スケートしましょ冬の湖



<オープニング>


 にへへー、と、はじまりは・プルミエール(a90091)が笑みを浮かべ近づいてきたので、葵桂の霊査士・アイ(a90289)は悪い予感がした。あのプルミエールの笑み、見たことがある。前回見たのは……泳げないのに海水浴に連れて行かれたとき! アイはすうっと視線をそらした。
「アイさん♪」
 けれどそのそらした視線の先にプルミエールは入ってくる。
「な、なにかな……?」
 といいつつ再び視線をそらす先に、またもプルミーはするりと入って、
「スケート、行きませんか?」
「スケート、というと、氷上で滑ったりするあれか?」
「そう! すっごく大きな湖がありまして、それが、ここ数日の寒さですっかり凍りついてしまったんです! その分厚い氷のうえをついーっと滑走するんです。スピードを競うもよし、踊りを見せるもよし、輪になって滑るのも楽しいですよ♪」
「いや私は……」
「道具ですか? 大丈夫、スケート靴なら地元で借りられます」
 いかん、このままではプルミーのテンポにひきこまれてしまう……アイはおそるおそるいった。
「私は、スケートというものを……」
「やったことないんですね? 平気です、私が教えてあげます。というわけでアイさんも行きましょうね〜、私はほかの友だちを誘いにいきます♪」
 いうなりつむじ風のように、プルミーは姿を消してしまった。
「あッ……」
 ぽつんと残されたアイは途方にくれた。どうしよう、逃げようか。
 じつのところアイは遠い昔、スケートをやったことがある。ところが絶望的に下手で、スケート靴をはいたら滑るはおろか、歩くもままならないありさま。転ぶ、尻餅くりかえし、とうとうスッテンと後頭部まで打ってしまったという、思い出すだけでも痛い記憶があるのだ。すなわちアイにとって、スケートは苦手中の苦手なのだった。
「参ったな……」
 せめて超初心者コース(あるのか?)に入れてもらおう、とアイは思った。

 というわけでプルミエールとスケートに行きたい人、募集。
 アイにスケートを教えてくれる人、一緒に習いたい人も募集である。

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参加者
NPC:葵桂の霊査士・アイ(a90289)



<リプレイ>

「うゎ〜!」
 大地が下、青空が上、天地が回転しているのではない、バリバリ自身が空中回転したのだ。氷上がこんなに滑りやすいとは! どっと背中から着地する。
「こんなツルツル滑る所でこんな変な靴はいてちゃ、立つ事もままならないなぁ〜ん」
 背をさすりながらバリバリはいった。
「はにゃ〜ん、バリバリさんだいじょうぶ〜?」
 バリバリに手をさしのべたのはサクラだ。サクラは多少滑れるようだが、まだ足元がおぼつかない。
「あっちで超初心者講習をやるみたいだから、習いにいこうよ☆ミ」

 風もなく天気は上々、氷の湖上はまるで銀の鏡、その一角では奮戦がくりひろげられていた。超初心者への講習会が行われているのだ。
 シャスタもスケートははじめて、慣れないスケートシューズにとまどいながらも、
「当たって砕ける精神でトライアルアンドエラーです!」
 果敢に挑戦をくりかえしている。……氷って堅いし、グドンより恐ろしいかも?
 マリウェルは丁寧に指導をつづけていた。
「いいですか、はじめは誰もうまく滑れません。一生懸命にやった人だけがちゃんと滑れるようになるのですわ」
 自在に滑走し生徒たちのあいだをまわり、そういってはげますマリウェルだ。
 プラチナは純白の衣装、ウェディングドレスではないか。その扮装で優雅に指導をおこなう。
「よし、立てるようにはなったの」
「うむ……」 
 プラチナに両手をつかんでもらいながら、アイは緊張気味にいった。
「では爪先の角度をキープしたままペンギンの様に歩いてみるのじゃ、ゆっくりで構わぬゆえ確実に進むようにの」
 プラチナは手をはなす。
「あ、歩くって……きゃうっ!」
 だが右脚を勢いよく出したとたん、アイは転んでしまった。
「痛……くない」
 尻餅ついたアイだが、ほっとしている。
「お役に立てて光栄です。短時間しか効果は有りませんけどね」
 とこたえるのはリョウアン。リョウアンは初心者コースの一同に鎧聖降臨をかけていたのだ。
 それを見てカノンは驚いている。
(「アイさんも『きゃうっ!』とかいうんだ!」)
 カノンも超初心者、あそこは仲間が多くて心強そうだ。ヨタヨタと超初心者コーナーにむかう。
「教えましょうか?」
 そんなカノンに声をかけるのはプルミエールではないか。
「お嬢!? はいっ」
 とたんにガチガチになるカノン、プルミエールもわずかに視線をそらす。いま、プルミエールは依頼による怪我の後遺症で多少元気がないが、この微妙な雰囲気はそれだけが原因ではない。
「えーと」
「あの」
 二人、同時に口を開きまた同時に閉じてしまう。会話のきっかけがつかめなかった。

