にやっていくんだね」
 他の冒険者が聞き込みをしている様を見ながら、マイが呟く。初依頼と言う事で、先輩冒険者に付いてその行動などを吸収しようと、しっかりと観察していた。

 結局大した情報は手に入らなかったが、これ以上の情報は得られないと結論し、冒険者達は囮作戦を行う事にした。

●囮作戦
 囮作戦は、フーリィ、マイ、イレーヌ、シンシアが囮となって先行し、後方から残りのメンバーが離れすぎないように付いて行くと言うものだった。
 囮となった四人は、周囲を充分に警戒しながら慎重に足を進める。
 そして、旧同盟領から旧ドリアッド領に入ってしばらくしての事。
 四人を霧が包み始めた。
 予想していただけに、四人は咄嗟に対応に出た。
「ふっ、かかったわねぇ♪」
 シンシアがストームフィールドを発動させる。シンシアを中心として風の流れが生み出され、霧が払われる。
 霧が払われた後に残った、それ。
 ミストアサシン。
 服なのか、それとも地肌か。頭の頂から足の先まで、白一色の体。アルフレッドが爪だと言ったそれは、指がそのまま延長されたかのような形状と太さで、また同時に刃のような鋭さを備えている。そして何より奇妙なのは、その顔。木の洞の如きぽっかり空いた穴のような目。口の部分には数本のスリットが入っているのみ。また、全体に凹凸は少なく、仮面を被っているようにも見える。
「医術流交殺法オペ、口伝絶命技 滅素っ」
 フィーリィのメスが閃き、ミストアサシンの首筋を薙いだ。
 ミストアサシンは、よろける様に数歩退いて……その姿が、そのまま空気に溶けるように消えた。
「……ぇ……」
 呆然と呟くフーリィ。
「あ、残念。逃がしちゃった……ですわね」
 イレーヌが残念そうに言った。
 そうしている間に、後方に待機していたメンバーがやってきた。

「逃がしたか……まあ、それは仕方ないとして。ちょっと周囲を調べてみたいんだけど、誰か手伝ってくれない?さすがに一人で動く気にはならないんだよね」
 ニックが苦笑しながら言った。
「付き合うぜ。結局、戦闘では何もしてないし……」
 カイが応えている最中。
 霧が再び冒険者達を包んだ。
「戻ってきたの!?」
 マイが叫ぶ。
「ストームフィールドを!」
 フーリィがシンシアに言う。
「しつこいわねっ」
 シンシアのストームフィールドが、再度霧を吹き飛ばす。が。
「なんで?」
 驚きに、フォローを入れる余裕も無く、イレーヌは呟いた。
 そこに居たのは、先ほどと同じ姿のミストアサシン。
 それが、二体。
 予想していなかった状況に、冒険者達は、一瞬反応が止まる。
 が、それでも。グリッドの反応はミストアサシンよりも早かった。
「描きたるは黄道12星座陣……光の雨よ、彼の敵を撃て!」
 宙に光の紋章が描かれ、エンブレムシャワーが二体のミストアサシンを撃つ。
 それに続くように、他の冒険者達も動いた。
「この卑怯な人殺しめ!」
 ニックが挑発するように叫ぶ。が、ミストアサシンは何の反応も示さない。
 舌打ちして放った飛燕刃は掠り傷を負わすに留まった。
 ソーウェはミストアサシンの懐に飛び込んで破鎧掌を叩き込んだ。ミストアサシンはかろうじて踏みとどまるが、体勢を崩す事は避けられない。ソーウェは、そこに兜割りの踵落しを叩きつけた。必殺の一撃は、ミストアサシンの頭から股下までを一気に引き裂いた。
 ミストアサシンは倒れ、その直後に先ほどと同じように消え去った。
 一体目を片付けた頃、グリッドは、もう一体の横に回り込んでいた。
 体を一回転させ左の裏拳を打ち付ける。回転の勢いを殺さず右手のブローが、顔を強打され体が反っているミストアサシンを襲う。鍛えられた拳は白い腹に深くめり込んだ。
 連撃はまだ止まらない。続く踵落しが、体がくの字になったミストアサシンの肩口に命中する。そして、ミストアサシンが倒れるより早く。深く踏み込んだ破鎧掌がミストアサシンの白い体を吹き飛ばした。
「チェックメイトだな……そろそろ観念したらどうだ?」
 充分な余裕を見せて、グリッドが言う。
 しかし、それにも何の反応も示さずによろめきながらも立ち上がるミストアサシン。
 そこに、イレーヌが電刃衝で切りつけた。ダメージ自体大きくは無かったが、その電撃がミストアサシンの動きを封じた。
「やったー……やりましたわ」
 そして、冒険者達は、ミストアサシンを縛り上げた。
「さて、それじゃ尋問しましょうか」
 シンシアが言った時。
 今までと同様に、宙に溶けるように、ミストアサシンの姿が消えた。縛り上げた縄が支えを失い、地面に落ちる。
「……えーっと……」
 シンシアが困ったように仲間を見る。
「どう言う事じゃ? ハイドインシャドウではなかったのかのう」
 ソーウェが首を捻る。
「う〜〜〜〜〜」
 マイは、もう考える事を諦めたのか、唸るばかりだった。
「確かに、ハイドインシャドウだと考えると、おかしいよね」
 ニックが言うと、それまで黙っていたフーリィが呟くように言った。
「おかしいのはそれだけじゃないわ」
 彼女は手にしたメスを見つめながら思い出すように喋る。
「私が最初に首を狙った時、確かに手ごたえがあったわ。カラミティエッジよ? 耐えられるとは思えない……」
「わしの踵落しもじゃったな。確かに止めを刺した手ごたえがあったわい」
 ソーウェが同意した。
「それに……霧が出てきたとき、エルフの夜目で見てたの。でも……あいつ、見分けが付かなかったわ」
「あ? ……それは、体温が気温と同じって事か?」
 カイが問う。
「他に理由が考えられる?」
 フーリィが答える。
「つまり……一体、あれは何なの?」
 シンシアの言葉に。
「……」
 誰も言葉を繋げる者は居ない。

