紅蓮のヴェール



<オープニング>


●紅き布を纏って
「今回は、炎の力を持つモンスターを退治していただきます」
 真実求む霊査士・ゼロ(a90250)の言葉に、冒険者達も真剣な眼差しを向けていた。それらを一身に受けながらゼロも話を続けてゆく。
「その魔物は紅い体に紅い布のような物を纏っており、炎の闘気が全身を覆っています。その威力はかなりのもので、現在は森を焼き破壊しながら進んでいるということです」
 このままでは森の破壊は進み、いずれは人里にも到達してしまうだろうとゼロは言う。
「何とかこの魔物の進行を止め、退治していただきたいと思います」
 頷く冒険者たちの姿を確かめて、ゼロはその能力について説明を始めた。
「魔物がその布を翻せば周囲に炎の風が起こり、一気に辺りを焼き払ってしまうでしょう。そしてその布はかなりの強度を持っているようで、鞭のように振って打ち据える攻撃や、締め上げる攻撃にも使用できるようです。炎の闘気によって威力が高いでしょうから、十分に注意するようにしてください」
 文字通り烈火の如き相手ではあるが、力を合わせて立ち向かってほしいとゼロは頭を下げるのだった。

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参加者
荒野の黒鷹・グリット(a00160)
蜜色の光を擁く月・アンナ(a07431)
北落師門・ラト(a14693)
不言の雄姿・バルバロス(a18154)
廻る戦針・ヴェルジーネ(a41921)
騎士人形・レベッカ(a47078)
千年紀の終わりに・アイナ(a47307)
狂天童・リカーシュ(a57358)
ピースメーカー・ナサローク(a58851)



<リプレイ>

●燃える業火を纏って
「炎を使い森を焼き払って進む、ですか」
 モンスター退治の為に森へと足を踏み入れた冒険者達の中で騎士人形・レベッカ(a47078)が呟く。霊査士の言葉が確かならばそろそろ敵と遭遇してもおかしくないのだが……冒険者たちは煙や木が焼ける匂いなどを頼りに問題のモンスターを探していた。
 ぱちぱち……ばしっ
 いくらも進まぬうちに炎の赤と、木々が燃え爆ぜる独特の音が聞こえてきた。緑の木々を紅く染めて、紅蓮のヴェールと闘気を纏うモンスターは冒険者たちの前に姿を現す。
「奴の足止めは引き受けた、援護よろしくお願いするよ」
 先陣を切って飛び出す荒野の黒鷹・グリット(a00160)は拳を突き出し牽制するが、魔物はすっと体を捻ってこれをかわす。しかしグリットが言う『足止め』の言葉に応えるように玉鋼の森守・ラト(a14693)は黒炎覚醒を発動させ、狂い童・リカーシュ(a57358)はイリュージョンステップの構えを取る。
「楽しみだねぇ、危険を感じれば、其処に生を確実に実感できるから」
 誰にとも無く吐き捨てるように呟いて、ステップを刻みながらリカーシュは駆けて行く。
 ひゅっ
 グリットの攻撃をかわした魔物に不言の雄姿・バルバロス(a18154)が蛮刀を振り下ろすが、紅い布が刃を受け止めて侵入を阻む。そのまま一撃の勢いを殺して一歩下がり、ぶわりと魔物から熱い風が巻き起こる!
「……この熱風……しかし、重騎士として全力で挑みます」
 モンスターの熱風攻撃に一瞬だけ怯むも、レベッカは毒果取考・ヴェルジーネ(a41921)へと鎧聖降臨を施す。それを受けながらヴェルジーネは霊布を広げていた。
「なかなか厄介そうな奴だが、お相手するとしようか」
 ごっ!
 ヴェルジーネから放たれるのは緑の突風。吹き飛ばすほどの圧力にモンスターも気付いたのか、横に跳んでその攻撃を回避する。
「これ以上暴れさせたらいけないんだよね」
 だが魔物が着地した瞬間に、八つ裂き・アイナ(a47307)から放たれたバッドラックシュートが紅い体に突き刺さった。しかし不幸の影を落とすまでには至らず、魔物はアイナを睨み付けるかのように顔を上げていた。
 蜜色の光を擁く月・アンナ(a07431)が高らかな凱歌で熱風のダメージと炎の闘気を癒してゆく、そのアンナにピースメーカー・ナサローク(a58851)は鎧聖降臨を施すのだった。

