ばなないか



<オープニング>


●なんだそれ
「ばなないか、ばなないか」
 何か呟くピーカン霊査士・フィオナ(a90255)を眺め、冒険者はとても微妙な顔をした。彼の来訪にも関わらず、彼女は……
「ばなないか★ ばなないかー★」
 飽きもせず、良くわかんねぇ呪文(?)を続けている。
「おーい」
 冒険者突っ込む。

 〜暫し、お待ち下さい〜

「つー訳で、お仕事っす」
 ややあって、満足したのかフィオナはそう言う。いきなり全身に来る疲れを背負わされた冒険者は、フィオナに説明を目だけで促した。「何がつー訳なんだ」とは、最早聞かない。
「街道にモンスターが出たですよ」
「ほう」
 良くある事である。
 フィオナの口振りは軽い為、深刻な被害が出ているという訳では無さそうだった。
「どんな?」
「ばなないか」
「……………は?」
 真顔で言いきったフィオナに、冒険者はハトがマメボウガン喰らったような顔をする。
「ですから、ばなないかです。
 剥いたバナナ被ってるみてーな、陸上烏賊」
 ……微妙過ぎる。しかし、この説明を受け、冒険者はフィオナの「つー訳で」が珍しく、実体を伴っていた事を思い知った。
「今ンとこ、被害は出てねーですが。
 幾らお笑いでもモンスターっすからねー」
 御気楽極楽にフィオナは言う。
「テキトーに、始末してきやがるが良いのですよ★」
 頭をぴこぴこと揺する彼女の声は弾んでいた。
「ばなないか♪ ばなないかー♪」

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参加者
風薫る桜の精・ケラソス(a21325)
想いを謳う医術士・スズネ(a36692)
吟歌の巫女・ナルミ(a41610)
紺壁の超勇将・フェンリル(a42161)
真鍮の剣・クリスマス(a48312)
緑の夢・レオナ(a51860)
陽気な狂炎・イオリ(a52138)
澄んだ志を奏でる者・リザ(a53090)
彷徨影翼・サマエル(a54204)
十六夜の月と戯れ踊る白狐・クルワ(a55507)


<リプレイ>

●いい加減
 抜けるような青空の下。
「なんや、面白いモンスターが出てきよったなぁ……」
「どんな姿であろうともモンスターには違いありません――倒すのみです」
 陽気な炎の使い手・イオリ(a52138)に応えた、響いた風薫る桜の精・ケラソス(a21325)の言葉は勇壮なモノだった。
 平和な街道に現れたモンスター、その討伐に集められた一行の数は、彼女を含めて十。ランドアースではままある難敵の対処の為に彼等が負わねばならない覚悟は大きい。
 この日も、冒険者達は微妙に引き攣った表情で、脅威撒くその巨影に相対していた。
「……ぇと、元は人の筈なのに、どういう経緯でこんな姿になっちゃったんでしょうか……」
 乾いた声で、吟歌の巫女・ナルミ(a41610)。モンスターとは、恐ろしくも悲しい敵である。彼等の殆どは、人なる身であった頃の面影を残さず、異形へと成り果てている。そんなかつての同族達に、如何な無念や憤怒があるかは、現在人として生きる彼女等には分からない。
「……やっぱり、良く転んじゃう様な人だったんでしょうか?」
 脳裏にドジ神様な人とか思い浮かべながら、ナルミは、続ける。
 まぁ、何だ。御大層なオープニングを飾った割には、相手は――
「烏賊と言えばゲソが旨いのだが……皮っぽい足となると、どうなのだろうな?」
「しかし、バナナイカね……正に『名は体を表す』ってやつなのかしら?」
 紺壁の超勇将・フェンリル(a42161)、澄んだ志を奏でる者・リザ(a53090)の言う通り。
 平たく言うと剥いたバナナを裏返したような変な烏賊。
「まぁ、お笑いであろうとモンスターはモンスターだし」
 彷徨影翼・サマエル(a54204)は、頬を掻いた。
「ま、さっさと倒して昼寝したいしね……」
 このばなないか、何処からどう見てもお笑いです本当に以下略かつ雑ではあるが。
 思いの他、近距離で見るとプレッシャーがある。
「バナナのような烏賊なのか、烏賊のようなバナナなのかは知りませんが」
 逢魔時と戯れる白狐・クルワ(a55507)は、言った。
 姿形そのものは恐ろしいと言うよりは、面白いと言った方が正解に近い様子であるのだが、確かにそれはモンスターだった。
「倒すべき相手ならば手抜かりなくやらせていただきます」
 その言葉に応えるかのように、ばなないかが巨体を蠢かせる。
 十数メートルの距離を置く一行は、それに応じて即座に戦闘態勢を整えていた。
「バナナイカ、バナナイカなぁ〜ん」
 だが、黒色幻夢・レオナ(a51860)の様子には余り緊張が無い。
「ところで、バナナはおやつに入るんですかなぁ〜ん?」
 ……いや、まぁ。多分な。

●何気な激戦
「こ、こらイカん!」
「洒落てる場合じゃないでしょう?」
 イオリとリザのボケと突っ込みはさて置いて。

 ――癒しの響きよ、皆に届け♪

 高く響いたリザの凱歌を背に受けて。

 ――ガッ!

