<リプレイ>
●氷の下の悪魔 「期限は3日あるのであまり無茶はしないようにいきましょうですの」 問題の湖に着くや、深森の迷い子・セーラ(a33627)が、焦りは禁物とばかりに仲間たちに一言。 「でも、この寒さは結構キツイなぁ〜ん」 が、ワイルドファイア育ちのヒトノソリンにとっては意外と酷な話。全開・バリバリ(a33903)の元気が、みるみる萎えていく。 「……けど、そこは気合と根性でカバーなぁ〜ん」 「そうだな。まぁ頑張れ。とは言え、できるならとっとと一日で片付けちまいたいところだけどな……俺も頑張るとしようか」 そんなバリバリの様子に、玄風・アムリア(a38131)も気持ちを新たに。寒さが苦手なのは彼女も同じだったから。 「それじゃ早速……土塊の下僕、出発進行!」 そんな訳で、寒さの苦手な2人の意を汲んだのか、関西私鉄連合覇王総長・スルット(a25483)が囮の土塊を召喚。4つほど作り出したところで2つずつ肩車をさせる。 これで何とか1mくらいにはなる訳で、水中からなら小柄なヒトに見えなくもない。が、共に向かったアムリアが引率の先生か何かに見えるのは気のせいか…。 後は敵が掛かるのを待つだけなのだが、薄暗い中、氷上の極寒となれば、苦手でなくても辛いのは言うまでもない。 「実は氷なんて初めてなんだよねぇ。ましてや氷の上を歩けるなんて……驚きだよ」 鎧聖降臨で鎧を薄絹のドレスに変えた、強引にマイウェイ・ローレライ(a45997)がジッと固まっている事に耐え切れず、氷上に降り立つ。 足に履いた『かんじき』を除けば、陶酔の通り氷上の天使と言えない事もない。……『かんじき』さえなければだが…。
しかしその行動が刺激となったか、あるいは囮の面々のお陰か、氷の下で何かが動く気配の後、水際にいくつかの泡が浮く。 「来たようです!」 一連の変化を具に観察していた蒼海の水面・キュール(a36040)の合図を受け、幼き眩惑の狐姫・セレス(a16159)、無垢なる茉莉花・ユリーシャ(a26814)、それにバリバリが走る……いや、滑る。 ザバァッ……!! 途端、冷たい飛沫と共に水面に上半身を現した2体の敵。その指先から放たれた2本の水流が、前衛の土塊たちにまっすぐに伸びる。 「あっ!」 叫んだ時には既に遅く、肩車状態の土塊たちが水流に絡め取られたかと思うと、みるみるうちに水中に引き摺り込まれてゆく。 「と、届かないよー」 セレスが悔しそうに身悶え。せっかく水際まで急行したのに、敵は2mほど先の水中。どう考えても届く手段がなかったから。が、その時、湖畔のテントから閃風の・ナキア(a57442)が叫ぶ。 「おっト、こいつハでかい獲物ガかかったナ… をぅイ、そいつヲ引くノに力を貸してクレ!」 彼は土塊に結わいておいた命綱を持って控えていたのである。 すぐにフォローに入るセレスとバリバリ。しかし力を込めて数回引いた所で土塊の方が耐えられず千切れてしまったのだった。 「ほらほら…オマエらの相手は今度はこっちだよっ!!」 その間に準備を終えたアムリアが、氷上とは思えぬ軽快なフットワークのまま眩い光を放つ。 すると、獲物が崩れ去ったことに戸惑いつつも、その光に誘われるように標的を彼女に定めて再び水流を放つ。 避けられはすれど、それではまたふりだし故に躱す事はしない。その為、今度は彼女を挟んでの引っ張り合いとなる。 「あっ…うぅ……」 予想以上の強い引きに思わず苦悶の声が漏れる。 「私もお手伝いしますっ!」 このままでは危険…と、吟歌の巫女・ナルミ(a41610)も参戦。4人掛かりの力ゆえか、足場の悪条件にも関わらず、次第に冒険者側の地力が勝ってくる。 「もう少しです。いま少し耐えてくださいませ」 蜜色の光を擁く月・アンナ(a07431)が、身に纏う黒炎より放つ炎を以って敵の体勢を崩すと、ハーツェ(風韻縹緲・ハーツェニール(a52509))が凱歌を口ずさんで痛みを和らげる。 すると素早く状況を見切った敵の片割れが引き合いから即座に離脱。その瞬間、残ったほうは一気に氷上に半身が掛かった。 「今だっ!」 ハーツェの声。それにいち早く応えたのはユリーシャだった。一気に間合いを詰め、鱗に覆われた敵の腕あたりを掴むと、そのままの勢いを回転に変え、敵の体ごと振り回す。