〜アキゴオリの国〜 川の向こうに



<オープニング>


 川の水が大雨で増水する程の雨が強い日。
 川の中か、その近くに、非常に厄介な人物が居ると鬼巫女カスミが伝える。
「……今、とてつもなくこの世の無常を感じたウチが居る」
 足を組み、背筋を伸ばしたアンジー・ホン(a90073)が突っ伏しそうになってきたのを必死に耐えている。
 それ程に、カスミから聞かされた今回の事件は彼をしても悩ませるのに十分非常識なものだったのだ。
「その、あれや……増水した川に取り残された奴を助けるとか、自殺しそうなモンを助けるのは、確かに村で少し腕っ節の強いという奴では危険かも知れへん……けどな? そういう困った奴の対応は、村でしてもらえればなーって、村で!」
 ペシペシペシ。
 取り敢えず、板の間を叩いて抗議してみるのだが、叩くと手が痛いので音も中途半端になり、迫力はない。
「それは、その通りなのですが……そうもいかない事情もありまして……」
 少し困った風に首を傾げるカスミに、アンジーも肩を落としながら溜息を一つ吐いて続ける。
「理解はするけどなぁ……正直に言うとな、行く前から疲れる気がするで?」
 困った顔のカスミにも、きっぱりと言ってのけるのは鉄拳調理師らしい。
「でも、アンジー様ならきっと行っていただけますよね。流石はアンジー様ですね」
「こら、そこ」
 当然ですよねと、今日はカスミの警護に就いているエルフの重騎士・ケイイチロウに言われて、こめかみをヒクつかせるアンジー。
 見抜かれているなと思いながらも、流石に顔見知りなだけにそれ以上言う気にもなれず、カスミに向き直って続きをと促した。
「問題の人物は、川の中程で溺れるのだと思います。足も付かず、苦しく……でも、自分は助かると信じていて、それが裏切られることに怒りを覚える……」
「……よう判らんけど……」
 カスミの説明に、腕組みで首を捻るアンジー。
「自己中? それとも、余程泳ぎが達者なんやろうか?」
「そこまでは……」
 カスミをそれ以上煩わせるわけにもいかないと、立ち上がってアキゴオリの国の簡単な地図を受け取るアンジー。
「……これって、所謂機密文章やろ?」
「はい。ですから、行って帰るだけしかお渡ししていませんよ。人助けの為だけですから、特別に鬼の巡視で村に立ち寄ると言うことで話は付けてあるそうです。いいですか? くれぐれも、この件以外に首は突っ込まないで下さいね?」
 苦笑しながらも、ケイイチロウが念を押す目の前で、背中に背負おうとしていた大きな鍋やお玉に肉包丁をドッカと床に置くアンジー。
「……ふ」
 やりおるなと、ケイイチロウに向かって鼻で笑って、カスミを見返り告げる。
「判ったわ。人の命が掛かっとるんやさかいな。あんま、この寒い時期に泳ぎは嫌なんやけどなぁ……」
 水の冷たさを思い、身震いしながら歩き出すアンジーだった。

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参加者
蒼の閃剣・シュウ(a00014)
快傑ズガット・マサカズ(a04969)
闇の戯曲・カイゼル(a43035)
地を駆ける金狐・シャンティ(a48412)
野牛・コジロー(a49459)
根性戦士・ウォード(a54098)
踊る水色お下げ・クロル(a57656)
高らかに響く腹音・クルック(a58349)
NPC:鉄拳調理師・アンジー(a90073)



