虹色ニットであつらえて



<オープニング>


「ご姉妹がニット作品にも興味を示されたそうで、今度ご友人のニット作家さんをお呼びして講習会を開くそうですの。わたくしもそちらで編み物を習おうかと思いますけれど、皆様もご一緒いたしません?」
 マリーティアがにこにこと微笑みながら言うのに、冒険者はへえ、と声を上げた。
「ニット講習かぁ。どんなの作るんだろ」
「やっぱりマフラーや手袋とかじゃない?」
「あみぐるみなんかも可愛いよね〜」
「え〜? それならストールとかはどう?」
 編み物の話を耳にして集った女の子達は、さまざまなニット作品を挙げていく。毛糸の靴下なら暖かそう、ニット帽子もこの時期なら良いんじゃない? ……などなど。
「あらあら、皆様詳しいのですわね。簡単なものでしたらお教え頂けるようですし……それに何より、とても贅沢な毛糸を仕入れたそうですのよ。最高級の糸で手作りだなんて、ちょっと嬉しくありません?」
「へえ、どんな毛糸なんだろうね」
「きっとふわふわで暖かいんだろうなぁ♪」
「今回も冒険者の方にお手伝い頂いたから、毛糸を分けて下さるそうですのよ。全く未経験でも講習会ですから、きっと楽しく覚えられますわ」
 わたくしも初めてですの、とマリーティア。
「うんうん、彼に今年こそセーターでも贈ろうかなっ!」
 夢は膨らむばかりである。

 そうして一同は、開催地となる薔薇姉妹のお店の裏の作業場へ向かうのだった。

 裁縫道具のきちんと収められた棚は細かな仕切りがあり、布は色味が見られるように芯を通して立て掛けてある。トルソに掛けられた縫いかけのドレスは、今にも踊り出しそうな優雅さだ。姉妹の作業場はこぢんまりとしているが、とても機能的で使いやすそうだった。
「ちょっと散らかっててごめんなさいねぇ。でも作業するならここの方が材料も揃ってるからいいと思ったのよ」
「毛糸はあちらにあるわ。とってもいい色に仕上がったから、好きなものを使って頂戴ね」
 作業モードであるのか、普段よりラフな格好の……けれどやっぱり赤と黄色の二人が冒険者を迎えた。その背ある箱の中に、色とりどりの暖かそうな毛糸がきちんと色を揃えて置かれている。やわらかな色合いから、鮮やかな原色まで、美しく染められた糸は見ているだけでもわくわくしてくるようだ。
「お友達のロバートちゃんが講師をしてくれるの。基本のニットから、色々面白いものまで作る人だから、何か作りたいものがあったら質問するといいわ」
「……はあ、宜しくお願いします」
 暖かそうなセーターを着込んだ青年がぺこりと頭を下げた。模様といいきれいに揃った編み目といい、かなりの逸品と見える。これもロバートちゃんが編んだのよ♪ と嬉しげに紹介している所を見ると、彼が講師なのだろう。

 今回の講習では、自由に好きなものを作ってみようとの講師の言葉により、基本のマフラーからセーター、手袋やあみぐるみまで非常に幅広く編み物を楽しむ事が出来る。
「大物だと講習の時間では全部は出来ないかも知れないですが、どうしたらいいのかは教えられると思います」
「まあ、それではわたくしお花のストールが欲しいんですの。出来ますかしら?」
「ああ、それなら花のモチーフを沢山作ってから繋いでいけばいいんじゃないでしょうか。型があれば簡単に出来ると思いますよ」
「ロバートちゃん私にも教えて!」
「私も私もー」
「はい、何でしょう」
 きゃっきゃと野太い声ではしゃぐ姉妹にも淡々と対応する彼は、かなりのマイペースな人物のようであった。

 暖かなニットを編む時間……。
 それはどんな風に、記憶の糸を紡ぐのであろうか。

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参加者
NPC:深蒼の萌花・マリーティア(a90343)



<リプレイ>

 薔薇姉妹の作業場には、沢山の人が集っていた。手にするのは綺麗に染め上げられたやわらかな毛糸と、そして……この冬を大事な人が温かく過ごせるようにと願う、真摯な気持ち。