「……く!」
 真鍮の剣・クリスマス(a48312)は、唸りを上げた皮の鞭をその巨大剣で受け止め、敵を見返した。
「――初依頼にして初モンスター戦。
 記念すべきその相手は――ばなないか。えぇと、その。何かおかしくないですか――?」
 彼女は言う。
 ……まぁ、コレが初なのはアレだけど。
 モンスターの場合、その多くが、見た目に関わらず冒険者を上回る能力と威力を備えている事は常である。今回のこの相手も、その例外には漏れないようだった。まるで、冗談のような姿形を裏切るかのように、集まった冒険者達を早速圧倒し、手こずらせている感がある。
「いやいやいやいや、幾らばなないかでも油断は禁物――」
 体力を削られながらも、クリスマスはその得物を叩きつける。
 爆裂するその剣は、轟音と煙に敵の巨体を包んでいた。
「そんなバナナなんて、言ってやるもんですか――!」
 パーティと、ばなないかの戦いは、緒戦から激しいモノとなっていた。
 既に数度の攻防がなされているが、戦況は微妙に押され気味ですらある。
「相手はギャグでも戦闘は戦闘。馬鹿には出来ませんね」
 回復の力を紡いだ、気ままに紡ぐ医術士・スズネ(a36692)が呟く。
 何せ、振るわれた黄色い脚の威力は中々だ。叩きつけられた地面が、威力に陥没している。
「私が転んでも面白みが無いわよ?」
 やや、苦笑い交じりにケラソス。
 彼女の言うのは、このばなないかが備える力に関してだった。
 単純な暴力である皮の鞭も厄介だが、それ以上に面倒なのは、フィオナが霊査で言っていた『超転倒祭り』なる能力だった。タイムリーにもあのプーカの能力を圧倒的に強化したかのようなそれは、地面自体を滑らせ、仲間達を次々と転倒させていた。
 ……転び、起き上がれなくなれば攻め手は減る。
「そう簡単に転んだりしないよ」
 華麗なステップでひょいと、滑る地面を避けたサマエルは流石だが、全員が同じくとはいかぬ。
 モンスターの能力とは言えど、これは理不尽だし、いまいち格好が宜しくない。

 ――笑いって奥が深い……

 呟きは、先だってずっこけたケラソスのモノである。
「これでどうですかっ!」
 それでも、立ち直った彼女は、猛烈な反撃に移っていた。
 全身に黒い炎を纏う彼女は、繰り広げられるお笑い領域に構わず、描かれた紋章が溜めた力を一つの火玉へと成していく。

 ごう――

 音を立てて着弾したその一撃は、赤い炎に敵影を包み込む。
「……い、行きます!」
 生来の性質による所も大きく、ナチュラルに気後れながらもナルミ。
 ケラソスと同じく黒炎を繰った彼女は、続け様に敵を炎の渦へと押し込んだ。
 この辺りは、流石に冒険者達の動きである。『能力に優れるモンスターに、彼等が立ち向かえる理屈』は、全て道理の内なのだ。それは、元よりパーティが単純な個の力押しに終始しないからに他ならない。作戦を持ち、連携して敵に当たる。過去の経験を、戦いに生かす――それらは、能力に優れてはいるものの、明確な知性を持たないモンスター達には難しい芸当である。
「今です!」
「うむ……!」
 転倒より立ち直ったフェンリルが、上段に得物を構え肉薄する。
「烏賊でもバナナでもどちらでも構わんわ。どの道、きっちり、無駄なく捌いてやろうぞ」
 戦士は、色物を返上せんと吼える。
 上から下へ叩きつけられたヴォルフバイルによる斬撃は、強かに敵影を切り裂いていた。
「鮫牙で丸齧り……なぁ〜ん!」
 先刻放った影縫いの矢は、何事も無かったかのように弾き飛ばされている。
 ならば、と放たれたレオナの一矢は、別なる力を持ちて、ばなないかに突き刺さる。
 全力で引き絞られた矢は、それでも十分な威力を持っているとは言えなかったが、これは先刻のモノよりは有効だった様子。
「おらぁっ! 喰らえやぁ!」
「きっちりと、当てさせて貰いますよ――」
 そこへ、更にイオリの悪魔の炎、クルワの蹴撃――追撃が加わった。

 おおおおお……!

