骨の山で死人を断つ!〜骨の籠〜



<オープニング>


 ほね の かご ……
 ゆらり ゆらり から からり ……
 おめめ とじれば ゆめうつつ …… 

 ランドアースのさいはて山脈に広がる青空の下、白銀に輝く冬の世界――とは天と地の差。
 凍てつく冬の夜空、星や月の神々しい輝きすら無縁な地獄の世界。
 重々しい紫色の空の下で、からりからりと乾いた音を響かせ、真っ白な骨の山を登る冒険者達の姿――

「いやはや……清閑な場所ですねぇ……」
 骨が積み重なった山をその足で踏みしめながら、妙にさわやかに、にっこりと微笑む、紅焔の月と夢幻の宵天・オキ(a34580)。
 そんな彼に、漂う耀きの記憶・ロレンツァ(a48556)こと『レンちゃん』が柔らかに微笑んで返答を返す。
「清閑……? 少し違う気がするな……」
 やりとりの相手は若干違うけれど、この光景をどこかで見たような気がする――
 そんな既視感を思いながら、二人の傍らを歩く月露は蛍のように儚く・ユウナ(a40033)も、ふぅわりと柔らかに微笑み。
「わたしも、違うと思うなぁ……」
 そうぼやいた。

 山道を登り続けて数刻。
 いよいよ山頂に近づくか、という頃に見えた姿は、揺り籠。
 骨の揺り籠がゆらゆらりと揺れ……籠の中は空っぽで、赤子の姿は無い。
 そして、その籠に留まる骨の鳥が、からからりと乾いた鳴き声を上げる――まるで赤子をあやす子守歌のように。
「あれが、この山の主でしょうか……?」
 オキがにっこりと、そして瞳をキラリと光らせるやいなや、突然。
 ――チチチチッ!
 骨の鳥がひときわ甲高く鳴くのと同時に、無限の刻の中静かに月を抱け・ユイ(a44536)の足元の骨が組み上がる。
 ユイは骨の篭に閉じこめられた。さながら鳥篭に飼われる小鳥のように。
 助け出そうと春風そよめく舞蝶円舞曲・ミア(a41826)と泡沫の眠り姫・フィーリ(a37243)が篭を攻撃する。しっかり命中したはずなのに、その割には篭は壊れていない。その代わり。
「――――っ!」
 中のユイの身体に激痛が走る。これでは、まるで『君を守ると誓う』のようだ。
 ユイが苦痛で身をかがめるのをさくっと無視して、夕闇に染まる白き大翼・トワ(a37542)がもう一撃を加えると。
 骨の篭は砕け散り、愛染大火・ニンブス(a41401)がユイを助け起こす。
 骨の揺り籠がぴたり、と動きを止めると同時に、オキの足元の骨が組み上がる。
 オキは骨の籠にぱたり、と横たわった。さながら揺り籠であやされる赤子のように――安らかな寝息を立て始めた。
「なんだか、とっても幸せそうに眠ってる……」
 起こしちゃ悪いかも……ユウナは思ったが。
 ほんわか幸せそうなその寝顔とは裏腹に、オキの顔色が青ざめていく。
 ――多分、起こさなければ、眠ったまま、死ねる。

「まぁ、アレだ……何とかなったら……何か持って帰れれば、いいな……」
 眠るオキの代わりに、レンちゃんがそうつぶやいた。
 

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参加者
淙滔赫灼・オキ(a34580)
泡沫の眠り姫・フィーリ(a37243)
夕闇に染まる白き大翼・トワ(a37542)
月露は蛍のように儚く・ユウナ(a40033)
愛染大火・ニンブス(a41401)
春風そよめく舞蝶円舞曲・ミア(a41826)
無限の刻の中静かに月を抱け・ユイ(a44536)
漂う耀きの記憶・ロレンツァ(a48556)