 魔物が振り抜く布を掻い潜って懐へと侵入しようとするグリットだが、避け切れずに炎の闘気を纏う布が肩を打つ。紅蓮の布はそのまま流れるようにビシビシと冒険者たちを打ち払い、魔炎をその身に残してゆく。
 今度はラトが高らかな凱歌で仲間達を回復させてゆくのを確認し、アンナは黒炎覚醒で黒い炎を身に纏う。
「準備が整うまでの時間を稼がないとね」
 リカーシュの繰り出す薔薇の剣戟を魔物は布で受け止め、衝撃を殺してから回避する。その攻撃の間にグリットは側面に回りこむように動き、バルバロスは正面に位置しながらラトに鎧聖降臨を施した。
「………」
 バルバロスの身を魔炎が蝕む。ラトが先程高らかな凱歌を発動させたのだが、必ずバッドステータスから回復するという訳ではない、バルバロスは身を焼く痛みに小さく息を吐いていた。
 レベッカは鎧聖降臨を自分に使用しながら前へと移動を始めており、アイナはグリットとは逆の側面へと回るようにしながら不幸のカードを生み出し、投げ放つ。しかしバッドラックシュートは魔物が身を沈めるようにしてかわし、そのまま通過していった。
「直撃なんか喰らったらヤベーってなもんじゃ済まねーだろうからな」
 慎重に距離を取りながらヴェルジーネはヒーリングウェーブの光で仲間達の傷を癒してゆく。その後にナサロークはリカーシュに鎧聖降臨を施していた。

 紅蓮の魔物を包囲しつつある冒険者たちに対し、敵は一瞬だけ顔を巡らせて配置を確認していた。それからすぐに正面を向き、目前のバルバロスへと布を伸ばす!
 しゅるるっ
 巻き付く布に炎が伝わり、バルバロスを締め上げて燃やしてゆく。伸びて全身を包むように縛られて、バルバロスは身動きできずにただひたすら痛みと熱を叩きこまれていた。
「そうそう暴れさせるものか!」
 踏み込み、グリットが電刃居合い斬りを撃ち放つ。打ち込まれた一撃に魔物が身を震わせた瞬間にアンナがバルバロスを癒しの聖女で癒し、バルバロスはどさりと布から解放されて膝をつく。
「絶対止めてみせるよ」
 グリットに注意が向いている隙を突き、逆側からアイナが突撃した。鋼糸を伸ばして突き出し、螺旋の動きで魔物の背をえぐり斬る!
 がががっ!
 スパイラルジェイドの直撃を受けて魔物は大きく仰け反るが、痛みを振り払うかのようにバックステップで下がっていた。その直後に衝撃波が魔物の居た場所を通過する。
 一気に畳みかけようとソニックウェーブを放っていたリカーシュは小さく舌打ちし、そのままぐっと鋼糸を握り直した。
 仲間達が魔物に攻撃している間にとレベッカはグリットに鎧聖降臨を施しており、ラトはブラックフレイムで攻撃を仕掛ける。黒き炎は魔物のヴェールを掠めるも、直撃は出来ずに外されたようだ。
「いいタイミングだな」
 だがラトのブラックフレイムが掠めて体勢を崩している魔物に向かい、ヴェルジーネが緑の突風を放っていた! 紅蓮の魔物は爆発的な風の圧力に吹き飛ばされるように後退る。
 多少の距離が開く間にナサロークは鎧聖降臨を自分に施し小さく頷く。
「貴様は森を焼き尽くした。その罪、万死に値する」
 ぐっと怒りの視線を向けて、魔物に対してナサロークは武器を握り締めるのだった。

