<リプレイ>
●対峙 枯れの砂色と常緑樹の深緑に、斑覆われた森を行く。 何処かのせせらぎからは、流れ行く氷が割れる音が聞こえる。
淡き翠の花・リアンシェ(a22889)の導きを得、結界の森を進む冒険者達。白い肌にも緑鱗にも違わず照り返しを防ぐ泥が塗られ、巻き布で音を抑えた装備の上からは冬枯れの色に紛わせた外套を纏っている。 戦争に関わるのは、好きではない。 刃の歌い手・シリオン(a45976)のそんな葛藤は、それでもやはり他人任せにばかりは出来ないという決意に治められる。野営、或いは移動の跡――敵が残しているであろう痕跡を求め、些か長い錆色の前髪の下から覗く赤い瞳が、進む先の視界を具に検めた。殿を行くは、蒼天の守護者・ツカサ(a30890)と、流水の道標・グラースプ(a13405)。彼らは踏み拉かれた枝を道の端に遣り、柔らかな土に残る足跡を均し、進軍の痕跡を可能な限り紛らわしながら進む。
「あのトロウルが、こうも無残に……」 紫眼の緑鱗・ボルチュ(a47504)は小さく呟く。庇を施した遠眼鏡越しに見遣るものは、四人のピルグリムトロウル達。そも身を隠す腹もなく唯敵を求め、ドリアッドの道案内もなく結界の森を彷徨う姿には疲労も浅くない。リアンシェは敵の行く先に回り込む道へと一同を誘う。 「お相手、致しましょう」 グラースプは邪竜の黒炎を纏い、黒紋の灰虎・カラベルク(a03076)が巨大な剣の柄を握れば、ツカサは自らの革鎧に心力を注ぎ、更に堅固に変える。蛍石の護り手・シーマリネィア(a39304)も全身を覆う重厚な鎧を変質させ、節々の金属音を取り払った。 (「トロウルの残党」) 彩雲追月・ユーセシル(a38825)の深い蒼眼が、幾重の木立の向こうを行く四姿に細められる。彼の種族の生き方と行く末は危険だと思うし、現実に敵だ。彼はそう考える。そして霊査士の言葉を思い出して『断ち切ろう』と一言告げると、夜河の歌唄い・ステュクス(a46875)と共に黒炎を纏った。シリオンは槍を、ボルチュは剣を手に取る。 「こっちですも」 リアンシェの指が示す先、木々の合間を抜け敵の前へ。 戦の一族と相対する。
敵前衛をこじ開け、何より先に回復の要たる紋章術士を落とす―― 作戦に基き、グラースプが喚ぶ幻の木葉と共に、敵重騎士に掴み掛かるカラベルク。併しそれらの攻撃で敵を後方へ押し遣る事は叶わない。一手遅れたトロウル達も、武器を手に取った。 「おぉ……敵じゃ」 「神の恵みって奴かよ」 禍々しい歓喜の声に、潰せ屠れと怒号が混じる。ツカサはユーセシルが身に着けた闘神の革鎧に守護を注いだ。 「私達は同盟よりの使者! 力が全てと言うあなた方の生き方を肯定する訳にはいきません!」 シーマリネィアは敵狂戦士の前に走り出でて名乗り、戦に赴く己の鎧を今一度、更に強固な力で固めて消音の装いを解いた。 「!」 その背後から爆音が聞こえる。後衛の術士達を宛ら巻き込み、爆風を散らすは敵牙狩人の炎の矢。敵紋章術士が幾筋もの光を頭上から叩き付ける。 不思議な光沢を放つ黒と紫の宝珠を抱き、七色に融和した癒しの光を満たすユーセシル。 「……倒さねば、倒される。そう言う事、だもの」 黒銀の細工を施した流水紋の手甲飾りから伸びる指が、敵の手に痛んだ胸元を抑える。ステュクスは高らかな凱歌を響かせる。爆ぜる炎の矢を放った敵牙狩人は、敵軍の遥か後方。同盟冒険者に弓の持ち手がいないと知り、その細い眼に凶笑を浮かべた。
