【小さな恋の物語】ジュニア



<オープニング>


 さて、冗談のような事件の結果重傷なども負ったりしていたヒトの霊査士・ルーカスは、今日も元気に――えーと元気に、なんと言うか……もう何も言うまい。頬に張られた大きなはりもので細かい所は察して欲しい。
 さて、そのはりもののせいばかりでもなくルーカスは今日も憔悴しきっていた。勿論それには理由がある。
 アナスタシアはそのルーカスの憔悴原因に、深く深く嘆息した。
「レイミアああああああぁああ」
 力の限りにルーカスにしがみ付き、力の限り絶叫をかましてくれている不惑過ぎの男はとある村の村長。一人娘のレイミアを目の中に入れても痛くない程溺愛しているが、それは当人が『痛い人』でないという保証にはならない、言うまでもなく。そしてそれに輪をかけて凄まじいのがその出来合い対象である所の愛娘のレイミアだ。
 頭の中身は砂糖十割増の生クリーム。愛の妄想世界に生きる、世紀の地雷女様である。
「……それでレイミア様がどうなさいましたの?」
 逃走を諦めたアナスタシアは、ルーカスにしがみ付いて重石になっている村長にうんざりとした口調で話し掛けた。
「病に倒れたのだっ!」
 滂沱の涙に暮れつつ、地雷女様の地雷な父親はそれまでへばりついていたルーカスの体を放り出し、アナスタシアの両手をわしいっと掴み締める。涙に濡れた中年男の勢いに身を引きつつも、アナスタシアは辛抱強く問い掛ける。別に親身になっているわけではない単に諦めているだけである念のため。
「病?」
「原因不明の奇病なのだ! 吐き気、眩暈、発熱、食欲不振! やけに酸っぱいものばかり欲しがるし!」
「…………」
 アナスタシアを含めた冒険者達は無言でルーカスを振り返った。
 吐き気に眩暈に熱に食欲不振で酸っぱいものばかり欲しがるというのは要するに要するにアレである。
 大方の予想に違わず、ルーカスは重々しく頷く。
 そうそれしかない。妊娠である。
「しかもその病床のレイミアを残して婿殿が姿を消してしまったのだぁああああぁああぁおおおおレイミアああぁああああぁああぁ」
 そのまま身も世もなく地雷な父親は泣き崩れる。ルーカスはそれから微妙に視線を反らしつつ、こほんと咳払いを落とした。
「つまり逃げた」
 地雷女様の犠牲者である所の旦那は『今度こそ探さないで下さい』の書置きを残して完全に姿を眩ませたという。
「だが今回ばかりは見逃してやる訳にもいかん」
 そりゃーまあ。やる事はやってたわけですしそれで逃げられても困るわけで。
「そしてレイミアもな……」
 レイミア本人はまたしても浚われた(と主張している)旦那を探しに自分も出向くと言い張っているのだという。
「とりあえず霊査はした。旦那が隠れているところは把握できてるんだが、身重の女が出向けるような場所じゃあない」
 つまりな、とルーカスは言う。
「旦那の捕獲と、レイミアのお守りとを、して欲しい」

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参加者
鬼札・デューイ(a00099)
緋の剣士・アルフリード(a00819)
青の天秤・ティン(a01467)
狂刻の牙・ウォーレン(a01908)
邪風の黒騎士・ツキト(a02530)
カルシスの鬼姫・シュゼット(a02935)
氷輪の影・サンタナ(a03094)
銀の竪琴・アイシャ(a04915)


<リプレイ>

「……つか、しくじってんじゃねぇ」
 と、誰かが呟く。もしかしたら心の中でかもしれないが。
 ――至言である。(違)

