トロウル王国解放作戦:敗者の戦歌



<オープニング>


●トロウル王国解放作戦
 列強種族トロウル。
 剛力の聖域オグヴを擁し、ランドアース大陸西方を支配していたトロウル王国は、他のランドアース諸国にとって常に恐ろしい外敵であり続けた。
 北の隣国であった北方セイレーン王国は、トロウル王国の侵攻を避けるべくグドン地域を作り出し、今は亡きソルレオン王国は、ドリアッド・プーカと共に国境を固めて戦い続けていたのだ。

 だが、ボルテリオン戦役とトロウル最終決戦により、ランドアース大陸の西方の勢力図は大きく塗り替えられる事となった。
 同盟諸国軍によって戦刃峡谷の4つの拠点のうち3つまでも突破されたトロウル王国は、この戦刃峡谷によって剛力の聖域オグヴのある地域と、その他の支配地域に分断されたのだ。

 そして現在、トロウル王国による暴力的な支配から脱した多くの地域が、同盟諸国の救援を待っているのだ。

 本国と切り離されたといっても、未だ、トロウルの冒険者による支配が続いている地域があり、或いは、ボルテリオン会戦で敗退したトロウル軍の敗残兵が居座り略奪を続けている地域もある。
 これらの困窮する奉仕種族を救い、同盟諸国の勢力を拡大する……。

 それは、同盟諸国の冒険者の責務であるのだろう。

※※※

「皆様、お集まりいただけたようですね。
 今回の依頼は、かつてトロウル王国によって滅ぼされた西方諸国の人々を解放することが目的となります。
 トロウル王国の略奪におびえて暮らしていた人々を、是非、安心させてあげてください」
 エルフの霊査士・ユリシア(a90011)は、微笑みを浮かべつつ、集まった冒険者に地図を指し示して説明を始めた。

「現在、この地域には、ボルテリオン会戦の敗残兵を含めて多数のピルグリムトロウルが潜伏しています。このピルグリムトロウルを倒すか追い払う事で、この地域の平和を実現する事ができる筈です」
 ユリシアの言葉に、話を聞いていた冒険者達も力強く頷いた。
 この依頼は、冒険者としての責務を果たす、相応しい仕事であったのだから。

「勿論、会戦に勝利して戦略上優位に立ったからといって油断は禁物です。召還獣タイラントピラーを使いこなしピルグリムの力を得たトロウル冒険者の戦闘力は、1対1であるならば皆さんを凌駕しています。充分な連携を取り有効な作戦を立てて戦いに挑んでくださいね」
 そう言うと、ユリシアは地図をくるくるとしまうと、冒険者達にむけて一礼したのだった。

●敗者の戦歌
「きみたちにお願いしたいのは、西方ドリアッド領付近の森の中にいる、敗残兵の追撃だ。かれらはボルテリオン会戦の生き残りで、西方へ逃げ延びたあと、仲間とはぐれ、5人のパーティーで森の中をさまよっている。逃避行で疲弊していると思うので、叩くなら今がチャンスだ」
 鍛練の霊査士・ジオ(a90230)が、依頼の内容を説明する。

 敵トロウルたちは全員が召喚獣タイラントピラーを活性化し、なおかつ、ピルグリムの力を得ているという。いかに疲弊した敗残兵といえ、強敵であることには間違いない。一対一なら、同盟の冒険者の力を上回るだろう。

「このパーティーは重騎士が1人に、狂戦士と吟遊詩人が2人ずつという構成だ。時折、吟遊詩人が楽器を奏でることもあるのは、自身を鼓舞するためだろうか。だがそれを頼りにかれらを探し出すこともできるだろう。落ち延びた身の上で、自分たちの位置を知らせるようなまねをするなんておかしなことだけど……、あるいはそれも、列強種族トロウルの誇りのあらわれなのかもしれないね」

 霊査士は、いったん言葉を切って、集まった冒険者たちを見回した。
「その誇りに応えてあげようじゃないか。きみたちの手で、かれらに引導を渡してあげるんだ」


!注意!
 このシナリオは同盟諸国の命運を掛けた重要なシナリオ(全体シナリオ)となっています。全体シナリオは、通常の依頼よりも危険度が高く、その結果は全体の状況に大きな影響を与えます。
 全体シナリオでは『グリモアエフェクト』と言う特別なグリモアの加護を得る事ができます。このグリモアエフェクトを得たキャラクターは、シナリオ中に1回だけ非常に強力な力(攻撃或いは行動)を発揮する事ができます。
 グリモアエフェクトは参加者全員が『グリモアエフェクトに相応しい行為』を行う事で発揮しやすくなります。
 この『グリモアエフェクトに相応しい行為』はシナリオ毎に変化します。
 鍛練の霊査士・ジオの『グリモアエフェクトに相応しい行為』は『献身(devote)』となります。
 グリモアエフェクトの詳しい内容は『図書館』をご確認ください。

