フォーナ様はおっしゃった!



<オープニング>


 真っ白なケーキが運ばれてくる。
 人々の心に安らぎを与える柔らかな色合いの生地の上に乗るクリームは純潔を示すかのように真っ白で、それでいて冷たい感じではなく……クリームの上に乗る苺たちはまるで純白の上で踊る妖精たちのようだ。
 見るものの心を癒すそれらのケーキ……否、芸術品の一端に恐る恐るフォークを入れて切り取り……口元に運べば、フワフワなクリームとスポンジの麗らかな乙女達が奏でる歌声のようなハーモニーが舌を躍らせ、鼻腔を擽る香りは待ちわびた春の訪れを祝う草花の喜びに満ち溢れている。
「ん〜……まるで純真な乙女のベーゼ……」
 男は夢心地で首を軽く振ると、何時までも何時までもその神秘的なシンフォニーに身をゆだねて――
「……だらっしゃー! こんな甘くて柔らかいケーキ食ってられるかぁ!! 顎の筋肉が落ちてしまうわ!!!」
 唐突にグヴァシャー! とケーキごとテーブルをひっくり返した!
「お、お客様?! 何か失礼でもあったでしょうか?!」
 店主は慌てた様子で、自慢のケーキに何か不備があったのかと、男に問う。
「こんな甘くて美味しいケーキでは……フォーナ様に捧げられないではないか!」
 すると、ヌゥン! と己の上腕筋を誇示するように隆起させる男だ。
 え? フォーナ? 何で? ……あれ? 何かおかしなことを言っているぞこの筋肉だるま……と店主は気付き始めるが。
「えっと……そ、それは何処のフォーナ様ですか?」
 思わず聞いてしまった店主の前に、何時の間にか裸になった男が己の肉体を誇示するかのように筋肉を隆起させて――
「俺の心の中のフォーナ様だ!」
 ……そう、言い切ったものである。
 
「と言う事件が、ある村で起きているのよ」
「はわ! 食べ物を粗末にしちゃだめなぁ〜ん!」
 ヒトの霊査士・リゼル(a90007)がやる気無さそうに説明すると、赤い実の・ペルシャナ(a90148)は吃驚した様子で騒ぎ出す。
「しかも、俺達の中のフォーナ様は恋愛は顎が命だと言っている! と言い張って、むせっかえるような臭いのクリームと硬いスポンジのケーキを作るようにその村の職人さんたちに強要しているの」
「そんな……甘いケーキがおいしいなぁ〜ん……? なぁん?」
 何のデジャヴーか、何処かで聞いたことのあるような話だが、ペルシャナは小首を傾げる。あれ? いま少しおかしなことを言っていたような?
「あ、そうそう、そのマッチョな男の心の中のフォーナに共感した、村のマッチョ達も一緒になって、そんなケーキを作っているのよね、これが」
 ほんとにもーやになっちゃうわよねと軽い感じでリゼルは言い、
「後、この時期は他所から来た人にケーキを振舞うのがこの村の習慣なのよ……つまり、村に入ったら確実にあれなケーキを食べさせられるから、気をつけてね」
「食べればもんだいないなぁ〜ん?」
「食べた後に無事で居られる保障がないけどね」
 食べたらだめなぁ〜ん? と聞くペルシャナにさらっと怖い返事をするリゼル……まぁ、食べても死にはしないだろうが。食べないためには余所者だとばれないようにするか、こっそり入る必要がありそうだ。
「マッチョリーダーは村の中心付近にあるケーキ屋さんで、あれなケーキを量産しているわ。村の皆が楽しいフォーナを迎えられるように懲らしめて来てね」
 適当に頼むわ。と投げ捨てるように言うとリゼルに解ったなぁ〜ん! と言うと、ペルシャナは一緒に行ってくれそうな冒険者を探し始めた。

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参加者
翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)
笑劇の伝道師・オメガ(a00366)
生涯未完・ジェド(a17065)
白銀の翔星・リエン(a21315)
満腹を凌駕するみかん・ミスティア(a46283)
純白虎魂・ミズナ(a57609)
負け犬の遠吠え・イリア(a59428)

NPC:赤い実の・ペルシャナ(a90148)



<リプレイ>

 木々にはささやかな装飾が施され、道行く人々は来るフォーナの夜に向けて色々な物を買い込んでいるのか籠いっぱいに様々食料を詰め込んで……村はフォーナの色一色に染まっている……。
「フォーナ祭など、俺が地獄色に染めてくれるわっ!!」
「地獄色に染めてやるなぁ〜ん♪」
 だが、そんなフォーナなんてブッチリで無関係だぜ? と言わんばかりの勢いで、ヘイヘイヘイヘーイ♪ オーケーなぁ〜んなぁ〜んなぁ〜ん♪ 腰をフリフリうぉんちゅ〜げっちゅ〜と、笑劇の伝道師・オメガ(a00366)と、赤い実の・ペルシャナ(a90148)が踊っていた。

