マフラーフェアーへ!



<オープニング>


 年末である。もはや防寒具を欠かせない時期だ。街角の商売人たちも冬向けグッズを大々的にアピールしはじめている。どの店も概ね好調らしく、賑わいは絶えない。
「酒場も冷えるようになってきましたね。暖かい紅茶が美味しいです」
 そんなことを言いつつも常に胸元を涼しそうにしているドリアッドの霊査士・シィル(a90170)が、ふと手を叩いて冒険者たちを見渡した。
「そういえば今度、マフラーフェアーをやるっていう話を聞きましたよ。私もひとつ欲しいし……よかったら皆さん、一緒に行きませんか?」
 そのマフラーフェアーでは、ありとあらゆる色、柄のマフラーが揃えられるらしい。しかも手作りをしたいという人のために、毛糸の玉も販売するとのこと。何とも乙女心をくすぐる店ではないか。
「マフラーはプレゼントの定番ですし、カップルの方たちはぜひ参加するべきかと思いますよ。もちろんそうでない人も」
 最近はカップルを眺めるのが好きになっているシィルだった。

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参加者
NPC:ドリアッドの霊査士・シィル(a90170)



<リプレイ>


 すっかり街は冬模様だ。行き交う人々は誰もが暖かい服を着て、ところどころに手を繋ぎながらもっと暖めあう恋人たちがいたりする。
(「自分じゃ、あんな自分に似合う色のマフラーを探すのは難しいだろうな」)
 ノリスはそう思いながらマフラーを巻く人々を眺める。確かにファッションというのも簡単ではない。
 とにもかくにも、冒険者たちはマフラーフェアーが開催される店に到着した。開店から間もないが、すでに中は多くの客で賑わっているようだ。うかうかしていると目当てのものが売り切れてしまうかもしれない。企画立案者のシィルは張り切って皆を見渡した。
「では、参るとしましょうか」
「えええぇぇん! シィルさぁん!」
 ひしっとシィルに抱きつくマライア。何事かと思ったら、周りがカップルだらけで寂しいらしい。
「なら一緒に行動しましょう。私も一人身ですから」
「わたしもお供するよ」
 と、リース。3人寄れば寂しさも吹き飛ぶだろう。
 かくして店内へ入った冒険者たち。店員は女性が中心で、壁や床は柔らかい色合いの板張り。あちこちにカラフルで華やかな飾りがかけられていたりして、いい雰囲気の店だなとみんな思った。
 さて、ここからは各人の様子をお伝えしていくことにしよう――。