小柄な身体からは計り知れないパワフルさを披露する。 「え〜い、ですわ!」 そのまま氷の厚い真ん中付近まで投げ飛ばすと、そっちの処理は仲間に委ね、ユリーシャ自身はそのままもう1体への警戒に当たる。敵は幾度か顔を出しては、彼女を引き摺り込もうと水鉄砲を放つも、 「おィオィ、貴様ノ出番はもう少し後ダ… そこデ指を咥えテ待ってオレ。」 というナキアの巧みな弓の援護に阻まれて不発に終わり、暫くして空が白むより早く水中深くに姿を消していった。 そして……引き上げた1体はと言えば、当然の如く皆で取り囲んでの総攻撃。それでも水流を用いて幾人かが吹き飛ばされこそしたものの、所詮は焼け石に水。 「お縄につくですの」 の声と同時に放たれた、セーラの緑の束縛により動きを封じられ、敵の運命は決したのだった……。
●引きずり出せるか、もう1体!? 「これデ残るハ1匹だけだナ」 たしかな手応えを感じつつ、冒険者たちは昼間のうちに充分な休養を取る。 「基本的には同じ手でいけるかな?」 「いくと良いですの」 (「……それほど甘くはないようにも思えますけれど」) 相手がモンスターという事もあり、少しだけ楽観的な予測になるのも無理はないが、そんな中でアンナは僅かな懸念を抱いていた。 そして…その懸念は程なくして現実のものとなる。
昨日と同様、スルットの土塊たちとアムリアが囮になる作戦。もちろん命綱は木に結わいた上でナキアがしっかりと確保していた……が。 この日も極寒に耐えて待つ冒険者たちの前に姿を見せた敵は、いくつか飛んだブラックフレイムを水面と水中を巧みに使って躱すと、水流を放って一瞬で土塊たちを文字通りただの土へと還した。 そして、ユリーシャの鎧聖を受けたアムリアが、再び眩い光を以ってモンスターの気を引くが、敵は引きこむ水鉄砲ではなく、水流を以って彼女を吹き飛ばすと共に命綱となっているロープを引き千切った。 「まさか…!?」 同じ轍を踏まぬかのような巧みな業。たとえ知性がなくとも経験を踏まえることができると言う事であろう。 こうなるとアムリアも素直に攻撃を受ける訳にも行かず、元より前衛にいたセレスも加わって巧みな足捌きで敵の攻撃を躱し続ける。あとは遠距離攻撃である黒炎か、スルットのエンブレムノヴァに頼るしかないのか? 「まだ手はある筈です!」 ひとつの覚悟を決めたキュールが、ユリーシャやバリバリに声を掛け、前に出る。囮の数を増やし、いずれかが捕らえられた所で残りがフォローに入るという作戦に変えた。 しかし、その様子を見るや敵も即応し、前に出た全員に向けて水流を放って5人をバラすと、すぐに標的を1人に絞って水鉄砲による引き摺り込みを狙う。狙われたのは……バリバリ。 「ま、待って!」 竹箒で体勢を保ったセレスが、すぐにバリバリを支えに向かうが、やはり1人だけでは滑り止めがあっても、それだけで誰かを支えるには足りず……敢え無くバリバリの身体は氷点下の水中に没した。 「……旦那!?」 黒炎を放つのを止め、ハーツェが声を上げた。その声に気付いたナルミがすぐさまロープを投じるが、肝心の彼がそれを掴まぬ事には……。 「バリバリさん……だ、大丈夫ですか〜?」 しかしその直後、防具の形状を変えたバリバリの身体がぷかりと水面に浮かび、必死で手足をバタつかせながらロープを掴むのが見えた。が、同時に足の方に喰らいついたモンスターの姿も。 しかし、それでは攻撃を加える訳にも行かず……彼の身体を氷上に引きあげるのがやっと。しかも引き上げる寸前には敵の方から離れてしまい、この日はそれっきり姿を現す事はなかった。
●寒風吹きすさぶ中 そして迎えた3日目、最終日。状況を一転させる起死回生の策がある訳ではないものの、より反応を早く…とか、位置取りを上手く連携すると言った基本的な事をおさらい。 そして冒険者たちは三度、夜明け前の寒風吹きすさぶ湖に降り立ったのだった……。 「…ぇと、き、今日はこっちから来ましたっ!」 基本、状況把握と指示することに専念したナルミが真っ先に敵影を捉えた。 昨日に引き続き5人がナルミと入れ替わるように氷上と湖面との境界へ。 「昨日のようには行かせないよっ!」 まずイリュージョンステップを用いたセレスとアムリアがより前に出て、敵の攻撃を避けつつ湖面ギリギリまで敵を引きつけようと試みる。 