<リプレイ>
●解放への思い 木々が、まるで立ちふさがるように行く手を阻む。 パズルのピースのかけ間違いが、やがて大きな狂いを生むことになるとはまだ誰も気が付かなかった。 「……時間が無い、急ごう」 新年早々、厄介な仕事を受け持った事である。魂蔵の劔・シンジュ(a26205)が普段ならあまり持つ事の無い弓を手に、まるで踏み入る者を拒絶する気配を孕む、木々を掻き分け慎重に歩を進める。 「どうにかして村も森も守れないかしら……」 森を焼こうだなんて……凄く低俗な考えかた……。金平糖より零れし光彩・リシャロット(a58790)も同じように木々を掻き分け進む。 確かに……邪魔な物をなくしてしまえば、話は早い。 しかしそれはあまりに乱暴とも言える所業。 「……厄介な奴らは負けた後も厄介な真似し続けやがる。ったく、面倒な奴らだな……」 朽澄楔・ティキ(a02763)は確かめるように己の手にした強弓の弦に触れた。 そう……何もかもが、厄介であった。 「まったく……森を焼き払おうなどと面倒なこと考えてくれやがりますね」 急いでその不逞の輩を排除しなければ……。 黒閃・シズマ(a25239)もなるべく気配を殺すように身を屈め先を急ぐ。 目指すは霊査士の示したドリアッドの村。
「皆さん頑張って来て下さいです!」 矢文が来るのを待ってるです。白の踊り子・チェリー(a34900)が笑顔で偵察を志願した面々を送り出した。 「……たく、やってくれるぜトロウルのクソッタレが」 魔哭・ディーン(a42160)が吐き捨てるように、毒づく。 この戦い決して負けるわけにいかない。 「森を燃やすなんて……そんなこと、絶対にさせませんわ!」 緋蝶・オウリ(a51687)も憤然と憤りを隠せない。 「正々堂々が専売特許だった割には姑息で汚ない真似をするようだぜ」 負けて最強種族のプライドも捨てちまったか……蒼雷剣士・タイガ(a53003)が誰ともなしに呟く。 好敵手として多少なりとも尊敬するところもあったが、最早その価値も無い。 これで……終わる事ができるのだろうか。 「……皆さんで、一緒に帰りましょう……」 護りの天使・メイリィ(a90026)がやや緊張した面持ちで待機する仲間を見回した。
●迷いの森 「いたか……?」 先方隊が村に辿り着いたとき、まさにトロウル達が村の奥に広がる森に向かう所であった。 村の其処此処に破壊の跡が遠目にも確認できた。 「トロウルが……!」 シンジュが指し示す先に 樽を肩に担ぎ上げ森の奥へと向かう姿が見えた。 「いかす訳にはっ……!」 シズマが歯をかみ締め、剣に手をかける。 「早く……!」 ティキが早く来てくれ……と思いを念じ仲間の待機している方角へと打ち出した。
早く……一刻も早く……奴らに追いつかなければならない。 後続の待機していたメンバーの合流後、一向はトロウル達が向かった森の奥へ駆けるように向かう。 巨体のトロウルが踏み入った……その跡を見つけることは容易いように見えて、難しかった。 一行の前に立ちふさがったのは、今は葉の落ちた物言わぬ木々であった。 シンと静まり返った森の中、まるで纏わりつくように枝が着衣の裾に絡みつき、さらに前進を拒む。 森は広く……探すことをさらに困難なものに変えている。 「くそっ」 偵察にでた誰ともなしに、舌打ちが響く。 霊査士に示された地図の付近…………其処は、深い木々が生い茂る森であった。 まるで、森が意識を持つかのように意図的に行く手を阻んでいるとしか思えなかった。 気配を殺して、できるだけ先んじてトロウル達を補足し……状況を判断する。 それは今のままでは到底無理な話であった。 大きな誤算。 ドリアッドの居住区の近くはそれでなくても他の種族は正しい道を見失い、道に迷いやすい…… 幾度と無く同じ場所をぐるぐると宛も無く彷徨っている、そんな錯覚に陥る。 いや、それは錯覚ではなかったのかもしれない。 自分達が現在何処にいるのかさえもあいまいになり……行く先は等に見失っていた。 「このままで終わるのか!?」 奴らに追いつくことなく。 森が焼かれるのを指を咥えてみているしかないのか……!? 何か手は無いのか……迷いの森の前に冒険者達は途方にくれていた。 「俺たちは……救いに来たのに……」 何故、その救いを拒絶する。 行き様のない憤りが更なる焦りを生む。森は、敵味方、隔てなくその行く手を遮っていた。 早く……早くしなければ……… 森を行く面々に絶望の色がチラリと垣間見えた。
●遅すぎた到達 「あ………」 最初に気が付いたのはオウリ。 黒々とした黒煙が、朦々と立ち上っていた。 上がる煙、油と生木の燃える独得の匂いに眉をしかめる。 「間に合わなかったのか!」 タイガが弾かれた様に、黒煙の立ち上がる方向へと走り出す。 「急ぐぞ……」 グランスティードに騎乗したディーンも覆いかぶさるように遮る、枝木を折り飛ばしながら黒煙の方向へと急いだ。 できれば火がつけられる前に、奴らを如何にかしたかったが……全ては後の祭りである。