●撃破 巧みな槍使いに幻惑の脚捌きを重ね、敵重騎士の触手を流し躱すシリオン。狂戦士は既に暴走させた血の勢いを借り、限界まで高めた闘気を巨剣に乗せて竜巻を起こす。 「っ……!」 轟々と唸る嵐に、冒険者達は著しく体力を搾り取られる。ステュクスは膝を突き、ボルチュは歯を食い縛り、幾度目かの幻葉を繰って敵前衛を乱そうと試みる。――が、やはり叶わない。リアンシェは淡い桃色をした長い術手袋に覆われた腕の先に癒しの光を灯すも、猛る風に受けた傷の数々は癒し切れない。カラベルクは額から滲む血を拭い、一つ舌を打つ。狙う個体に固執してはこのまま膠着状態の消耗戦になるかと、悪い予感も過る。取り返しが付かなくなる前にと、背後で術手袋に嵌めた瑠璃色と空色の石を鳴らす戦友に声を掛けようとし―― 切れ長な褐色の瞳を見開いて叫ぶ。 「今だッ!」 牙狩人と狂戦士が連携し、逆棘の矢と竜巻が連なる瞬間、狂戦士の殲術の構えが解かれた。グラースプとカラベルクは眼前の敵を押し遣る術を重ね、災いをも焼き払うと言われる霊剣を翳すボルチュも続く。 「やりました……!」 重なる二つの緑の突風が、狂戦士を後方へ吹き飛ばす。ボルチュは地に突いた剣で身体を支え、霞む瞳でその光景を捉えた。 「っ野郎ぉおぁあ!!」 怒声を上げる狂戦士。逆棘の矢に射抜かれた腕も厭わずツカサは駆け、ユーセリアは猛攻に傷付いた多くの仲間達を癒す。後方の紋章術士を庇おうと、触手を伸ばす敵重騎士。だが、ほんの僅か早く踏み込んだシーマリネィアが身に受けて立つ。うねる異形の腕は彼女の胸を強かに薙ぎ打つが、 「……っ」 幾多の戦を超えて来た超鋼刀の聖撃は、下から上へとそれを斬り落とす。粘液と血に塗れ、びちびちと足元で蠢く自らの腕を見、重騎士は唇を吊り上げる。その背後で、ツカサの蹴撃が眩い弧を描いた。 「貴方は私が倒します!」 その爪先に鳩尾を痛打され、紋章術士はがばりと喀血する。だが濁る瞳は老獪な光を宿し、『これで相子か。或いはそれ以上じゃ』と不吉な囁きと共、溢る血も拭わず強化された紋の火球を杖先に集約させる。放たれる火球が、癒しの光を以て尚疲労の濃いボルチュを狙い撃つ。 「手負いの獣、なれば、こそ……」 静かに、けれど闘志を秘めた声が、悔しげに呻く。重厚な聖衣を通じ身を焼く痛みに、二つ名を表す色をした瞳が伏せられた。 どさり。 「……」 飾りベルトで戒めた黒いドレスが暴風にはためく。捲れた黒紗の下、俄か露になったステュクスの灰緑の瞳は、傍らに倒れたボルチュと、よろめくシーマリネィアを映す。乱れ波打つ漆黒の髪を押さえ、ステュクスは息を飲む。 凱歌、を―― 併し紡ぎかける唇は、小柄な重騎士の少女の姿を前に一度閉ざされる。 力が全て。ならば、より秀でた力の持ち主になら負けても良いのか。己が身が揺らぐほんの刹那に、シーマリネィアは自問する。 「――私達にそんな甘えは許されません」 大人しい少女の声が、凛と響く。手厚い守護を幾重に得た身は堅固。一瞬限りの苦痛を浮かべた黒い瞳は、艶やかな黒髪の下で直ぐに強さを取り戻し、その足は力強く大地を踏む。 「……逃がしはしないわ」 「他人任せばかりでも悪いし、な」 静かな声に決意を秘めたステュクスは腕を掲げ振り抜き、シリオンは片刃と護拳の小槍を振るう。宙を駆けるは紫のガスを帯びた異形の獣頭、流麗な切先が描くは血色の華。トロウルの紋章術士は神の名を叫び、斃れた。シリオンは切先を振るって血と脂を落とし、何時でも自分達より強い相手と戦い続けて来た同盟の歴史を思う。 「あんた達トロウルの強さは認めるよ。でも、勝つのは俺達だ」 定められた事実であるかの様に、緩やかな声は確かにそう宣言した。