●僕の原生林へようこそ
 ルーカスの霊査が示したのは本格的にうっそうとした森だった。村からはさして距離はないが、山裾に立っただけでこんもりとした緑が目の前に聳え立っているようにさえ見える。
「……こりゃまた」
 松葉杖をついた静斬の黒琥・ウォーレン(a01908)はあきれ返りつつそのこんもりとした森を眺めた。道らしい道はなく、殆ど原生林である。村で聞くところによると熊やら猪やらが出ることもあると言う。
 ウォーレンと同じく旦那を知らないわけではない邪風の黒騎士・ツキト(a02530)もその森を見て唸る。
「……本気だな」
 本気も本気、かなり本気で逃げている。否これまでも本気は本気だったのだろうが、それ以上に根性入っている感じである。これまでは基本的に誰かを頼った逃亡をしていた。盗賊やったり変な秘密結社作って犯罪に走ってみたりである。それがないのだ。己の力のみでこんな原生林に入り込んでいる。
 ――もーしかすると単なる人間不信かもしれないが。
 愛とはここまで人を追い詰めるものだったらしい。(違)
「こういう事態ですので、髪もまとめて動きやすい格好をしてみました。に、似合いますか?」
「勿論ですじゃ。どのような姿でもアイシャ殿はお美しいのですじゃ」
 両手を広げてくるりと回ってみせる碧藍の瞬き・アイシャ(a04915)を目を細めて氷輪に仇成す・サンタナ(a03094)が賞する。スポットライトオン。(何)ちょっと世界は二人のために。(待て)
 ――この愛がまたそんな結果とならないことを祈るばかりである。っていうか逃亡中の旦那が見たら石どころか槍でも投げてきそうな光景ではある。
「……さて、まずは旦那の人を捕獲しよう。野営跡を辿っていけばいいかな? 初対面だから、まぁ挨拶くらいしておこう」
 緋の剣士・アルフリード(a00819)が一同を促す。どうやら己がその旦那を一番最初に人身御供に捧げた一味の一人であったことは綺麗さっぱり頭から抜けているらしい。
 まあそのとても都合のいい記憶力はさておき、言っていることは尤もである。
 一同は原生林に果敢に挑もうとしていた。
 ――この時点で旦那の本気を舐めていた。

●森の旦那さん(の罠)
「あるうひ、もりのなあか、だんなさんにい、でああった〜?」
 さあ皆さんご一緒に!(したくない)
 吟遊詩人らしく中々の音程で怪しげな歌を大声で歌うのは青の天秤・ティン(a01467)。側によってきていた見た目は獰猛でも妙に人懐っこい猪の前にしゃがみこみふんふんと頷きつつまた怪しげな歌を歌っている。やがて親切な猪さんに手を振って立ち上がったティンは一同を振り返ってうーんと唸った。
「どうなの?」
 深遠なる復讐の鬼姫・シュゼット(a02935)が問いかけるとティンはうーんと唸った。
「よくわからないけど危ないから逃げた方がいいとかいってる」
「危ない?」
 前回に引き続いて松葉杖ついているウォーレンが小首を傾げた。年寄りのひや――もとい、中年のカラオケ(最初は嫌がってもマイク持ったら離さないって言うか何)――もとい、実に根性である。
 そしてその松葉杖ががさりと原生林をかきわけたその時だった。
「あ」
「あ!」
「あ!!」
「あ!!!」
「あ!!!!」
「あ!!!!!!」
「あ!!!!!!!」
「は?」
 反応する暇も有らばこそ。
 ガインとじっつに見事な音がした。突如としてウォーレンの頭上に何かが降ってきたのである。っていうか完全直撃。
「っつ〜〜〜〜〜」
 直撃の痛みかはたまた傷が痛かったのかその場にしゃがみこんだウォーレンを他所に、一同は落ちてきたものをとっくりと眺めた。
 鈍い銀色に輝くボディ。ちょっと渦巻きの底模様。そして大の男だって膝立てれば座り込むことも可能だろう大きさ。昔懐かしちょっと涙(何)
「……金ダライ……」
 呆然と鬼札・デューイ(a00099)が呟く。
 突如として金ダライが頭上から降ってきたのである。よかったなIDの不吉さ以上に今シリーズで不幸な人間がいてくれて。(違)
「危ないって、そういうことでしたの?」
 思わず身を引いたアイシャの肩を、サンタナがしっかりと支える。
「大丈夫ですじゃ。アイシャ殿はお守りするのですじゃ」
 はいスポットライトオン(しつこい)。かなり世界は二人のために。っていうか何しに来たんだお前らは。
「……本当に本気のようだな」
 ツキトが金ダライをしみじみと眺めていう。未だウォーレンは痛みに立ち上がれない模様である。
「っていうか一発目が金ダライってことは……」
 シュゼットがきょろきょろと周囲を見渡した。気配も何も感じ取れないが、次も来るだろう。
 水とかうなぎとか階段(ありません)が行き成り傾斜に変わるとかも。
 だが気配はない。
 そしてその手の罠の場合物理法則と冒険者の技能とに一切関わらず不条理に必ず引っかかるのが世の常と言うものである。その不条理の名をお約束と言う!(言いません)
 一同はこわごわと周囲を見渡した。
 そこは単に原生林だった。冒険者と言う職にあればまあ難儀ではあっても超えることも探し物をすることも不可能ではない場所である。
 ――ただ原生林であれば。
 その静かな緑の中に旦那の本気が漂っていた。