「その動き、捉えてみせる」
 ぶわりと展開して流れる布の動きを見極めようとしながら蹴りを繰り出すグリットだが、柔らかに形を変える布はグリットの蹴りをいなし、魔物自身は身をずらす。攻撃は回避されたがジャっと大地を踏み締めて、グリットは素早く間合いを取り直す。
 ごっ
 その直後を狙ったか、アンナの術手袋『蜜月』より黒い炎が飛来する。魔物は辛うじて間に布を挟ませて直撃だけは避けたようだが、ダメージを受けたのか僅かに身を揺らした。そしてその痛みを振り払うかのように、思い切り布を振り抜いて攻撃してくる!
「………!」
 布に払われて炎が身を包んでくる。前に立つグリット、バルバロス、アイナ、リカーシュ、レベッカらが受けた痛みと魔炎を癒すべく、ラトは再び高らかな凱歌を奏で立てる。癒しの旋律を受けながら、バルバロスはアイナに鎧聖降臨を発動させていった。
「この熱さ……感じることは生きてる証拠」
 魔炎が解除されなかったリカーシュは身を蝕まれながらも、薔薇の剣戟を繰り出してゆく。花弁舞わす斬撃を布で受け止めて防御する紅蓮の魔物だが、その威力に一歩、二歩と後退ってゆく。そこを狙ってスパイラルジェイドで突撃するアイナだが、魔物は咄嗟にリカーシュの攻撃に押し切られるようにして大きく後ろへ跳び、アイナとの間合いを外してスパイラルジェイドから逃れていた。しかしその代償に薔薇の剣戟の連撃が一つ、魔物の胸元を浅くではあるが薙いでいた。
「歪んだ炎は、吹き散らすまでです」
 続いて相手に向かうレベッカは儀礼用長剣を振り下ろし『心』衝撃波を叩きこむ! だがピンと張った布がその直撃を阻み、キルドレッドブルーの力も伝わらなかったようだ。
「手堅く対処しねーとな」
 言いながらもヴェルジーネはヒーリングウェーブで皆の体力を回復させ、ナサロークは黒炎覚醒を発動させる。
「私の炎と貴様の炎……相手を凌駕するのは果たしてどちらかな?」
 黒炎覚醒の黒い炎に包まれた何人かの冒険者たちと、紅い炎を身に纏うモンスター。準備を整えて地を蹴る冒険者たちの手によって、戦いは終結へと向かい加速してゆく。

 アンナとラトはそれぞれブラックフレイムを撃ち出していた。同時では無く僅かにタイミングをずらした十字砲火で、両方を回避するのは難しいかもしれない。魔物もそれに気付いたのか、片方を避けて片方は布で振り払うようにして防御していた。
「その援護、無駄にはしない」
 だが二人の黒き炎は魔物を足を止めることが目的だったのだ。布を振り払った体勢の魔物にグリットが踏み込み、蹴りを放つ!
 魔物の脇腹にヒットした蹴りを振り抜かずに引いて着地し、逆の足で魔物の太ももを蹴り上げる。そのまま拳を引いて構えようとするグリットだが、魔物の布が握り直されていることに気付いて盾をかざして下がる。
 ひゅっ……と空を裂いて伸びた紅の布は……リカーシュへと向かっていた。ばさりと展開するダークネスクロークが一瞬だけその進行を阻み、素早い足捌きでリカーシュは布から逃れる。たった今イリュージョンステップを発動し直していなかったら危なかったかもしれないと、リカーシュは息を吐き出していた。
 布が伸びて無防備に見えた魔物へ向かい、バルバロスは蛮刀『斬鋼刀』を振り下ろす。みしりと魔物の肩口に刃がめり込むが、キルドレッドブルーの効果までは及んでいない。小さく歯を噛み締めるバルバロスだが、目前で魔物がびくんと身を震わせていた。
「不幸が決まったよ!」
 上がった声はアイナから。バルバロスが一撃を叩き込んでいる隙に魔物の側面からバッドラックシュートを打ち込んでいたのだ。見れば魔物の片腕にカードが突き刺さり、紅い体に黒い影を落としている。それを好機と見て取って、レベッカが『心』衝撃波を放つ!
「はぁっ!」
 気合と共にキルドレッドブルーの魔炎が唸りを上げ、魔氷が動きを閉ざして包み込んでゆく。動きの止まった魔物にヴェルジーネが緑の突風で若干の間合いを取らせて、その間に体勢を整えておこうとナサロークはヒーリングウェーブを発動させて仲間の体力を回復させていった。