<リプレイ>

●敵は味方
 骨! 骨だ! 動く骨! 
「地獄は初めてだなぁ。なんだろ、この陰気臭い空気……ってオキー?!」
 ピンチなのにピンチに見えない幸せそーな、紅焔の月と夢幻の宵天・オキ(a34580)の寝姿。
 笑……っちゃいけないなっ、とこらえる愛染大火・ニンブス(a41401)に支えられた、無限の刻の中静かに月を抱け・ユイ(a44536)は、骨の篭に共有させられた傷の痛みをこらえ。
 その傷を負わせた張本人、夕闇に染まる白き大翼・トワ(a37542)をじっ……と見つめながら、黒い炎をその身に燃え上がらせる。
 ――怒ってる?
「…………トワ……俺……暴露する。混乱した時……お前かどうか、見分ける為に……」
「とりあえずユイ、俺は別に悪い事してないよな? 助けただけだし……な???」
 真顔のユイをなだめ、自分に都合の悪い話題をそらそうと、トワはおもむろに武器を構え直す。
「鳥に揺り籠……何ともまぁ――」
「変な敵、だよね……?
 骨の籠もオキが実験体になっちゃうけど……『寝てるのいきなり籠ごと殴る!』のは駄目だよね……?」
 トワと同じ感想を漏らしながら、泡沫の眠り姫・フィーリ(a37243)はニンブスの鎧に力を注ぎ込んだ。
 春風そよめく舞蝶円舞曲・ミア(a41826)もニンブスに触れながら、ニンちゃんを守るなぁん♪ と誓いの言葉を口にする。
「痛みはんぶん傷はんぶ〜ん? なぁ〜ん♪」
 でもミアのその眼差しは、守ると誓う相手ではなくて眠り姫ならぬ眠りオキへ、うっとりうっと〜りと注がれて。
(「オキだんちょ……あなたの寝顔をいつまでも見つめていたい……なんて幸せを噛み締めるミアをお許し下さいなの……なぁ〜ん」)
 キルドレッドブルーの魔炎魔氷に黒炎覚醒を重ね燃え上がらせながら、漂う耀きの記憶・ロレンツァ(a48556)は、ぼそっとつぶやく。
「……夢現……か……。眠っているアレは随分と幸せそうだが……顔色がな……。
 ……顔色が、だな……」
 強調するのも無理はなく、まだ起こしてもらえないオキの顔色は青ざめて。
 目覚めの時を待つばかり、の彼が、この光景を夢の中ででも見ることが出来たなら、きっとこう思っただろう。
 ――皆さん、このまま『永眠』は、ご勘弁を……
「変わった攻撃をしてくる敵だから、気をつけないとね。みんな、気をつけ……」
 静謐の祈りを捧げようとする前に、月露は蛍のように儚く・ユウナ(a40033)の足元の骨が、からから音を立てながら組上がっていく。
 ユウナを閉じこめたそれは駕籠の形となり――骨の担ぎ手がいれば『えっほ、えっほ』と威勢の良いかけ声が聞こえてきそうな、そんな風情で乗せたユウナをかっさらい、遠くへ運んでしまう。この距離では祈りの効き目も、フィーリの鎧聖降臨も届かない。
 チチチチッ!
 再び鳥の鳴き声がして、ニンブスが鳥篭に閉じこめられた。
 ニンブスとて警戒はしていた。しかし骨の能力がそれを上回り、回避することは出来なかった。ダークネスクロークの助けがあれば、回避も出来ただろうが――
 軽快なイリュージョンステップを踏むトワと、召還獣の炎と氷を身に宿したフィーリが篭を壊しにかかる。魔炎と魔氷は篭を覆い尽くすが、中のニンブスへは痛みだけが伝わるようだ。ニンブスはそれをこらえ、マッスルチャージして反撃の機会を狙う。
 ユウナはまだ戻れず、他の回復の手も完全に止まっているのを見て、すかさずロレンツァは癒しの波動を放つ。
 武器を叩き付けられ、篭が砕けていくのと同時に、ニンブスの傷を半分引き受けているミアは、
「幸せそうに眠るオキだんちょ……ぅなぁ〜ん。ちょっぴり顔色悪いの無視ればミアは幸せですなぁ〜ん」
 ミア自身も血の気を失い青ざめながら、うっとりにこぱっvと寝顔を眺めている。
 それはある意味、壮絶な光景で。早く助けてあげましょう。お互いに。
 ユイの一撃で篭を完全に破壊され、砕けた骨の破片がからからと転がり――ユイは皆がちゃんと正常に物を見ているうちに、公言。
「お揃いの行動……敵が、状態異常攻撃、してきたら……『お猿さんのポーズ』……って、オキが言ってた……!」
 ウキ――!?
 それは自分のキャラじゃない!
 他のポーズに出来なかったのか!!
 と仲間がブーイングしても他に案が出ていなければそれをやるしかない。今一度、責任転嫁するユイの声がする。
「オキのせい……!」
「……みんな、仲間割れは、駄目ですよ……?」
 遠く運ばれた先で、崩れていく駕籠から這い出て前線に馳せ戻りながら、ユウナはちょっと不安げにこそりとつぶやいた。