「は……同盟の皆々様のご到着ってか」 ニタリと唇を吊り上げ笑う。 「随分おそかったじゃねぇか」 何処で道草食ってたんだ? 「ひょっとして、道に迷ってたとかいわねぇよなぁ?」 奪いとった油をぶちまけ。枯葉と枯れ木かき集め炎起こす。 冬の乾いた空気の中で、それは大して労力を必要としない作業であった。 燃え上がる炎は、全てを嘗め尽くそうとチラチラと舌を伸ばしていた。全てをその場にある全ての物を焼き尽くすように…… 「丁度いい、お前らも丸焼けにしてやるよ」 ひゃはははは! 耳障りな笑い声をあげてトロウル達が其々に武器を持つ。 燃え上がる炎の様に彼らの闘争本能に火が灯る。血を求め、力を振るい、迫る争いの予感にある種の恍惚感に酔いしれていた。 此処で果ててもそれはそれで彼らの本望であろう、命を張った戦いの舞台。 「酷い!」 「なんていうことを!!」 周囲の木々は折倒され、その怪力を思う様に見せ付ける。 あまりにも横暴な所業に、怒りばかりが先走り、思わず叫び声をあげた。 「行きます!!」 援護をお願いします。我が身を省みずシズマが中衛牙狩人と思しき弓を構えたトロウルに切りかかる。 「無駄だ無駄無駄!」 それを遮るように、剣を持った巨体が立ちふさがる。 「邪魔です!」 とっさにはなった衝撃波が重い鎧に身を固めたトロウルと周囲をなぎ払う。 「……ちっとも感じねぇなぁ……」 粗雑に大剣を振るう。風圧だけで、炎の一部が裂けた。 「我が刃に……斬れぬもの無し!!」 「甘いな!」 衝撃波を紙一重で交わし鋭い逆とげの生えた矢を次々に放ってくる。 「これでも……」 喰らえ! シンジュが弓を引き絞り雨の様に矢を番える。 だが、トロウル達は針のように刺さる矢を微塵も感じぬ風に攻撃を仕掛けてくる。 それは猛攻と呼ぶにふさわしい。 「メイリィさん! 回復を切らさないように……」 お願いしますですよぅ! 「はいですの」 チェリーに言われるまでも無く必死の形相でメイリィが癒しの波動を絶え間なく発動させる。 「それがどうした!」 降り注ぐ矢が回復能力を奪う。 煙が喉を焼き、炎がその身を焦がす。 「ごめんなさい……ですわ」 力押しで……相手の尋常でない回復能力を上回るダメージを与えなければ…… 「ちぃ!」 獅子、山羊、蛇の頭部を持つ黒い炎がディーンを舐め尽す。チェリーの癒しの力を秘めた心地良い風を受けてもその激しい出血は止まらなかった。 「お前達に鎮魂の薔薇は似合わないがあえてこの技で引導を渡してやる」 せめて……一体でも! タイガが渾身の力を込めて連激を繰り出す。 「きゃぁっ」 雄叫びと共に繰り出される突進をまともに受けてメイリィが吹き飛ばされる。 地をぬらす鮮血。 「メイリィさん!?」 今は、他の者を気遣う余裕などなかった。癒しが届かない。それすら口惜しい。 「きゃうっ!」 回復を担当する者を狙うのは敵も見方も同じ事。チェリーの足にも深々と矢が突き刺さっていた。 鋭い逆とげの生えた矢は回復を阻害する。 「これでもくらっとけ!」 無造作で重い一撃がシンジュとディーンを襲う。 真紅の炎に照らし出された、トロウルから生えた触手がさらに此方からの攻撃を瞬時に癒す。 「ここまでなのか……」 負った痛みに耐えギリッと奥歯をかみ締める。 目の前の4体のトロウル達。其々につれたタイラントピラーが一層不気味さを醸し出している。 それは、正に悪鬼のような姿であった。
●撤退 「俺は……まだ戦える!」 タイガが血を吐くような叫びを上げる。一矢も報いぬままに…… 「わたくしも……まだいけますわ」 「駄目です……このままでは……」 全員が命を落としかねない。 地に伏したメイリィ、ディーンは既にピクリと動かない。 無理をして体を起こしているが……オウリ自信も深い傷を負っていた。 「こんなところで……終わるのか……」 俺たちは負けたのか…… 「再戦の時は、きっと来ます」 今は、全員で生きて変えることが重要です。 リシャロットがその手を押さえる。 「今は……」 耐えましょう……言葉を搾り出すように……そう告げた。
「ふはははは……」 「焼き尽くせ、すべてやいちまえ!!」 「燃えろ、全て……燃えてしまえ!」 「俺たちはまだ負けていないぜ!」 うぞうぞと体から生える触手が蠢き、炎を背にしたトロウル達が吼え猛る。 狂乱の騒ぎ。
炎と戦いの興奮に酔いしれるようなトロウル達の声が響く。 その声を背に、冒険者達は撤退を強いられた。 一抹のやるせなさと、一時の悔しさと堪えきれない無力感を胸に………。
炎は運良く、村の周囲を焦がすにとどまったが、勝利と、血と、戦いに酔ったトロウル達の嬌声は暫く冒険者の脳裏から消える事はなかった。

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参加者:8人
作成日:2007/01/09
得票数:冒険活劇1
戦闘1
ダーク19
コメディ5
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冒険結果:失敗…
重傷者:護りの天使・メイリィ(a90026)(NPC)
昼梟の劔・シンジュ(a26205)
吼狼・ディーン(a42160)
黒椿・オウリ(a51687)
死亡者:なし
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