あった会 〜ぽかぽかスープの会〜



<オープニング>


●事の始まり
 冬――それは試される季節。人々は、降り頻る雪や凍えるような雨に耐え、ありとあらゆる手段を講じて春を待ち続ける。例えば服を何枚も重ねたり、マフラーや手袋をしたりして寒さに対抗するのだ。
 しかし、外を包むだけでは防ぎ切れない寒さもあり――。
「ふぇっ……くしゅ!」
 同時にくしゃみをした二人の霊査士は、ぶるりと身震いをしてお互いの顔を見遣った。
「……リーゼ、今日はいちだんと寒いね」
「ででですね、リィさん。ほ、ほんとにみ、身を切るようなと言いますか……!」
 酒場の一角、ブランケットを肩から被った黒髪の霊査士と、寒そうな服で肩を抱く金髪の霊査士。二人してぶるぶると震える様は、見ているだけで寒々しい。
「どうにかな、ならないでしょうか……?」
「うーん、って唇が真っ青だよ、平気?」
 金髪の霊査士は、平気ですと答えて、もう一度盛大なくしゃみをした。上着を変えるとかすれば良いんじゃないかと聞いてはいけない。なんというか、色々事情があるのだ。色々。
「うぅ、もっとこう、人が沢山集まれば多少マシなんですけど」
「あ、それ思う。で、みんなで暖かいものでも囲んだら、大分暖かいだろうね……」
 僅かな空白。俯向きがちだった二人が、同時にがばっと顔を上げた。
「それだ!」「それです!」
 かくして、寒がり霊査士二人による『みんなであったかくなろう会』、略して『あった会』が発足したのだった。

●ぽかぽかスープの会
「という事で私、一念発起しました。料理ぐらい無傷で作れるようになろうと!」
 九転十起の霊査士・リーゼッテ(a90308)は、右手で固く拳を作りながら宣言した。が、完髪入れずに鼠ストライダーが柔らかくツッコミを入れる。
「うん、心がけは凄ぇ良いと思うぜ。ただ、その右手に新しい包帯が見えんのは、気の所為?」
「うっ」
 ちらり、と昨日巻いた包帯に視線を遣った後、霊査士は気まずそうにゆっくり手を下ろした。
「こ、これはお鍋を……」
「引っくり返した訳だ。ま、それは誰かに手伝って貰えば良いとして、なんだっけ、その」
 あった会です、と霊査士が答える。
「それ。みんな集めるんだろ?」
「はいっ、今回はスープを各々持ち寄って、みんなで食べましょう、と言う主旨で」
 メイン会場は酒場。調理場は借りているので、温め直したり、ちょっと何かを追加したりも出来る。持ち寄りとは言ったものの、材料を自分で調達して来るのなら、その場で作ってもいいらしい。入場資格は『スープ、及びその材料を持ってくる事』それさえ守れば――余程食べられそうに無いものを持ってこない限り、誰でも参加可能だ。
「こんな寒い時期に戦いに赴く皆さんも大変でしょう。偶には、仲間達と暖かいものを囲んでもいいんじゃないかな、と」
「賛成。どんなスープがお披露目されるか、楽しみだな?」
 そして酒場には一枚のチラシが張り出される。
 『あった会・ぽかぽかスープの会へのご案内』――。

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参加者
NPC:九転十起の霊査士・リーゼッテ(a90308)



<リプレイ>

●寒い日は
 酒場の外は、強い寒風が吹いていた。空は薄灰色で塗り潰され、今日は寒いぞと主張するかのようだ。
 しかし対極的に、酒場の中は、アツかった。
「あ、皆さん遥々お疲れ様です。スープの会はこちらですよー」
 九転十起の霊査士・リーゼッテ(a90308)は、手に手に鍋や野菜を携えた冒険者達を、笑顔で迎えた。借り切った酒場の一角は、既に椅子、テーブル共に整えられている。早めに来て準備をしていたらしい。全員が集まったことを確認すると、霊査士は冒険者達に深々と礼をした。
「あった会へようこそ。今日は存分に暖まっていって下さいね」
 そして簡単に開会の挨拶が述べられた後、一同は台所へと案内された。