●味方は敵
 フィーリはオキの身体をゆするが、普通の眠りとは違うらしく目覚めない。
 ならば、とロレンツァの放った聖女のキスで、爽やかな朝? を迎えた銀狐ストライダーはむくりと身を起こす。
「……あぁ良く寝た……あれ? 皆さんどうかしたのですか?」
 も少し眺めていたかったなぁ〜ん、と思いながら、ミアは籠からオキを引っ張り出す。
「オキだんちょの背中はミアが守りますのなぁ〜ん♪」
「食えない骨に用はないっ! ていうか骨が動くなーっ!」
 籠から共有させられた傷を癒さぬままに、ニンブスが怒りのデストロイブレードを籠に叩き付ける!
 負傷すればこその威力で、オキを捕らえていた籠は爆発で砕け散る。
 骨の揺り籠が再び揺れ――ロレンツァを駕籠に捕らえて、運び去った。
 その時。
 ギ――ッ! ギギギギギッ!
 鳥がけたたましく耳障りな鳴き声を上げて。
 イリュージョンステップとダークネスクロークの力で攻撃を回避したトワの目の前には、鳥の声で混乱した仲間達がいた。
(「……この相手……油断は禁物……仲間が、敵になりそうだから……」)
 ユイもそれは十分に解っていたけれど。周りから仲間の姿が消え、動く物は全て骨の鳥と揺り籠に見えて。
 そしてそれは骨の籠や駕籠や篭で襲ってくる、ようにしか見えない。これが骨の過誤――!
 ユイは骨の砂の小瓶を掲げながら、正面の骨の鳥に向かってつぶやく。
「トワ……黒くて長い髪の、女の子……かどわかした? って、本当、か……?
 あと、銀髪の、ちっちゃい……子……」
 残念、トワは正面でなくユイの左側に居た。
 ユイの正面の相手はトワではなく。その人物は、ずずい、と迫り来る骨の揺り籠に向かって叫ぶ。
「男ニンブス、彼女居ない暦17年! 正直泣ける!」
 結局、相手が相手と分からず、二人が互いの武器で思いっきり殴り合う。
 ユイとニンブス、共に負傷。
「わたし、尻尾って結構好きなの……」
 ユウナは骨の揺り籠に向かってカミングアウト。その相手は本物の揺り籠だった。ユウナは足元に組み上がる籠に捕らえられ、幸せそうに眠りにつく。
「「「ウキ――!」」」
 お猿さんのポーズをしたのはフィーリとミアと張本人のオキ。お揃いの小瓶と六星の首飾りがキラリと揺れて。
 遠くに運ばれた為に、逆に混乱からは逃れたロレンツァは。
「……攻撃は、仲間の方が注意か……仲間が仲間を攻撃する……阿鼻叫喚……地獄絵図……か……そうならない様、早めに見極めたいものだな……?」
 微笑みながら、そして静謐の祈りを唱えながら、混乱の渦に突っ込んでいく。
「30m攻撃は最早回避不能……状態異常を畏れず『仲間を信じて』戦うのみ……ですね」
 混乱から醒めたオキはバッドラックシュートを繰り出す。敵が不幸になるまでは、と。
 トワがユウナを籠から引きずり出し、フィーリの癒しの波とロレンツァの祈りがユウナを危機から救う。
「邪魔をしてはいけないのなぁ〜ん♪」
 ミアは鳥に魔炎と魔氷の矢を放ち、鳥は炎に包まれながら動きを止めた。
 ――骨と見間違うなんて、ありえないよ……
 だって、みんな、大好きなんだもん…… 
 切々とユウナが歌い上げる凱歌で、ユイとニンブスも混乱から醒めて。
 ユイから放たれる悪魔のような炎と、ニンブスの破壊力をこめた一撃が、揺り籠を砕く。オキのバッドラックシュートが敵を不幸にして、ここぞ、とフィーリが揺り籠をがしっとつかみ、デンジャラススィング!
 ぶん! と投げ飛ばされた揺り籠は地面に叩き付けられると木っ端みじんに壊れた。
 トワがステップを踏み直す間に。
 鳥が炎と氷の呪縛から逃れ、再びけたたましい鳴き声を上げた。
 ロレンツァの目に映るのは仲間たちの姿ではなく、骨の鳥。
 目をこらし、仲間の手がかりを求め――
「まぁ、何とか判別はされるだろう……少なくとも、難敵・オキには殺られずに済むかと……」
 そして一言付け加える。
「トワ、女癖が悪いんだって……? フィーリも苦労をするな……?
 ……うむ。この辺で良いだろう」
 クロークに護られたオキと、イリュージョンステップでかわしたトワは、どこか満足げなロレンツァのつぶやきを耳にして、その心中やいかに。
 ともかくもオキは同士討ちを避けるべく攻撃力のある危険そうな仲間に向かって粘り蜘蛛糸を放ち、トワは鳥にソニックウェーブを撃ち込む。
 ――オキちゃんに貰った深藍の桜月。
 皆との思い出の小瓶。
 お揃いの星空を眺めた六星。
 一緒に選んだコート。
 夜店で見つけたカンテラ。
 きっと、みんなの事も……わたし、すぐに解るよ……?
 誰よりも早く、混乱から醒めたユウナは、皆に向かって祈る。
 その祈りはロレンツァに届き、彼の祈りも加わって――
「みんな無事に帰れるように、頑張ろうねっ!」
 回復したフィーリが先陣を切って鳥に向かう。彼女の攻撃を受け止めた鳥に、間髪入れずミアがキルドレッドブルーの力を叩き込む。
「大人しくしていて欲しいの……なぁん」
 炎と氷に包まれた鳥に、一気にたたみ掛けるように、ペインヴァイパーの力を得たユイのスキュラフレイムが襲いかかり、ニンブスのデストロイブレードが炸裂する。
 そしてトドメには。
 ハイドインシャドウで姿を消していたオキの闇の闘気が、音もなく鳥を切り裂いた。

