<リプレイ>
● 「まあ〜、広い草原……風が気持ちいいですわね〜」 「初めてのワイルドファイア……感動ですね」 ファナとキズスが深々と息を吸って、初上陸の喜びを噛み締める。 森と川に近い若草色の大地の上、晴れ晴れとした大空の下に、冒険者たちは悠然と立っていた。 ただし、彼らのいでたちは普段のそれとは違っている。 戦士の無骨な鎧や術士のゆったりとした法衣などではなく、毛皮だ。まるでこのワイルドサイクル平原の原住民のように簡素な服をまとっている。ミルファなどはビキニに加えアクセサリーとして動物の牙のネックレスをつけており、いかにもそれっぽい。 そんな『原住民ルックでワイルドサイクルを楽しもう企画』の立案者、シィルがまず挨拶した。 「今日は皆さん、お集まりいただきありがとうございます。精一杯楽しみましょうね」 彼女もビキニタイプの格好。たっぷりとしたバストが少ないごわごわの生地に囲まれ、くっきりと谷間を作っている。レクスをはじめ、男性陣がまじまじとそれを眺めている。原始的にして魅惑的な毛皮のビキニ。ベラボー、おおベラボー。 「いいじゃないかシィル。大胆だけど……良く似合ってるよ」 「……くっ、悔しくなんかないなぁ〜ん!」 ヨウが満面の微笑みで褒めれば、同じビキニ姿のチェリは自分のと見比べて意気消沈する。きっと今から成長するはずと固く拳を握るが、はてさて。ペルレはワンピースだが、やはり起伏に乏しいのを気にしているようだった。 今日の予定がシィルの口から説明される。といっても、食事の時間以外は、やることは自由だ。狩りをするもよし、のんびりするもよし、森でも川でも好きなところに行けばいいのである。メルフィとエィリスの仲良しコンビは、近くの森で果物の採集をすることに決め、さっそく行動開始した。リュダも植物採取のためにふたりに付いていく。 怪獣狩りに参加したいというメンバーは次々と名乗りを上げた。一致団結した彼らは手作りの武器を手にし、意気揚々とどこへともなく歩いていく。原始生活の実感が沸いてきて、皆は知らず知らずのうちに笑みをこぼした。 「さて、シィルのためにもでかい奴を捕まえてみようか!」 「ありがとうございます、ヨウさん。私は枝を集めながらお留守番してますねー。エンデミオンさんは行かないんですか?」 聞くと、彼はどっかり地面に座って酒(この日のためにシィルが確保した地酒)を飲みながら答えた。 「はは、セイレーンに労働を求めるなって」 確かにそうであった。
● 狩猟組は広い草原に目を凝らしつつ歩き続けた。いつもなら獣達の歌で情報収集したり、遠眼鏡などを覗いて効率よくやるところだが、今回はそうはいかない。あくまでもこの地の流儀に倣って。 「狩りか……随分と久しぶりになるな」 レクスは冒険者になる前に狩りの経験があったが、大半のメンバーは初体験だ。それでも、気遅れはない。拙い原始的な装備ではあるが、怖がる者など誰もいなかった。 しばらくの後、右方に茶色い影が見えた。 一行は息を潜めてゆっくり近づいてみる。 ――影は普通より一回り大きいくらいのイノシシ怪獣だった。ガフガフと地面を掘っている。何か餌を探しているのであろう。 シャキーン! 皆のお手製武器がきらりと光った。 ラインを組んで、イノシシ怪獣の背後から足音もなく接近する。そして――。 「プギィ?」 悲鳴を上げるイノシシ怪獣。ペルレの簡素な弓から放たれた矢が、見事尻に刺さったのである。 イノシシ怪獣が振り向いた瞬間には、狩猟組は眼前にいた。 まずはヨウの長い石槍が前脚を貫く。さらにはミルファの短槍。これも木の棒に石をつけただけの武器だが、柔らかい鼻に思い切り刺さり、イノシシ怪獣は猛烈に痛がった。 続いて身軽なニーナがサイドから。そのか細い腕から繰り出された大棍棒デストロイヤーが脇腹を打ち据えた。 「そっちに逃げたよっ、よろしく!」 「よしっ」 オレスが向かってくる相手にカウンターで挑む。すれ違う両者。