「うーん……世の中探せば甘くないケーキとか固めの生地とかあるにはあるッスから、必ずしもケーキが甘くて柔らかくなきゃいけない事もないッスけれども……」
 オメガ達を無視しつつ、村の様子がどうなのかと少し気になっていた、生涯未完・ジェド(a17065)は至って普通な様子の村にちょっと安心しつつそんな事を呟く。
「わたしはやっぱりケーキは甘いのがいいと思うのですよ。その辺は趣味なので口出しはしないですが。でも押し付けは良くないです。うん」
 硬くてすっぱくてアレなケーキってどんなんだろう? と一瞬考えた、満腹を凌駕するみかん・ミスティア(a46283)だったが、やっぱり甘いケーキが良いなぁと思ったようだ。
「そうじゃのう。ケーキはやはりふわふわと柔らかいスポンジととろける様な甘いクリームで為ければならぬのじゃ」
 甘いケーキが良いのじゃと、白月剣姫・ミズナ(a57609)もミスティアに同意し……それに、食べ物で遊んではいけませんと母上に言われなかったのかのう……とブツブツと呟いている。
「まぁまぁ……ふーむ、要はケーキを食べさせられないように注意しながら、ケーキ屋さんのマッチョを倒せば良いんだね」
 ご立腹名様子のミズナを嗜めつつ、白銀の翔星・リエン(a21315)は今回の作戦を確認する。
「そうっス。でも、アレなケーキってどれくらいヤバいんスかね?」
 リエンに対してジェドが同意を示すが……実際のところどのくらいヤバイのかは食べてみなければ解らないだろう。
「うーん。似合ってるかなぁ? ……女の子に見えるよね?」
 う〜ん……と唸っているリエンとジェドに女装をしてみたらしい、負け犬の遠吠え・イリア(a59428)が聞いてみるが、正直女装を見慣れている同盟冒険者である、そうだねと一言だけ返されて終わりだった。
「とにかく……正面突破するのじゃ!」
 突込みがあれば飄々とかわそうと思っていたイリアであるが、何も突込みがないと悲しいものである……少しがっかりなイリアを置いて置いて、やる気満々で鼻息の荒いミズナが促すと、ジェド達は正面突破の準備を始めるのだった。

「ねぇ、お兄ちゃんはお外から来た人だよね?」
 村に一歩入ったところで女の子に捉まった。
「何故……ぜぇ……ぜぇ……解った……ぜぇ……ぜぇ……!?」
 そして踊りつかれた鶏の格好をした男が驚いてみる。
「び、びっくりなぁ〜ん……はぁはぁ……。予想外なぁ〜ん……はふぅ……!」
 ついでにヒトノソリンも驚いてみた。
「なにぃ! 外から来た人だとぅ!?」
 女の子の声に反応して、村人が騒ぎ始める。ザワザワと冒険者たちを囲み、如何した物かと相談しあっているようだ……そこへ、偉そうな髭を蓄えた老人が現れ、
「それはいかん! みなのものケーキを用意するのじゃ!」
 クワ! と目を見開いて村人たちへ指示を飛ばす。
「しかし長老……ケーキは……」
 しかし、当たり前のように言う長老に若者の一人が悲しそうな顔を見せるが、
「構わぬ! 我が村のしきたり、決して破る事まかりならぬのじゃ!」
「「「おう!」」」
 ガヴァ! と上着を脱ぎ捨ててヌゥン! と老いてもなお衰えることの無い筋肉を隆起させて言い切る長老、そしてそれに続いて上着を脱ぎ捨て続く若いマッチョたち!
 その他の村人は何処か虚ろな、申し訳なさそうな表情で手に手にケーキを持ち、ミズナ達へとにじり寄ってくる!
「(強行突破するのは難しそうっスね)」
「(僕に任せてください、誘惑して見せます!)」
 一般人も混じっているし強行突破は難しいかな? と言うジェドにイリアはにっこりと微笑み、おもむろに歌を歌いだす。
「二人の出会いはきっと〜……うぶぅ!?」
 しかし、誘惑をしようと思ったマッチョは良い笑顔のままイリアの口にケーキを放り込んだ。そもそも異性にしか通用しないアビリティだ、ついでに好意を最初に持っていることが前提だ。
「げふげふ……誰だこのケーキを作ったのは!? 女将を呼べぇ! あ、女将じゃなくてもいいやそれっぽいの呼べぇ!」
 鼻から脳天へ突き抜けるような酸っぱい匂い……そして、まるで油をかんだかのような濃厚なクリーム……思わず飛びそうになる意識を何とか繋ぎ合わせ、イリアは錯乱気味にそんなことを口が知るが……、
「およびですか、お客様。そうですか、もっと食べたいですか」
 いつの間にもぐりこんだのか……村人に成りすました、翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)がニッコリと微笑み次々とイリアの口へケーキを詰め込んで行く!
「さすがイリアだ、マッチョムケーキを食べてもなんとも無いぜ!」
 次々とイリアの口へ詰め込まれるケーキを見て、オメガは決め台詞を吐いた。