●成功! 心が重傷者、数名
「お、終わった?」
 汗を拭きつつ、ニンブスは辺りを見回す。鳥と揺り籠だった骨もバラバラになり、山に積み重なった無数の骨に紛れてしまった。
 まだちょっとドキドキしながら警戒し――どの骨も、ぴくりとも動かない事に、ニンブスはホッ、と安堵のため息を一つ、ついた。
「……すごく、大変な敵さんだったね……?
 わたし、これまで知らなかったこと、沢山知っちゃったかも……?」
 数々のカミングアウトや、他人の秘密の暴露に、ユウナは茫然と。
「放置したらどうなるか解って下さっていたようで……信じてましたよ」
 仲間が自分を助けてくれたことに、にっこり満足の微笑のオキは、足元の骨を手に取る。
 自分たちを苦しめた骨ですら、今では良い記念。これで何か作ってみよう、と。
「……仲良き事は、美しき哉……と。仲良くなくちゃ知らない秘密だってある……」
 しみじみと、トワは続ける。
「フィーリがうっかり屋で、あんまり料理が上手じゃないとか……」
 骨の鳥と揺り籠を倒した後なのに!
「ミアはオキが好き過ぎて、依頼ストーキングしたら、うっかりギリでオキを蹴落としたとか……」
 もう言う必要もないのに!! 暴露された仲間たちの視線がトワに集中。
 黙っていれば狙われずにすんだのに!!! 
「まぁ、恨まず平和に生きていこう……な? ……な??」
 にじり寄る仲間たちをなだめるも、時既に遅し。
「フィーリ、トワと喧嘩しちゃ、駄目……」
 とか言って、なだめるユイの本心は。
(「……皆の冷たい視線が、トワに集まれば、いいな……」)
 その通りになりました。

 ロレンツァは複雑な感情を胸に抱く。
(「……何だろうか……この、言い得ぬ後悔……いや、何と言ったら良いのか解らん妙な気持ちは……」)
 勝ったはず。誰も倒れることなく無事で。
 ――なのに。遠い目でロレンツァはつぶやいた。
 トワが追い回され、逃げる姿を見つめながら。
「この勝利、後々様々な形で影響を及ぼしそうだな……?」


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