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参加者
涓滴岩穿・ローカル(a07080)
漆黒の瞳に宿る不朽の心・スレイツ(a11466)
翠影の木漏れ陽・ラズリオ(a26685)
蒼翠弓・ハジ(a26881)
灰緑の・グリュイエール(a28333)
隠逸花・カルマ(a31235)
踊る風・クレイ(a33036)
白雪・スノー(a43210)


<リプレイ>

 大神ザウスよご照覧あれ 
 われら血に染み、荒れ野を往かん
 そはの御旗のはためくところ
 絶えざる歌のある限り
 わが王国は偉大なり

●森
 深い――、森だった。
 息を詰めるようにして、8人の冒険者たちが、緑の道を往く。
 先頭を歩くのは、迷彩模様の外套をはおった翠影の木漏れ陽・ラズリオ(a26685)。続く仲間たちも、金属鎧が音を立てぬように気を配るなどし、極力、目立たぬ行軍を心掛ける。ほどなく、霊査士の示した接敵地が近付く。敵に見つけられる前に、こちらが敵を見つけ、先制を仕掛けねばならぬ。疲弊している敗走兵とはいえ、そうした作戦上の優位がなければ勝利のおぼつかない強敵が相手なのだから。
「この道で?」
 正しく歩んでいるのか、風景からは判断できかね、隠逸花・カルマ(a31235)が不安げに問うたのへ、蒼翠弓・ハジ(a26881)が頷く。
 ドリアッドである彼の案内がなければ、冒険者たちも、トロウル同様、樹木の結界にとらわれ、道に迷っていただろう。最悪、放浪したすえに敵と出くわすという事態すらなったかもしれなかった。
「……あの音は」
 漆黒の瞳に宿る不朽の心・スレイツ(a11466)が皆を制した。
 樹木のざわめき、鳥の声に混じって、どこか遠くから聞こえるその音に耳を澄ます。
 歌だ。
 勇壮な――どこかものがなしい郷愁を含んだような旋律と、それにのせて唱和される野太い歌声を、冒険者たちは聞いた。
 目指すトロウルの部隊に間違いなかった。
 足早に、しかし慎重に距離を詰める。やがて、樹々のあいだに野営するものたちの影を垣間見る。
 5人のトロウルだ。
 ひとりが、角笛のような管楽器を吹き鳴らしている。やわらかな輝きが、武骨な楽士の身を包み、彼を取り囲む4人のトロウルが大声で――その歌を唄っているのだった。
 ラズリオが声には出さず、手ぶりの合図で仲間たちに指示を出す。
 まず狙うのは、角笛のトロウルの傍にいるもうひとりの吟遊詩人とおぼしき……リュートを抱えた冒険者だ。
「気を引き締めて参りましょう」
 探索の旅人・ローカル(a07080)が囁く。
 そして。