「落ち着いた色合いの方が似合う気がするわね?」
「そうかな」
 こちらはメロスとハルトのカップル。女の買い物に付き合うのは苦手なんだけどな、と内心では思うハルト。それに――恋人から優しさを向けられるのに慣れていない。少しばかりくすぐったくて困ってしまう。
 特別な好みはないと伝えると、それじゃあとメロスは深緑の布地に薄い白の華が散りばめられたマフラーを手に取った。これで決定したようだ。
「ホントに寒くなって来たわねー。さあて、毛糸玉はどこかな」
「うん、完成品を楽しみにしてるぞ」
「……編むのは来年だけど」
「今年じゃないのかよ」
 楽しげにお喋りするのはイオとハーゼ。買い物より一緒に出かけること自体が嬉しいふたりだった。やがてハーゼがこれなんかどうかと黄色いマフラーを選んだ。イオはそれを受け取ると、相手の首に巻く。
「いいね、お日様の色。こうしてね、あったかい〜ってやって……」
 自分の首にも巻いてちょっと寄り添う。そしてベタだなあと笑い合った。
 その隣には、仲睦まじく腕を組んで歩くヨウとミリィ(a37592)がいた。彼らもふたりで巻く長めのマフラーを探していた。
「ヨウっていつも黒だから、色は決めやすいね♪」
 あれこれとヨウに巻いて試す。ほどなくして、オレンジ色の鮮やかなマフラーを見つけた。マフラーはこういう暖色系の人気が高いようで、他の一般客もなかなかの割合で手に取っている。
「それじゃ、これは俺からのプレゼント、ということでな」
 購入するのはもちろん男、というわけだ。
「んー、アイツに似合いそうなのはっと……」
 ミズキが試行錯誤しながら棚を眺める。彼は最初手作りしようと店員に作り方を聞いたのだが結局分からず挫折。既製品を買うことにしていた。と、相方のファムルがカゴにどっさりとマフラーを入れてやってきた。
「うーん、何色が似合うかなぁ……これかなぁ〜」
 次々と襟に合わせる彼女。息がかかるほど互いの体が近く、ミズキはちょっぴり恥ずかしかったが、ファムルはその反応こそを楽しんでいた。
 もちろん店内にはカップルだけというわけではない。ひとりの者たちも、大切な人のために、友人に、あるいは自分用に、思い思いの品を取っている。
(「周りは空気、空気さ」)
 ラブラブフレーバーの充満する中、ちょっと浮いている気がしているカヅチ。それも無理からぬことではある。
「どれがいいかな。うーん、これは……」
 ミヤクサはじっくりと店内を練り歩く。なにしろ普通っぽいのは眼中にないので、気に入ったのを見つけるのは、これより1時間も後のことであった。
 小鳥のラティオス&ラティアスと子猫のカノンを引き連れたジーナスは、ひたすら可愛い系を探している。それにしてもペット持ち込みOKとはこの店もノリノリである。
「あ、あのマフラー可愛いですっ♪」
 恋人によく似た狐の刺繍が入ったものを見つけて、これしかないと決めるジーナス。ペットたちと一緒にすっかり舞い上がる彼女の姿は、傍目にも微笑ましいものだった。
 それにしても、と冒険者たちは思う。色とりどりのラインナップは、まるで花畑のようだ。見ているだけで訳もなく楽しい。
「う〜ん、男の子ってどんな色を好むんだろう……?」
 飾り気に乏しくやんちゃ――ルミナは好きな人のことをそう見ている。派手すぎず丈夫なものを買おうと考える彼女は、やがて暖かそうな若草色を見つけた。春のイメージ。きっと喜んでくれると直感した。
「うふふふっ。いいマフラー見つけましたわ」
 弟子へのプレゼント用を購入しに来たウェンデルは、緑色のマフラーを手にしている。これは初夏の匂いがすると、ウェンデルは満足げに唇を曲げるのだった。
「ストラタムさんも見つかりましたの?」
「ええ……」
 静かな表情をしているストラタムは、雪色のマフラー。――その日、雪は降るでしょうか。その中で私は友と、大切だった人を想うのでしょう――。彼女は冬の儚さに吐息を混じらせる。
「空色……ないかな」
 こちらはフォーナに参加できたら渡そうと思っているセリア。空色は彼女の好きな色。だから好きな人に空色をつけてもらいたい――健気な乙女心だった。同時に、渡せなかったら自分でつけようとも思っている。色恋にはさっぱりした心で臨むのも、時には必要なのかもしれない。
 その向こうにはノリスがいた。選ぶのは対照的な赤。普段着用しているタンクトップと同じ色だからという、至極簡単な理由だった。そして彼の後ろでは、また赤と対照的な白の毛糸を掴むガルスタが。
「とりあえず、これにしておくかな………」
 彼は自分で編もうと考えている。では次は手編み組を見てみよう。


