<リプレイ>
●老木の枝 「皆さんこちらです。はぐれないように気をつけて」 「離れたら迷子なのなぁ〜ん」 翠玉の残光・カイン(a07393)の先導の下、一団となって深い森の中を進む冒険者たち。 依頼の際に示された区域は西方ドリアッドの結界の影響下。彼というドリアッドの案内がなければ冒険者たちも、春風そよめく舞蝶円舞曲・ミア(a41826)の言葉通りに森の中を迷いながら敵を求めていたことだろう。 仮定の話はともかく、おおまかな目的地付近にまで辿り着いた彼らは、よりいっそう注意深く森の中を進んでゆく。冬だというのに深い森のこと、邪魔な枝を払ったら敵とばったり、などという事がないとも限らないのだ。 轟音・ザスバ(a19785)の提案通り、少しづつ移動しては停止し周辺の気配や物音の確認……という一連の行動を繰り返し、トロウルたちへの奇襲を念頭に置いてゆっくりと進んでゆく。 「……おし、進むか」 「ちょっと待ってください」 「ストップ爺さん」 誰が爺さんか、と牙の隙間から漏らしつつ、カインの制止と親愛なる隣りの魔王・マオーガー(a17833)の言葉とで進めかけた足をぴたりと止めるザスバ。 呼び止めた側らはと言えば、地に膝をついて足下に落ちていた木の折れ枝を拾い上げ、その折れ口を眺めすがめつ観察していた。うん、と一つ頷いて立ち上がる森の案内人。 「これは、折られてからほとんど時間が経っていませんね」 少し周囲を見回して、その枝が付いていたらしき大元の樹を見つけ出す。冒険者たちの身長よりもずいぶんと高い位置にあるその傷も、当然ながら真新しい。 なるべく音を立てないように注意深く移動を続けていた彼らのこと、うっかり折ったりしていれば誰かが気づいて注意を促していただろう。であれば、彼らではない何者かの仕業である。 「何か大型動物によるものという可能性はないんですか?」 「……それらしき痕跡はないね」 周囲の様子を注意深く窺いながらの孤独を映す鏡・シルク(a50758)の問いに、近辺に目をやってから殲姫・アリシア(a13284)がぽつりと答えた。 冬眠から覚めた熊などが出歩いていればそれなりの痕も残る。それが見あたらないということは、そこには別の理由があるのだ。ほどなくそれがミアの目に止まる。 「足跡なぁ〜ん……追えるかなぁ〜ん?」 「はいはい、任せておいて」 低い姿勢で足跡を調べるマオーガー。掃討側の冒険者たちも注意深く移動しているが、トロウルたちもある程度は注意して移動しているらしい。四人で行動している割には痕跡は小さいものであった。 それでも、折れた木の枝をそのままにしていた事などからも解るとおりに詰めは甘い。近づく決戦の時を前に、いよいよ冒険者たちが本格的に追跡を開始する。 トロウルたちが引き返そうとしない限りは、彼らの背後を取れたと言って良いだろう。理想は奇襲。あとはどれだけ気づかれないように素早く追いつくかがポイントだ。 先を急ぐ冒険者たち。金属製装備に布を咬ませるなど防音に心を砕いた彼らの行軍は、その速度に比すれば非常に静かなものであった。
●大木の幹 深い森の中、腰を下ろして休息を取る異形のトロウルたち。歩哨として立つのは一名。葉擦れの音がするたびに意識をそちらに向けて警戒を強める。敵であれば迎え撃たねばなるまいし、獣であればわずかながらも飢えを満たすのに役立つだろう。 腰を下ろしている三名も、ろくに睡眠など取れたものではないが、いつでも立ち上がって動けるようにしながら少しでも効率よく体力の回復ができるようにじっとしていた。いざ戦となれば極限を求められる。この少しが馬鹿にならないのだ。 「結界というのは全く厄介なモンですな」 身じろぎもせず薄く目を開けたまま、中央に陣取っているトロウルがぽつりと呟いた。彼らの内で一番軽装ながら消耗は最も激しいようだ。 忌々しく思っているのは皆同じなのだろう、ふーっ、と息を強めに吐くだけで同意を示す周囲のトロウルたち。