●狂愛 リアンシェは柔らかな光を満たす。遠い後方から、牙狩人が光を描く追尾の矢を射た。前衛に戻らんと、シーマリネィアと鍔で迫り合う狂戦士。その巨躯に向け、グラースプは紋章筆記の力を上乗せした虹の火球を、カラベルクは爆ぜる気の強撃を叩き付ける。 「これでどうだ!」 術士を守り矢を受けたツカサは、血を含む黒い前髪を蒼眸から拭い揚げる。槍先の短い刃から残像二対を伴う斬撃が繰り出され、シーマリネィアの聖なる一撃が続く。 「愉しいぞ……愉しいぞ……!」 狂戦士は尚も笑う。最早傷を癒す術は異形と化した己が身体のみ、けれど血走る眼は愉し愉しと訴え、巨剣は振り上げられる。荒れ狂う風の中、ユーセシルは荒い息を吐いた。 (「回復は生命線故、倒れない様に気合を入れて」) 実際は、気合だけで猛攻が防げる訳ではない。それでも心構えは大切なのだと、自らに言い聞かせる。仲間の安全も守り、自分も倒れてはいけない。両方こなさなければならないのが、医術士の辛さだ。 「けれど、覚悟は出来てる」 平時と変わらぬ様で、いとも強い意志を秘めた言葉と共、頤を引いて敵を見据えた。折り返してバレッタで止めた鮮やかな金の髪の上、宝珠に虹光を宿す。 『この凱歌は、真に「我らの」勝利と凱旋を歌うもの』。光の中、同じ覚悟を宿したステュクスは凱歌を歌う。 (「……そう信じているし、そうしてもみせる、わ」) 光と調べが重なり響けば、ツカサの腕をしとど流れ落ち続けていた血も止まる。目線は狂戦士に保ったまま、素早く横ざまに払う槍で、重騎士の聖撃を逸らすシリオン。幻惑のステップを踏み、その身体は金属糸の戦装束の重ささえ感じさせぬ程の軽やかさを得る。狂戦士の剣先に凝縮された闘気が満ち、カラベルクに叩き付ける。鎧聖降臨の助けを分厚い金属の鎧に得ていればこそ致命傷には至らず、併し強力な一撃は袈裟懸けに爆ぜる鈍痛を伴い、彼は足取りを鈍らせる。 「カラベルクちゃ……!」 リアンシェは優しい翠の瞳に険しい色を浮かべ、癒しの聖女で彼を包む。立所に活力を得、カラベルクは駆ける。ステュクスを狙った鮫牙の矢を、シーマリネィアが盾で受け庇った。 グラースプは血と泥に汚れた白いコートを翻し、掲げた腕に宿る炎で蛇を象る。その炎は相対する狂戦士に向けて撃ち出され、蓬髪振り乱し赤く塗れた敵の頭を焦がし尽くした。 「――」 戦場に爛々と輝いていた、深い湖の色をした瞳に影が落ちる。 狂戦士は立ち尽くしたまま、果てていた。赤黒い炭と化したその面には、最早表情は伺えないけれど――笑っている、様な気がした。 「狂う程に、……」 拗ねた響きを含んだ言葉は、続きを喉の奥に秘める。狂う程に愛する指揮官がいる事は、本当は少し羨ましいのだと。人知れずその胸の水底に、静かな憧憬が波紋を広げた。 「敗戦して尚同じモノを見詰められる仲間がいるのが敵ながら幸せだな、奴らは」 白いリボンの結い目から零れた髪もそのまま、束の間立ち尽くす戦友の横顔にそれだけを呟くと、カラベルクは再び背を向けて走り出す。片腕となって尚嬉々と剣を振り上げる重騎士の脇も、駆け抜けた。討つべくは牙狩人。弦を引き終えたばかりの異形を追い、彼は疾走する。 (「今更正々堂々もおかしな話だが国には帰さず、逃れるも許さず討ち果たそう」) 彼は己が決意を検め、次の矢を番えんと身構える牙狩人を目掛けひたすらに走る。 「平和を願う者の力がどれ程のものか、思い知らせましょう」 ツカサは聊か厳しい口調で告げ、身を低く構えて地を蹴る。鋭い蹴撃に、連なるシーマリネィアの聖なる刃。牙狩人へと駆け出すシリオンに、仲間の傷を癒したユーセシルが一言告げる。 