<リプレイ>
不気味な唸り声を上げるその穴は冥府へと続く死者の道であるかのように、冒険者達を待ちわびていた。 足元を照らす光苔の光でさえ、彼等を誘う為の罠なのではないか? と勘繰らせる程に気持ちの悪い――
「今日の『その時ブラキオンが動いた』は『バナナ奪還 眷属の洞窟へ』と名打ちましてバナナ奪還の任務を帯びて眷属の巣穴へと向かった冒険者達の戦いを綴ろうと思います。解説は私メロスがお送り致します」 なんて雰囲気は絶賛無視で、碧緑色甘味伝説〜スウィーティ・メロス(a38133)が真剣な顔で解説を始めた。どんなに重々しい雰囲気を醸し出している本物でも、解説が入ると途端にやらせっぽくなるのは不思議なものだ。 「『バナナを取り返す』『猿怪獣も間引く』『両方』やんなくっちゃあならないってのが護衛士のつらいところだな覚悟はいいか? 僕は出来てる」 これは! 光苔ですね! なんてノリノリで大発見をした人っぽく演出するメロスを他所に、メタルモンスター・マイアー(a07741)は内股気味にありえない腰の捻りで決めポーズをとっている。 「……熱でもあるのか?」 そんなマイアーに、偽銀・イエール(a46995)は冷静な突込みを入れて見たものだ。熱と言うよりも、全体的に駄目な方向に傾倒しているような気がするのだ。何故かウィッチな格好だし。 「バナナを取り返して、猿怪獣も倒す……結構骨が折れるなぁ〜んね。でも、頑張らないとなぁ〜ん」 だが、もうそんな事には慣れてしまったのか、炎に輝く優しき野性・リュリュ(a13969)はマイアーの格好など気にした様子もなく、その言葉にうんうんと頷いて、 「そうです! バナナはわたしたちがすべてをかけて集めたもの、必ず取り戻しましょう!」 グッ! と小さな握りこぶしを作り、満ち足りた平凡・ウィンスィー(a21037)が力強く同意する。 「いや、全てはかけていないだろう」 再び冷静な突込みを入れるイエール。それではまるで護衛士達がバナナ集めしかやっていなかったようではないか……やっぱり、全てをかけて集めたものだったかもしれない。 「……全く、人が収穫したバナナを掠め取ろうという性根が気に喰わん! 猿なら猿らしく自力でゲットしろってんだ」 違うのですか? と小首を傾げたウィンスィーに沈黙したイエールの後ろで、銀花小花・リン(a50852)が怒り心頭と言った様子でブツブツと呟いている。人のものを奪うなど如何にも小賢しい猿っぽい行動のような気もするが、リンの中の猿はもっと男気に溢れているのかもしれない。 「対ブラキオンのためにも、なんとしても成功させないといけませんね」 ブツブツと言い続けるリンを宥めるようにその肩に手を置いて、閃紅の戦乙女・イリシア(a23257)は言う。しかし、対ブラキオンのためにバナナが必要なのだ……理由は良く解らないが、アムネリアが何か言っていたから間違いは無いのだろう。だからなんとしても成功させねばならない。 それに、イリシア達がこれから対峙するオバザルは情報が余りにも少ないのだ。決して油断出来るものではないだろう。 「十分に警戒をして慎重に、です」 自分に言い聞かせるように呟いたイリシアの言葉に、リンもまた心の帯を締めなおす。 「……願わくば、オバザルに会いませんように」 洞窟の先は深く、入り口からではその様子は解らない。何処に居るかも解らないオバザルに逢わないようにと、桜舞彩凛・イスズ(a27789)と思うのだ。だが、同時に別の眷属……オジザルに受けた屈辱は必ず晴らしてみせると、心に誓う。 ――あの悔しさと怒りは忘れられるものでは無いのだから。
洞窟の内部は入組んでこそいるが、歩き難い事も無く、風通りも良く……音さえ気にしないのならば住み心地は良さそうだった。 分かれ道にがりがりと目印を刻みながら、メロスは手に持った羊皮紙にその目印を書き込んでいく。適当な線で描かれてゆく地図だが、帰り道が解りやすいように、或いは次ぎ来る時の為に、無いよりはあったほうが良いだろう。 「この先に四体居るな」 そこへ、偵察をしていたイエールが戻ってくると、先の様子をメロス達に伝える。 「覚悟はいいか?」 準備は良いか? では無くあえて覚悟は良いかと聞くマイアーにリュリュ達が頷いて――少し開けた空間でまったりとしていた猿怪獣達の前に身を踊り出すと、地割包丁を横凪に払い不可視の波動で猿怪獣達を一閃する! 『うきゃ!?』 「血反吐ぶちまけて後悔なさいな♪」 唐突に現れた襲撃者に吃驚した様子の猿怪獣達に追い討ちをかけるように、メロスが精神と肉体を破壊する美しい歌を紡ぐ……と、ペインヴァイパーの緑のガスと融合したその力によって猿怪獣の体から噴出される。 (「できれば命を奪いたくは無いですが」) だが、やらなければ次は仲間達が傷つくかも知れないのだ、今後のためにも葬る必要がある。イリシアが手に持った槍を握りなおすと血を噴出し続ける猿怪獣にの懐に飛び込んで……光沢のない黒の楔はふかぶかと猿怪獣の体に突き刺さった。 「なぁぁぁぁ〜んっ!!!」 気合と共に流れるような動きで放たれたリュリュの不可視の波動と、イスズが掲げた両手杖を中心として宙を埋め尽くす黒い針が次々と猿怪獣達を貫く! 