エテルノの誕生日〜前奏曲の終了〜



<オープニング>


●悩める裏方
「……彼の誕生日?」
 荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)は然したる興味を示さず、ただ感情に稀薄な眼差しを向けた。お祭りごとが大好きな深雪の優艶・フラジィル(a90222)がまた何処からか情報を仕入れて来たのだろうか。フラジィルはまず、本人に直接聞いたのではないと断り、それから何故か人目を気にしてきょろきょろと周囲を伺いながら話し始めた。
「梅の花のドリアッドさんって、一月生まれじゃないですか」
「……そう言えば、そうね」
 今月だわ、と霊査士は肯定するように小さく頷く。
「と言うことは、お誕生会ですよ」
「……そうなの……?」
「ですよう!」
 寒冷前線と温暖前線が目の前に広がっているかのような錯覚を起こしつつ、毀れる紅涙・ティアレス(a90167)は無言で紅茶を啜った。面白がる様子は無く、かと言って不愉快ほど冷めたものでもない、渋いと言うよりは幾らか和らいだ表情を浮かべて二人の話を聞いている。
「でも、エテルノさんが好きなもの、ジルは知らないのです」
 誕生会の案を出す以前の問題なのです、とフラジィルは眉を寄せた。
「……見ていれば判るような気も、するけれど」
 霊査士が溜息混じりに零すと、黙していたティアレスが漸く口を開く。
「所謂、芸術と言う括りを好む筈だ。あの笛……オーボエと言ったか」
 良く判らんが頻繁に手入れをしているようでは無いか、と多少は話題の人物へ目を向けていたことを明らかにしつつ彼は続けた。
「美食も好むらしいが、斯様な催しは先日行ったばかりだろう」
 紡がれる言葉に一々頷いていたフラジィルは、瞳を輝かせ拳を握る。
「と言うことは、音楽会でハッピーバースデーです!」

●プレリュードの終わり
「こんなところにいらっしゃったんですね」
 深く優しげな声音が響くと、フラジィルは身を硬くし、ティアレスは顔を渋くし、ロザリーは極々普通に視線だけをそちらへ向けた。春宵奏鳴曲・エテルノ(a90356)は「相席しても宜しいですか」と穏やかに微笑みながら、緩やかな仕草で勝手に手近な椅子を引き腰を下ろす。
「早速ですが、水晶窟へ御一緒出来ませんでしょうか」
 突然の誘いに目を瞬く三人を前に、彼は瞳を細めて見せた。
「音が響く、澄んだ岩窟を知っています。氷を思わせる鮮やかな桔梗色に煌く、美しい場です」
 其処で音楽を奏でるのも良いのでは無いか、と言う御誘いらしい。何やら、誰かに演奏会を勧められたようだ。水晶を削り取って記念に持ち帰るのも良いだろう、御守り代わりには為る筈だ、と微笑む彼は柔らかに続ける。
「楽器を持ち寄って音を合わせれば、綺麗な曲が生まれますよ」
 恐らく、楽譜を見て曲を奏でるには響き過ぎる場なのだ。演奏会と言うよりは、正に「音を合わせる」誘いなのだろう。
「勿論、『声』を使って下さっても構いません」
 歌い手としての参加も嬉しいと言葉を足す。
「声も、人が使える音のひとつですから」
 音楽会と言う計画を練っていた裏方の努力を無為にするような提案を齎したエテルノは、彼らの反応の薄さを気に留めた様子も無い。軽く左手を差し出して、宜しければ、と周囲の冒険者らへ視線を向けて笑みを深める。
「先日は私の誕生日でした。集いに理由が必要でしたら、祝ってください」

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参加者
NPC:馥郁たる翠楼・エテルノ(a90356)