 グリットの斬鉄蹴が突き刺さり、アンナのブラックフレイムが更に魔炎を上乗せしてゆく。
「退いてもらおう」
 静かに告げて両手杖『Crawling Chaos』を突き出し、ブラックフレイムを撃ち出すラト。その炎に続くようにリカーシュは鋼糸を構え、一気に振り下ろす!
 じゃっ!
 生まれたソニックウェーブの衝撃波が駆け抜けて、魔物の体をビシビシと響かせていた。
 今の内にとバルバロスはウェポン・オーバロードを発動させ、武器に力を注ぎこんでゆく。動きを止めている間に打ち倒そうとレベッカも武器を振り上げるがそれは叶わず、魔物は魔氷を振り払って儀礼用長剣を回避していた。そのまま全身に漲る炎の闘気で烈風を解き放つ!
 ごうっ!
 熱き炎が戦場を舐めて、冒険者たちを呑み込み炎に包み込む。ヴェルジーネがヒーリングウェーブでダメージを回復させるが、魔炎の効果は消えずに冒険者たちの体力を蝕んでいる。
「往生際の悪い……」
 身を焼く炎に耐えながら、ナサロークは儀礼用長剣『バレルストライク』を突き出して構えていた。そのまま黒炎覚醒の黒を吐き出すようにブラックフレイムを放つ!
 ブラックフレイムを横に跳んで避ける魔物だが、そちら側の側面にはグリットが控えていた。
「このチャンス、逃すか!」
 向かってきた相手にグリットは怯む事無く斬鉄蹴を叩き付け、魔物の体からバキンと大きな音が響く。見ればその右肩から胸元にかけて、大きな亀裂が刻まれていた。
 最後の足掻きなのか、魔物は大きく紅蓮のヴェールを振りかぶり、放つ。ばさりと伸びるそれをバルバロスは蛮刀で押さえつけようとするが、炎の布はしゅるりと伸びて刃の表面で曲がり、バルバロスの体を包み込む。
「散り華咲かせて、彼岸への渡り火」
 リカーシュの薔薇の剣戟が花弁を散らし、斬撃を叩き込んでゆく。一撃一撃に舞い散るのは剣戟の花弁か、吹き散らされて消え行く紅蓮の闘気か。そして剣戟を受けて一歩、二歩と後退る魔物に、黒き炎が襲い掛かる。
「終わりです」
 アンナのブラックフレイムが包み込み、魔物の体から紅い闘気が消えて黒く染まる。ビキビキと音を立てて崩れ始めるその体のど真ん中に、アイナのスパイラルジェイドが突き刺さった!
 ばきん!
 地を蹴って飛び込んだアイナの一撃が貫通し、一瞬の後に紅い体がガラガラと崩れ落ちてゆく。魔物が燃やした森もぶすぶすとくすぶり始めていた様子で、ようやく戦いの火が消えたことに冒険者たちは息をつくのだった。

「お疲れさん、さぞかし熱かっただろうが、良い汗かけたか?」
 ともあれ無事にモンスターを退治できたことに安堵を抱きながら、仲間達に呼びかけるヴェルジーネ。それからまだ燃えている木々があれば消火しておこうと提案していた。アンナやバルバロスの賛同もあって、皆で協力して砂を掛けたり叩き払ったりして消火作業を行ってゆく。
「それでも消えないなら、周囲の木を伐採するしかないかなー?」
 アイナやナサロークは延焼を防ぐために、燃え広がる危険があるなら木々の伐採も仕方ないと言っていた。幸いにも激しく炎が残っている部分は少なく、木を切り倒すことは多少で済んだ様子だった。これ以上の被害を防げたことにラトも一安心かと息をつく。

 こうして紅蓮のモンスターを退治したモンスターは、森の鎮火を確認してから帰路につくのであった。

 (おわり)


マスター:零風堂 紹介ページ
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作成日:2006/12/10
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