●奇襲
 演奏が、途切れた。
 どこかで、剣呑な空気を感じとったのであろう、鳥たちが一斉に飛び立つ。
 湿った森の空気を裂いて、雷の矢が奔った。
 岩石めいたトロウルの身に、ハジが放ったその矢が突き立つ
 ドゥン――! と巨大な太鼓が打ちならされるような音とともに、炎をともした柱が、宙に5本、出現したのが同時であった。
「全力を、尽します」
 灰緑の・グリュイエール(a28333)が描き出す紋章が、燃え盛る火球を生み出す。
 踊る風・クレイ(a33036)が振るう短剣が巻き起こした衝撃波とともに、それらの攻撃がひとりの吟遊詩人に集中する。
 強敵だからこそ、ひとりひとり確実に倒してゆく――それが、冒険者たちの戦略だった。
「邪魔して――ごめんね!」
 スレイツと、ラズリオの身体が宙へと躍る。
 そのまま、激しい錐もみ状の回転のまま、敵へと突撃する。
 奇襲に態勢を整えられぬまま、ほぼすべての冒険者の攻撃を一身に引き受けたトロウルの吟遊詩人は、ドリアッドの森に大輪の血の花を咲かせ、どう、と倒れる。
 いまわに、手元のリュートをかき鳴らし、ごぼりと血を吐きながら、短くザウスへの祈りを呟いたのが、最期であった。
「やった……!」
 腐葉土の上に着地し、ラズリオは敵を振り返った。攻撃を一点に集中させることで、初手で一人を討ち取ることができたとは幸先のいい出だしだ。
「次は狂戦士を」
 号令をかける。次の標的は巨大剣をもつトロウルのひとり。
 パァアン、と角笛が鳴った。
 生き残った吟遊詩人が、ラズリオへ向けて吹き鳴らした角笛から、七色に輝く衝撃が噴き出す。だが、翻ったダークネスクロークのマントがこれを弾いた。
 悔しげに舌打ちする吟遊詩人の、防具が、めきめきとかたちを変えていくのは、敵の重騎士が彼に加護を与えたようだ。
 護りが堅くなりすぎて長期戦にならなければよいが――、カルマは、そんな懸念をおし殺しつつ、同じく、聖鎧の護りを呼び起こす。後方で待機するかれらの生命線、医術士の白雪・スノー(a43210)へ向けたものだった。
 続いて、雄叫びが戦場となった森を揺るがす。
 狂戦士たちは呼吸を合わせ、立続けに巨大剣をふるった。凄まじい竜巻きが巻き起こり、冒険者たちに襲いかかる!
「……っ」
 予想されたとはいえ、反撃は猛攻だと言わねばならなかった。後方に控えていたスノーを除く全員が、凶嵐にさらされる。
 スレイツは傷をかばいつつ、すこしでも攻撃をそらせるような構えをとる。
 さいわい、まだ倒れたものはいない。
 ラズリオの号令一発、次なる集中攻撃が狂戦士のひとりへ向う。
 ハジの鋭い矢や、クレイの衝撃波が強固そうな金属鎧をすり抜けて命中する一方、グリュイエールは「回復は任せました!」と、後ろのスノーに声を掛け、自身はローカルに鎧聖降臨を施す。回復を任せられたスノーからは癒しの波動が、先の反撃で受けた皆の傷を癒すべくもたらされた。
 スレイツが間合いを詰め、サーベルで鋭く斬り込む。
 正面からの力に任せた攻撃では止められてしまっただろうが、巧みな技を活かした攻撃の連続に、狂戦士は確実に傷ついていく。
 ラズリオは武器に外装を付け加え、強化しつつ、タイミングを測った。
 重騎士が、狙われている狂戦士の防具にも加護を与えたようだが、ハジの矢やクレイの衝撃波のような、防具の厚さを気にしない攻撃がこちらにある以上、それはあがきでしかなかった。
「……」
 カルマはチャクラムを投げて、すこしでも敵を牽制しようとする。
 満身創痍の狂戦士。しかしその後ろで、角笛をもつ吟遊詩人は……
(「なぜ、回復しない……?」)
 ゆらり――、と、血にまみれた手には重いはずの巨大剣を、狂戦士がかかげて――
「気をつけて!」
 カルマの警告。
 それに一瞬、遅れて――
「!」
 轟音が、びりびりと空気を震わす。
「ラズ!」
 名を呼んだのは、スノーだったか。
 巨大剣から凄まじい闘気の爆発が、ラズリオにぶつけられたのだ。トロウルのそれは、負傷しているがゆえにいっそう気迫に充ちていた。
「……ッ」
 たった一撃で、ラズリオの身体を宙に舞わせ、倒れさせるに十分な攻撃だった。かろうじて、屈することのない冒険者の魂が、彼を一度は救いはしたが……トロウルの狂戦士はもうひとりいたのである。
 負傷していないぶん威力は劣るが、さすがにこの第二撃にラズリオが持ちこたえられはしなかった。
 オオォォォォ――……
 高らかな角笛。そして、咆哮のような雄叫び。ザウスをたたえる祈りの言葉が、戦いに揺れる森にこだまする。 