<リプレイ>

●桔梗色の水晶窟
 周囲全てを煌きで覆われた空間に足を踏み入れたラングは、湧き上がる驚嘆を隠せないで居た。経た年月を感じさせる空間を知りえた理由を春宵奏鳴曲・エテルノ(a90356)に尋ねれば、長く生きていれば見聞も広まるものと微笑みで返される。
「温もりや歪みから超然とした、孤高と調律の世界、ですね……」
 彼女の呟きに彼は僅かに眉を持ち上げてから、素敵な言葉ですね、と笑みを深めた。ジーフグリスは水晶窟の美しさに惹かれてか、まるで何かを見出そうとするかのように周囲を眺める。
「今日は宜しくねっ」
 エテルノに向けた声すら反響する場の不思議さに、シュナは楽しそうな笑みを浮かべた。彼の傍に立ちながら、緊張を緩めるように息を整える。
「初めて交わす言葉が祝辞とは、面白いと思わんか」
 祝いも喜びも還るものだとティスレイは言う。情緒に耽る時間を貴重と思うことこそ合理的であると説き、自身の然程変わらぬ情緒の無い表情を詫びた。僅かな変化を掬う手間を楽しませて頂くと返しながら、「君と交わす祝辞が先に続きますよう」と彼は微笑む。
 衣装の裾を摘み、膝を折って可愛らしくネリューシアが礼をした。祝辞を添え、少し緊張するが素敵な水晶窟に添うよう自身が一個の楽器になりたいと意気込みも覗かせる。エテルノが憧れの人になったのだと告げれば、有難い御言葉ですと穏やかな笑みで返された。
「見知らぬ花なら等しく映るもんだし、無関心な花壇への『美しい』と一緒よね」
 余韻嫋々と琵琶が鳴く。奏楽、美景、色男と揃えば自然と足は動くながら、内実希薄なのは水増しワインだけで充分とディアは断じる。近付かなければ花も見えないと語る彼と握手を交わしたエテルノは、彼の指先を掌で掬うように持ち上げて、手の甲へ序でとばかりに口付けた。此れで身の入った祝辞も言えようと薄く笑う。
 世界にひとつだけ許された音ならば永劫に忘れる筈が無い。見立てられた品は気に入ったと耳元を示すシアに、何故か彼は目を瞬いて応える。硬質に響くトライアングルを片手に佇むコーリアから渡されたカードの、白梅香る美しい淡緑の濃淡に目を細めエテルノは穏やかに感謝を告げた。
 水晶の天井を見上げながら、仲良く手を繋ぐような演奏がしたいとソウェルはふんわり表情を緩める。彼女に笑顔を向けながらヴァイオリンの響きを確かめ、調律を行っていたリューは思い出したように「男からのプレゼントで悪いがな」と小さな箱を差し出した。性別に関わり無く向けられた想いは嬉しいものですとエテルノは瞳を細め言葉を返す。
「今日も明日も、沢山の幸せがエテルノさんに降ってきますように」
 遠慮がちなキマの申し出にも彼は満面の笑みで答えて身を屈め、彼女の暖かな手編みのマフラーを巻いて貰った。微笑む少女の頭を撫で、彼は祝辞に礼で返す。

●重なり合う音色
 冒険者たちは思い思いに散らばり、または水晶に腰掛け、緩やかに音を生み出し始めた。暖かいポンチョを纏ったフィーネの手には大好きで大切な竪琴がある。広がる音に耳を澄まし、包み込むようなオーボエの深い音色を選び取って合わせて行く。音が生まれたことに理由が必要ならば、此れは彼を祝う為になるのだろうと穏やかに目を伏せた。
 冷えた水晶窟の中に響き始めた音は、何故か優しくて暖かい。
 紡がれる色彩を繋ぎ止め、溶け合わせようとシェラーフも音を奏でで行く。幾重にも連なる音に陶酔するうち、エルサイドの胸中には幼き日の思い出が浮き上がった。囁くように微かな音の葉は、一弦琴より楽の波として生まれ行く。氷を思わせる滑らかな冷たさに裸足で触れて、ニューラは水晶を伝い響く、耳には届かぬ音の震えへ目を伏せた。共鳴が水晶の生きた脈動にも思え、レインは心地良さで満たされる。目を閉じてしまえば暖かな音の海に沈み行くばかりだ。
 場に至るだけで十分な贅沢さを得ることが出来るかと思いつつ、ファントムは水晶を傷付けない木靴で床を叩いた。軽やかな音色が彼の足元から生まれれば、招き手は面白がるように目を細める。ロスクヴァは暖かなマフラーを巻き、フラジィルと手を繋いで、心からの祝いの気持ちを乗せながら歌っていた。
 寒さにか音の威力にか身震いをして、オリエは目に見えぬ美しさを讃えるように言葉を零す。合意の上で足を運んだティアレスは、「世話を焼かれたがる誘い文句はそろそろ聞き飽きたな」と表情ひとつ変えずに告げた。トロンボーンから耳打ちされれば、此処では響き過ぎるな、と皮肉げに笑いながら同意で無く理解を示すように顎を引く。
「我が奴に関して知っているのは、奴は我と相性が最悪かつ、我と比較にならんほど非道な性格をした最低の男だと言うことだけだ。セクハラで変態でバイオレンスなのだ。後、背が高いのもムカつく」
 嫌いだ、と本日の主役を指差して根拠の薄い罵りを吐きつつティアレスはぷんすか膨れた。
 気の向くまま縛られず、目を閉じたまま技巧に頼らず愛用するヴァイオリンの弦を弾くジェネシスの隣では、ロザリーが何処と無く穏やかな表情で音に耳を澄ませている。ノヴァーリスのブルースハープは、多くの音に囲まれて物寂しさから一時放たれたように華やかな奏楽の一端を担った。平らな水晶に腰掛けたアリアは、流水を思わせる優しさでリュートを奏で続けている。
 響くたびに色を変える音の中に佇み、ハインリッヒは今日限りの曲を慈しんだ。抑えた笛の音は慎ましくも首筋を擽るような、滑らかな刃に似た煌きを秘める。彼の隣に立つマリアは瞳を輝かせ、透明な歌声を響かせた。期待するように覗き込んで来たラザナスを押し留めるよう、腕に軽く触れてカレンは小さくかぶりを振る。本職では無いのだから無音で身を合わせて居たいと声も生まずに優しく伝えた。