 ――そして勿論その予感は外れてはくれなかったのである。

●森の旦那さん(の不幸)
「……ふ、流石ですね。やはりきましたか」
 その男はかなりやつれていたがやっぱり運命の美形様だった。
 しかもこれまでのように錯乱することもなく、淡々と冒険者達を見据えている。淡々としてられなかったのはむしろ冒険者の方であった。
「よぉ、ゴンタ」
 座りきったまなざしを旦那に向けたウォーレンの姿は見るも無残だった。ずぶ濡れ細かい傷だらけ、おまけに頭に何かぬるっとした魚が乗っている。どうやらその位地が気に入ったらしく、髪に潜ったり顔を出したりを繰り返していた。もしかしたら魚に似てるけど魚じゃないのかもしれない魚だけど。(どっちだ)
 まあそれは一番特殊な例としてどの姿も似たような有様だった。何故か物理法則に逆らってティンのみが無傷であったが。きっと懐に入っている命名半紙様のご利益だろう。(違)
「きっと皆さんは来ると思っていました……ええ、必ずレイミアの手先となって……」
 黄昏る運命の美形様に、ぶちっと切れたのはツキトである。こちらはぬるっと魚に愛されはしなかったものの、直撃はされた模様でずぶ濡れの上にぬめりで体のあちこちに草などがへばりついていた。
「貴様よくもぬけぬけと……」
「全くだぜ」
 似たような有様のデューイもまたずずいっと身を乗り出す。
「やることやったくせしやがって何逃げてやがる!」
 あんたもあちこちでやることやってたんと違うんですかと言いたいところである。まあ発芽はさせてないにしてもあんまり説得力はない。
 そこへやはりそこそこ被害を受けているサンタナが小首をかしげて割り込んだ。
「1つ確認したいですじゃ。そもそも本当に子供作るような事をしたのじゃろうか?」
 その素朴な疑問に旦那は顕著な反応を示した。
 がっくりと膝を突き、下草を握り締める。
「……した、らしいんだ」
 遠い目をした旦那は黄昏つつも語る。
 それはだまされて隔離された雪山でのこと。
 兎に角寒いのと現実逃避に酒は必須。ある朝目を覚ますと腕がしびれていて重かった。何だと重い頭を上げるとしびれている腕の上には――
「……いたんですあれが!」
 あれとはどれと聞くまでもない。地雷女様である。
「んで勿論裸で?」
「…………」
 さらっと残酷なこと聞いてくれやがるシュゼットに、旦那は更に強く下草を握り締める。図星らしい。
 つまりその一回が見事に命中してしまったと言うわけらしい。
「……」
「…………」
「………………」
 ツキトとウォーレン、デューイが顔を見合わせる。
 いやまあ事実があって結果が実って(もっと他に言い様はないのか)いる以上連れ帰るしかないわけではあるのだが。
 なんかこう一発命中と言うのは微妙にかなり気の毒な気がしないでもない。男の身としては。
 同じ男でもサンタナはあまり同情を感じなかったらしい。
「行為があれば同情は皆無じゃな」
「まあ、な」
 己が身の上と照らし合わせてツキトが気を取り直す。流石に気の毒そうに旦那の肩など叩きつつ言った。
「まだお前の奥さんは薬だの鞭だの使わないだけ、どれだけ可愛いものか……下手に逃げ回って地下牢に閉じ込められたり、薬を飲まされて1週間寝込む羽目になったことがない分お前は幸せだということをよく思い知れ」
「……あなたそんな目にあったんですか」
 ツキトは無言で旦那の目を見つめる。その目に何を見たのか旦那はうっすらと涙まで浮かべた。
 微妙に男の友情芽生えそうな雰囲気である。なんか悲しい友情だが。
 旦那が揺らいだのを見て取るや、一同は怒涛の説得攻勢に入った。何しろ実っているわけだし収穫時期が来るまでには覚悟決めて貰わなければ困るのである。
「自分のやったことの責任を果たせよ。一応親になるだぜ。お前が逃げたら置き去りにされた子供が不憫だろうが……」
 ウォーレンの言葉には言外に、あの祖父と母親に育てられる子供を思えと言う意図がたっぷり込められている。親子三代地雷化確定だ間違いなく。その後をアルフリードが引き継いだ。
「……このまま逃げきっても、10年後くらいには高純度に育てられた子供に『パパを尋ねて3000里』モードで地獄の底まで追われると思うが、いいのか?」
 びくうっと旦那が反応する。
 ものすごく説得力がある意見である。悲しい程に。
 ああどうしようだがしかし。
 その逡巡が見事に旦那の顔に表れている。百面相状態だ。デューイはやれやれと肩をすくめた。
「ったく、そんなに嫌ならなんで手ぇ出してんだよ……」
「不可抗力ですっ!」
 勿論誰も旦那の主張なんざ聞いちゃいねえ。アルフリードが胸を張って声を張り上げる。
「今から私が夫婦円満のために伊達の心意気を伝授しよう! 復唱!!『あぁ麗しの姫、貴女の瞳は……』……」
「ああ、今思い出したけど諸悪の根源!!!!」
 怒鳴った旦那にシュゼットが止めをさした。
「ほらほら自己暗示自己暗示っ! あなたは奥さんがすきになーるすきになーる、にげたくなくなーる〜」
「なってたまるかあああああああああ!!!!!」
「他に道はないと思いますけど……」
「そうですのう」
 しっかり手などつなぎあった世界は二人のためにが喚く旦那を完全に人事として温かく見守っていた。