 この店にはマフラー編み場が設置されている。買った毛玉をその場で編んでしまいたいという人のためのものである。マフラーは既製品ではいけない、自ら手編みしてこそと考える人は多いのだった。
「ふ〜んふふん、愛情込めて〜一織り一織り織りましょう〜♪」
 歌を歌いながら手を動かすのはセリオス。傍らに暖かい紅茶を置き、妻と子供の顔を脳裏に浮かべて、のんびりと。家族三人の顔の模様を入れるという一大作品の完成は、どうやら家に帰ってからになりそうだ。
 その向かいには、ミリィ(a21117)がいた。紺色の毛糸を黙々と編んでいる。
(「沢山、苦しめてしまってごめんなさい。いつも支えてくれてありがとう……。ずっとずっと、貴方が好きだから、この想い、永遠と続きますよう……」)
 最愛の婚約者へ、たくさんの想いを込める。きっとフォーナ祭で、最高のプレゼントができることだろう。
 自作組はまだまだやってくる。ジェイド&ノゾミは仲良く隣に座りあうと、周りがとろけそうなくらいに甘い雰囲気を醸し出した。
「へぇ、意外に上手いんだー?」
「どういたしましてなぁ〜ん♪ ジェイド君のためなら、これくらい簡単にできるなぁ〜んよ♪」
「ほんと、いつもありがとな」
 ふたりしてクリーム色の毛糸を使って編んでいく。完成したら、白雪のようにふわりと暖かいものになるはずだ。
「う……難しい」
 リリィは買うか編むかでかなり迷ったが、より愛情を込めるため、意を決し手作りに挑戦していた。作業しやすそうなふわふわ糸を選んだのだが、なかなか悪戦苦闘。それでも彼女は頑張る。たとえちょっと曲がってしまったとしても、その頑張りに相手は心打たれるだろう。
「そう、不器用でも心は伝わるはずです……」
 キルシュは大好きな義兄のために編む。フォーナでは義兄妹以上の関係になりたいとひそかに思っていた。やたらにでこぼこして、むやみに長くなってしまったとしても、必ずや想いは伝わる……はずである。
 ところで呼びかけ人のシィルたちはというと。
「わー、あったよちょうどいいの!」
 マライアがゲットしたマフラーは、マントかポンチョかというほどにでっかい。リースもびっくりしている。
「可愛いデザインのを選ぶと思ったのに」
「いっつも筋肉剥き出しのお兄ちゃんのだから」
「いいですねえ。贈る人がいるというのは」
 自分のことのように嬉しいのか、ニコニコ顔のシィル。ここでいかにも悩んでいますという顔のマリクが彼女に寄ってきた。
「ちょっと聞きたいんだけど……女性の好みっていうのはどういうのだろう?」
「案外、なんだっていいって人が多いと思いますよ。私がそうですから。好きな人からのプレゼント、それこそが好みになっていくんだと思います」
 なるほどとマリクは頷き、吹っ切れたように毛糸探しを開始する。実は以前酒場で聞いたことの受け売りだったのだが、それは真実だとシィルは疑わない。
「シィルさん、あっちの売り場の方を見に行きませんか?」
 タクトが別の方を指した。そうですねとシィルは集団から外れ、タクトに付き合うことに。
「僕にはどんな感じの物が似合うと思いますか?」
「そうですねえ、青い髪と対になるような、明るめの色がいいかと思いますよ」
 シィルが見繕ったのは柔らかい黄金色のマフラー。ずいぶん長い。するとタクトは端の片方を巻いてもらえないかと言う。
「ふたりなら暖かさも2倍ですね」
「わわ……」
 ちょっぴり赤くなるシィル。そこへ声がかかってくる。
「シィルさん、良かったら一緒に回りませんか?」
「カップルばかり見てないで、自分も楽しまないとな」
 ミリィ(a37592)とヨウだった。シィルはぎこちなく返事すると、タクトに一礼してから行ってしまう。まあ仕方ないかとタクトは苦笑いした。


 そうしてショッピングを終えた冒険者たちは、揃ってストリートに出てくる。
 特にカップルたちは、見ている方がにやけてしまうほど、幸せに笑っていた。
「……温かいよ」
 さっそくプレゼントを首に巻いたハルトは、心からメロスに言った。今日という日には、その言葉こそが一番感謝を伝えられるものだった。
「ん、また何処かに一緒に出掛けよう? これから沢山、色んな所にね?」
「ああ、なかなか出かけられなくってごめんな。またどっか行こうな」
 イオとハーゼも、今日のデートで絆を深めたようだ。
「皆さん、楽しく買い物ができましたか?」
 シィルが問うと、皆からいい返事が返ってきた。シィルも心底満足している様子だ。
「私もですよ。……思えば今年一年、色々な方と一緒に買い物を楽しみました。また、来年もよろしくお願いします」
 ……と。
 ちらちら空から舞い降りる白。綺麗な雪に人々は歓声を上げた。
 何にも染まらない、純粋なホワイトスノー。美しい祝福の日は、すぐそこまでやってきていた。


マスター:silflu 紹介ページ
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作成日:2006/12/14
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