 そのとき数十歩離れた距離方角に、「スケート……血がたぎるわッ!」と闘志を燃やすラティアがいた。
 ラティアはプルミーと面識はないが知り合いになりたい。そこで考えた、勝負を挑むのがてっとり早いと。勝負で生まれる友情、これ鉄則!
「プルミーさん勝ぶっ!」
 されどラティアはダッシュしようとして猛烈に転倒する。
 そのラティアをかばうように、ズザーっとスライディングしてくる人影があった。エンである。狐の尻尾をクッション代わりに、ペンギン滑りしてフォロー成功!
「大丈夫かい?」
 さわやかに笑むエンだった。自身が大丈夫かどうかはあまり考慮していないのもすごい。

 場面をカノンとプルミーに戻す。このとき、いいタイミングでアムールが加わった。赤茶の髪を背でくくり、スケート靴にてあらわれる。
「いっしょに教えてもらってよろしいですか?」
 滑るぐらいはできるようがんばりたいなと思っていますわ、とアムールはいう。
「アムールさんお久しぶりです♪ もちろんですよ〜」
「オレはカノンっス。一緒にがんばりましょー!」
 プルミエールもカノンも歓迎した。これでまた、会話できるようになったのが嬉しかった。
 
「マリー様がここにいるという情報はつかみました」
 シルクは、次期領主マリウェルを捜しにここにきた。捜索を開始する。マリウェルが初心者たちを指導しているとは気づかず、見当違いの場所ばかり捜す。

「転んだらさぞや痛ぇだろーな」
 アトリは、右手にシンジュ、左手にヘレンの手を握りながら滑る。
「転ぶ時はちゃんと受け身を取るんだぞ。うん」
 シンジュは注意しながらも、はしゃぐアトリにつられて楽しい気分だ。
「だいじょうぶだよー♪」ヘレンは胸を張る。「今日の私は毛糸ぱんつだから転倒パンチラ対策もばんぜーん」
「いや、毛糸だろうがパンツはパンツだから」
 即座につっこむ兄アトリ。シンジュはそれに笑いながら、
「ところでアトリ」
「ん?」
「誕生日、おめでと」
「覚えてくれたのか。て、照れるじゃねえか……うぉ!」
 アトリは笑顔のまますってんと転んだ。

 セイナ、カチェア、カルラは同時に滑りはじめたのだが実力差があった。カルラが平然と滑走するのと対称的に、セイナ、カチェアはもつれあうようにして転んだのである。
「なにやってんの?」
 氷盤にシャープな線を描き、シェルが三人の前で止まる。
「うに〜」セイナは立ち上がって、「わたしたち初心者なのです……シェルさん、わたしにスケートを指導してくださいなのです! カチェアさんには負けませんなのです」
「……足腰立たなくなるまで特訓してほしいのね」
 フフフと笑うやシェルは、セイナの手を取り猛然と走り去った。セイナの「うなー!」という叫び声だけが場に残された。
 それを見送りつつカチェアはいう。
「カルラもスケートができるのだな」
「ええ、師匠に手ほどきを受けて……懐かしいですわね」
「なにッ!?」
 なんだかカチェアは悔しかったが、滑れないままなのはもっと悔しい。
「仕方あるまい。お、教えて下さい。お願いします」
 カチェアはカルラに自分の頭を下げたのだ。
「き、気味が悪いですわよ。あなたらしくもない」
 やや頬を染めつつも、カルラはカチェアの手を取るのだった。

 ところでそのころシルクは、まだマリウェルを探していた。

 マシェルとキースリンド、ならんで滑る。
「スケートなんて何年ぶりかな……キースさん、お上手ですね」
 キースリンドは照れたように笑った。
「子どもの頃、冬の遊びはこれぐらいしかなかったんだ」
 その笑顔がまぶしくて、マシェルの頬は熱くなるのだ。
「ほら、走れますよ〜」
 と照れ隠しに勢いこむも、バランスを崩しマシェルは足を滑らす。
「大丈夫か?」
 どさくさにまぎれた格好になったが、キースはマシェルを抱きしめていた。
「はい……」
 もう離れても大丈夫なのに、しばらく二人はその姿勢をつづけた。