 旦那への説得攻勢は、逡巡があまりに長く続いた(すごく無理もない)為にぶちきれたデューイが旦那にヤキを入れるまで続いたと言う。

●永久の愛
「あああ、お帰りなさいあなた! よくご無事で! この子も元気に育っているわ!」
「…………」
「よかった、本当によかったわ!」
「………………」
 レイミアは非常に上機嫌だった。何があったのかはレイミアを押し留めていた冒険者達のうちの一人が完全に混乱して頭を抱えている辺りから察するに、妄想炸裂させまくってご満悦なのだろう。
 そしてその妄想はこれからも続いていく。微妙に現実を交えている辺りがこれまでとの相違点だろう。
 覚悟とはまた別の部分で村人が逃亡阻止を確約したため以後逃げ道はない。

 小さな恋は終わり、永久の愛の物語が始まろうとしていた。(絶対違)

●そして新たなる地雷
「ったくあの馬鹿旦那はしくじったくせしやがって覚悟が足りねえんだ」
「……まあ誰もしたくない覚悟だろうが……」
 不機嫌に酒盃を差し出すデューイに新たに酒をついでやりながらルーカスは苦笑した。
「兎に角飲むぞ俺は」
 その脇ではウォーレンもまた酒瓶とお友達である。仕事帰りに酒場で一杯、しかもちょっと愚痴りながらと言うとてもおじちゃんっぽい行為なので正しい。(何)
 更にその脇ではシュゼットに手伝われながらティンがしこしこと書き物をしている。手にしている帳面の表紙には『地雷でない子供を育てる100の心得(ランドアース民○書房刊)』とか毛筆で書かれていた。
「兎に角、せめて教育、頑張って貰わないと♪」
 自作の書物を広域圏に渡って読まれている書物と偽って旦那に送りつける気満々らしい。
 まあそれは兎も角として。
「ところでな……」
 誰もが今の今まで目を逸らしていた現実へと、ルーカスが視線を投じる。
「……あれをどうする?」
「わしの、わしの可愛いレイミアがああああああああ!!! おおおおおおのれ婿どのおおおおおおおお!!!!!!!!」
 一人の冒険者にしっかりと取りすがった地雷ぱぱりんが気炎を吹き上げている。
 どうやらこの地雷親蛙、娘を嫁に出すということは、手塩にかけて育てた娘が他の男のものになるということで、まあそのほかの男と色々やっちゃう免罪符を出すということでもあることをさっぱり理解していなかったらしい。
 レイミアが妊娠していることでその『事実』を理解した地雷ぱぱりんの依頼するところが『婿殿抹殺』であることは言うまでもない。

 小さな恋は終わり、永久の愛の物語が――始まらないかもしれない。


マスター:矢神かほる 紹介ページ
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作成日:2004/04/21
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