●あなたを暖めて
 編み物経験者のアスティナを囲んで、リシェ、ユイフェア、エリュシアは拙くも一生懸命マフラーを編んでいた。編み物を進める合間、楽しげに話す内容は贈る相手のこと。
「大好きな人の為に、編み物できて……幸せですね……」
 ぽつりと呟いたリシェの言葉に、皆は笑顔で頷いて。
 大好きな友達と、大好きな人へ思いを込めて。指先に絡む毛糸は、まるで思いを紡ぐよう。
 そんな幸せ空気をかき乱すみたいに、わあわあと、慌てる声が上がって。
「黄色のお姉さん、どうしようどうしよう!」
 マアヤはぴこぽこ狸の尻尾を振り振り、グリースは頭を抱えて手元の編み物の穴にどうしようか悩み出す。
「あらぁ。そういう時は穴の開いた辺りからやり直すのよ、ファイトっ!」
 助けを求められたガーネットはもりっと筋肉を唸らせながら二人を励ました。
「心まで暖かくなりますように〜♪」
 クーヤとアヤは互いに手と耳を触れ合って、その大きさを計って手袋と耳あてを作り交換しあう。どうか大好きな友が、寒い季節にも暖かに過ごしてくれるようにと。
「あう、シファせんせいー編み目が増えましたぁー!」
「えぇと……そこはそうじゃなくて、こうなるのだよ」
 増えたり減ったりするケイカの編み目をシファがアドバイス。丁寧に編み進めていると。
「面倒くさ……」
 ふと聞こえたラティメリアのぼやきにふたりでデコピンコンビネーションが決まった。ラティメリアは分かってるよとじんじん痛む額を押さえた。
(「何作ってくれるのでしょ?」)
(「どんな物作ったのか気になるけど、我慢なのです」)
 ソアとルルナは向かい合わせに座って、手元は見えないように、渡す時までこっそりと内緒の作業中。大切な友達を暖めてくれますようにと、願う気持ちまで編み目に込めて。
「シアナ様、楽しいですか?」
「ええ、そうね。身体が覚えているのかしら」
 ユウカとシアナはのんびり話しながら編み進めていく。手は器用に動いて、言葉はゆっくりと思いを乗せて。
「マナさん、頑張りましょう!」
 マナとユニスは仲良く互いに贈るマフラーを編んで。せっせと編むユニスの横顔を眺めていたら、得意な筈の編み物がなんだかちょっとへたっぴに。マナはユニスにおずおずと声を掛けた。
「ちょっと下手っぴになったですけど……ごめんなさいです」
「……そう言えば、あの子は小さい頃。よく、お腹を冷やしていましたわね」
 ミュカレは愛弟子に、リネットはライバルへ。冷え性なセイレーンへ贈るのは腹巻。思いは違っても、願いは同じく、かの人を暖めるようにと。
「うむむー似せるのって結構難しいのね……」
「ふぁいとー! ですなぁ〜んっ」
 エルルとハーシェルは互いに似せたあみぐるみを作る。出来上がったら並べて、手をつながせてみようか。

●思いを込めて
 講師役のロバートは、ゆっくりゆっくりテーブルの合間を巡っていた。
 真剣な様子で編まれていく作品たちは、どれも誰かに向けた気持ちの詰まった贈り物。いろとりどりに、ふわりふわりと、空気を含んでやさしくやさしく、編みこまれていく。
「難しいですなぁ〜ん」
「これで合ってる?」
 ムスタルーメは薔薇の飾りで手間取っていた。さりげなくアドバイスを受けて、どうにか編み進めていく。その横で、セリアは大丈夫かなと、何度も何度もロバートに確認する。久々だからちゃんと出来ているのか不安で。
「ここがこうで……あれ? ……先生〜」
 今度はチェリーが悲鳴を上げた。淡々とだが分かりやすく教えてくれるのは、初心者には在り難い。
 等身大の犬の縫いぐるみを相手に、愛犬の帽子を編むノリス。やや込み入った編み方になるが、サイズが小さいぶん仕上がりは早いだろう。
「人に渡して恐縮されても困るしな……」
 ガルスタは見えない所に使えるようにと腹巻を編むが、どうせならと講師に柄編みを教わって凝った物を編んでいく。
「やっぱり編み物って難しいんだね〜。どう作るの〜?」
 ハート型のクッションを作りたいのだというヒカリに、ならばクッションカバーにしてはどうですかと講師が提案し。
 一生懸命編み進める途中、周りに目を遣ればさまざまな編み物が作られていた。マフラー、手袋、ストール、帽子、腹巻。編み物ってなかなか奥が深い。