圧倒的な冒険者達の攻撃を前に、猿怪獣達は成す術も無く傷ついて行く……だが、腐っても怪獣だそう簡単には倒れない! 混乱気味な目で隣の猿怪獣を見つめると、豪快にぶん殴る! 「ふふ、混乱している混乱している」 相当混乱しているようだ……その様子を見てメロスは恍惚とした表情で、自分の出来に酔う。 「えぇと……正気に戻ってください?」 メロスの様子に、一瞬放っておいても良いかと思ったウィンスィーだが、いざと言うときに動けないと何かと困るだろう。一瞬思考を巡らせた後、両手を合わせて清らかな祈りを捧げる。 『うきゃー!』 やっと正気に戻ったらしい猿怪獣の一体が、マイアーの前に踏み込みその体に拳を打ち付ける! 「ぐっ!」 マイアーは拳を受け止めた盾の上から叩き込まれた爆発的な気の衝撃に体を仰け反らせる。吹き飛ばされはしなかったが、重い装甲を突き破って響くその衝撃に思わず息が漏れる。 仰け反ったマイアーの横から彼を援護するようにイエールが武器を素早く振るうと、攻撃した態勢のままの猿怪獣に衝撃波が吸い込まれ――ドゥと重い音を立てて猿怪獣は倒れた。
「助けなんて呼びには行かせませんよ。おとなしく……倒されて下さいね」 一瞬の隙を突いて逃げようとした猿怪獣をイスズのエゴの鎖が捕らえ、リュリュの稲妻の闘気を纏った大棍棒が叩き伏せる。 ギコ。 「ふぅ……何体くらい倒したなぁ〜ん?」 額の汗を拭い、リュリュは指を折って数えてみる……今の広間に居たのが三体、その前が二体だったから……あれ、その前は? なぁ〜ん? ギコギコ。 「これで十と……七体目ですね」 比較的余力を残している状況で十七体の猿怪獣を撃破している……かなり良いペースで進んでいると言えよう。 ギコギコギコ。 「……ウ、ウィンスィー……何……してるんだ……?」 倒した数を答えながら手を休めないウィンスィーにリンが恐る恐る訪ねる。 「はい? 霊査用の材料を調達ですよ?」 オバザルの好みを調べるために、戦闘以外の傷がある猿怪獣からその体の一部を持ち帰って霊査の材料にしようと言うのだ。あっけらかんと答えるウィンスィーだが、手元にはもちろんモザイクがかかっている。 「そ、そうか」 血まみれなのもある意味乙女チックといえば乙女チックだ。リンはカクカクと頷くとそれ以上は深く追求しなかった。 「バナナが有ったぞ」 イエールは偵察から戻ってくると、隅っこのほうでカクカク震えているリンを訝しく思いながらも仲間達に報告する。 「僕は出来ている」 肘を垂直に伸ばした状態で両手を逆の肩に置きつつ首は真横に向けると言う謎のポーズを取りながら、マイアーは行こうかという意味の言葉をはき。 「それじゃ行きましょうか……あ。ついに我々の前に目的のバナナがー!」 素で話していたメロスは解説をやっていた事を思い出し、取って着けたようにドラマティックに演出してみるのだった。
「ええいこれは元々私らのモンじゃ! 散れ散れシッシッ!!」 もはや人だかバナナだか解らない感じで、バナナを担いだリンがキシャー! と、猿怪獣達を威嚇する。いや、元々は誰のものでもないのだが……。 バナナに手を出そうとしていた猿怪獣の指をマイアーが蛮刀で切り落とし。その場から逃げようとした猿怪獣を、イリシアの真空の刃が貫いて―― 「二十三体ですね」 ふぅ、と息をついてイリシアは今まで倒した猿怪獣の数を確認する。バナナを回収してから来た道とは別のルートを取って入り口へ戻り始めた一行の前に相変わらず猿怪獣達が現れたが、頑強な防御と圧倒的な火力でもって次々と蹴散らして来たのだ。 「あ、ここは来る時に通った道なぁ〜ん」 メロスと同じように簡単な地図を作っていたリュリュが道が合流したと言う……壁をよくよく見ると確かにメロスのつけた目印の後もある。複雑に入り組んで見える洞窟内だが、来るときは常に向かい風で、戻るときは常に追い風だった……風の抜ける道が出口であり入り口に繋がるのは間違いないようだ。 「そろそろアビリティも心許無いですし、ちょうど良いですね」 イスズはほっと息をつく。行きの道と合流したと言うことは、此処から先は猿怪獣との戦闘は殆ど無いと見て良い。眷属達に比べれば数段劣るとはいえ猿怪獣達も怪獣なのだ、余力の無い状態で無理な戦いは続けたくない。 「それじゃ、帰りましょうか……あ。こうして我々冒険者はバナナを手に帰路に着くのだった!」 相変わらずとって着けたような解説を入れるメロスに同意して、一行は出口を目指した。
『オォォォォ……』 洞窟の中から唸り声が聞こえる……その音に反応してピクン! とリンの尻尾が逆立った、ずっと聞こえていた唸り声と同じような……違うような。小首をかしげて訝しむように洞窟の中を覗くリンだが、洞窟に変わった様子は見えない。 「どうしました? 急ぎますよ」 「……うん、なんでもない」 マイアーに促されて、リンはトテトテと仲間達に合流すると、一行は帰路に着くのだった。
*END*

|
|
参加者:8人
作成日:2007/01/24
得票数:冒険活劇2
ミステリ4
ほのぼの2
コメディ23
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
|
|