地獄街道の帰郷 〜兄妹の絆、仲間の想い〜



<オープニング>


 ごほごほ、と咳き込む妹の体を、兄のルゼがそっと抱いた。
「帰ろう、リジ」
 二人の視線の先には、故郷がある。故郷で二人を待っているであろう、お父さん、お母さん……。

 ふわり、と手を差し出した冒険者は、優しく微笑んだ。
 月露は蛍のように儚く・ユウナ(a40033)のその銀色の髪は、小さな兄妹には、ひどく優しい輝きを放っているように見える。
「大丈夫だ、俺達に任せろ」
 ユウナの隣に並んだ闇の護衛・イブキ(a34781)は、そう声をかけて笑む。兄妹の話を聞いた八人の冒険者達は、一つの決心をした。
「必ず、村に送り届けてやる」
「怖がらなくていいよ?」
 夕闇に染まる白き大翼・トワ(a37542)、泡沫の眠り姫・フィーリ(a37243)は、ほぼ同時にそう告げて、視線を合わせる。
「ルゼ……」
 病的なほどに白い肌、妹のリジは、隣に立つ兄を見た。
「大丈夫、リジの事はボクが護る」
 小さく囁いて、ルゼは、目の前に並ぶ冒険者を……睨んだ。
「お願いします」
 その小さな体で、ルゼはぺこりと頭を下げる。
 華やいだ雰囲気が、冒険者の中に広がった。二人が任せてくれれば、彼らには、やり遂げるだけの自信がある。
「よーし、出発だなぁ〜ん! オキだんちょいくなぁ〜ん!」
 春風そよめく舞蝶円舞曲・ミア(a41826)はぴょんぴょんと跳ね、紅焔の月と夢幻の宵天・オキ(a34580)へとしがみつく。
「こらこら、僕は乗り物じゃないですよ」
 柔和な表情で笑みつつ、オキは、肩にまわったミアの腕を小さくつねった。そんな賑やかな様子に小さく噴出したリジの手を、ユウナは優しく握る。
「行きましょう? ね?」
 こくり、と頷いた様子は、ひどく幼く、可愛くて。
「……ん……おいで」
 純白の翼をはためかせ、漂う耀きの記憶・ロレンツァ(a48556)は首を傾げる。それはどこか、寂しそうにしているルゼへと向けられて。
「行こう……お母さんと、お父さんの所へ」
 真剣な顔で、無限の刻の中静かに月を抱け・ユイ(a44536)は呼びかける。黒いマントを翻し、故郷へ。
 帰ろう。

マスターからのコメントを見る

参加者
淙滔赫灼・オキ(a34580)
深潭沈吟・イブキ(a34781)
泡沫の眠り姫・フィーリ(a37243)
夕闇に染まる白き大翼・トワ(a37542)
月露は蛍のように儚く・ユウナ(a40033)
春風そよめく舞蝶円舞曲・ミア(a41826)
無限の刻の中静かに月を抱け・ユイ(a44536)
漂う耀きの記憶・ロレンツァ(a48556)