●色彩を包んだ奏楽
 傍で奏でられる音色が、初めて聴くにも関わらずとても好ましい。彼に貰った音へ合わせてリアは落ち着いた歌声を紡いだ。強請り倒した甲斐を感じながら、ヴァンアーブルは朽ちるに足る年月触れずに居たリュートを弾く。身が樹となり魂が風に変じても永久に彼女と共に在れることを、少し己らしく無いかと思いながらも願っていた。
 言動だけでは示せないことが沢山ある世の中だから、心に語り掛ける音を担い、耳を傾け続けるとメローは誓う。それで誰かが笑ってくれたら最高、と語る彼にエテルノはただ柔らかな微笑で返した。何処か不思議な印象を与えられる彼に、祝福と敬意を篭めてフィードは鈴を振る。楽譜に頼らないこの調べが、幸福の記憶として胸に刻まれることを願った。
 少し遠いながら確かに先で佇む春を想い、リンクスは流水紋の描かれた横笛を吹く。綺麗である以上に、素敵な調和を生みたいと目元を緩めた。音に包まれる感触が心地良くて、シャルティナは白い息を吐き出しながら歌い続ける。彼女が凍えてしまわないように抱き締めながら、オウリは澄んだ空気で反響する調べに神楽鈴を加えた。一差し舞うのも一興かとも思ったけど、と零せば彼女の思い遣りを聞き咎めたらしいエテルノから「でしたら、次の機会には是非」と微笑まれる。
 耳にしたことも無い音ばかりが響き合う壮麗さにリツは小さく笑みを浮かべた。共鳴する水晶の間に、音が溶け合う。桔梗色の煌きに響く音の色を思索しながら、ウィンは招き手を見止め、ふと春霞を連想した。色合いの全く違う音が重ねられるたび、ひとりでは奏でることの出来ない美しさを感じてセドリックは顔を綻ばせる。ミズナは遠慮がちに口を開くと、紛れる程度の小さな声で歌い始めた。自分の声が旋律に乗る感覚で、ふわりと心が温かくなる。
 不意にアユナが涙を零した。此処を訪れた人々の気持ちが水晶の合間に満ちて行くように思えて、安らぎを感じた。牡丹が描かれた扇の端で揺れる鈴に軽く触れながら、ティーナは目を閉じ静かに耳を傾ける。人の想いを表す音の波に揉まれながら、惹かれる音を探した。大人しい響きを心掛けてトランペットを吹くカナタは、腹の底に響くようなオーボエの音色に瞳を細める。確かに穏やかで優しげではあるけれど、表層と内面が異なるならばどちらを示したものかと淡い疑問を脳裏に浮かべた。
 美麗な煌きの中に佇むからこそ、声を弾ませる普段の歌い方を幾らか抑え、水面に雫を落とすような繊細さでケイカは歌う。心からの祝福を篭め、誰かの奏でる音に時折は寄り添い、弛む余韻を楽しんで聴いていた。サフィアルスは目の端にエテルノを捉え、祝福と感謝と、親愛を篭めて音を重ねる。此処に広がる美しさは奇跡と呼んでも差し支え無いものに違いない。綺麗な調和が生まれるたび、彼女の胸に宿った真実さえ揺さ振られるようだ。今は気付かない振りをして、感じる幸福もまた虚構では無いのだから、思うまま素直に微笑を浮かべる。

