<リプレイ>
その日朝早く、皆は起き出して山に出掛けた。 きちんと山登りしやすい服を着て、隙間から風が吹き込まないよう、暖かい格好をして、お弁当を持って。 山は、其処此処に雪を残している。木々も葉を落とし、少しだけ寂しい風景だ。だが、ハイキング気分の皆はそんな風景も気にならない様子で、楽しく話したり、笑い声を響かせていた。 山登りはそれなりに険しく、それなりに登りやすい。山道を使う者が殆どだったが、中にはロッククライミングに挑んだ者もいたようだった。切り立った崖に挑み、踏破を目指す。初級から中級者向け、と評されているその崖は、焦らずポジション取りが出来れば、無理な体勢を取らずに登っていける比較的登りやすいコースだ。挑戦者はストイックな戦いに向かい(何故かはしゃいでいると勘違いした仲間の攻撃を受ける事があったが)、概ね満足な崖登りが味わえたようだった。
花畑はほのかに暖かく、優しい香りがただよっている。色とりどりの花が花弁を開き、やわらかな色で地面を埋め尽くしていた。 冬だというのに、季節を先取りしたような不思議な光景だ。 「うわ〜綺麗だね! 苦労して登ってきた甲斐があったよ♪」 「本当ね、いい香り!」 中腹へ着くなり、笑顔のヒーロー・リュウ(a36407)がその光景に驚いたように言うと、翼有る蛇・フェリス(a45017)も目を細め、花々の放つ甘くすがすがしい匂いを身体一杯に吸い込む。 「あれが石像かにゃ? まずはお祈りにゃ」 幸せを呼ぶ黒猫・ニャコ(a31704)が指差す先に、苔むした石像があった。確かに足元には花が備えられている。 「その為にはまず花輪作らないといけないにゃ」 いそいそと花畑へ向かおうとするニャコに、待ってと声が掛かる。 「何にゃ? リュウちゃん」 「石像を掃除してあげようよ」 こんなに苔だらけじゃ可哀想だもんね。と、石像に近付いてその表面を撫でながらリュウが言うと、フェリスが手を打ち鳴らして同意する。 「そうね。顔も分からなくなるくらい遠い昔から、きっと皆を見守っていてくれた石像だもの。感謝の気持ちで磨いてあげましょうよ」 「そうなぁ〜んね。折角だからぴかぴかにしてやろうなぁ〜ん」 森羅万象の野獣・グリュウ(a39510)も、うんうんと大きく頷いて。 フェリスの言葉に、俄然やる気を出した皆は、苔を削ぎ落とし、表面を磨いて、石像を綺麗にする。見違えるように綺麗になった石像だが、やはり何の石像だったのかは分からない。 ……でも、由来など多分何でもいいのだ。ここでこうして、ずっと山を見下ろしていた存在という事が、何より大事なのであって。
そして花畑に車座になり、皆は花輪を編み出す。地熱のせいか直接に座ると、より暖かく感じられた。 編み込む花の選び方にも、それぞれ個性がある。色とりどりの鮮やかな花輪もあれば、清楚な白い花ばかりのそれもあり。思いさまざま、出来上がりの具合も、良くも悪くも個性があった。 「ミントレットとか作るの上手そうなぁ〜んね」 「そうでもないと思いますけど……二回目だから少しは上手く出来るかな?」 グリュウが手元を覗き込んでくるのに、ちょっと不安そうに春風色の自由な翼・ミントレット(a90249)が答える。わいわいと話しながら、花輪は作られていく。誰かを思って、お土産を用意する者も多いのか、二つ花輪を作る者もいて。 ようやくお祈りと、皆は真剣に手を合わせ。 お祈りのほとんどは、まるで申し合わせたような……皆の幸せを、日々楽しくと祈るもの。それが個人へ向けてであったり、綺麗な風景を見れるようにとの祈りであっても、誰かの為に願う気持ちには違いない。 それに応えたかのように、やさしくやさしく、花びらを乗せて、風が頬を撫でていく。それに気付いて、皆は顔を見合わせて笑った。 ……そうして石像の足元は、更に華やかないろどりが添えられたのだった。