 それが『声』なのか、ばなないかが啼く。
 一連の攻撃は、確かに冒険者に手応えを残していた。
 だが、当然……これで終わる程、モンスターという連中は甘くは無いのであった。
「なんでバナナなぁ〜ん! バナナの皮ってレベルじゃないなぁ〜ん!」
「……え、えっと、愉快そうな方なのに……」
 レオナが、ナルミが言う。
 ぶるぶると巨体を振るわせたばなないかは、左右に揺れ出して――

●お笑いでもモンスターだっつーの
 ――リズムを付け始めていた。
「ばなないか♪ ばなないか♪」
 引き攣った口元のケラソスが、
「ばなないか♪ ばなないか♪」
 いい歳をしたフェンリルがそれに倣う。
 嗚呼、げに恐ろしきは、ばなないか。対象に恥ずかしい節とダンスを強要するその声は、戦場にとんでもねぇ緩みをば齎していた。
「……それ所じゃ、無いですのに――ばなないか♪」
 しまらねー語尾を付与されたクリスマスが唇を噛む。
 そう、彼女が言う通り、展開は決して安穏なモノでは無かった。元より一進一退を繰り広げていた攻防は、徐々に冒険者の不利に推移していた。やはり、この相手には荷が重かったか、既にクルワ、スズネらが打ちのめされている。
 面白いのが見た目だけというこの相手は、逆にこうなれば厄介だ。
 まさか、油断していた訳ではあるまいが――現実として、追い込まれつつあるのはパーティである。

 ――――♪

「……み、皆さん、ふぁいと、です」
「……付き合ってられないね」
 ナルミの凱歌を受け、状況を取り戻したサマエルが走る。
 彼が手にする牙の槍は、既に幾度も赤い薔薇を咲き誇らせていた。
(「そろそろ、決めたい所だし――」)
 或る程度の温存はしているが、長期戦になれば不利なのは見えている。
 四連に死を紡ぐ剣戟が決まれば、勝負は終わる。
 裂帛の気合と共に素早く繰り出されたその連撃は――三度。
「……っ!」
 殆ど反射的な舌打ちをして、彼はその穂先を返す。
 ばなないかが、その口に当たる部分を大きく開いた事は……彼に攻撃の到来を理解させていた。

 ぶわっ!

 黒く、周辺一帯に毒の墨が撒き散らされる。
 視界を奪う毒の黒を受ければ、態勢を乱される事は分かっていた。
 これまでは、スズネ、リザ、ケラソスにナルミと。数多く用意されていた回復手段で凌いできた訳ではあるが。何せ、多くの人員に耐久度が無さ過ぎる。先のスズネに続き、間合いを注意していたリザもこれを避け損ねる。
「そんなバナナ〜!?」
 同時に、言ってしまったイオリも威圧に吹き飛ばされ……パーティは、いよいよ正念場を迎えていた。
「ぅぅ、気持ち悪いです……」
 黒いべたべたを拭いつつ、ナルミが呟く。若干涙目。
「厄介ですわね……!」
 ポジショニングに気を配っていたケラソスは、この墨を避けた。
 彼女らをはじめとした主力は、未だ健在ではあるが……傷付いたばなないかにもまだ若干の余裕はある。攻撃は確かに効いているが、倒れるには到っていない。
「仕留めましょう」
 ケラソスの言葉に、
「そう簡単に負ける訳にはいかんしな」
「が、頑張ります……!」
「倒しますなぁ〜ん」
 フェンリル、ナルミ、レオナ、
「……ええ、たとえどんな――こんな相手でも!」
「お返しは、いるよね」
 意気込んだクリスマス、更には墨に塗れたサマエルが頷く。
 冒険者達と、鞭のような脚を振り上げるばなないか。
 果たして――その決着の瞬間は、そう遠くない時間の先に訪れる事となっていた。

●決着は?
 青空が、レオナの視界一杯に広がっていた。
「……バナナはしばらく食べたくないですなぁ〜ん……」
 地面に寝転んだまま、彼女は呟く。同意した他の面々の姿勢も、皆似たようなモノだ。
 確かに本気になった冒険者達は強かった。消耗戦ならば、一定の優位を得やすい彼等は、ばなないかを追い詰めていたのだが……
「……笑いって、やっぱり奥が深い……」
 全ては、ケラソスの言う通りである。
 タイムリーにもあのプーカの能力を数十倍にも強めたが如し、ばなないかの『必殺技』は、土壇場でパーティを揃って大転倒の渦に巻き込んだ。御丁寧にも不運の付与までくれたその一撃は、丁度烏賊が墨を吐いて逃げる時のように……それの逃走を手助けしたのだ。
「まったく……」
 サマエルも、言葉は無い。
 勝利か敗北かと言えば、勝利だろうが……仕留め損ねては仕方ない。
 能天気な程の空を眺め、パーティは疲労の溜息を連続するばかりであった。


マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
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