「かなり思い出せてきたぞ」
 久々の氷上でぎこちなかったアルバートも、軽く走れるくらいになっていた。その一方で、
「あわわ〜、グリュ兄!」
「うわわ〜、こっちこないで〜!」
 かく呼び合うはラズリオとグリュイエール、ともに初心者で、危なっかしい初スケートを演じている。抱き合って衝突を回避すると、
「おかしいのです! どうしてみんなこんな状況でスイスイ滑れるのですか!!」
 弟にしがみつきながらグリュイエールはいい、
「クィンさんとか見てると楽そうなのに〜」
 その兄の腕をつかみつつラズリオもいう。仲良し兄弟である。
 ロティオンの上達は早い。最初こそアルバートに
「と、遠くに行かないで下さいね?」
 といっていたのだが、もう単独で滑ることができる。
「すーっと動けるのが、まるで浮いているようです。楽しいですねぇ……あ、クィンさん」
 手を振ろうとしたロティオンだが、気を利かせそっとしておくことに決めた。クィンクラウドはレインにスケートを教えている最中だったのだ。もちろん、レインの白い手を手をしっかり握って。
「だんだん上手くなってるな、いいぞ」
「ふふっ、できるようになってくると楽しいわね」
 そういって笑いあう仲むつまじき恋人同士、一枚の絵のようなクィンとレインなのだった。
「うん」アルバートはロティオンに頷いた。「少し二人きりにしてあげようよ」

 そのころシルクは、まだマリウェルを捜していた。

 真剣な顔のアイ! 進むことに成功したのだ。でも姿勢はおかしい。
「……なぁアンタ。んなへっぴり腰で氷の上立つなよ、転ぶぞ?」
 アイの真横から声がした。ヒレンだ。
「……俺も今日がはじめてなんだが気づいた、こいつには三ヶ条のコツがある。一つ、重心は爪先に。二つ、背筋正して視線は前。三つ目は……前へ進むことを恐れない。ま、最後のコツはスケートだけの話じゃなさそうだけどな」
 じゃあな、といいのこしてヒレンは、見事な足運びで去っていった。
「ありがとう」
 アイはその後ろ姿を見送りながら思う。ありがたいアドバイスだ。とくに三つ目は。

 にぎやかな場所は苦手、スケートもはじめてなので、ペルは内心憂鬱だが、
「二人でおててつないで滑ればきっと大丈夫なぁん」
 なんてコモモがいうものだから氷上にあがっていた。
「手をつないで、ですか……私、経験ありませんよ」
 コモモの手は小さくあたたかく、ペルの胸は慣れぬ感情にときめく。
 が、
「アイちゃー♪」
 当のコモモは全然ペルを見てない、よたよた滑るアイに手を振っているではないか。
 直後ふたり、きれいに転ぶも
「!」
 ペルはもちこたえた! しかもコモモをお姫様だっこし立ち上がった!
「ペルちゃ、すっごーいのなぁ〜ん♪」
 
 そのころシルクは、以下同文。

「ルイさん、本当にはじめて?」
 ミリィは目を丸くする。初心者のルイだが、すぐにリンクを滑りはじめたのだ。飲み込みが早い。
「ミリィさんの教え方がいいからですよ」
 とルイは笑む。
「ルイさん、あとで氷上ダンスに挑戦してみません?」
「いいですね。ジャンプとか、できるでしょうか」
 といって試すと、なんと本当にルイは氷上ジャンプに成功してしまった。

「滑り出す時のコツは刃の先を正面ではなく少し外側に向けること……蹴りだしやすくなる」
 というユルの指導は適切で、ガルスタはどんどん上達していった。
「よし、あとはひたすら努力あるのみだ」
 ガルスタはいう。重いスケート靴にも慣れてきた。
 リンク中央のあたりでは、上級者による技の披露がおこなわれているらしい。
「ほぅ……今のは五回転か」
 とユルはいっているがガルスタに見ている余裕はない。努力あるのみ!