「彼らに死に場所を上げよう」 シリオンは背肩に翻す切先でその言葉に応え、カラベルクの背を追った。ステュクスが放つ黒蛇の炎に焼かれ、重騎士は疲労濃く片膝を突く。 「やりよる……やりよるわ!」 血泡を吐き捨て、重騎士は気力を振り絞りふらり立ち上がるが、グラースプの火球は苛烈に胴を撃つ。二対の残影を伴うツカサの槍が、三方からその首を突いた。 「が――」 一際鈍重だった巨躯は、遂に鎧の重さに引かれて無言で前にのめり倒れ、二度と動く事はなかった。折れる様に捻じ曲がった首の上、彼の顔はまるで善き事を成し通した人間が天に召されたかの如く、安らかな表情だった。
●凶愛 来る、来る。 牙狩人は眼をぎらつかせ、激しく鼓動する胸を掻き毟る。仲間が一人死に二人死に―― 嬉しかった。何と強く、何と喜ばしい敵の数々に出会えた事であろうか、と。 「あぁ……」 そしてまた一人の仲間が、否、最後の仲間が斃れた。今首を貫かれて死んだのは、落ち着いて深みのある、存外に歌等が上手い重騎士の親父だった。牙狩人は歓喜する。 迫り来る。あの赤い髪をした男が掲げている剣は、何と巨大で美しく禍々しいのだろう。震える弓に、鮫牙の矢を番えて放つ。それはいとも容易く避けられた。 「あぁ、あぁ」 狙い済ました光の矢を射る。今度は胸に命中した。『殺ったか』と身を乗り出したが、男は止まらない。更にその背後からもう一人、翔剣士らしき青年も走り来る。
王よ、王よ。 知らず繰り返すトロウルの眼前を、カラベルクは立ち塞ぐ。振り下ろした剣は、機敏な尾に躱された。その背後から走り来たシリオンは後方で槍を振るい、遠く及ぶ衝撃波を放つ。しなやかに身をくねらして直撃は避けるが、尾の先が切れた。ぐっと喉で呻いた後も口の端の笑みを保ち、牙狩人は今一度光の矢を番えた。最後の一人を打つべく駆け来る冒険者達は、呼気を合わせ己が力を技を、心を刃に変える。鉄を切り裂く蹴撃を白い羽を纏う刃を、牙狩人は躱した。併し二匹の黒蛇を象る炎に捉えられ、自慢の俊敏さも鈍った。これは不味いと、彼は嬉しくなる。蹲る様に腹を抱え血の混ざる濁った咳を数度吐き、再度面を上げれば―― 「死んだら負け、だ」 冷ややかな声が言い放つ。 「王よ――」 緋色の柄飾り、漆黒の刃身。見上げる長身の大上段まで振り上げられたその剣は、一刻の情けもなくトロウルの脳天を叩き割った。 その最期の言葉は敬愛の言葉であったか、それとも凶つ愛であったか。聞き届けた者はいなかった。
「強さを求め戦を欲し戦う種族……か」 カラベルクは誰にともなく一人ごちる。 ある意味似ていた。けれど決して相容れないのは、他者を虐げて迄望むその気性だったのだろう。 大樹に凭れたボルチュはその光景を見届け、再び苦しげにその瞳を閉ざした。或いは大陸を統べる程の栄華を極める事すら出来たであろう一族も、ほんの数手の読み違えで崩壊へと向かった。 「同盟だけが永遠と、何故信じられましょう――」
滅び行く者達の亡骸の上を、真冬の乾いた風が横殴りに吹き抜けて行く。

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参加者:8人
作成日:2007/01/11
得票数:冒険活劇2
戦闘34
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冒険結果:成功!
重傷者:紫眼の緑鱗・ボルチュ(a47504)
死亡者:なし
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