石のナイフで切りつけられた怪獣の肌から赤い血が零れた。イノシシ怪獣は痛みのあまりすっころぶ。ファナがこのチャンスを逃さず、尻を槍でえいと突っついた。力仕事の不得手な吟遊詩人はそれで充分だろう。 このままでは逃げられないと悟ったのか、イノシシ怪獣はうってかわって暴れだした。キズスを一撃の下にふっ飛ばし、その勢いのままハクシキに追突した。鋭い痛み。さすがに単純な速さや力では野生動物に軍配が上がる。 やられたふたりはどうにか立ち上がって、槍と弓で反撃していった。長期戦は相手に有利だろう。迅速に決着をつけなければならない。 イノシシ怪獣もどうにか隙を見つけようと奮闘している。チェリの攻撃を逃れると、今度はリィに向かった。 「リィ、そっちに行ったなぁ〜ん!」 「うむ、マンガ肉ゲットなのじゃ」 ビキニにパレオといった姿のリィが鮮やかに体を翻らせる。くるりと空中回転し、脳天に石斧を叩きつけた! 「ギィ……」 イノシシ怪獣はリィを押しのけて走った。だが、フラフラであまりスピードが出ていない。体力満タンなら無理だったろうが、冒険者の脚でも追いつくことができた。 駆け比べは終わりとばかりにレクスが背中に石斧を叩き込むと、イノシシはついに倒れた。それから全員で怒涛のとどめ。 イノシシ怪獣は痙攣すらせず、そのまま動かなくなった。 冒険者たちの完全勝利だ。その場に歓喜の声が溢れた。 それほど苦戦はしなかったな――と笑いを交わしながら、男性陣が獲物を棒にくくりつけて担ぎ上げる。この重さもまた心地よい。 ガサガサ。 ん? ガサガサ。 何の音だろう。冒険者たちは背後を振り返った。 「うわあああああああああ?」 そこにいたのは巨大なゴキ……『G怪獣』。つーか脈絡なさすぎだろ! 狩りの時よりも遥かに必死にダッシュする彼ら。こんな追いかけっこは嫌だー。
● 一方、森に入っていたメルフィとエィリスは色とりどりの果物を、リュダは食べられそうな植物や香草を、予定通りに確保できた。ここには凶暴な怪獣などはおらず、実にのんびりと作業ができたのだ。 メルフィが毛皮ビキニを脱いで相方に渡す。素っ裸になった彼女は軽快なステップを刻み始めた。 「豊作のダンスなぁん♪」 ノソリンに変身すると、果物をすべて背に載せた。 そうして楽チン気分でシィルたちのところまで戻ると、ちょうど狩猟班もイノシシ怪獣を携えて帰還してきた。ぜーはーぜーはー。超汗だくのところを見て、よほど苦戦したのだなとシィルは思った。 獲物はニーナが素早く血抜きをしていく。エンデミオンはよいしょと腰を上げてヒーリングウェーブを投げかけた。 「アビリティはなるべく使わないようにってことだが、治療くらいはいいだろう」 全員の傷が完治した。皆、やっと落ち着いて狩りの成功を喜び合うことができた。 さっそく火が起こされ(もちろん手で)、イノシシが丸焼きにされた。香ばしい匂いがふわふわと空気中に浸透していく。 やがてイノシシは美味しそうな焼肉に変わった。ほんのり色づいた透明な雫が地面にポタポタと滴る様は、見ているだけでよだれが出る。 「ウルトラ上手に」 「焼けました〜、ってね♪」 ミルファとニーナが決め台詞を飛ばすと、皆の間に何とも言えない幸せ感が生まれた。リュダの提案でお祈りをしてから、肉は刃物を使えるメンバーの手であっという間に解体されていった。 「皆さん、お疲れ様でした。ええと、余計な挨拶はいらないですね……さあ、いただきましょうか!」 シィルが宣言して、炎と大地の宴会が始まった。 もちろん食器などない。骨付きのをそのまま掴んでガブリといく。噛んだ途端にジュワーッと濃厚な肉汁がほとばしり、舌に沁み込み食道へと流れていく。そして胃の中は燃えるように暖かい。これこそ野生の食事! 「おお、これがマンガ肉……」 「ランドアースじゃ、なかなか食べられないよな」 「んふふ、おかわりなぁ〜ん♪」 リィとレクスはすっかりホクホク顔だ。チェリはさすがにこの大陸出身、こういう肉の食べ方は慣れているらしく、すでに2個目にかかっている。 