<リプレイ>

●第一章
 冷たい風が吹く。この荒涼とした土地に、哀しみの風が。
 ぶるりと震えた小さなリジの体を、柔らかなフェザーマントが優しく包んだ。少女が驚いた表情で振り返れば、優しく微笑む月露は蛍のように儚く・ユウナ(a40033)が首を傾げ、リジを見下ろしている。
「具合、悪くなったりしたら、すぐに言ってね……?」
 ユウナの声はひどく暖かく、彼女の表情は明るく美しい。リジは僅かに頬を染め、こくりと頷く。
 柔らかな光を放つ銀髪揺らし微笑んだユウナは、リジの体に触れると、鎧聖降臨をかける。次いで、その隣に立つルゼへも。
 彼らの、普通の布の服は、リジはまるで御姫様のように、ルゼはリジを護るナイトのような凛々しい姿へと変わったのだ。
「ルゼ、かっこいい……」
 目を丸くして驚くルゼへと、リジがそっと囁く。途端顔を赤らめた兄に、リジはくすくすと愛らしい笑い声をたてた。
 それを見ていた春風そよめく舞蝶円舞曲・ミア(a41826)は、ノソリン尻尾を振りながらこちらへとやって来ると、ルゼの前へと立ち、その額に触れる。
「お姫様を守るナイトに誓約の守護を、なぁ〜ん♪」
 そんな台詞とともにかけられた、守りの力。ミアはくるりと踵を返すと、紅焔の月と夢幻の宵天・オキ(a34580) へと笑顔で手を振る。
「闇討ち部隊特攻たいちょのオキだんちょ、がんばってなぁ〜ん。気をつけて行ってらっしゃい……なのなぁ〜ん♪」
「少しでも暖かくしていられるように…騎士が風邪なんてひいていたら、お姫様を守るのに困るだろ?」
 ルゼの体にそう言ってフェザーマントをかけたのは、夕闇に染まる白き大翼・トワ(a37542)青空のような美しい瞳が、優しく微笑む。
「必ず、無事届けてみせるさ……な?」
 その彼の言葉は、二人にとっては何よりも嬉しく、待ち遠しい宝物のように聞こえるのだ。
 ……と、そんな中、真っ直ぐにルゼの元へと歩んできた漂う耀きの記憶・ロレンツァ(a48556)はブルーグレーの法衣を翻し、ルゼの前へと膝をつき問いかける。
「……ルゼ、リジをしっかり守ってやれるか……?」
 それに、しっかりと頷くルゼを見つめ、ロレンツァは真剣な面持ちで続けた。
「村までの道のり、俺達はお前達を守る…でも、リジを、本当の意味で守るのはお前だ…頑張れるか……?」
「頑張れる」
 あまりに頼りない、高く澄んだ少年の声。しかし、その響きは、リジにとってはきっとどんな誰の言葉よりも心強いに違いなくて。
「…村まで頑張ったら……そうだな…誉めてやる」
 ロレンツァはそこで初めて微笑み、立ちあがった。彼は、これからこの子達とは、行動が出来ないのだ。
 そうして、隣に並んだリジとルゼは、どこか不安そうな表情で、この冒険者達の中では一番怖そうな闇の護衛・イブキ(a34781)を見上げていた。それに気づいたイブキは、静かにふっと笑うと、両手で二人の頭をくしゃくしゃっと撫でる。
 ついでに、闇討ち部隊と称し、敵と戦う事を選んだ、オキの頭も。
「気をつけろ……怪我をしたら、許さない」
 喉の奥で笑いながら言われたその台詞に、オキは頷くと、相変わらず、どんよりと暗い空を見上げ、一時の別れを惜しむ仲間達を振り返る。
「さて…行きましょうか、闇討ち部隊……二人の為に、ね……」

●第二章
 それから、出発してしばらくが経った。
 アンデッドの溢れる地、澱んだ空、先を行く闇討ち部隊の様子も、気になるだろう。しかし、冒険者達の中にはどこか明るい雰囲気があった。
 泡沫の眠り姫・フィーリ(a37243)は護衛本隊の先頭を歩きながら、周囲を警戒していた。そして、時折後ろを歩くリジとルゼに語りかける。
「2人の故郷はどんな所なのかな……? お母さん、お父さん、きっと待ってるね……二人とも、会ったら、お話したい事、沢山あるんじゃない……?」
 それに、ぽつりぽつりと返事をするのは、ほとんどが、ユウナに手をひかれたリジ。時折リジが咳き込むたびに、その背中を摩るのは、ルゼだった。
 フィーリはリジの言葉に頷きながら、ちらり、とイブキとユウナの様子を窺い見る。彼らは、双子を挟んで左右に並んで歩いている。
「……側、離れないで、ね?」
 手を繋ぎ、そう問いかけるユウナに、リジはコクリと頷く。
 そんな様子を眺め、言葉少なにユウナを気遣う、イブキ。
 ――その時、後方から音がした。
 いち早くそれに気付いたのは、……殿をつとめていた、ミア。
 ミアは、無言のままその場で足を止め同時に巨大な弓を構える。出来れば、リジとルゼに気付かれる前に倒せれば、との判断からの行動だ。
 ぎりぎりと引き絞り、放たれたのは光の矢、ホーミングアロー。物陰から現れた、死せる肉体……アンデッドへと突き刺さる。ミアは無言のうちに、もう一度弓を構える。
 しかし、その矢が放たれる前に、アンデッドの体を幾筋もの光線が貫き滅ぼした。
 ミアの様子に気付き、リジとルゼをユウナに任せ後方へと下がってきたイブキである。小さな双子は、フィーリとトワ、そしてユウナのおかげで後ろの出来事には気付いていない。
 ミアとイブキは、アンデッドが倒れたのを確認し、無言で頷きあった。
 前方の敵は、闇討ち部隊が先回りし倒していってくれている。しかし、ここは終着の地エルヴォーグ。アンデッドがこちらへと向かって来るのは、前方からのみとは限らない。
「どうかしたんですか……?」
 護衛本隊へと戻ったイブキに、ルゼが問いかける。イブキは、ルゼのその真っ直ぐな瞳を見下ろし、微笑むと首を振った。
「何もないさ」
 くしゃり、と頭を撫で、イブキは心の中で呟く。意志ある旅立ちに、どうか幸いが訪れるように……と。