 ピクピクと痙攣しだしたイリアの横でジェドが如何し様かと考え込んでいると、暫く俯いていたミズナの腕がプルプルと震えだした。
「食べ物で遊ぶのはだ〜れじゃ〜!」
 そしてグワ! と顔を上げると羅刹のような表情で裂帛の気合と共に叫び声を上げ周囲の村人ごとマッチョ達の動きを止める!
 どうやらこの少女、親の躾が良かったせいか食べ物を粗末にする輩を許せないらしい。
「ミズナちゃん……こ、怖いなぁ〜ん……」
 食べ物を粗末にする愚か者のマッチョはどこじゃ〜! と修羅のような表情になって行くミズナを見て、ペルシャナは呟いたものである。

「何事も無くたどり着いちゃったですね」
 正面から突っ込んだオメガ達が必要以上に目立っていたせいか、リエンとミスティアは何の障害も無くマッチョリーダーが居ると思われる村の中央付近のケーキ屋に辿り着いていた。
「ここで間違いなさそうだね」
 何処と無く怪しいオーラを発するその家の前で、余りにもあっさり来れた事に拍子抜けしたような表情なリエン。
 そんなリエンに、とりあえず行きましょうかです。と言うとミスティアはケーキ屋のドアを開けて――
「さぁ! もっとだ、もっと搾り出せ! もぉぉぉぉっとぉぉぉお! ぬぅぅぅぅん!」
 ――バタン
「え? 何で閉めるのかな?」
 リエンからは見えていなかったのか、一瞬見えた余りにもアレな風景に思わずドアを閉めたミスティアにリエンが首を傾げる。
 だが、何をたずねてもミスティアは何処か光を失った瞳で首を振るばかり……埒が明かないと判断したリエンは自らドアを開いて――
「さぁぁぁぁ! さぁぁぁ! この熱く滴る汁をもっとぉぉぉ!」
 巨大な皿の上に仁王立ちし、その周りを蝋燭で固めるマッチョが筋肉を隆起させながら決めポーズをとっていた。マッチョケーキの異臭の原因が何だろうとか思っていたリエンだったが、全ての謎が氷解する。
 あまり見たくない光景に一瞬思考が停止するリエンとミスティアだったが、いつまでのこんな事を続けさせる訳にもいかない。否、むしろさっさと止めさせないと見てるだけで色々大切なものを失ってしまいそうなくらいの勢いだ。
「ひっさーつ! ミスティアフラーッシュ!」」
 やけくそ気味にはなった必殺技でさっくりとマッチョリーダーを捕縛するのだった。

 捕縛したマッチョリーダーを表へ連れ出すと、囮になっていたナタク達が合流した。
「そ〜こにおったか〜! 素っ首を叩き落してやるのじゃ〜!!」
「ひぃ!?」
 巨大剣を振り回しながら近づくミズナにガクガク震えだすマッチョリーダー……10歳の少女が羅刹になる……実に食べ物の恨みとは恐ろしいものだ。
「ケーキを作るのは自由ッスけど、強要は駄目ッスよ」
「体を鍛えることは別に構わないけど、他人にそれを押し付ける必要は無いんじゃないかな?」
 そんなマッチョリーダーにジェドとリエンが溜息交じりに諭そうとするが、
「だが、それでは俺の心のフォーナが納得しないではないか!」
 マッチョリーダーはあくまで強気だ。
「でも、このままじゃ……なぁ〜ん」
「ひぃぃ!」
 チラチラとミズナの方を見るペルシャナに釣られて、ミズナを見やれば相変わらずの形相。
「職人さん達に作らせて、それでいいの? 自分達で究極のケーキを作り上げてこそ、フォーナ様もお喜びになるんじゃない?」
 ビクビクと怯えるマッチョリーダーの肩を叩いて、ナタクが言いくるめようとする……職人さん達に頼らずに、一から全て作り上げてこそ心の中のフォーナが喜ぶのではないかと?
「そ……そうだ……我はいったい何を血迷ったのか! 全て自分でやってこそ、フォーナ様はお喜びになられるのだ! 我が間違っていた……すまなかった」
 その言葉にマッチョリーダーは目から鱗が落ちたと言わんばかりに、ガックリと地面に手をついたのだった……速くミズナから逃れたかっただけなのかも知れないけれど。

 マッチョの更正を見届けた後、ミスティアは先ほどのマッチョケーキを手にとって見る……製造方法は見ていたものの、実際にどんな味がするのか……少しだけ興味があったのだ。
「むせ返るようなにおい……どんな味が……?」
「どれどれ……」
 そこへオメガも加わって、二人一緒にマッチョケーキをほうばってみると……、
「……へぶぁるぉぁっしゃぁあああ!」
「喰える材料で作っているのに、ここまでとは……」
 ミスティアが奇声を上げてバタリと倒れ、オメガがゆっくりと膝を折るのだった。

【おしまい】


マスター:八幡 紹介ページ
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参加者:7人
作成日:2006/12/25
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