 リンク中央付近。
「ハッ!」
 空中五回転を決め、ビューネは華麗に着地した。風と化して疾走し、舞う姿は美しい。見物する冒険者たちから拍手がおこる。
「冬のたびに両親にお願いしてスケートに行っていましたから」
 ビューネのスケート靴は自前である。
 初心者を指導していたグラリアも、ビューネに触発されたかやってきて、滑り跳び四回転、つづけて五回転!
「きっと出来るんだよ。ほら、冒険者だから! 六回転っ!」
 と跳んだはいいが、さすがに目を回したかバランスを崩して五回転半に終わった。

 ナナとマウロは手を取りあい一緒に滑る。
 ナナの滑りは(猛特訓してきたので)かなりのもの。マウロは今日がはじめてだが、だんだん上手くなっていた。
「つぎはスピードだしてみようか? 手を取るだけじゃ危ないから」
 こうして、と、ナナはマウロの腰を抱くようにして支える。
「えへへ、ちょっと恥ずかしいね。でも、こうするとあったかいし、いいでしょ?」
 ナナの手が自分の腰をささえている。返事しながらもマウロの心に、不思議な感情がうまれていた。 
(「……なんか…どきどきすんだけど…なんだろ」)
 恥ずかしいような、くすぐったいような気持ち。
「くっつくとわかるよ。マウロ君、背のびたでしょ」
 あっという間に追い越されちゃうね、というナナの声がさらに、マウロのどきどきを高めた。

 初心者をサポートする謎の存在があった。トラ猫着ぐるみ、サングラス、なのにスケートはとても上手……何者なのか。
 滑れるようにはなったがまだ停止できない初心者を、トラ猫はそっと助ける。横一線に並び片腕を取り、ゆっくりと回転しながら抱きしめる様に止めて去るのだ。一言も口をきかない。
 そんな着ぐるみを眺めつつ、シェルはそっとつぶやいた。
「……ほんと、不器用なんだから」
 シェルはその正体に気づいていた。

 そのころシルクは……踊っていた!
「私ではまだ、マリー様の下にたどり着けないの」
 その悲しみをリンク中央で、フィギュアにて表現していたのだ。
 ところで実はすぐ隣で
「これがわたくしが送れる最高の氷上舞踏ですわ」
 とマリー様(マリウェル)が踊っていることにシルクは気づかない。

 湖岸から温かな湯気がのぼりはじめた。即席の小屋よりただよっている。
「そろそろ休憩しませんかー」
 今回も料理を担当したのはテルミエールだ。手を振ってみなを呼ぶ。
 冬空には嬉しいぜんざいに、ポタージュスープもあった。ホットミルクやココア、甘酒など充実のラインナップ。リョウアンもいて、
「良い茶葉が手に入ったので皆さんにご馳走しようと思いまして」
 紅茶の入ったポットを示した。いい香りだ。
「お腹がすいた人には……」
 と、フェイトが大きな鍋をもってくる。前日から煮込んだカレーがあった。ご飯も炊いている。
 この小屋の設営に、ネーヴェは深くかかわっていた。さらに今日のネーヴェは、苦手をおして料理も作っている。といっても焼き餅だが。
「ぜんざいには白玉より餅の方が好きなのでな。そろそろ焼けるぞ」

 やっとスケートを楽しめるようになってきたアイであったが、慌てて湖岸にむかおうとして全然反対側に滑ってしまった。
「……やはり難しいな」
 ターンは苦手である。みんな行ってしまい取り残された格好。寂しい。
「お待たせ」
 さっとアイの手を取る者がある。アイの顔が輝いた。
 イキだった。
「スケートの勘を取りもどすのに時間がかかったよ。アイ、遠慮しないでつかまって良いからなー?」
 へらりと笑うイキ、その笑みがアイにはとても頼もしい。
「では義父(ちち)上」
 イキと腕を組む。
「炊き出し、楽しみだねえ」
 といってイキは、アイとともに湖岸へと滑り出すのだった。
 ゆくてから澄んだ歌声が聞こえる。請われてネーヴェが一曲披露しているのだろう。そこに可愛らしい声が乗る。どうやらフェイトとの混声らしい。
 
 ルーツはこの日、冒険者たちの輪に加わらなかった。
 ただ、懐かしい顔ぶれを見るために訪れただけ。
 寒空の中を彷徨うには、少し準備が足りず、灯火の様な、暁光の様な活気の傍で、暖を取ろうと思ったから。
「また私は宛てのない旅路へと赴きます。いただいた想いを胸に、抱いた想いを力に」
 背を向けようとして、そばにトラ猫の着ぐるみがいることにルーツは気づいた。
 トラ猫はなにもいわず、ルーツの手にぜんざいのお椀を渡す。そして軽くうなずくと、氷上に飛び降り滑走しながら、どこかへ去っていったのだった。
 ルーツの唇に微笑が浮かんだ。

(終)


マスター:桂木京介 紹介ページ
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作成日:2007/02/04
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