山登りや石像の掃除などでお腹が空いた皆は、お弁当にする事にした。花畑にシートを広げ、ずらりと並ぶと、なかなかに賑やかになった。依頼依存症・ノリス(a42975)は、ゴブレットや皿を人数分取り出して取り皿にと回す。 「わあ、ノリスさん、用意がいいの♪」 フェリスが喜んで受け取ると、ノリスは少し照れた様子で、薄荷茶もあるぞと水筒を取り出す。 グリュウはまんもー肉をふんだんに使ったお弁当。ニャコはカレーをメインに、シュークリームやキャンディなどのおやつも添えて。蒼海の水面・キュール(a36040)も、手作りクッキーをおやつにと差し出す。ネタを・フラレ(a42669)はサンドイッチやサラダを皆に薦めた。笑顔のヒロイン・リーナ(a13062)が気を利かせておにぎりと唐揚げ詰まったお弁当を全員分リュウに持たせたので、用意をしていなかった者にも十分に行き渡る。 「うん! とっても美味しいよ!」 リュウをはじめ、皆が美味しそうに食べるのを、リーナも嬉しそうに見守る。
お腹が一杯になれば、少しの休憩を取って、皆で花畑を追いかけっこして回る。くたくたになるまで走り回った後は、おやつが待っていて。 真っ青な空の下、こうしてのんびりと、気の置けない友と共に過ごせるのは、何と心地の良い事だろう……。声を上げてはしゃぎ回りながら、皆は少し早い春めいた空気を楽しんだのであった。
そして、皆の待望の温泉に。 温泉は花畑のすぐ近くにあり、登山客の好意でか、簡易ながらもログハウス風の更衣室が設けられていた。早速男女に別れ、水着に着替える。男性陣は無難なデザインが多かったようだが、女性陣は流石に可愛らしいデザインの水着を用意していたようだった。 更衣室から温泉は目と鼻の先、とはいえ山の上。 「はぅう、こんな時には羽毛が羨ましいです〜」 小さな探究者・シルス(a38751)が風除け代わりにフラレの側に寄り。 「風の冷たさばかりは仕方ないですね。どうせくっつかれるなら女性のが良いですが」 ぶるぶる震える姿に不憫になったのか、シルスの行為を許すが。 「うわわ〜」 温泉のすぐ側で、バランスを崩したシルスに手を掴まれ、諸共に温泉に頭から落ちる。 大きな水音に、何事かと皆は見遣るが、楽しそうに踊ってる・シロップ(a52015)は、二人がふざけたものと思ったらしい。 「ボクも〜」 ぷっかりと温泉に浮いた二人の間に身を躍らせる。巻き込まれそうになったノリスはさっと身をかわした。 どっぼーん。 再び上がる大きな水音。 「三人とも、マナー悪いわよ。怪我したりしたら危ないんだから」 キュールが軽く苦笑し、三人を嗜めるのだった。
そんなアクシデントもあったが、基本はのんびりしたもので。 なかなかにゆとりのある大きさの温泉は、周囲は低めで真ん中に向かって熱くなっていた。これなら様々な温度で楽しめるだろう。 「気持ちいいのにゃ」 「暖かいなぁ〜んね♪」 ニャコの猫尻尾も、グリュウのノソ尻尾も、機嫌よさげにゆらゆら揺れる。 温泉に近付くものは、どうも餌目当ての人慣れた小動物ばかりらしく、ちょろちょろと姿を見せては興味深げに皆を見ていた。弁当の残りなどをあげると気軽に寄ってきて、その手から分け前に預かる。 「ところでこの温泉の効能って何だろう?」 美容と健康にいいといいな〜、とリーナ。どうだろうね? と、リュウも首を傾げる。 「ところでねぇ……」 「ええー、そうなの?」 「本当? リーナお姉ちゃん」 「それはすごいのにゃ」 「それってやっぱり……?」 リーナは女の子を相手に、恋愛話やダイエットの事など、女の子の感心事をたっぷりと話して、身も心も満足するのであった。 「気持ちいいわね〜。ね、ペルル?」 キュールは依頼などで長期不在が続き、寂しい思いをさせているペットを綺麗に洗うと、一緒に温泉に浸かってその心地よさを堪能する。 「本当に素敵な場所ですね」 シルスも心地よさげに目を細め、周囲を見回した。頭上には青い空、すぐ側には明るいいろどりの広がる花畑。 眼下に広がる風景には、今でも沢山の人達が、懸命に毎日を生きている。それを思えば、この風景すらもいとおしく、親しい者に、感じるではないか。