負け戦とて戦、それを忌避するわけではないが、敵の見えぬまま彷徨う現状は彼らにとってあまりに酷だ。 いくら体力に自信のあるトロウルでも限界はある。このままでは飢えと衰弱で倒れる者も出るだろう。それは彼らにとって耐えられない屈辱であり不幸である。せめて敵が目の前に出てきてくれれば――そう考えた瞬間、視界の端で黒い火がちらりと灯る。 「――敵襲! 応戦!」 歩哨による警告の言葉と、敵による奇襲攻撃の炸裂はほぼ同時であった。宙を舞い突っ込んできた銀髪のストライダーに、前衛の鎧がぱくりと切り裂かれる。傷口を襲う痛みと共に瞳が喜悦に燃え、口の端が吊り上がる。 そう、敵が目の前に出てきてくれれば、捕らえて出口を吐かせる事もできるだろう。 千々に散った他の面々はどうだか知らないが、彼らは決して死地を求めない。なにしろ、死んでしまってはそれ以上戦えないではないか。 真っ先に突っ込んできたストライダーを集中して仕留めようとして、続けて飛び出してきた同盟の冒険者たちを迎え撃つために諦める。彼我の数差は倍。だがトロウルたちに悲壮感はない。 さあ、楽しい楽しい戦闘の始まりだ。
冒険者たちが追いついたとき、トロウルたちはちょうど休息中であった。 見張り役が一名いたが、そいつだけを分断するにはやや近すぎる。うかつに動けば気づかれる危険性が高かったため、冒険者たちは即座に奇襲を仕掛けたのである。 鎧聖降臨、黒炎覚醒といった戦闘前準備とほぼ同時に、左右に怒鳴瑠奴・ウィルダント(a26840)とマオーガーを従えたシルクが敵に向けて文字通りに突っ込んだ。 「マキシマムに行くぜ……!」 「戦いに来たんよ、うんっ」 「さあ、迷子の迷子のトロウルさん、わたしが倒してさしあげよう!」 実際に攻撃を仕掛けたのはシルクだけであったが、彼に攻撃を集中させないための牽制にはなる。二人それぞれその場で全身から黒炎を噴き上げた。 位置関係の都合で、いかにも術士然とした敵には届かなかったが、敵に決して浅くない傷を負わせることに成功する。体勢を崩した前衛の脇を抜け、ミアの放つ稲妻の矢が後衛を狙ったが、これはわずかに標的を逸れる。 一歩遅れて、真紅槍姫・シズキ(a41815)がザスバと二人で前に出た。仲間たちの防御強化を終え、あとは彼ら自身の守りを強化すれば戦闘に際しての備えは万全となる。 「いざ、参りましょう!」 「応よ! ゲァハッハッハァ!」 己の守りを強化して、向かってきた敵前衛と打ち合う。得物はどちらも片刃の曲刀。厚みと切れ味に大きな差こそあれ、どちらも致命をもたらすことに大差はない。 が、それは敵の武器も同じことだ。巨大剣といっても差し支えないような片手剣、重厚感のある長大な六角棒、胴を両断できるだけの刃渡りを持つ大斧。限界近くまで闘気を込めたそれらの一撃は、打ち合うだけでその身を切り裂く余波を生じさせる。 腕を肩脚を胴体を、それらの恐るべき金属どもが掠めては深々と抉ってゆく。突いた刀で頬肉が抉れる。互いに踏み込みすぎて柄と柄が鈍い音を立てる。鋼の糸が骨で止まる。深紅の肩当てが砕けた弾け飛ぶ。
双方の後衛から、癒しの波動が飛ぶ。 同盟側からはさらに稲妻の矢や木の葉の嵐も放たれている。一方でトロウル側はピルグリムとしての能力であろうか、異常なまでの治癒力が見られていた。 「……それじゃ、予定通りに」 戦端が開かれてわずか数十秒、それだけで激戦と言って良い戦況の中で、アリシアの合図が仲間たちへと伝わってゆく。それによって真っ先に前衛二名が突っかける。 「さぁて、ここは一つ、力比べと洒落込もうや!」 ザスバが愛用の蛮刀の背に手を当てて、六角棒使いのトロウルに真っ向からの鍔迫り合いを迫る。 「貴方のお相手はわたくしがいたします!」 大斧を振り回すトロウルの猛攻を盾で抑え込みながら、前へ前へと突っ込んでゆくシズキ。 