全ての人に愛の手を〜花嫁泥棒は罪〜



<オープニング>


 どんなに小さな村であっても、活気のある村というのは、大概何か他とは違う特産物のようなモノを持っている。
 その村の場合、それはウェディングドレスであった。
 村にはいくつもの仕立屋が軒を並べており、それぞれ技巧を凝らした純白のドレスを作ってくれるのだ。
 近隣ではそれなりに知られており、わざわざ遠方からこの村まで人生の記念にと、ウェディングドレスを求めて来る者も珍しくないとか。
 まるで一年中6月のような村。しかし、その村に今、重大な危機が訪れていた。


 その村の話を、紅葉の色づく森の守護娘・シンブ(a28386)が耳にしたのは、ほんの偶然だった。住民の苦境を聞き、見て見ぬ振りをするようでは冒険者とは言えない。
 シンブは早速、その村の危機を救う為、仲間達に声をかける。
「花嫁泥棒ですか?」
 怪訝な顔をして首を傾げる、どこにでもいる少女・ナンシー(a90238)に、シンブは頷き返す。
「はい、村の人はそう呼んでいるそうです。何でも、見たこともないほど大きな黒毛の猿だとか」
 その猿には奇妙な性質があり、純白の衣装を着ている者を見ると、襲いかかり、連れ帰ってしまうのだという。
 幸いにして、ウェディングドレスさえ脱げば興味を失うらしく、今のところ死者は出ていないが、このままでは村は立ちいかない。
「というわけで、私たちがウェディングドレスを着て、その悪いお猿さんを懲らしめて上げようと思うのですが」
 どうやら聞いた限りでは、猿に特殊能力はないようで、さほど手強い相手でもない。
「分かりました、そう言うことでした」
 頷くナンシーにシンブは笑顔で付け加える。
「ちなみに、終わった後は、ウェディングドレスを試着させていただくことになっています。折角ですから、色々着てみましょう」

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参加者
十字路の悪魔・ユウリ(a25929)
月夜に咲く一輪の花・コトナ(a27087)
桜と飲み比べる森の守護娘・シンブ(a28386)
特別天然記念物級理想主義者・メイ(a28387)
天声の歌姫・ユウヒ(a28441)
光祈麗嬢・ミューズ(a29133)
風薫る剣の使い手・ユズ(a50407)
エンジェルの紋章術士・レン(a53218)
NPC:どこにでもいる少女・ナンシー(a90238)



<リプレイ>

●登場、九人の冒険者
 ウェディングドレスと結婚式。一夫変わった特産物を持つこの村に、ウェディングドレスを着た花嫁さんを専門に狙う、大きな黒毛猿が出没するという。
 永遠の愛を誓った瞬間に、略奪されたんじゃあ、めでたい結婚式も台無しだ。このまま、結婚式が開けないようだと、この村は遠からずして干上がってしまう。
 困った村人達の声を偶然聞きつけた、紅葉の色づく森の守護娘・シンブ(a28386)は、早速仲間達に声をかけ、事件解決に乗り出したのだった。
 ちなみに集まった有志は女性ばかり。囮役は最低一人居れば事足りるのだが、まあ少ないよりは多い方が良い。
 村の外観は、流石に結婚式を司るだけあり、この規模の村としては抜群に華やかだった。
 どの建物も原則白を基調としており、統一感のある町並みの中央通りは、赤い煉瓦が敷き詰められている。
 その赤い煉瓦の上を歩きながら、天使のソプラノ・ユウヒ(a28441)はふと首を傾げた。
「しっかし、ドレスの女の人ばっかを狙うなんて、ヘンなオサルやなぁ?」
 ユウヒの言葉ももっともである。サル独自の美的感覚でもあるのだろうか?
 一方、その後ろを歩く、光祈麗嬢・ミューズ(a29133)はお淑やかな中にも、静かに怒りを滲ませる。
「花嫁泥棒とは聞き捨てなりませんね……」
 その人にとって最高に幸せであるべき一日を、最悪の形で滅茶苦茶にするのだ。いかに死者を出していないとはいえ、許せるものではない。
 そうして赤い煉瓦の上を進む冒険者達は、町並みを象徴するような白を基調とした大きな建物の前に着いた。
 村のシンボルでもある、結婚式場だ。ここで結婚式を挙げることが、近隣に住む少女達にとっては、1つのあこがれともなっている。
 中では村の協力者達が、囮用に純白のウェディングドレスを大量に用意し、待っている。
 9人の女性冒険者達は、全員どことなく軽い足取りで、結婚式場へと足を踏み入れるのだった。