「残さないように、いただきましょうね〜」 ペルレが持参してきた塩をふりかけると、また味わいが増した。本当に美味いものは、シンプルな味付けだけで充分なのだ。 「わたくしはあまり狩りのお役に立てなかった気がしますが……ああいうのは非力でも上達できるものでしょうか」 「ワイルドファイアで10年もテント暮らしをしていれば、自然とできるようになるだろうさ」 ファナとオレスは食べながらそんなことを語り合っている。原住民なら上手い罠のかけ方なども知っていそうだ。いずれ話を聞いてみるのも面白いかもしれない。 冒険者たちの食欲は大変旺盛で、全部食べきれるか?と疑問だった肉も、1時間も経てばほとんど彼らの胃袋に消えていった。 「食後のデザートなぁん!」 「どうぞ、召し上がってください」 ここでメルフィとエィリスが手分けして切り分けたフルーツが登場。イチゴやバナナやリンゴが花のように綺麗に盛り付けられていて、その上に赤い果物を煮詰めたソースがかけられている。そしてこの大陸にふさわしく、果物自体がずいぶんと大きい。 「わ、甘いですねえ。こんなに大きいのに」 シィルがニマニマと喜んでいる。特に女性はデザートは別腹ということで、フルーツを素早く腹の中に納めていったのだった。 やがてすっかり満腹になった一同。キズスとハクシキは寄り添って昼寝を始めている。暖かい大地で眠るのは、さぞかし気持ちいいだろう。 そんな感じで、おのおの、のんびりまったりと昼下がりを過ごした。
● 夕陽が沈む刻限になると、いよいよ本番。 そう、野外キャンプの醍醐味、キャンプファイヤーだ。 ベールのような宵闇の中、盛大に炎が燃えた。それは彼らの熱き心情のように、赤々と勢いのある炎だった。 「いやあ、大漁だったなぁ〜ん♪」 「うむ。しかし何故チェリ殿はエビばかりなのじゃ」 揃って近くの川に釣りに出かけていたチェリ、リィ、そしてキズスとハクシキが戻ってきた。夕食も野生100パーセントである。 交代交代で魚を焼きながら、冒険者たちは飽くことなく踊り、食べた。メルフィはエィリスにワイルドファイア式のダンスを伝授したりしている。 ――親睦を深めることができてよかった。ゆったり座るオレスは心からそう思った。まだ冒険者経験の浅い彼にとっては、またとない舞台だった。 「どうだ、一緒に飲むか」 一向に酔っていないエンデミオンが瓶を片手に近づいてくる。未成年だからといってオレスは慌てて立ち上がった。実は彼はセイレーン恐怖症。あいにく今回は改善されなかったようである。 完全に夜になると、上空に満天の星が広がった。 なんて綺麗な空だろう! ああ、原住民たちはいつもこんな豊かな生活をしているのか! 全員、途方もなくうらやましくなってしまった。 「ふにゃ〜、最高の1日でしたねえ」 シィルはすっかり酩酊してしまっていた。赤ら顔で寝そべり、瞬く星を見ている。 「無防備だなあ」 ヨウが言ったが、彼女は気にもしない。 本当に貴重な1日だった。だが――1日だけだからいいのであって、ランドアースの者がこうした生活をずっと続けることはできない。 自分たちは文明を得ている代わりに、たぶん大切なものも失くした。そういう気がする。
キャンプファイヤーの火が激しく燃え出した。もうすぐ終わる原始生活体験のフィナーレを飾るかのように。 まばゆい炎に照らされ、皆、素晴らしい大陸への想いが強まった。自分たちもこの地の平和に、できるかぎり尽力しようと。

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参加者:15人
作成日:2007/02/24
得票数:ほのぼの16
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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