 リョウトは、持ってきた鍋を竈の上に置いた。その中には故郷である楓華の味、味噌汁が入っている筈である。前日から下ごしらえ、出汁取りと念入りな準備をしてきた為、温め直せばすぐに完成だ。
 火を入れ、玉杓子で軽くかき混ぜれば、楓華独特の味噌の香りがふわりと広がる。具も豊富に用意してあり、白菜に人参などの野菜で彩りよく、豚肉も入ってボリュームばっちり――
(「俺、何作ってたんだっけ……?」)
 味噌汁の筈が、目の前にある完成品はどう見ても豚汁だった。暫し無言でそれを見つめた後、食べ応えはあるし良いか、と納得する。
 また、鍋を二つ並べて作業しているのはカイン。片方は実に良い香りのするきのこスープだが、もう片方は何かあまり一般的ではない材料が入っている。桃色の短い糸蒟蒻のような、釣りのエサにもなるアレだ。
「あの、入場の時も言いましたけど、これギリギリですからね」
「あぁ、分かってる。けど、結構いけるんだぜ、これ。なあ」
 霊査士に念を押され、カインは同意を求めるようにグランスティードを見遣ったが、首を傾げられた。そっぽを向かれるより空しい気もしつつ、火を調節し味を調える。
「えーっとまず鍋に……」
 レムは、びっしりとレシピの書かれた紙を片手に奮闘中だった。真剣な眼差しで手順を確認しながら、丁寧に作っていく。
「塩で味を調え……ハッこれは砂糖!?」
 ――と、危ない所もあったが、無事に完成した渾身の卵スープは、美味しそうな湯気を立てていた。安堵するレムの視界を、見覚えのある人が過ぎる。声をかけると、我等皆家族・マカロン(a90333)は相も変わらぬ能天気な顔で振り返った。声の主が知人であることに気が付き、嬉しそうに破顔して寄って来る。
「よ、レム。参加してたのか。それ、レムが?」
「えぇ、味見してみますか? 残念ながらチーズは入っていませんが」
 それは幸いだと冗談めいた口調で答えて、マカロンはスープを受け取った。一口飲んでから、口元を緩める。
「うん、こういう素朴な味、俺かなり好きかも。美味いよ」
 単純な料理だからこそ美味しく作るのは難しいから、実はレムは料理上手なんだと思う、と言ってマカロンは笑った。
 タムは、マスターに丁寧な断りを入れてから竈に向かう。早速、水を入れた鍋を火にかけ、用意してきた鳥つみれや生姜を投入した。塩胡椒を振り、沸騰したら春雨等を入れ、材料が煮込まれてきた所で一度味見する。
「ん〜、味はこんなもんかなぁん」
 やや塩味強め、でも卵が入れば味は優しく。溶いた卵白を鍋に流し、糸のように固まれば、それが火を消す合図だ。仕上げに片栗粉でとろみをつけ、生姜風味の鳥つみれスープが完成した。上々の出来に顔を綻ばせていると、丁度マカロンが目の前を通る。
「あ、久し振りなぁん! 今作ったコレ良かったら味見するかなぁん?」
 そう声をかければ、マカロンは足を止めて興味深げに鍋を覗き込んだ。
「あぁ久し振り、タム。……いいの? かなり美味しそうなんだけど」
 勿論、と差し出されたスープを有り難く受け取り、口をつける。驚いた後に笑顔になったマカロンは、大げさとも思える程の賛辞を送り、ちょっと尊敬する、とまで付け足した。
 ジオグローブが調理を進めるスープ鍋からは、香辛料の良い香りが立ち上っていた。大きめに切った材料にベーコンと、暖かさと満腹感を得られるボリューム満点のスープだ。一区切り付けた所で、ジオグローブはちらりとある一方へ視線を向けた。
(「……あれ、大丈夫かな」)
 そこには、あぁ眼鏡が曇った! と慌てている霊査士の姿がある。他にも何人かが心配そうな視線を遣っているし、さり気なくフォローに回っている人も居たが、それでも何かをやらかしそうなのが凄い所だ。火を落とし、何かあればすぐに動けるように用意しておこうと準備する。
 そしてその霊査士は、今まさに鍋をひっくり返さんとしていた。横を向いた瞬間に、持ったままの玉杓子が鍋の淵に引っかかる。あわや惨事かという寸前、カーツェットの手が取っ手を掴み、事なきを得た。ほっと息を吐くカーツェットに、(覗きに来ているだけだと思っている)霊査士は問いかける。
「ところで、カーツェットさんはもう作っちゃったんですか?」
「あぁ、まぁそんな所だ。……ところで後ろ、鍋が噴火しとるが」
「えっ。き、きゃー!?」
 最早何が原因やら、鍋から水柱が上がっていた。混乱する霊査士の代わりに火を消し、被害を確認する。少し吹き零れているが、やり直す程でも無いようだ。
「ごごごめんなさいっ! 何でこんな事に……」
 きっと誰にも分からないだろう。苦笑しつつ、カーツェットは塩の瓶を小さな容器に摩り替えた。直後、霊査士が容器ごと鍋に落としたので、判断は正しかったと言える。
 ニューラの作るブイヤベースは本格派だ。玉葱とにんにくをじっくりと炒め、リキュールの一種、ドライベルモットで煮詰める。そこにジャガイモや香草、荒塩を入れて水を加え、旬の白身魚等の魚介類をたっぷりと入れれば、完成まであと一息。サフランを入れて味を確かめる。
「……うん、これぐらいかな」
 味に自信が持てた所で火を落とす。辺りには、海の幸の芳醇な香りが広がっていった。
 干し肉と干し魚の冬野菜スープを作っているのはガルスタ。デザートなら慣れているのだが、と独りごちながらも、料理する手つきは決して危なくない。一人暮らしの時もあったからか、愛する妻の料理を手伝ったりもしていたからか。とにかく順調に調理は進む。
「火の通り具合は……良さそうだな」
 最後に香辛料を足して味を調整すれば、見た目の派手さは無いものの、野菜の白と緑の対比が美しいスープが出来上がった。
 フェンの作るスープを一言で表すならば、『豪快』という言葉がしっくりくるのだろう。じゃがいもや人参などの具が丸々、コンソメスープの中で煮込まれている。簡単で手早く出来そうに見えるが、ちゃんと火を通そうとすると、意外に時間がかかった。煮ている内に小腹が空いたりして、つい何度も味見、している内に――
「……は! しまった、味見しすぎたぁ……」
 中身が予定より幾らか減ってしまっていた。が、量はまだたっぷりに見える。なかなか恐ろしいスープだった。
 ほのぼのとしたネーミングに惹かれて参加したあった会で、シーアスは霊査士の手伝いをしていた。持ってきたトマトスープは、直前に温めれば良いようにしている。
「鍋、二つに分けましょうか」
「は、はい……。このままだと、味を薄め切れませんものね」
 新しい鍋を取ったりと作業をしながらも、シーアスは霊査士から目を離さない。何も無いのにバランスを崩したり、何か憑いてるのかと思うほど物にぶつかるからだ。参加前、なんとなく不安になった自分の勘は正しかったとシーアスは思う。
「ふぅ、これで一応完成……あ痛っ!」
 本当に気が抜けないと思うシーアスの横で、霊査士はテーブルの角で足の小指をぶつけていた。