冒険者としての技量はともかく、ピルグリムとの融合、そしてタイラントピラーという召喚獣の存在で、生命力にはるかに勝るトロウルたちを相手に、彼らの一騎打ちじみた攻勢は決して割の良い勝負ではない。 だが一撃で、あるいは数合打ち合っただけで敗れ去るほどの実力差があるわけでもない。そこがつけ目である。 「一斉攻撃!」 カインの合図で、シルク、マオーガー、ウィルダントを合わせた四人が一斉に片手剣のトロウルへと攻撃を仕掛ける。 鋼糸をなびかせた突撃はなんとか防ぐも、左右から同時に繰り出された蹴りが太い首にまともに叩き込まれた。よろけるその身に特大の黒い炎が浴びせ掛けられる。 「――!」 集中攻撃による各個撃破という同盟側の作戦を悟った後衛のトロウルが、癒しの波動を放ちつつ前衛に警告を発する。片手剣使いをフォローしておくんなさい、と。 が、それをさせじと奮闘する狂戦士と重戦士。策に猪口才なと不快感を示すトロウルたちの猛攻を、その身一つでしのぎきる。 頭部や胸部への直撃であわや戦闘不能という程に追い込まれる事もあったが、その都度、誰かしらの回復によって事なきを得ている。 が、誰かしら、というのが不自然といえば不自然であった。回復専業の者が行っているのであれば不思議ではないが、集中攻撃で一刻も早く敵の頭数を減らそうとしている者の行動ではない。周囲の状況に気を配っている。 何のために……と後衛で癒しを担当するトロウルがそこまでに考え至る前に、続けざまにミアから放たれた矢がその思考を切り替えさせた。意識を戦闘に集中させ、身をかわす。 その瞬間、そこまでじっと機を窺っていたアリシアが強烈な突風を放った。集中攻撃を受け、バランスを崩していた片手剣持ちのトロウルを圧し飛ばし、その戦列を崩させる。 待っていましたとばかりにそれを追いかける前衛三人。目標は先ほどまでの相手ではなく、前衛に指示を出し、癒しを一手に担っていた後衛のトロウル。 「回復手をまず殺さないと、ね」 アリシアの声。状況を把握した左右の前衛トロウルたちが慌てて踵を返す。ザスバにもシズキにもすかさず追撃を仕掛けるほどの余裕はなかったが、後衛の直衛に戻ろうとする彼らの眼前に、爆発の矢と黒い炎が降り注ぐ。 後衛とてピルグリムの力を得たトロウル。ひ弱と言う言葉からはほど遠い生命力は持っていたが、それでも、屈強な前衛による集中攻撃を耐えるにはあまりに軽装過ぎた。 無数の裂傷と打撲傷、火炎・雷撃を受けて倒れる後衛トロウル。ほんの一歩遅く、そこで合流する前衛トロウル三体。
回復役は潰したが、それでもまだ決して楽な戦況ではない。……が、回復アビリティにはまだ余裕がある。 同盟側も足止めを務めた二人が合流し、戦闘はいよいよ激戦の度合いを深めてゆく――。
●若木の根 前衛が数名、戦闘不能にこそ追い込まれたものの、掃討戦は同盟側の勝利に終わった。 敗色濃厚となった際「俺はまだ戦いたい」と血路を開こうとしたトロウルもいたが、その戦いぶりは敬意を以て見るべきものであった。 カインの提案で、若木の下に、トロウルたちの遺骸を埋める。 「せめて、強き力と不屈の意志を受け継ぐ、強い大樹に成長するように」 「……幾ら殺したって、亡くなった人は戻っては来ない……」 「何にせよ、二度とここら辺一帯に、そしてオレ達にも関わらないでくれると有難いんだがな」 戦闘を終え、トロウルたちに対する反応は様々。大戦を終え、こうして掃討を終え、残るトロウルは果たしていかほどの数であろうか。 それぞれの心の中で思うところを胸に秘め、冒険者たちはその場を後にするのであった。

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参加者:8人
作成日:2007/01/09
得票数:冒険活劇1
戦闘20
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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