が、元より限られた間しか姿を見せないほどの敵が、そうそう誘いに乗るはずも無く、そこでアンナ、スルット、セーラにナキアの4人がそれぞれ別な方向から牽制を兼ねた攻撃を加えてモンスターの注意を逸らす。 「今度はこっち、ですの!」 「ほら、『どーん!』とやっちゃうよ!」 この隙にユリーシャ、バリバリ、キュールのいずれかが敵の体を捉える手筈なのだが……現実は上手くいかないものである。 「アンナっ、危ない!!」 突然に響くハーツェの声。それは、敵が最前戦の2人から明らかに視線を移したように見えたから。その一瞬で彼はすぐに悟る。そう…標的を変えるつもりだと。 だが、そこで離れるだけでは今日の解決は臨めない、とアンナは一か八かの賭けに打って出る。つまり、引き摺り込むのに身を任せるという選択であった。 僅かに早く知らされた事で、ほんの少しだけ余裕を持って臨む事が出来た。が、召喚獣キルドレッドブルーの助力を以ってしても体力は着実に奪われていく。その中で行なう彼女なりの『賭け』……それは、霊査士の助言通りに水面を脱出することではなく、モンスターを氷上に打ち上げる事。 次の瞬間、湖面が大きな水飛沫を上げた。水中からのアンナの緑の突風により敵が吹き飛ばされたのである。 (「皆様……あとは…お願い致します……」) そして薄れゆく意識と共に見た最後の光景は、幾人かが自分の名を呼ぶ姿と、モンスターを取り囲む姿……。
そんな決死の覚悟で打ち上げた敵を、冒険者たちは初日同様に取り囲む。セレス、ユリーシャ、バリバリの3人が、絶対に水中に戻れないよう3連続の投げを喰らわす。 そして盾を構えて待ち受けていたローレライが渾身の聖なる一撃。文字通り横に姿を見せる守りの天使の姿に、 「氷の上の天使参上♪ な〜んてね♪」 などと言う余裕すら窺わせた。 続いてキュールのミラージュアタック、セーラの緑の業火と続く。 「木の葉に包まれて燃えろ! ですの」 ほとんど、まな板の上の鯉のようなものだったが、それでも生きている限りの抵抗は見せる敵。しかしそれも、ナルミとハーツェの凱歌の前にはたかが知れたもの。 「そろそろ眠りニつくガ良い……」 ナキアの閃光を纏いし矢が鱗を貫き、今度は本当にドーン、とエンブレムノヴァを豪快に放つスルット。 「仕業完了!」 こうして……3日に及ぶ戦いは、その幕を閉じたのである。
●はじめての氷上体験 「……しっかりしてください、ですの。癒しの光ですの」 遥か彼方から聞こえる声……その声と暖かな光に導かれるように意識を取戻したアンナ。そこは既に氷上などではなく、湖畔のテントの横で焚かれる炎のすぐ横。 「お陰で片付いたなぁ〜ん」 「無理し過ぎだぜ!?」 何と言われようと、今ここに皆が無事でいる事実……それこそが全て。
そうして、ゆっくりと身体を休めた冒険者たちは、無事に片付いた暁に…と言っていた氷上体験。一部…寒さに耐え切れずとっとと帰路についたバリバリや、炎の傍で身体を暖めるアンナとアムリアを除くと、それぞれに楽しみを見つけることが出来たらしい。 「うわわっ……滑る〜ッ!」 「実は…少し楽しみでしたの♪」 「私も…じっと釣りをするより、体を動かす方が好きなのよね」 メシッ……! 「ん? 今…氷がメシッって言った?」 「さぁ……!?」 と、スケートに興じる者たち。 「私はスケートよりもこの方が良いね」 と、湖畔に残る冬景色と自然を堪能する者。 「この時期の魚ハ脂が乗っているからナ…♪」 「よ〜し、いっぱい釣って今日は天ぷらパーティだよっ♪」 と、何より食欲が総てに勝る者。 冒険者と言えど、楽しみ方は人それぞれなようであった……。
【終わり】

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参加者:12人
作成日:2007/01/24
得票数:冒険活劇9
戦闘1
ほのぼの1
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冒険結果:成功!
重傷者:蜜色の光を擁く月・アンナ(a07431)
死亡者:なし
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