<リプレイ>

●どんぶらこっこ♪
「男にでも振られたのかねー?」
 とか何とか。
 蒼の閃剣・シュウ(a00014)が呟いた矢先に、真っ赤な三十路のおばちゃんが川流れ。
「……アンちゃ〜ん。羹(あつもの)を何か用意してね〜♪」
 流れゆくアレを見送って、一応自分の言葉のせいかしらんと、シュウが反省を僅か一ミリ秒で終わらせる。
「アンジーの飯の為にも一肌脱いでくっか! シュウの煮込みは勘弁だけどな」
 闇の戯曲・カイゼル(a43035) が、流れに取られないように衣服を整える横で、地を駆ける金狐・シャンティ(a48412)は中州に立っているどう見ても自分より一回り年配のエルフを見て肩を怒らせていた。
「とても理解しがたい状況なのですが……ツマリ、自らこの冬の寒空の雨の中、川に飛び込んだんですね?」
 殴って良いですかアレはと、既に人間外通知しそうな勢いで中州を指さす少女に『まぁまぁ』と取りなしながら、快傑ズガット・マサカズ(a04969)が命綱を手渡して続ける。
「救助活動の場合、救助する側が救助される側に回らないように注意して作業する必要がある!」
 いそいそと、乙女(シャンティ)の前で深紅のズガットスーツを脱ぐマサカズ。
 五分経ったら自動的に脱げる服だとか、脱げたら終わりだとか言う噂がつきまとうのだが、そこはそれ。
 金属製の重いズガットスーツを脱ぎ捨てて、現れたのは白地に赤い●。
 非常に微妙な位置に赤い円のマークが描かれた褌一丁姿だった。
「む。位置調整!」
 乙女の前だったが、漢のマサカズには問題無。
「今征くぞ、要救助者よ!」
 目指すは、急流渦巻く河川の中州。
 そこに取り残されたよう救助者一名目掛けて、ザンブと飛び込むマサカズ。
 しっかり固定した上に布程度の防御力がある褌姿となり、一直線に荒波高い怒濤の流れの中に突貫していく。
 その姿、正しく裸一貫男意気、裸の大将奮闘しまくりと言った感がある。
 彼を待ち受けるのは怒濤の増水、更にその水の凍てつく冷たさだが、燃える男のハートには、そんな冷たさは……
「行くぞぉをぉをぉを〜!! つべってーーーーーーーーー!!」