 彼らの傍を、湿った不快な風が吹き抜けて行った。

●周辺調査
「鹿に、狼、それに兎……この引きずったような跡は蛇か?」
 カイが地面に残った足跡を調べながら言う。
 ニックとカイ、イレーヌは、街道の傍の森を調べていた。
「人型の足跡はないのかい?」
「あるにはあるが……街道の方からしか奥に向かうものばかりだな。街道に向いてるものが無ぇ。多分、調査しにきて行方不明になった村人のものだろうぜ」
「ミストアサシンは、森に住んでいないのでしょうか……」
「さて、どうだろうな……」
 カイは地面から目を離して視線を上げる。
 周囲にはドリアッド領らしい生い茂った木々。切り立った崖と、泉。
「もう少し情報が欲しい所だよね。せめて、アルフレッドが霊視できるようなものがあれば……」
 ニックが呟いている時、再三、霧が冒険者達を覆った。
「……どう思う?」
 頬が引き攣るような心持でニックが誰にとも無く問う。
 霧を通して見える人影は、四つだった。
「とにかく退こうぜ。俺は死ぬ気はねぇぞ?」
「賛成ですわ……さすがにこれは……」
 カイとイレーヌが応える。
 三人は頷いて、走り出した。

●報告
「おかえり。お疲れ様」
 酒場に報告書を持ってきた冒険者達を、アルフレッドが労う。
「犯人の正体は分からずじまいだったけど……それなりの情報は手に入ったようだね」
 報告書を読みながら、アルフレッドも、ミストアササンについての不可解な事実に眉をしかめる。
「この情報を元に、もう一度考え直した方が良いのかな。ひどく不可解な事ばかりだけど……見方を変えてみると、案外思いつくものだからね」
 アルフレッドは報告書を綺麗に纏めて、酒場から出て行こうとして。
「……ああ、そうだ。街道付近の村人に、この報告書を渡しておくよ。おそらくはまた依頼が出るだろうから……その時には宜しくね」
 そして、今度こそ酒場から出て行った。


マスター:maccus 紹介ページ
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わからない
参加者:8人
作成日:2004/04/07
得票数:ミステリ16  ダーク1 
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