●変身、九人の花嫁さん
「まあ、皆さん本当によくお似合いですよ」
 着付け係の纏め役らしき、恰幅の良い中年の女性が、ウェディングドレスに着替える冒険者達を前にして目を細める。
 結婚式場内の新婦控え室にて、九人の女性冒険者は、九人の花嫁さんに変身を遂げていた。
「皆はどんなん着るん? フリフリが一杯付いたのもええね〜♪ こっちのシンプルな感じも捨てがたいし……」
 天使のソプラノ・ユウヒ(a28441)が皆にそう言う。
「うーん……」
 色は白単色でありながら、よくぞココまでバリエーションをそろえたと思わず感心してしまう、多種多様のウェディングドレスを前に、月夜に咲く一輪の花・コトナ(a27087)は唸る。しかし、いつまでもこうして唸っているわけには行かない。
「これにするにゃー!」
 やがてコトナが選び取ったのは、珍しいミニのウェディングドレスだった。下には白のズボンをはいて、激しく動いても大丈夫なように備える。
「こんな感じでしょうか」
 顔に白いヴェールを付けたシンブが、白いレースの向こうで小さく笑う。
 胸元は比較的広くあいており、首に掛けが銀の十字架がウェディングドレスに負けないくらい白いシンブの肌の上で、キラリと光る。
 半袖の腕は、代わりと言わんばかりに繊細なレースで編まれた長手袋で覆われている。スカート丈は踝まで、フリルの飾り付けがされた綺麗な作りだ。
「すみません、もう少し上げてください」
「まあ、ではこのくらいでよろしいですか?」
 着付け係の女性に大幅な裾上げをお願いしているのは、特別天然記念物級理想主義者・メイ(a28387)だ。
 どちらかというとイブニングドレスに近い、シンプルなデザインの物を、さらに裾上げし動き安さを追求している。
 同様にメイの妹、風薫る剣の使い手・ユズ(a50407)もドレスの裾上げを頼んでいる。出来るだけ動きやすそうなデザインの物を選びながら、袖も胸元などにはレース飾りなどが尽き華やかさも失っていない。
「少し……大胆過ぎたでしょうか……」
「お姉様とお揃いです」
 少し不安げな、光祈麗嬢・ミューズ(a29133)と、そのミューズに嬉しそうに抱きつく、エンジェルの紋章術士・レン(a53218)。その言葉通り、二人のドレスは基本的に同じ物だ。
 胸元が開いたノーショルダータイプのドレス。その胸元に小さな白い薔薇が飾られている。スカートは幾重ものフリルが重ねられており、ボリューム感があり、右の腰にもまた、白い薔薇が飾られている。
 青い石の飾られたシルバーネックレスと、ティアラもお揃いだ。
「こんな感じかな」
 襟元や袖口にフワフワの綿飾りの付いた、暖かげなウェディングドレスに身を包んだ、十字路の悪魔・ユウリ(a25929)は、その場でクルリと一回転する。
 用意は調った。後は、一気に駆け出すだけだ。しかし、
「行くしかないわよね……でも……」
 ユウリは入り口のドアに手をかけたところで、躊躇い一度手を離す。
 まあ、これから花嫁さん集団で村の大通りを全力疾走しなければならないのだ。躊躇う気持ちは良く分かる。
 しかし、いつまでもこうしているわけには行かない。度胸を決めたユウリは、両開きの扉に手をかけ、一気に押し開けた。

●町を駆け抜ける花嫁さん
 太陽の下、輝くほどに白いウェディングドレスに身を包んだ、九人の冒険者が大通りを駆け抜ける。
 噂はすでに広まっていたのだろう。道の両端には村中の人間が集まり、花嫁さん冒険者の勇姿を一目見ようと鈴なりになっている。
「流石に少し恥ずかしいですね……」
 長いスカートを気にしながら走る、どこにでもいる少女・ナンシー(a90238)は思わずそう呟く。
 対してその後ろを走るユウヒは、声援を送る村人に、笑顔で手を振り返す。
 コトナは「お猿さんこちらですよー♪」と歌うように叫んでいるが、果たして問題のサルに聞こえているだろうか?
 赤い煉瓦の道は、冒険者が全力疾走をすればそう長い物ではない。冒険者達はあっという間に村の外に出ていた。
 まだ、花嫁泥棒―黒毛猿は姿を見せていない。その間に、コトナとシンブは素早く皆のウェディングドレスに鎧聖降臨をかけていく。
 後は、囮役のユズを残し他の物は姿を隠そう。そうしようとしたその時だった。
 冬特有の高い太陽を遮り、影が頭上に現れる。
「!?」
 何かを感じた冒険者達は、一斉にその場から飛び退く。
「キキッ!」
 黒毛猿だ。いったい何処から現れたのか? よく見ると遠くの立ち木の枝が大きく揺れている。あそこから跳んできたのだとすると、通常の範疇を遙かに凌駕した跳躍力だ。
「ユウリちゃん、登場だよ! 貴方を逮捕しちゃうぞ!」
 顔を覆うベールをはがし、ユウリはビシッと黒毛猿に弓矢を突きつける。
「キィー?」
 大量の花嫁さんにいきり立っていた黒毛猿であったが、その花嫁さん達が揃って武器を構えたところで、「何かおかしい」事に気づいたようだ。
 剣やら杖やら弓やらを構えた、九人の花嫁さん。華やかなんだか、怖いんだか。おそらく両方だろう。
 剣呑な雰囲気は十分に感じているはずだ。だが、黒毛猿は逃げだそうとはしなかった。
 勇ましく鳴き声を上げると、九人の花嫁さん達に突進してくる。
「このっ!」
 その突撃を、二本の長剣を構えたユズが受け止める。二体の残像を伴うユズの長剣が、黒毛猿の爪を受け止め、切り返す。
「ギャッ!?」
 悲鳴を上げ、ひるむ黒毛猿に周囲に控える冒険者達は、一斉に拘束アビリティを放った。
 ユウヒの歌に織り込まれた眠りの誘惑に吐抗し、ユウリの放った闇色の矢を避け、メイの手から生じた粘糸の網をかわす。
 しかし、一瞬遅れて放たれたミューズとレンの命を受けた木の葉の腕が、黒毛猿とがっちり抱き留め、大地に縛り上げる。
「キキィ!?」
「今のうちにっ!」
「うんっ!」
「ほれ、縛り付けるんや!」
 元々黒毛猿の身体能力は、平均的冒険者の一寸上程度でしかない。
 身動きのとれなくなった黒毛猿は、複数の花嫁さん達の手によって、近くの立ち木に縛り付けられたのだった。