 充分に効いたらしい。
 何だか、泳いでいると言うより溺れているという感じが強いマサカズの豪快な犬かきが、何とか中州に彼を押し上げようとした瞬間に、その出来事は起きた。
「凍り付いたなぁん♪」
 高らかに響く腹音・クルック(a58349)が指差すのを見て、何だと見た冒険者達の目の前で、要救助者に伸ばされた腕もそのままに、マサカズが力尽きて川の流れに流されていく。
「……何だ?」
「だ、か、ら。凍り付いたなぁん。でも人助けの為なら、これも冒険者の使命ってやつなぁんな!」
「……嫌な宿命だね」
 踊る水色お下げ・クロル(a57656)が雪のフォーナ感謝祭で『サンタ』なる存在から貰った真っ赤なポージングパンツの上に羽織っていた防水マントを脱ぎながら身を震わせている。
 程なく、川の流れに身を任せて流れていくマサカズは、命綱の甲斐あって、無事に浅瀬まで引き上げられたのだが、何故かその顔面は焚き火に幾ら当たっても蒼白で、時折『さむい……さむい……心が……』と、謎の呟きを続けている。
「……うぅ、冷たそう……!!!」
 マサカズの様子を見るまでもなく、クルックが震えているのだが、一緒に岸辺の地面に杭を打ち込んで、そこにロープを括りつけて命綱を作った仲間のマサカズを見て、やる気に打ち震えて……。
「っっくしょん!」
 別のものに震えているらしい。
 だが、敢然と、近くの木にも綱を括りつけて、自分の腰にもロープを括りつけて準備は完了!
 いざ! 川の中へと踏み出した瞬間に、水の中に浸かった足先から一瞬でうなじまで冷気が走る。
「!?!!」
 表情が既にリタイアっぽいのだが、クルックのそんな様子はさておいて、根性戦士・ウォード(a54098)はその二つ名の通りに根性が形となって現れたかの如き姿に扮していた。
「河か〜! 俺も結構河で泳いだりしたけどなぁ。こんな広い河だと、また泳ぎごたえがありそうってか何ってか……」
 尻つぼみになり、濁流を眺めていたウォードがボソリと本音を漏らした。
「普通の日だったら、楽しそうだよな……」
 誰もが同意したくなる彼の言葉だったが、ともあれ先ずは救助だと、フワリンを召喚して……
「鎧聖、降臨!」
 他の男と同じく、しかしアビリティによる神々しい白褌スタイルに変じたウォードはビシっと腰の命綱をフワリンの胴に回して締める。
「行くぞ!」
 颯爽とフワリンに乗って、中州に向かうウォードの背に寄せられる、期待と寒いぞーと言う叫び声。
 ゆっくりとだが、中州に居る要救助者へと徐々に近付いていくウォードはロープの長さが水面ギリギリになる程の高さで、水面近くまでロープで宙吊りになる。
「よし!」
 そこまでは全く問題がなかった。
 このまま、横に移動して救助者を掬う仲間を助けられたなら……。
 インポッシブルなミッションの様に、水面に付かないままの宙吊りで、逃げ遅れたエルフを救出する仲間の為に、要救助者が流されないように補助を続ければ……。
 と、そこまで考え、仲間が泳いでやって来るのを見ていたウォードの背中に、何故か悲しみの気配が。
「……あ!」
 緊急ロープを兼ねて、鎧聖降臨製の少し長い褌を流れに漬しながら、見上げた先でフワリンが涙を流すように苦しがっている。
 その腰には、筋骨逞しく、体格も宜しいウォードに繋がる綱が、ギューッと、ダイエットしなくても良いフワリンのウェストを締め上げている。
「……く、苦しいのか、もしかして?」
 自分の体重プラス、綱掛けることの綱の細さで締め上げる重力とか何とか……。
 ウォードの脳裏に色々な計算式が流れては消えていくのだが、その合計に出てきたのは胴体を締め上げられて泣き出すフワリンの姿だった。
 しかも、何だか微妙に膝の頭とか、太股とかが濡れている気が……。
「さ、下がってる! 頑張れフワリン!」
「……」
 自分が召喚したフワリンを応援することになるとは、ウォードも初めての経験だった。
「いけない!」
「もう少し、ガンバルなぁん!」
 クロル、クルックの若い二人が気付いて泳ぐ速度を上げる。
「さっさと帰って、うまいメシ食べるんだよ!」
 本当は、救助の為に仲間達がどれだけ苦労したかという想いを込めて『拳で語り』たい処を我慢して説得するクロルのこめかみに、うっすらとバッテンが浮かんでいる気もするのだが、もし承諾が有ればフワリンの背に乗せようと構えて待つ要救護者の表情は、何故か白々しいもので……。
「やぁ。こんなに涼しい季節に水泳かい、子達よ」
「……なぁん?」
「はい?」
 思わぬ反応に、クルックとクロルの表情が凍りつく。
「どうした? 早くフワリンに……」
 救出にはあまり気が進まないと言いながらも、男連中が皆揃って褌になるとか宣言したことで、活気づいているシャンティ。
 漢らしい言葉、そして激流に飛び込み、失敗しても流されても、諦めぬ男達の姿に、命綱を保持する役目の彼女でも、嫌が上にもテンションは上がっているらしい。
 足場の悪さを裸足で無理矢理押さえ込むシャンティが頬を赤くしながら力説する。
「もう少しです! そう、そこー!」
 荒い流れの中で一心不乱の野牛・コジロー(a49459)が障害物を退けながら中州に到着したのは、腰に結ばれたロープが川の流れに押し流されそうになる限界だった。
「助けに来たでござる! 貴殿ら、いかがした!?」
 赤い褌を閃かせ、中州に立ったコジローの両足は水の冷たさに震えているのだが、激流の轟音にも負けぬ雄々しい叫びがクルックとクロルの意識を取り戻させた。
「今、一瞬川の向こうに行きかけたなぁ〜ん」
「大人って……大人って……」
「む?」
 何のことか判らないのだが、二人が要救助者への対応を手間取っていると見たコジローは、持参したもう一本の命綱を持って要救助者のエルフに向き直る。
「さ、これを貴殿の腰に巻かれよ。さすれば仲間が岸にまで引き上げてくれるで御座るよ」
「やぁ、ストライダーの兄弟! 君もセイリンの寒中水泳大会に参加かい?」
「……いや、ここはアキゴオリの国ではござらんのか?」
「何を言ってるんだい。ここはセイリンんじゃないか! それにしても、もう始まる時刻なのに君達以外誰も来ないね。どうしたんだろう?」
「……」
「……」
 赤い褌、白い褌。
 その褌達が、目の前にいる筋骨逞しい方向音痴野郎を前に、寒さ以外の何かで震えていた。
「……待たせた! どうしたみんな!?」
 白褌の狂戦士がもう一人。
 ロープを二本体に括りつけた姿で中州へと躍り上がって来た。
「さぁ、早く浮き輪を! ……って、どうしたんだ、みんな?」
 上流から斜めに流れを突っ切ってきたシュウが、中州に満ちた静けさに首を傾げているその頃、岸辺では別の熱い戦いの火ぶたが切って落とされていた。
「カイゼルさんは泳がないの?」
 不思議そうな眼でカイゼルを見上げるシャンティに、ふっと笑って見せた。
「兎に角、生きたくても生きれない奴がいんのに、そう簡単に死なせてたまるかよ。アンジーの飯のためにも! 褌はやらねぇけどな」
「……え?」
 颯爽と飛び込んでいく姿。
 漢ぶりの良さを期待していただけに、シャンティの手から力が抜ける。
「あっ、みんなの命綱!」
 もう少しで全てが川の中に落ちる寸前で、カイゼルとシャンティの手が綱を掴む。
「……や、別に泳げねぇとかいう訳じゃなくてだな。ほら、杭抜けちまったら大変だろ?」
 爽やかに。
 あくまで笑顔は爽やかに続けるカイゼル。
「いや、俺の泳ぎが見せられなくて本当に残念だ。ああ、残念だとも」
 と、言いつつ救出班の命綱を繋いだ杭を支えながら、綱を握りしめるカイゼルだった。
 後日、シャンティから『歯だけは健康的に男らしい』と言う素晴らしい栄誉を賜ったとか何とか……。