「四人で羽の洗いっこをしよう? こうやって、四角に座ってするの。……すこし変かな?」 シロップはノリス、フェリス、ミントレット……つまりは同族のエンジェル達……を招くと、そんな事を言い出した。専用のブラシやワックスなどを持ち込んで、準備万端である。 「そうだね、じゃあ……順番にね」 ミントレットが頷き、 「そうだな。洗っておこうか」 「綺麗にしようね〜♪」 フェリスとノリスも、快く同意して。 背を見せ合うようにしてぐるりと輪になり。前の人の羽をせっせと洗って、水気を切ったらブラッシングして、ワックスを塗り……。何となしに、そんな光景を温泉の中の人々が見ている。大層平和であり、ちょっとシュールな感じだ。 (「そういえば、こういうことって……」) ふと見知った背中を思い出して、ノリスは感慨深げに前の人の艶やかに輝く羽根を見る。故郷を離れても、こうして同郷の友がいるという事実は、ほんのり胸を暖める。 「四人とも、風邪引いちゃうからちゃんと温まりなさいね」 キュールが気を利かせ、声を掛ける。 「そうよ、寒暖差が大きいのも美容には悪いんだから」 リーナの混ぜ返すような言葉に、皆は笑った。 「そうだね。キュールお姉ちゃん、リーナお姉ちゃん」 「あ、シロップちゃん、飛び込むのは危ないよ!」 元気に飛び込むシロップの水飛沫を浴びて、フェリスとノリスは顔を見合わせて笑う。 故郷は遥か高みに在り、それは遠いけれど。振り向けば笑顔をくれる友がいる……それは種族すらも超えて、優しく、力強く。
フラレは上がった後、抜けた羽根を回収していたが、換羽の機能の無いチキンレッグの羽根は抜け難く、それゆえに数える程にしか回収できなかった。 (「まあ、その方が面倒は無いのですけれど。羽根布団計画は、遠いですねぇ……」) しみじみと思う。
「経つ鳥後をにごさずなぁ〜ん」 皆はグリュウの音頭で綺麗に後片付けをした後、ゴミを持って山を下る。登山家の心得に習い、そこはきちんとするのが遊びに来た者の勤めだろう。 「楽しかったですね〜」 ミントレットは満足そうに笑う。一日使って、食べて遊んで騒いで。 まだまだ陽の短い冬の空は、夕日で真っ赤に染まっている。 皆の手には、今日の思い出の花輪が握られていた。恋人に、友に、旅団でお留守番している人達に。帰ったら直ぐにでも渡しに行こう。 「また来ようね」 手を繋ぎ歩くリュウとリーナ。リーナの耳打ちに、うん、と頷いてリュウは微笑む。続く言葉は、だから二人しか知らない。
とっぷりと日が暮れる頃。 灯りの点いた旅団には、部屋を暖め、土産話を待ちながら、出迎えてくれる友が居るはず。 だから、寒い風の吹く帰り道も、全然辛くなどないのだ。

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参加者:10人
作成日:2007/02/04
得票数:ほのぼの13
コメディ1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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