 キーキーわめく黒毛猿を武器でこづきおとなしくさせた後、まずはユウヒが獣達の歌を歌い、尋問を始める。
「♪あなたは〜何故〜人を〜襲うの〜♪」
 最初はすねたようにぷいと横をむく黒毛猿であったが、喉元に武器を突きつけると慌てて喋り出す。
「キーキーキー!」
 聞いたユウヒがどっと疲れたように肩を落とす。
「なんて言ってるの?」
「……単なる趣味やて」
 冒険者達の猿を見る目が、とたんに冷たくなった。ひょっとしたら、何かやむにやまれぬ事情があるのではないか? そんなことも考えていたユウリも、すっかり冷え切った目になっている。半眼気味の目線のまま、ユウリは黒毛猿の頭の上に、林檎の実を乗せる。
「キィ?」
「お仕置きタイム、さぁ、反省しなさい」
 跳んできた弓矢が、猿の頭の上の林檎を見事に射抜く。
「ギィイィ!」
 絞り上げるような悲鳴が響きわたった。

 黒毛猿は意外と根性があった。コトナの慈悲の聖槍と癒しの水滴のコンビネーションに、三回まで耐えたのだからその根性だけは賞賛に値する。もっともその根底にあるのが、花嫁さん命! なのはどうかと思うが。
 しかし、四度目コトナの右手の平が銀色に輝いたとき、黒毛猿はついに「キィィ……」と弱々しく、屈服の声を上げたのだった。

「二度と悪さしないでね。この次は帰れなくなりますよ」
「♪おんな事はしませんか〜二度と悪いことしませんか〜♪」
 メイの言葉を通訳するように、ユウヒが獣達の歌を歌い上げ、縄をほどいた黒毛猿に言い聞かせる。
「キッキッキッ!」
 黒毛猿は命がけで首を縦に振る。九人の花嫁さんによるお仕置き大会は、よほど応えたと見える。少なくとも今後、こいつが白い服を着た女性を襲うことはないだろう。
 黒毛猿の姿が彼方に消えるのを確認した冒険者達は、最高の報告を告げるため、意気揚々と村へと帰っていくのだった。

●九人の花嫁さん、大いに楽しむ
「ほんと、ありがとうね。ささ、せめてもの心づくしだよ。めいっぱい楽しんでっておくれ」
 満面の笑みで礼を述べる恰幅の良い中年女性の声を合図に、冒険者達は再び、ウェディングドレスファッションショーを始める。
 シンブは、早速ヴェールとより長い物に取り替え、足元も白のヒールに履き替える。
「さてー! ドレスアップタイムにゃあああ!」
 元気いっぱいコトナも、立ち並ぶ衣装の群に突撃する。選り取りみどりウェディングドレスに目が、うっとりととろけそうだ。
「さぁ、ドレスドレス。女の子の楽しみですもん」
 メイとユズの二人は早速戦闘用に上げていた裾を降ろして貰い、ウェディングドレスを正しい形に戻している。さらにメイは横のように並んでいた白いタキシードにも興味を示し、そちらも試着したりする。
 長髪でも常に後ろで束ねているメイのタキシード姿は、意外と様になっている。
 ミューズとレンは相変わらず、二人仲良く同じドレスを何着も試し着している。というか、ミューズが着替える後を追い、レンが必ず似たような物に着替えるのだが。
「このままお姉様のお嫁さんになりたいです……な〜んてね♪」
 冗談めかした言葉で、舌を出しながらレンは姉と慕う女性の腕に自らの腕を絡めた。
 誰も彼もが楽しそうに、まるでいずれ来るその時の予行練習といわんばかりに、目に付く限りのウェディングドレスを試着する中、ふとユウヒが、ぽつりと言葉を洩らす。
「でも……今、こんだけ着倒して、本番がなかったらどないしょー?」
「…………」
 室内は水を打ったように静まった。


マスター:赤津詩乃 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2006/12/24
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