「うむうむ、編み物。妾も中々に女子らしいのう……」
 リィは悦に入りながらも、インドア派な相手を思って偶には外に出よと半ば念を込め。
「……できた」
 ニューラは編み上がったマフラーに顔を埋めて、タイムの香りを吸い込む。迷いを取り除いてくれるようなその匂いで、あの人を包んであげてと心を込め。気持ちも心も温まるようなものを贈ろう。編み進めるファオの気持ちもまた暖かい。大切な人へ温もりを贈れる事、それだけを思って編もう。ユフィアはともすれば揺れる思いを抑えて、マフラーを編んだ。
「彼、喜んで下さるかしら?」
 恋人の顔を思い浮かべながら幸せそうな笑みを湛えて、リリーナは編む。どうせなら気に入って貰える方が良い。
「編んでいる間ずっと心を篭められていいですよね」
 アクラシエルはいつも気に掛けてくれる友を思ってひと編みひと編み心を込めて作業する。
「ぼ、僕、本当に不器用なんですけど」
 恥ずかしそうに言うシャンティの手つきは確かにとてもぎこちない。目はあちこち飛ぶし、勢い余って毛糸まで飛んで、何だか騒がしいほど。
 誰かを思って編んでいる、周りの人の姿はみんな幸せそうで。
「ボクにも、そういう気持ちを知るときが来るのかなぁ?」
 フーキは手袋を編みながら首を傾げた。今はまだ分からないけれど、それは悪くは無いもののように思える。

 ルイは苦手な人ごみに今にも逃げ出したい気持ちを堪えて片隅にひっそりと座り編んでいた。

●みんなで楽しく編もう
 いとしく思う人へ、親愛なるあなたへ。あるいは頑張っている自分に向けて。
 編み物というのは、心のうちを見つめるのに丁度良い作業だ。
「えい」
「ひゃあっ!?」
 出会い頭にわしっと長い指に頭を掴まれて、ミントレットは情けない声を上げた。
「ど、どうしたんですかシーアス先輩?」
 始終笑みを浮かべるシーアスに、不思議そうに首を傾げる。どうやら頭の大きさを測っていたのだと、帽子を贈られた後で知ったけれど。

「ガーネットは黄色かの? ガーネットに似合いの色じゃのう」
 ところでわしは赤と茶のどちらが似合うかの、とニニギが薔薇姉妹に問うと。
「勿論赤に決まってるわぁ」
「ルビィとおそろいなんて穢れちゃうわよっ! 茶色にしなさい茶色に!」
 本日もかしましい姉妹である。
「先日はドレスをありがとう」
 大事に着るからとユズリアが言うと、姉妹は嬉しそうに頷いた。ドレスだってニットだって、使わなければ意味のないものだ。次いでこんなのを作るのだけれど、と不安そうにユズリアが言うのに、
「自信を持ちなさいな。どんな物だって良いと思って作れば形になるのよ?」
 そう言って姉妹は励ます。
「これで良いのでしょうかしら」
 ウェンデルは初めての体験で不安そうに編むが、姉妹の呼び寄せたロバートに丁寧に指導され、やがてストールを形にしていった。

 優しいいろどりの糸は、楽しげに話すテーブルにふんわりと積まれていた。楽しげに言葉を交わしながら編めば、少しずつ毛糸球が小さくなっていくのが嬉しくなる。
「店回って選ぶのも楽しいけど、たまには自分で作ってみるのもええモンやなぁ」
 上手く出来るか分からないけれど、とヤチヨ。作るのは真っ白なショール。雪結晶のモチーフを飾ったら、可愛いと思う。
「ええ、そうですわね。何と言っても愛着が沸きますし。リーンさんは何を作ってらっしゃるの?」
 花のモチーフをいくつも作りながら、マリーティアは微笑む。
「やっぱり、自分で作ったもの、大事な人にあげたくて……」
 訥々と話すリーンは、帽子を編みながらはにかんだ。南国とは違い、ランドアースの冬は寒いから。
「ふふ。きっと喜ばれるでしょう。ユーリースさんは慣れてらっしゃるのね」
 せっせと手を動かしながら話すのは、贈る相手だったり、作っている物の事だったり。
「こないだ指編みでマフラー編むの習ったんだ。で、次は鈎針でニット帽でもと思ってさー」
 マリーティアの問いに答えつつも、ユーリースは編み進める手を止めない。弟分に贈るのだという。
「マリーティアさん、これっておかしくないなぁ〜ん?」
 モイモイは自分と同じピンク色のノソリン編みぐるみを作成中。
「ええ、可愛らしく出来ていましてよ。わたくしも頑張りませんと」
「ボクも頑張るなぁ〜ん」
 元気なモイモイの声に、皆は微笑んだ。

 わいわいと、話しながら。
 あるいは思いを秘めながら。
 動かす手はやがてあたたかな形を作り出す。

 雪の降る季節に。あなたと私を暖める優しいいろどりの、おくりもの。


マスター:砂伯茶由 紹介ページ
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