●闘い終わって胃が膨れて
「何故この大雨の中にあのような場所に居たのでござる?」
 ようやく、人心地付いたコジローがギロリとエルフを見上げて威嚇するように続ける。
「ことと次第によっては……」
「あーいやいや、ともあれ無事に助けられて何よりでしたっと」
 コジローが言い終わる前に、シュウが間に入って味噌仕立ての豚汁をすすりながらご苦労様と話を締め括る。
「何があったかは、知らないけども、自分の命を祖末にしちゃ駄目なぁんよ?」
「いや、有り難うヒトムシャリン様」
「……ヒトノソリンなぁん」
 何度言っても覚えてくれない要救助者に、既に諦めた感のあるクルックの呟きが漏れている。
「ご飯だ、ご飯だ〜。何、これ。おみそ汁? 香ばしくって辛くて甘くて暖まるね〜!」
 クロルは豚汁を白米の上に掛けた丼で早速お代わりに掛かる勢いで箸を進めている。
「……一点集中が徒となったのか……よし! 次の機会には!」
 お箸を握りしめながらウォードだが、出来れば次はない方が良いなとシャンティは要救助者が何時飛び込まないかと目を光らせている。
「……あ。これ暖かくて、お腹に優しいね」
 眉を八の字に曲げていたシャンティの頬が弛む。
 箸受けに盛られたタクアンの漬け物をポリポリと摘み、みそ汁を少し行儀悪くスゾゾッと啜ると、口の中で具の大根人参と一緒に豚肉が熱々のまま跳ねるようにして歯を押し戻し、吐き出す息にも味噌の香りが膨れて、鼻腔の中まで香ばしくも甘辛い香りで満たされる。
「幸せかも……」
 保となるシャンティの横で、熱々のは食えねぇと、カイゼルが漏らすのを聞いて……。

「……ん〜。ほな、うちの賄い用の握り飯を丼に放り込んでやな」
 と、焼いたお握りをカイゼルの丼に入れて、豚汁で軽くかき混ぜると焼き握りが割れて、白い飯にみそ汁が吸われていく。
「を。これならいけそうだな」
 嬉々として箸を付けるカイゼルの口の中に、焼き飯の香ばしさが加わった豚汁が程よい加減で流れ込んでくる。
「さってと。腹が減ってたらお互いにピリピリしちまうし、和解の基本はいい状態での話し合い、だろ? ひとまず、今回の行動に至った理由を話してもらおうか?」
 びっと要救助者だったエルフに決めてみせるのだが、程よい具合に冷えた人参の短冊が唇に張り付いているのが惜しいカイゼルである。
「理由は何にせよ、生ある限りはそれを全うしろよなー。生きてりゃこういううまい飯に巡り会える可能性だってあるんだしよ」
「そうであるな。寒中水泳の後にこれだけ旨い飯を食えるのは良いことであるな!」
「いや、違うから、そこ……」
 ようやく心を温める豚汁で復活したマサカズが、驚異の方向音痴エルフに突っ込んでみる。
「はっはっはいやいや。きっと隣の川が会場に違いない! では、武士の皆様有り難う! 早速隣の川に向かってみますとも!」
「あー。どうする、アンちゃん?」
 走り出した、服を脱げば筋骨隆々なエルフを見送って疲れた表情のシュウが呟く。
 その手には、鍋のお湯の中でコトコト揺れていた徳利が握られている。
「どないするいうても……あ、飛び込んだ」
 ザンブと川に飛び込んで、寒中水泳大会に出るのだというエルフは何故だか爆笑しながら川を下っていく。
「あのまま、セイリンまで泳いでいくつもりで御座ろうか……出来れば、二度とお会いしたくない御仁で御座るが……」
 そう言うのに限って、二度目があるという相場で御座るなと、コジローは焚き火の火に当たりながら褌が乾くのを待っている。
 身体は豚汁と焚き火で温かいのだが、なかなか濡れた褌が乾かないのだ。
「あれが最後の要救助者とは思えないね……」
 さらりと、怖いことを呟くクロルに、皆恐怖するのだった。

【END】


マスター:IGO 紹介ページ
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作成日:2007/02/04
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