●戦歌
「怯まないで! 最期のあがきに過ぎません!」
 弓を引き絞りながら、ハジが叫んだ。
 もしものときは、号令役を引き継ぐのが手筈だ。弓をアビリティによって強化しつつ、引き続き、狂戦士を叩き続ける。
 グリュイエールから鎧聖降臨を施され、クレイが衝撃波を放つ。吟遊詩人の七色の衝撃も強度を増した防護のおかげでものともしない。
「小癪な」
 重騎士が、はぎしりの間から憤怒の息をもらして、ずい、と前で出る。棘付き鉄球を振り上げたその身から、あやしい触手がざわりと伸びてゆく。
「……醜い、ピルグリムの力など――」
 ローカルの黒い瞳が、ざわめく触手の群れをきっととらえた。
「無意味だということ、存分に思い知らせてあげます」
 襲いかかる触手を、まるで舞うようなステップで、ローカルはかわした。
「近接全周を範囲とする薙ぎ払いの攻撃……それが触手の効果ですか。みなさん、注意して!」
 触手攻撃から退きながら、ローカルのあやつる鋼糸は、あくまでも目下の標的である狂戦士へ向う。 
 ハジからも、鎧さえ貫く矢が射かけられ――
「強敵……、だからこそ、望む形で、終わりにしてあげる!」
 赤い瑪瑙のきらめきが閃く。クレイが短剣をふるうと、起こった何度めかの衝撃波が、とうとう、傷ついた狂戦士に引導を渡した。巨体が、大地に沈む。5人のうち2人を失って、ようやく、トロウルたちの顔に自らの不利を悟ったような色が浮かぶ。
「誇り高き列強種族よ――」
 新たなアビリティの矢をつがえ、ハジは告げた。
「その誇りに応じます」
 戦うことで……。全力で戦うことでしか、それは達せられまい。
「上等!」
 狂戦士の、闘気の爆発をともなう一撃。次にそれを食らったのはスレイツだったが、かろうじて持ちこたえる。立っていさえすれば、後方からスノーの回復が届く。光り輝く聖女のくちづけが、大きなダメージも癒してくれた。
 高らかな角笛の音が響く。
 そして唄われるのは、大神ゼウスへ捧げる戦歌だ。

 大神ザウスよご照覧あれ 
 われら血に染み、荒れ野を往かん
 そはの御旗のはためくところ
 絶えざる歌のある限り
 わが王国は偉大なり

 戦いは、永久に続くかと思われた。
 炸裂する紋章の火球。衝撃波。空を裂く矢。
 交錯する怒号と、仲間同士が掛け合う叱咤と励ましの声。
 そして角笛と、戦歌。

 大神ザウスのご加護あれ 
 泥をすするも、死の谷歩め
 戦友(とも)の墓標の居並ぶところ
 絶えざる歌のある限り
 わが王国は永遠ぞ

 攻撃と、味方からの回復とが繰り返され、一進一退の攻防が続く。
 数の上で圧倒的に不利になったトロウルたちは、いっそうの奮戦を見せ、その様はまさに鬼神のごとくという言葉がふさわしい。
 手負いの獣の反撃の牙が、スレイツをとらえ、その細身の身体を吹き飛ばす。
 ここまで――かな。もんどりうって地面に投げ出されながら、スレイツは、フェイクデスの効果によってその身が仮死状態になっていくのを感じた。意識が閉ざされる寸前、その耳に聞こえてきたのは、やはり、トロウルたちの戦歌だった。
(「戦いの中で死ねるのは、トロウルにとって嬉しいことなのかな」)
 張りを失わないその歌声を聞きながら、スレイツは思った。

「……」
 そして、スレイツが再び目覚めたとき。
 森は、静けさを取り戻していた。
「大丈夫ですか」
 カルマが助け起こしてくれたが、彼女のほうも無傷ではなかった。
 5人のトロウルたちは、ドリアッドの森の草むす大地の上で、骸と化していた。その表情は、どこか満足そうで。
 スノーは、無言で、敵だったものたちの手に、それぞれの武器と楽器を抱かせていく。
「彼らは」
 グリュイエールが呟いた。
「彼らの信念に殉じたのでしょうか」
「ええ、きっと」
 スノーは応えた。そしてそっと目を閉じる。
 グリュイエールも、彼女に倣った。
「お休みなさい、戦士たち。あなたたちの眠りに、安らぎがありますように」
 戦士たちの骸を抱いて、西方の森の空は、ゆっくりと暮れていこうとしていた。


マスター:彼方星一 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2007/01/10
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重傷者:翠影の木漏れ陽・ラズリオ(a26685) 
死亡者:なし
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