●みんなでスープ
 それぞのスープが出来上がり、会場に運び込まれると、辺りには美味しそうな匂いが充満した。最後に、霊査士の豆スープの鍋二つが、ニューラやフェンによって運び込まれた。
 そして揃って食前の挨拶をした後は皆、それぞれ思い思いにあった会を楽しむ。
「まぁ、美味しそうな匂いがしますわね……ところで、何故二つに?」
 ウィスにそう問われた霊査士は、塩を入れすぎたので分けて薄めたと正直に白状した。
「で、でも! 美味しく出来てます、よね?」
 話を振られたカーツェットは、悪かないんじゃないかねと無難にはぐらかした。多分、誰も手伝わなかったらこのスープは存在しなかっただろうなと思いつつ。
 カインのきのこスープは好評だったが、やっぱりもう片方に挑戦しようという人は現れなかった。いけるんだけどなぁという呟きは、賑やかな会場に消えていく。
「まぁ、ポーチドエッグが絶妙な半熟具合ですわ〜」
「レムさんの卵スープも、丁寧に作られた味がしますね」
 シーアスとレムは、互いのスープを一皿分ずつ交換し、口々に感想を述べ合っていた。体だけでなく心まで暖かくなるような気がして、自然、二人の表情は笑顔になる。また、違う方でも
「お、おぉ! 凄く美味いなぁ〜ん!」
「生姜の爽やかな風味が良いですね。本当に暖まります」
 同じように、タムとニューラがスープを交換していた。時には依頼の為に殺伐とした心になる時もあるけれど、こうやって大勢で食べ物を囲めば、心は和んでいく。
「わ、美味しそうですね。これが味噌汁ですか」
「はい。……豚汁になってますけど。一つ如何ですか」
 リョウトに勧められて、霊査士は嬉しそうに礼を言った。ほんのり甘く、思わずほっとするような味に笑みが零れる。
(「うむ、まぁ、上出来だな」)
 ガルスタは、自作のスープにパンを添えて頂きながら思った。久しぶりにこういう料理をしてみれば、妻の苦労も改めて知る思い。
 ジオグローブは、持参したティーポットから全員にお茶を配っている。そして霊査士はやっぱり詰まらせていた。お茶を出され、毎回すいませんと霊査士は頭を下げる。
 フェンは自分のスープも勧めたりしつつ、他の人のスープも存分に堪能した。
(「楽しみにしてた甲斐はあったなぁ」)
 暖かなスープと、暖かな笑顔の溢れるあった会は、まだ続いていく――。


マスター:河流ロッカー 紹介ページ
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