●第三章
 その時、闇討ち部隊は戦闘の真っ最中であった。
「敵の攻撃は後衛には通しませんよ」
 ユイ、ロレンツァと敵の間に身を滑り込ませ、オキはにっこりと微笑んだ。同時に繰り出されたスパイラルジェイドに、一体目のアンデッドの体がどさりと地面に倒れる。
 そして、二体目。
 黒い炎に全身を包まれ、ユイ無限の刻の中静かに月を抱け・ユイ(a44536)はゆっくりと右手を持ち上げ、敵へとその掌を向ける。
 そこから生み出されたのは、異形の悪魔。恐ろしき顔を持つ炎が、アンデッドへと襲い掛かる。
 それとほぼ同時に、ロレンツァは両手を祈るように組み合わせると、そっとその瞳を閉じた。作り出したのは、白く輝く光の槍。
 青い瞳を開いた瞬間、ロレンツァは作り出した目の前の槍を掴み、アンデッドへ放つ。 異形の悪魔と、聖なる槍。その二つに襲い掛かられ、アンデッドは反撃の間もなく、その力を失った。
 静寂を取り戻したその土地に、ユイは視線を落とす。
 そこに倒れているのは、半ば腐敗した人の死体。人を襲うアンデッド。しかし、醜いとは、とても思えはしなかった。
「リジとルゼに見つかる前に……隠そう」
 オキとロレンツァは頷くと、隠匿作業を開始する。そうして、素早く次ぎのアンデッドを倒しに行かなければならない。
(「…皆で、ちゃんと無事に…帰らないと……2人の事、しっかりと見守ってやりたい……から…」)
 後方を振り返り、ユイは心の中でそう呟く。戦いとは、常に、誰かのためにある。

「寒くないか……?」
 緊張に固まるルゼを、後ろから抱きかかえロレンツァは問いかける。ぶんぶんと首を振るルゼはどこか顔が赤くて。
 今、彼らは休憩時間へと入っていた。闇討ち部隊も合流し、御菓子や携帯食料などのものを食べながら、無事を祝った。
「三人とも、お疲れ様なぁ〜ん♪」
 一人でアンデッドに対峙しようとしていた時の真剣な面持ちとは別人のように、ミアは笑う。そうして、彼女はココアを仲間へと振舞うのだ。
 すっかり懐いたリジを膝の上に抱っこして、ユウナは嬉しそうに微笑む。
 ぽん、ぽん、と咳き込んだ少女の背中を軽く叩いてその辛さを緩和し、ユウナはそっと囁く。
「故郷は、逃げないし……わたし達も、見捨てたりしない……そばに、居るから…ね?
 だから、早く帰りたくても、早くお父さんや、お母さんに会いたくても……絶対に無理しないで、ね……?」
「……うん。ユウナおねえちゃん」
 愛らしい声で答えるリジの体は、抱いているととても暖かく、ふんわりと優しい気持ちにさせてくれる。
 ユウナは、小さく歌を歌い始めた。そんな彼女の様子に目を細めたのはイブキ。彼は何も言わず、そっとユウナとリジの様子を見守るだけ。
 グミとクッキーを山のように振る舞い、トワはロレンツァに抱かれたルゼのもとへと向かった。
 その頭をぐりぐりと撫で、彼は実に頼もしく笑む。
「……無理するなよ。俺達がついてるからな。何かあったら、すぐに言って欲しいな……俺達に対しては、無理も遠慮もいらないからな?」
 我慢だけは、するなよ、と。

●第四章
 そうして彼らは……足を踏み入れた。
 リジとルゼの故郷、その、小さな村。
「お父さんっ! お母さんっ!」
 そう叫んで走り出したのは、リジが先だっただろうか、それとも、ルゼだっただろうか。まるで転ぶように駆け出す様子に、冒険者達は微笑む。
 村の様子は、荒れてはいたものの、そこまで酷い状態にはなっていない。どうやらこの村は、幸運に恵まれていたようだ。
 その瞬間。村の、一つの小さな家から、一人の女性が現れた。優しそうな顔をした、リジとルゼのお母さん。
「リ……ジ……ルゼ――っ」
 母親の叫びは、もはや声にならず、もうどれくらいの時が流れたのか、久しき我が子の体を、その腕に抱き締める。
 彼女の瞳からは、美しい涙が途絶えずに。
 オキの体から、柔らかな光が溢れた。そして彼は、幸せな歌を歌い始める。
 今日は、祝福すべき日。
「親子の再会に、喜ぶべき日……ですから、ね?」
 そんなオキを見つめ、ユウナ、ロレンツァも頷くと、同じように歌を歌う。そして、そんな三人の声を引き立てるように、心を込めた歌を、ユイが歌い、そこには暖かな風が吹く。
 はぐれてしまった我が子、どんなに探しに行きたかっただろうか。どんなに己を責めたのだろう。そんな母の心情を思うと、胸がつきりと痛む。
 冒険者達の歌声は麗らかに、その、小さな村中へと、響き渡った。


マスター:友郷ナギ 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:8人
作成日:2007/02/06
得票数:冒険活劇11  ほのぼの6 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。