●前奏曲の終了
 音は緩やかに消えて行く。
 優しい気持ちのまま心を篭めて声を紡いでいたリューシャは、誰が何を言うでも無く訪れた演奏の終わりを察してエテルノのもとへ向かった。改めての祝辞を述べれば、御眼鏡に適えたことが何より嬉しいと笑みを返される。
「女人に祝われた方が喜ばしいと感じ得るだろうが」
 偶には礼の心を示したくなるのだ、とイグニースは浮世離れした水晶の間に佇み祝意を告げた。新年を迎えることも誕生した日を過ぎることも何度と無く繰り返されて来たのだろうとも思う。エテルノは微笑んだまま、此方こそ本年も宜しく願いたいと謝意を述べた。
 鮮明な地声で気持ち良さそうに歌っていたイヴァナは、「何処の仕立て屋さん?」と彼のベストに興味を抱く。近くで見て頂いて構いませんよと彼は微笑み、軽く肌蹴るようにコートを指先で引いて、菩提樹の葉を模したとも言われるペイズリー柄を示して見せた。
 綺羅と輝くようなマンドリンの音色が染み込むように消えるのを待って、リレィシァは万華鏡の中に小さな水晶の欠片を入れる。誕生日だと言うエテルノに、今日の演奏会を思わせる色彩として手作りの贈り物を渡した。演奏会に合わせるならば花だろうと考えたノリスは、綺麗な瓶に詰めたラベンダー、カミツレ、花菱草の茶葉を若草色の天鵝絨を敷き詰めた箱に封じて彼へと贈る。エテルノは受け取ったプレゼントひとつひとつを丁寧に確かめ、素敵な贈り物を有難う御座います、と柔らかな笑みを浮かべ喜びを紡いだ。
 ほう、と熱を帯びた息を吐く。光の粒が弾けるように廻った音の名残を惜しみ、シーアスは大振りな竪琴を大切そうに抱え直した。先日齎された問いには、考えたことが無かったと素直に返答する。移ろい掻き消されかねない響きへ重ねて、己の未熟を嘆くように苦笑した。
「愛を定義さえしなければ、それは最早、貴女の胸にあるのでしょう」
 微笑むエテルノに、アテカが駆け寄る。彼は少女が巻いているマフラーには見えない毛糸みたいなものを目にして驚いたように瞬きをした。贈り物を手渡され目元を緩めた彼を見上げて、大きくて優しくて暖かい印象を確かにする。
「えてるの、おとうさんにとっても似てるのー」
 嬉しそうに笑む彼女を見て、彼は少しばかり瞳を細め唇を開いた。
「私は君の父親には為れませんが、御気持ちは大変嬉しく思いますよ」
 彼に幸せな時が巡るよう願い、アニエスは冒険者仲間として新たな門出に祝いを向ける。如何な物語が紡がれ行くのか、小さな好奇心から「冒険者として、此れから一年の抱負はある?」と尋ねてみた。エテルノは微笑んだまま、先ずは旅団に所属したいし、修練場も訪ねたいし、依頼も多く請けてみたいのだと夢を語るような穏やかさで答える。
 シエスタには未だ、尊くも愛しい、水晶の歌が奏で続けられているように思えた。
「素敵なところへ御招待して頂き、嬉しく存じますわ」
 彼女は幸せそうに微笑んで、エテルノ様の演奏も拝聴出来ましたし、と続ける。次の機会には曲を奏でて欲しい、と彼女は強請るように約束を望んだ。彼は当然のように頷いて承諾し、未だ始まりの音が鳴ったばかりなのだから、と低くも柔らかな声で今日を結ぶ。長いようで短い泡沫の時を経て、水晶窟の音楽会はただただ静かに締め括られた。


マスター:愛染りんご 紹介ページ
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作成日:2007/01/26
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